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賢者のリベンジ 1


 春休みが終わるまで後5日。俺たちは順調にレベルを上げていた。澪は見習い剣士レベル26、十六夜は見習い修道女レベル28になった。そして俺は、見習い魔導士レベル29。


どうにか春休み中には、全員がマスタリーできそうだ。


 今日の仕事も無事に終わり、安堵した気持ちでハロージョブへの帰り道を歩いている。


 河川敷に生えた桜は、まもなく満開を迎えようとしていた。


「レベルがマスタリーしたら、みんなでお花見しましょうよ」

「お料理、いっぱい作る」

「澪、料理できたのか?」

「失礼。料理も洗濯も、全部できる」


 木刀を持って俺に殴りかかるくらいしかできないと思っていた。などと考えていると、桜並木の道を塞ぐように立っている少年が目に入った。


「よう。待ってたぜ」

「じゃあ、澪に弁当を作ってもらうとして、俺は飲み物でも買っていくか」

「アタシはお菓子にしますね。もちろん、手作りですよ」

「うへぇ、お前も料理できるのか?」

「舐めてんのか! 無視すんなよ!」


 怒鳴り散らす深山を、俺たちは完全に無視して通り過ぎる。

 よくも顔が出せたものだと思うのだが、こいつの神経ならこれくらい普通なのかもしれん。


「少々お待ちいただきたい」


 完全に深山をスルーして通り過ぎようとしたら、桜の木陰から一人の中年男性が姿を現した。


「どうも初めまして。私はハロージョブ半田支所所長の笹田と申します。本日は、あなたと彼の決闘を取り仕切るためにここに参りました」


 うわぁ、とうとう所長を引っ張り出してきたよ。この人はこの人で、大賢者を誕生させたいというのだから深山を見限れないのかもしれないが、女神様が承認した契約を破棄なんてできないだろう。


「深山さんからの要求は、ハロージョブの使用禁止を破棄させることです」


 破棄できるんかい!だったら、尚更こんな決闘を受けてやる必要はない。


「もちろん受けんだろう?」

「受けないけど?」


 本当にこいつは馬鹿なんじゃないの?いくら何でも、自分に都合が良い世界の中で行きてい過ぎだろう。


「逃げんのかよ。この腰抜けが!」

「その腰抜けに手も足も出せずに負けたのはどちら様ですかね?」


 せっかく良い気分で仕事終わったのに、最後の最後で気分最悪なんですけど。


「それでは、失礼しますね」

「まあまあ、お待ちください。和泉九十九さん、あなたはこの決闘を受けなければなりません」

「何でですか? 俺はあなたの部下ではないので、命令とか言われても聞きませんよ?」


 俺がそう言うと、所長さんは一枚の書類を取り出した。


「こちらは、深山さんが提出された、業務妨害行為告訴状です」

「一応聞きますけど、誰が誰の業務を妨害したんですか?」

「あなたたちパーティーが、すでに受注済みのキングブラックベアを討伐しようとした件です」

「それって、この前の決闘で無かったことになったのでは?」

「いいえ。あの時は、深山さんが直接私に訴え出て、私の判断で決闘を受ければ不問にするという口約束でした。しかし、今回は正式な書面で提出されましたので、これを受理すると調査を実施しなければなりません。疑いのあるあなたたちは、調査が終わるまでの一か月間、ワーカー活動を停止となります。ここで決闘を受けていただけるのであれば、深山さんはこの書類をなかったことにして下さるようです」


 出たよ、ずるい大人のとんでも理論。


「じゃあ、決闘を受ければもうこれ以上この件で俺たちを疑わないと、正式な書類を作成してください」

「わかりました」

「話はまとまったな。じゃ、早速やるぞ!」


 え、何?ここで決闘するの?いくら威力が弱いからって、こんなところで魔法使ったら大事だろうよ。


「深山さんは、契約でハロージョブを使用できませんからね。地下の闘技場も使用できないのです」

「お前のせいだろうが!」


 いやいや、明らかにあなた方のせいですが?


「それでは、深山一太郎様と和泉九十九様の決闘を始めます!」


 こちらが全く準備をしていない状態で、所長さんは開始の合図を告げると、さっさと距離を開けていく。


「いくぜ、アイスキャノン!」


 深山はすぐに杖を構えると、自身の最大魔法を炸裂させる。しかしそれは、以前に比べて威力が下がっていた。発生した氷塊は、以前の半分程しかない。俺との戦闘で、大幅なレベル低下があったようだ。


「ハイクロック」


 俺は速度を上げて危なげなく回避する。深山はすでに疲労が顔に出ているようだ。本当にこいつらは、なんで勝負を仕掛けてきたんだろう?


