良いお仕事はなかなかもらえません
今日も朝一番からハロージョブの地下にて、お仕事探しである。
魔犬の討伐が経験値的にうまかったのだが、レベル15になってから、獲得経験値がぐっと下がってしまった。そのため、今日は別のお仕事探しだ。
「魔犬の以外ですと、魔猪の討伐依頼もございますが、こちらは経験値効率があまりよくありませんよ?」
そう言うのは、いつもの男性職員さん。いくつかの魔獣の討伐依頼を提示してくれるが、どれも経験値効率が良くないらしい。
「大型の魔獣の討伐依頼はないんですか?」
十六夜が尋ねるが、職員さんは顔をしかめて頭を下げる。
「申し訳ありません。大型魔獣の討伐は、すでに中級職業のパーティーの方が受注されておりまして」
「アタシたち、一番に来たと思うんですけど?」
「それが、中級職業のパーティーの方の中に、レア職業の方がいらっしゃいまして。そのぉ、経験値効率の良い物は全てそちらに回すように、上司から言われておりまして」
へぇ、この業界にもそういう特別扱いされる人っているんだ。俺としては大型の魔獣とやらと戦わなくてすんだので良かったけど、どうやら十六夜は納得して無いようだ。
「アタシもレア職業の見習い修道女なんですけど、そんな特別扱いされたことありませんよ?」
なんと!見習い修道女もレアな職業だったのか。その割にこいつは筋力やら俊敏やらを上げようとして、大事にしてない気もするが……
「申し訳ありません。そちらの方はそれ以上に希少な職業なのです」
「でも、ハロージョブでそんな特別扱いするなんて……」
職員さんは上司に言われていればどうしようもないだろうし、これ以上騒いでも迷惑をかけるだけだな。今日のところは、あきらめていつもの魔犬狩りに行ったほうが良さそうだ。
「十六夜、今日のところは魔犬でいいだろ? 頑張っていつもより多く倒そう」
「でも…………わかりました」
「申し訳ありません。私のほうでも、効率の良いお仕事を探してみますので」
「どうして引き下がったんですか、和泉さん!」
ハロージョブを後にし、いつもの狩り場へと向かう途中、十六夜の不満が爆発する。
「大型の魔獣は、この時期経験値が豊富なんです。短期間でレベルアップを目指すなら、他人に譲ってる場合じゃありませんよ!」
「そう言ってもさ、偉い人の命令じゃ、どうしようもないだろ?」
「それは……そうですけど。本当にそれでいいんですか?」
困った。『いい訳ない』と言えば、来た道を戻って文句を言いに行きそうだし、『それでいい』と言えば、きっと俺に対して怒りを爆発させるだろう。どちらに転んでも、十六夜はキレる。しかし、何も言わずに済ませることはできない。
こういう時の女子、マジで面倒!
「でも、ここは我慢するしかないよ」
「……我慢」
やべ、地雷踏んだっぽい。十六夜がうつむいて、拳を握りしめてプルプルしてる。
「アタシは、もう我慢なんかしたくない!」
そう叫んで走りだした十六夜の頬には、涙が伝っていたように見えた。
「澪さんや、俺はどうするのが正解でしたかね?」
「わからない。でも、十六夜泣いてた」
「俺、十六夜に我慢させてたのかな?」
少なくとも、俺のせいで転職できなかったうえに、レベルを大幅に下げてしまった。普段から攻撃的だった彼女が、ステータス低下のせいで、直接的にモンスターと戦えなくなってしまった。
俺の責任を考えただけでも結構ある。この一週間、ある程度うまくやれていると思って、十六夜のことを考えていなかった。
かと言って、俺が転職してしまった責任の一端は十六夜にあるため、一概に俺が悪いとも言えないのでは?
ああ、だから彼女は俺をはっきりと責めることができなかったのか。ただ、常に俺を殺そうとはしていたけどね。
「九十九、追いかけないの?」
「ああ、そうだよな。こういう時は、追いかけないとダメか」
追いかけたところで、なんて声かけたらいいのかわからないんですけど!
