賢者のリベンジ 2
早速、俺は深山に向かって突進する。それを護るように二体の魔犬が立ち塞がるが、俺は二体の魔犬の間を潜り抜け、深山に肉薄する。
「く、悪足掻きを!」
悪役テンプレ台詞を吐きながら、深山は俺に殴りかかってくる。俺は軽々とそれを避けると、再び深山へと接近する。
「ぐおぉぉ」
それを見た魔犬の一体が、俺に向かって腕を振り下ろす。
「ぐへぇ」
俺がそれを躱すと、魔犬の腕は深山の体を地面に叩きつけた。
「げほ、げほ……何やってやがるんだ!」
「ぐおぉぉ」
魔犬は交互に腕を振り下ろし、攻撃を仕掛けてくる。その攻撃は、全て地面で倒れ伏している深山へと注がれている。
「ぐへ……お前らぐは……こっちじゃなぐえ……や、やめろ~」
「ぐおぉぉ」
攻撃の手を一切緩めない魔犬たち。その攻撃を一身に受けてくれる深山。そしてそれを眺める俺。
「だ、駄犬ども! 止まりやがれ~!」
深山の悲痛の叫びに、魔犬たちはやっと動きを止める。深山のローブはあちこち引き裂かれ、全身がボロボロである。
「九十九、すごい」
「澪さん。あれを褒めてはダメです」
なぜか十六夜には不評だが、この間に俺は霊力の回復に努めることができた。
「くそ! 主人と敵の違いもわからねぇのか」
そう言いながら魔犬を蹴り飛ばす深山。どうやらまだまだ元気なようだ。
さて、この後はどうしたものか。霊力が回復したところで、俺の魔法では巨大な魔犬に致命傷を与えることができない。
「ああ、勝負を終わらせればいいだけか」
ひらめいた。何も馬鹿正直に魔犬を全滅させる必要なんてなかった。
「ハイクロック」
俺は速度を上げて一瞬で深山の背後に回り込む。そして……
「スタン」
全力で背中を殴りつけながら、スタンの魔法を叩きこんだ。
「ぐ、ぐへ」
そう言いながら、深山は顔面から地面へと落ちていく。
完全に意識を失ったようで、深山の体から光が溢れだし、その光は俺の中へと入ってくる。
『レベルが上がりました』
最後がこんな奴を倒してレベルアップとは、感動も何もないではないか。もっとこう、苦戦の果てに、どうにか仲間と協力して敵を倒してレベルアップとか、そういうのが良かったんですけど。
「いや~、まさかここまで使えないとは思いませんでしたねぇ。せっかく私がお膳立てをしたのに、全くの無駄骨でしたよ」
手を叩きながら、俺の前に姿を現した所長さん。深山が負けたというのに、悔しがる様子も無く笑っている。
「なかなかワーカーの上層部には潜り籠めないので、大賢者を育てた功績で出世したかったのですが。上手くいかないものです」
そう言って、巨大な魔犬たちの首を何度か撫でると、深山の杖を拾い上げる。
「ここまでやってしまっては、私もハロージョブに居続けることはできないでしょう。最後に、少し嫌がらせをしていきましょう」
所長さんが魔犬たちに向かって杖を向けると、その切っ先から漆黒に染まった霧のような塊が溢れだす。
「闇に住まいし者たちよ、汝らの同胞のため、その力を我に託したまえ」
じわじわと滲み出すように現れた黒い霧は、やがて巨大な二頭の魔犬を包み込む。
「九十九、あれは危険な感じがする」
「あんな魔法、見たことありません」
二人にそう言われて、俺は慌てて後ろに飛び退いた。
その直後、黒い霧の中から地の底から呻くような声が聞こえてくる。どうやら本当にやばいモノが出てきそうだ。
「ぐおおぉぉ!」
そう聞こえた瞬間、霧が吹き飛ぶように消えていき、代わりに中心部から、六つの首を持つ、10メートルはあろうかという大きさの魔犬が姿を現した。
「随分奇怪な姿になりましたが、まあ良いでしょう。どうか生き延びてください。皆様に、世界樹の祝福があらんことを」
軽く一礼すると、所長さんは霧と同じように姿を消していた。
