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レベリングはじめました


「そっち3匹行きました!」

「わかった」


 漆黒の毛を纏った魔犬は、漆黒の髪を靡かせる魔王に向かって疾走する。魔王は、一番に飛びかかってきた魔犬の腹に回し蹴り叩きこみ、その回転を利用して残り2匹の魔犬の首を刎ねる。そこから加速して突進すると、蹴りを叩きこまれてふらついている魔犬の喉元に刃を突き刺した。


「これで終わり?」


 血を払いながら刀を鞘に戻すと、桜山澪は周囲を見渡す。


「とりあえず、あらかた倒し終わったみたいですね。お疲れさまでした」


 笠間十六夜もまた、周囲を警戒しながら澪の下に歩み寄る。


「十六夜、今、レベルはいくつ?」

「18です。澪さんはどれだけ上がりました?」

「15」

「もしかして、一人で狩りしてます?」

「うん」

「ずるいです。アタシも筋力のステータスがあんなに下がらなければ、一人でレベリングできたのに!」




 5日前、十六夜はレベルが15も下がってしまった。その原因を作った男は、先ほどから姿を消している。

 そもそもあの男さえいなければ、見習い闘士に転職して、春休みは一人でレベリングができたというのに。よりによって人のレベルを半分も下げるとは……


「お~い、こっちにはもういないみたいだぞ~」


 呑気な声でふらふらと戻ってくる和泉九十九の姿を見て、十六夜は苛立ちを感じてしまう。


 この人のせいで、せっかく手に入れた力を失ってしまった。この人のせいで、自分が今までしてきた我慢が、意味のない物になってしまった。


 アタシは小さい頃からずっと我慢してきた。その成果がやっと実を結んだのに、この人のせいで、アタシはまた役立たずに後戻りだ。




 道場での一件から5日が経った。スタンを覚え、澪がワーカーとなってパーティーを組むことになったので、この短時間でレベルが15にまで上がっていた。


 レベルを上げ、いくつかのスキルと魔法を覚えることができたのだが、どうにも魔導士としては間違った成長を遂げているような気がする。



見習い魔導士 レベル15

体力 560

霊力 100

筋力 320

魔力 90

耐久 100

俊敏 360

器用 320


所持スキル

俊足パッシブ

サーチ


所持魔法

スタン

ピットホール

スタンボール



 せっかく転職して、魔法を覚えられる立場になったのに、上がるステータスは筋力と俊敏ばかり。まともな攻撃魔法は覚えることができず、澪の役にも立たない。


 せいぜい『サーチ』で索敵して、敵の進路上に『ピットホール』の魔法で落とし穴を作成する程度。最近覚えた『スタンボール』も、電撃の魔法を放って、触れた敵を麻痺させる程度。これ、魔導士というより狩人じゃね?もしくは罠士とか?


「目標の討伐数は達成しましたので、ハロージョブに行って業務終了の報告をしましょう」


 そう言って歩き出す十六夜は、どことなく不機嫌そうな表情。どうやら5日前に俺が倒したことで、筋力と俊敏の数値が大幅に減少してしまったらしい。以前は道場を半壊させるほどの攻撃力を誇っていたが、今では澪と切り結ぶこともできなくなってしまった。


 大暴れできなくなったことに、ストレスを感じているのかもしれない。



「いやぁ、さすが女神様に導かれたお方。この短期間でここまでレベルを上げられるとは」


 もはや俺の担当なのだろうか?いつもの男性職員が嬉しそうに話をしている。いい加減疲れたので家に帰りたいのだが、延々と賞賛の言葉を投げかけられて席を立てないでいる。


「和泉さん、お給料ももらったので、アタシ、先に帰ってもいいですか?」


 あまりの長話にしびれを切らしたのか、十六夜がそう耳打ちをしてくる。無理も無い。俺だって話が切れそうなタイミングを先ほどからうかがっているのだ。


「ああ、お疲れさま。また明日もよろしくな」

「……はい。では、失礼します」


 俺と澪に軽く会釈をすると、十六夜は静かに席を立った。


「そう言えば最近、この町で闇ギルドの構成員が確認されたようです」

「闇ギルド、ですか?」


 職員さんの話によれば、闇ギルドとは、魔法やスキルを使用して罪を犯している集団のことらしい。職業によっては、暗殺などを高額で請け負う者や、怪盗のように美術品や宝石などの盗みを行う者もいるらしい。


 一般の人間から認識されにくくなるだけでも犯罪がしやすくなるのに、特別なスキルや魔法を手に入れれば、それで金儲けをしようとする者が出てきても、仕方がないような気がする。


 俺だって、澪や十六夜が見張っていなければ、女湯を覗いたり、女子更衣室に侵入したりしていたかもしれないな。


「うげ」


 そんなことを考えていると、澪に太ももをつねられた。もしかして、考えてたことが顔に出てたか?


「先日確認されたのは、『世界樹』と呼ばれる闇ギルドです。このギルドは、魔法やスキルの存在を衆目に曝し、我々が直隠している世界の境界を破壊しようとしているのです」


 転職することで表の世界から外れる。それによって、一般職業をセットしていなければ表の世界からは認識されにくくなる。逆に、一般職業をセットすると魔法やスキルは使用できなくなるらしいのだが、どうやって魔法やスキルの存在を衆目に曝すことができるのだろう?


 それができないから、現在まで魔法やスキルの存在を一般人は知らないわけなのだが……


 崇高な目的を持った人間の考えることはよくわからん。俺は俺で、春休みが終わるまでにレベル30になるという目標があるわけだし、他人の目標に干渉している場合じゃないな。


「とても危険なギルドですので、十分お気を付けください」


 ようやく長い話が終わったので、これ幸いと俺たちもハロージョブを後にした。平日毎日出勤しているので、なんだか本当に転職して働いている気分だ。


「この後、うちでご飯食べる?」


 パーティーを組むようになって、澪ともだいぶ打ち解けてきたような気がする。以前は毎日木刀で追い回され、恐怖の対象でしかなかったが、今では毎日のように守ってもらっているのだ。感謝しかない。


「いや、今日は家で食べるわ」


 かと言って、やはり怖いものは怖いのだ。まさに魂にまで染みついてしまった恐怖は、時間をかけなければ払拭されることはない。


「……そう」


 少しうつむいて、寂しそうな表情を浮かべる澪。すまない、無理なものは無理なのだ。


「澪、明日もよろしくな」

「うん」


 そう言って軽く手を上げると、澪は嬉しそうに手を振って、駆け足で帰って行った。


「あぁ、今日もよく働いたなぁ」


 おっさんのような発言をしながら、疲労した体を引きずって家に帰る。


 明日も何もなく、仕事ができるといいな。







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