チュートリアル終了しました!
二人同時が難しい以上、どちらか片方を先に叩く。問題は、どちらを先に叩くか。
十六夜とは付き合いは短いが、一応は協力関係にある。レベルアップに必要だと言えば、協力してくれるかもしれない。
それに対して澪との付き合いは長いが、剣筋以外は何もわからない。こういう状況で、俺に協力をしてくれるのかどうか。もしかすれば、俺が参戦した途端に嬉々として襲い掛かってくる可能性すらある。
だが普段の発言を考えても、十六夜のやつは俺の命を軽く見てる。俺が死ねば自分のレベル上げができると思って、事故を装って殺しにくるのではないか、と思うほどには信頼していない。自分の命を考えるのであれば、十六夜を信じてはいけないのだ。
だから、俺が先に叩かなければいけないのは十六夜なのである。
「澪、俺がその子に触れるように、動きを止めてくれないか?」
共闘を申し込もうと提案する俺に、澪は迷わず斬りかかってくる。寸前で躱すが、さらに連続で木刀を振り続ける。
「ちょ、ちょっと澪さん! どうしていきなり斬りかかってくるの?」
「女の子に触ろうとした」
「意味が分からない!」
「九十九は、女の子に触っちゃダメ」
おい、なんだそれは。俺がよほどの変態だとでも思っているのだろうか?いくら何でも、この状況では変なことはしないぞ。というか、どんな状況でも変なことはしませんよ?
「和泉さん、とうとう本性を現しましたね。いつもアタシの胸ばっか見てると思ってましたけど、この状況で揉みにくるとは!」
十六夜までもが俺に殴りかかってくる。澪の攻撃に比べて、澪の攻撃は直線的なので見切りやすい。その分力と速度が段違いなので、一撃でももらえば致命的だろう。っていうか、そんなに胸ばかり見てないと思っていたのだが……
「なんで他の女の子の胸を触ろうとするの」
「触ろうとしてない。たま~に、視線がいっていただけ!」
「見るのもダメ!」
いつしか2対1という最悪の状況だ。どうしてこうなった!
「澪! ちょっと落ち着いて。俺には澪の助けが必要だ!」
「え?」
澪の攻撃が止まる。その隙を見逃さず、二人から一端距離をとろうとするが、十六夜は追撃を仕掛けてくる。その圧力に気圧されたのか、俺の足がもつれて倒れてしまう。
ウソだろ、これ、死ぬ!
「さあ和泉さん、死んでください!」
そう言って、渾身の一撃を俺に叩きこもうとする十六夜。俺は防御の姿勢をとりながら、悲鳴にも似た声で叫んだ。
「澪、助けて!」
恐怖に目を瞑った瞬間に、ガキンという鈍い音が響く。どうやら寸前のところで、攻撃は防がれたらしい。再び目を開いた俺の前には、木刀で十六夜の拳を受け止める、澪の姿があった。
「九十九、大丈夫?」
澪さんかっけぇ。ピンチの時に颯爽と駆けつける主人公みたい。このまま敵を格好良く倒して欲しいところなのだが……
二人は、どちらも勝負の決め手が欠けているようだ。これだけ道場を破壊しても決着がついていないのがその証拠である。
「澪、協力してくれるか?」
「うん。九十九が必要としてくれるなら」
よしよし、よくわからないが澪が仲間になった。これで澪に十六夜の動きを止めてもらえれば、どうにか勝機が見える。
「どうすればいい?」
「どうにかして、その子の動きを止めてもらえないか? 3秒でいい。足が止まれば俺たちの勝ちだ」
「3秒足を止める……わかった。師匠、技を使うから」
澪がそう言った途端、周囲の空気が一瞬で凍り付く。木刀の切っ先が不規則にゆらゆらと揺れると、その不規則な揺らめきは、徐々に速度を上げていく。
十六夜はその切っ先を見つめて、腰を落として構えをとる。
二人の様子に注意を向けながら、俺は十六夜の背後へと回り込むべく移動を開始する。
「桜観斬月流剣術……桜突風」
澪がそう言って一歩踏み込んだ瞬間に、凍り付いたように冷たい風が吹き抜け、軌道が読めないほどに高速な突きの連撃が十六夜に襲い掛かる。
「突きから生まれる風のせいで、目がまともに開けてられない」
防御姿勢のまま、十六夜の足が完全に止まった。俺は背後から十六夜に詰め寄ると、首筋に魔石を持った手のひらを当てる。