道場の裏山の中腹には、あまり深くはない洞穴がある。この洞穴には瘴気が集まりやすく、一定期間をおいて主ともいえる大型の魔獣が出現する。放置されると災害級の化け物に成長してしまうため、定期的にハロージョブが調査と討伐の依頼を出していた。
おそらく独占されている依頼の一つにあっただろうが、十六夜はお構いなしにここへとやってきた。
「まだ討伐されてなければ……」
そう言って、十六夜は洞穴に足を踏み込む。洞穴は10メートルも進めば最奥にたどり着く程の距離しかなく、侵入からまもなく、目的の相手と出会うことができた。
「グウオオオォォォ」
威嚇するように二本の足で立ち上がって吠えるそれは、3メートルはある天井に頭をこする程の大きさがある。
「これは、結構大物ですね」
親指の先をぺろりと舐めると、ゆっくりと腰を落として構えをとる。
「たあぁー!」
十六夜は無防備な腹に目掛けて飛びかかり、渾身の拳を叩きこむ。
「ぐるるる」
腹に直撃した拳は、それには全く効果がなかった。慌てて後方に飛び退き体勢を立て直すが、今度はそれが巨体を使って、四足で突進してくる。
「ぐおおぉぉ!」
それの体は横幅いっぱいに広がっており、その突進を躱すには上へ飛ぶしかなかった。十六夜は、ギリギリのところでそれの頭を踏み台にして飛び上がると、それの後方へと回避に成功した。
それは、十六夜に回避された途端に停止すると、再び二本の足で立ち上がって十六夜へと向き直る。
「ぐわああぁ!」
十六夜へと向き直ったそれは、前足を豪快に振り下ろす。
「っく!」
後方へ飛んで一撃を躱すが、その瞬間に、十六夜は現状に気が付いた。これ以上後方へは回避できない!振り下ろされる腕を躱すにも、洞穴は手狭で左右どちらにも躱し切ることはできない。
そうなれば、正面からあの剛腕を受け止めるより方法はなかった。
それの巨体から振り下ろされる攻撃の一撃一撃が非常に重く、ガードの姿勢をとっていても十六夜にダメージを与えるには十分だった。奥歯を噛みしめながら必死に耐えるが、ここで十六夜のガードは完全に崩れ、とうとう一撃を浴びてしまう。
「きゃあぁぁ!」
悲鳴と共に洞穴の最奥へと叩きつけられた十六夜は、それでも必死に立ち上がる。
「十六夜さぁん、どこですかぁ」
十六夜の後を追っては来たものの、俺は全く見つけることができないでいた。向かった先がいつもの裏山と同じ方向だったので、一人で魔犬に苛立ちをぶつけているのかと思ったのだが、どこにも姿を見つけることができなかった。
「九十九、サーチのスキルで見つからない?」
そう提案してくれる澪。なるほど、サーチは敵から逃げ隠れする時に使うものではなく、探す時のために使うスキルであったか。
「サーチ!」
サーチのスキルは、半径約100メートルの中にある物を探すことができる。目的の物があると、感覚でそこまでの方角と距離がわかるのだが……
「お!」
どうやら索敵範囲ギリギリで捉えることができた。
「澪、北に100メートルの距離だ」
「あっちは……」
俺の指差す方を見つめて、澪の表情が固まる。
「どうした?」
「あそこには、小さな洞穴がある。師匠からは、絶対に近づくなって言われてる」
嫌だなぁ。なんだか嫌なフラグが立った気がする。さっき地雷踏み抜いたばかりなのになぁ……
「とりあえず……」
「きゃあぁぁ!」
探しに行くか、そう言い出す前に、目的の方角から悲鳴が聞こえてきた。どうやら嫌なフラグが完全に立ってしまったらしい。
俺と澪は、声のした方へ向かって走り出した。