「もう気が済んだろ? 俺は早く帰りたいんだよ」

「はん! こっちには奥の手があるんだよ!」


 そう言って、深山はローブのポケットから漆黒に染まった丸い玉を取り出した。


「あれは!」


 そう言って驚いているのは十六夜だ。


「こいつは魔封じの水晶。この中には強力な魔獣が封じ込めてあるのさ」

「魔封じの水晶?」

「苦労したんだぜ? 5日間もかけて魔獣を集めて回ったんだからな」

「そんな! 結界内でなんて物使おうとしてるんですか!」


 十六夜の焦り様を見るに、相当やばい物らしい。深山は勝利を確信し、その水晶を地面に叩きつける。地面で砕けた水晶は、突如として黒い霧を放つと、それは3つの首を持つ2メートルほどの巨大な魔犬へと変化していった。


「さあ行け! あいつを食い殺せ!」

「ぐああぁぁ」


 魔犬は遠吠えを上げると、俺に向かって突進してくる。俺はそれを躱したが、そこに魔犬は炎のブレスを噴出した。


 ギリギリのところで炎を回避するが、そこにさらに追い打ちをかけるように、魔犬の爪が襲い掛かる。


 慌てて防御の姿勢をとるが、その勢いに負けて後方へと吹き飛ばされる。


 威力はキングブラックベア程では無いが、腕に相当のダメージが残った。


「ピットホール」

「ぎゃん!」


 俺は慌てて魔犬の足元に落とし穴を作る。魔犬はそのまま落とし穴に落下し、姿を消した。できればこれで終わって欲しいのだが、経験値が入らないということは、まだ生きているな。


「パワーブースト」


 新しく覚えた魔法、パワーブーストは筋力のステータスを上昇させる。俺は落とし穴に向かって駆け出すと、這い出してきた魔犬の頭の一つに蹴りを入れる。


「ぎゃうん」

「うわあ!」


 魔犬は悲鳴を上げながら吹き飛ぶと、深山に激突する。なんとか敵にダメージを入れられる魔法を覚えたが、これはもう完全に魔導士じゃないな。


「くそ、くそ! もう許さねえからな!」


 深山はそう言ってローブのポケットからさらに三つの水晶を取り出し、次々と地面に叩きつけていく。


 割れた水晶から再び黒い霧が立ち込めると、3頭を持つ巨大な魔犬と、十五体の小型の魔犬が姿を現した。


「おやおや、これは困りましたね」


 所長さんは呑気に笑みを浮かべている。どうにも困ってはいないようだ。それに対して俺は困ったな。巨大な魔犬一体ならどうにかなりそうだったが、この数を一人で相手にできない。


「さあ駄犬ども、あいつをぶち殺せ!」

「ぐおおぉぉ」


 深山の合図で大量の魔犬が一斉に襲い掛かってくる。最初の数匹を蹴り飛ばすと、突進してきた巨大な魔犬に対してスタンを放つ。どうやら効果があったようで、魔犬はその場で動けなくなる。その隙に頭部に渾身のグーパンを叩きこんで、できるだけ遠くに吹き飛ばす。


「スタンボール! ピットホール! ハイクロック! パワーブースト!」


 魔法単体では致命傷にならないので、一体一体動きを止めて、正確に小型の魔犬の頭を潰していく。




 どうにか小型の魔犬を殲滅した頃には、霊力が底をついていた。体力には余裕があるのだが、疲労感は拭えない。しかも、残りは巨大な魔犬が二体。ステータスが向上したと言っても、素手で相手をするにはかなりきつい。


「ふん、頑張ったようだがここまでのようだな。そっちの女二人を俺に差し出して、土下座で詫びれば命だけは助けてやるぜ」


 差し出したところで、お前がどうこうできるほど大人しい女じゃないと思うんだけどな、二人とも。それに、発想がおっさんだよ。


「和泉さん、大丈夫ですか?」

「九十九……」


 心配そうに声をかけてくる二人。意外としおらしいところもあるじゃないか。


 とにかく、霊力が回復しなければどうにもならない。そもそも単独で敵を打倒するなんて、俺の戦い方じゃないしな。ならやることは簡単だ。


 霊力が回復するまで、逃げる!






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