打ち上げ花見をしました
粉々になって風に吹き上げられた氷塊は、はるか上空で黒い霧となって消えていった。
これで完全に終わった。そう思った俺は、腰が抜けてその場に座り込んでしまった。
「和泉さん!」
「九十九、すごかった」
十六夜は、治療が終わった澪に肩を貸しながらこちらに歩いてきた。
「十六夜さん、全身が痛いです血が止まらないです治療早くお願いします」
「すいません、もう霊力が残ってなくて」
「マジかよ」
「うそです」
冗談を言って、笑い合えることがこんなにうれしいとは思わなかった。今日は何回死んだと思ったことか。生きているって素晴らしい。
「私、今日はいいとこ全然なかった」
澪は不完全燃焼のようで、むくれている。怪我をしたと言うのに、そんなことを言えるんだから澪は強いな。
「ところで、最後のあれは何ですか? いろんな魔法で殴りつけてましたけど」
「魔拳士っていうのに転職したんだよ。女神様が急に出てきて」
「教会の聖域以外で女神様が?」
新しい職業に転職する際は、必ず教会の女神像の前でなければ行えないらしい。しかし、あの時女神様は突然やってきた。そして、選択肢の全く無い転職をさせられた。
「十六夜だって、あの防御魔法、すごかったな」
「急に魔法が取得できたみたいで、アタシも良くわからないうちに使えるようになってました」
「私には、何もなかった」
またむくれる澪である。
「でも、これで終わったんですよね? 急に回復して元に戻ったりとかありませんよね」
「変なフラグ立てるなよ。さすがに俺は、これ以上戦えないよ」
「次は、私が倒す番!」
やる気満々のところ申し訳ないが、砕け散った魔犬は、上空で霧散してしまった。もうこの場では、元に戻ることはないだろう。というか、そうであって欲しい。
「さ、報告済ませて、さっさと帰ろう」
俺たちは、それぞれが疲労感を感じながら今日の報告をするために、ハロージョブに向かった。
「まさか魔封じの水晶を結界内で破壊するとは。それに、所長が使ったという魔獣を統合した魔法というのも聞いたことがありませんね。他には、何か気づいたことはありましたか?」
俺たちの対応をしてくれるのは、もちろんいつもの男性職員さんだ。今日の顛末を報告しているのだが、疑問は多く残った。
所長の目的は何だったのか。所長が使った魔法は何だったのか。そして、所長はどこへ消えたのか。
現場にはすぐに専門の調査員が向かったらしい。同じように所長室でも調査を行おうとしたが、すでに蛻の殻で所長の私物は何も残っていなかったそうだ。
「そういえば、消える直前に、世界樹の祝福がどうとか言ってたような」
「なんですって!」
職員さんは驚いたように立ち上がる。それを見て驚いている俺たちに気づいて、咳払いを一つして席に座り直した。
「以前皆様に、闇ギルドのお話をしたことがあったのですが、覚えておいでですか?」
ああ、そういえば闇ギルドの名前も世界樹と言っていた気がした。世界に魔法やスキルの存在を知らせるとかなんとか……
「まさかお話しした闇ギルドの構成員がうちのトップだったとは、お恥ずかしい限りです」
ハロージョブの支所長から、さらに出世して上層部に潜り込もうとしていた。それは長い年月をかけて計画していたはずなのに、どうして最後に詰めを誤ったのか?
確かに大賢者を誕生させた、という業績があれば早く出世することができたかもしれない。しかし、そんな無理を通そうとしなくても、業績を積み重ねていればいずれは出世できたのではないだろうか?
何か急ぐ理由でもあったのだろうか?
まあ、そんなこと俺にとっては関係無いし、きっと向こうも俺に関わるつもりはないだろう。俺は間違って転職してしまっただけの、特別ではないワーカーなのだから。
深山たちとの戦いの翌日、俺たちは花見をすることにした。
実は先日の魔犬との戦闘で、全員が初期職業のレベルをマスタリーすることができたのだ。
その打ち上げとお祝いと称して、花見を実施することになった。昨日の話の通り、澪はお弁当を、十六夜はお菓子を用意してくれて、シートの上は華やかになっている。
「全員が無事に初期職業をマスタリーできたということは、残念ながら和泉さんはアタシの先輩になってしまうんですね」
「全然残念じゃないんだけど。むしろ喜ばしいことなんですけど」
「二人は、同じ高校なの?」
「残念ながら、その通りだ」
「なんですか? こんなに可愛い後輩ができるんですよ? うれしくないんですか?」
後輩ができたところで、関わることがあるだろうか?俺は部活には入っていないので、学年の違う生徒と関わることなんてほとんどなかった。
「一緒に登校したりとか、一緒にお弁当食べたりとか、帰りに遊びに行ったりとか、いろいろあるじゃないですか」
それを全部俺にやれと?なんで授業以外ほぼこいつと過ごさなければならないのか。そう言うのは友だちを作ってやってくれ。
「登校、お弁当、デート……ずるい」
「澪さんは、同じ高校じゃないんですか?」
「澪は神崎学園だよ」
「名門進学校じゃないですか! 澪さん、勉強できるんですね」
「……」
黙り込んだ澪は、何かよからぬことを考えているようだ。
「俺は魔拳士とかいう謎職業に転職してしまったんだが、みんなは何に転職するのか決めたの?」
「私は、剣士系の職業にする」
澪は、桜観斬月流剣術という技があるので、今さらどの職業に転職しても困ることはないだろう。というか、戦闘で見習い剣士のスキルを使っているところ見たこと無いんだけど、ステ振りどうしてるんだろうか?
「アタシは、修道女に転職します」
「そっか」
ゆっくりと答えを見つければ良いと言われていたが、十六夜は自分の中で何かを見つけることができたようだ。家の都合ではなく、自分で修道女になりたいと思えたのなら、俺はそれを応援するだけだ。
「それで、和泉さんはこれからどうするんですか?」
「へ?」
十六夜からの問いに、俺は完全に虚を突かれてしまった。
今までは、高校生に戻るためにただレベル上げをしてきただけだった。その目標を達成した俺は、無理にワーカーを続ける必要は無い。
魔獣と戦い、死の危険に曝されながら仕事をする必要なんかないのだ。
十六夜はそもそも家の都合で見習い修道女になることを強要されていたが、今は自分の意思で修道女を目指すことに決めている。
澪も知らないうちにワーカーとして戦えるように幼少から育てられ、事実、剣士として十分大成するだけの実力を持っている。
だが俺は?
俺には戦闘の才能など無い。あるのは逃げ回り生き残る才能だけだ。中級職業に転職したと言っても、無理してみんなと同じようにワーカーを続ける必要などない。
普通に高校を卒業して、普通に大学に行って、普通に会社に就職することもできる。
もしくは専門学校に行って、何か専門技術を身に着けるのも良いかもしれない。
研究者になるのも良いし、喫茶店のマスターだって悪くはない。
選択肢なんていくらでもあるのだ。
だってそうだろ?
職業選択は自由、なのだから。
今回で春休み編が終了です。次回からは高校生活編を書ければと思っています。
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