「これ、俺たちで倒せってか?」
キングブラックベアでさえ3メートル程度だったのに、軽く三倍はあるんですけど。二体が合体したんだから、せめて倍の大きさに止めておいて欲しかった。
「どうする、九十九」
澪が指示を仰いでくるが、果たしてどうしたものか。とりあえずいつも通りの戦い方で、情報収集だ。
「俺が前でかく乱するから、澪は隙をついて攻撃してくれ。十六夜は、俺が怪我したらすぐ頼むよ」
俺は再び前に出る。魔犬は六つの首を邪魔そうに揺らしながら、それぞれが俺を睨み付けてくる。
「ハイクロック」
高速で移動して、俺は魔犬の後ろに回り込む。そこでもう一つ魔法を叩きこむ。
「スタンボール」
スタンボールは魔犬の体に直撃するが、ほとんど効果が無いようで、魔犬はすぐに動き始め、俺の方に六つの顔を向けてくる。六つも顔があるのに、澪や十六夜に注意を向けないところを見ると、知力は低いようだ。
「パワーブースト」
身体の強化も行い、高速で懐まで潜り込むと、頭の一つにグーパンを叩きこむ。
「ぎゃん」
「桜観斬月流剣術……桜突風」
「ぎゃああぁぁ」
魔犬が怯んだ瞬間に、澪が渾身の突きを放つ。澪の剣は魔犬の……おそらくケツの穴に突き刺さったようだ。澪は突き刺さった剣を、そのまま下に振り下ろし、体を引き裂いた。魔犬は悲痛な叫びをあげながら体を揺らす。その直後、澪が切り裂いたあたりから黒い霧が吹きだした。
「澪、どうなってる?」
「傷が消えた」
嘘だろ。傷がそんなに早く回復するのかよ。せめて相手のHPゲージでも見えていれば、どれくらいダメージを与えられたかわかるのに。これじゃあ、ダメージが入っているかどうかもわからないじゃないか。
「澪、悪いがしばらく攻撃を入れてみてくれ。どこかに変化があるかもしれない」
「わかった」
澪は容赦無く、魔犬のケツを目掛けて攻撃を続けていく。俺は澪の方に注意が向かないよう、必死に魔犬の顔に拳を叩きこむ。
「ぐるああぁぁ」
「っく!」
魔犬の頭の一つが、突如炎を噴出した。攻撃に夢中だった俺は躱すことができず、炎に包まれてしまう。
「あっつあっつあっつ」
地面に転がり、手で叩き、必死に消火活動をする。どうにか火を消すことができて安堵していると、そこに魔犬の前足が降り注ぐ。ガードが間に合わず、頭部に直撃をもらってしまい、俺は地面に叩きつけられる。
「っつぅ。結構ダメージもらったな」
戦闘開始前に880もあった体力が320まで減っている。まだ大丈夫。そう思った瞬間、頭の一つが俺の体に噛みついてくる。
痛い痛い痛い。このままだと噛み千切られる。体力も噛まれた後も徐々に低下していく。
これは、このまま死ぬな。
「ぎゃあぁぁ」
完全にあきらめた瞬間、魔犬の絶叫が響きわたり、俺の半身を蝕む痛みがなくなった。
「九十九! 大丈夫!」
「今、回復します!」
顔を上げると、魔犬の首を一つ跳ね飛ばした澪と、俺の体を支え上げてくれる十六夜の姿が目に入った。
「私が時間を稼ぐ。澪は九十九の回復を」
「了解です」
俺は十六夜に引きずられながら、魔犬との距離を開けていく。
「ごめん。完全に油断した」
「大丈夫。すぐに治しますから。ヒール」
十六夜は俺の手を握って、回復魔法をかけてくれる。つないだ手から十六夜の魔力が流れてきて、体中が心地良い温かさに包まれた。
「回復が終わるまで意識は保ってください。申し訳ないのですが、アタシの魔力だと少し時間がかかります」
「ありがとう、十六夜がいてくれて良かったよ」
痛みが徐々に和らいでいく。体の傷も、どくどくと波打つように血が出ていたのが、止まったようだ。
「ぐるあぁぁ」
早く戦闘に戻らなければ、澪も危ない。そう思った瞬間、澪が魔犬の前足に薙ぎ払われ、俺たちのはるか後方に弾き飛ばされた。