「スタン」
「ふきゃん!」
スタンと唱えた瞬間に、魔石から電撃が放たれる。ほんの一瞬のことであったが、十六夜の全身に電撃が駆け巡り、可愛い悲鳴と共に彼女は意識を失った。
これ、スタンガンでよくね?そう思っていたが、これはこれで有効な使い道がありそうだ。俺はこっそりと手の中に魔石を握り込む。
「ふう」
俺は安堵から、一息ついてその場に腰を下ろした。
「澪のおかげで助かったよ。ありがとう」
「どういたしまして。怪我、してない?」
「大丈夫。ただ、安心したら腰が抜けちゃった。立たせてくれるか?」
「うん」
俺の差し出した手を、澪はゆっくりと握ってくれた。お互いに手に力を籠めると、俺はそっとつぶやいた。
「スタン」
「きゃ!」
その瞬間、澪の全身に電撃が駆け巡り、意識を失った。崩れ落ちるように投げ出された澪の体を、俺はそっと抱き寄せる。
「先生! 終わりました!」
「お前には、どこから文句を言えば良いのかわからん」
どうやらこの結果がお気に召さなかったらしい先生は、額に手を当てて大きくため息を吐いた。
その瞬間に、倒れている十六夜の体が光を放つと、その光が俺の体に向かって飛んでくる。
この感じは、転職したあの時と同じ感覚。何かから解放され、力が溢れてくる感覚だ。
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
どこからともなく、その言葉が聞こえてくる。
「先生、今のは?」
「ああ、あの嬢ちゃんを倒したから、経験値の一部が移譲されたんじゃ」
「レベルアップって聞こえましたけど」
「そういえば、職業を一つマスタリーしたと言っておったの。自分より上位の相手を倒すと、大幅に経験値がもらえるんじゃ」
『スキルを取得しました』
『魔法を取得しました』
続けざまに声が聞こえてくる。どうやら、スキルと魔法も取得できたようだ。魔法やスキルは、ポイントを使用して取得するって聞いてたんだけど?
「なんか、魔法とスキルが取得できたみたいなんですけど」
「経験値とは、レベルが上がるまでに得た経験のことだ。今の戦闘によって得た経験の中で、九十九が使いこなせることができるようになった、魔法やスキルがあったのだろう」
「えっと、どうやって確認すれば?」
「ステータス、と言えばステータス画面が表示される」
そう言えば笠間神父と初めて会った時に、そんな説明をされたような気がする。俺は言われた通りにステータスとつぶやくと、目の前にウィンドウが表示された。
見習い魔導士 レベル4
体力 430
霊力 30
筋力 120
魔力 10
耐久 20
俊敏 150
器用 130
どうやら大幅にステータスがアップした。主に肉体面で。魔力や霊力は魔法やスキルを使用しないと上がらないと聞いていたが、先生が貸してくれた魔石で魔法を使用したから上がったのだろうか。
これで魔法が使えるようになったということか!とりあえず取得したというスキルと魔法を確認しよう!
所持スキル
俊足
所持魔法
スタン
なるほど、先ほどの戦闘でスタンを使用したから、正式に取得できたということか。それに対して『俊足』ってなに?足が速くなったってこと?ステータスで俊敏も上がっていたのだが、魔導士に対するステータス上昇じゃないよ。
「なんか、俊足っていうパッシブスキルが手に入りました」
「ほう。剣士や闘士が一定条件を満たすと手に入る、レアスキルじゃな」
レアスキルを手に入れた!しかも別の職業の。早速魔導士から外れて行っているような気がする。
「俊足は敵を前にすると、俊敏のステータスが上昇する。澪の攻撃から逃げ回っていたから取得できたのかもしれんな。魔法はどうじゃ?」
「スタンを覚えました」
「予定通りだ。これで、安心して澪を任せられるな」
なんですと!
「明日澪を転職させる。そうしたら、二人で一緒に魔獣を狩れば良い」
なんですと!
「待ってください。俺、攻撃手段がないんですけど!」
「澪に仕留めさせれば良い」
「それ、俺にも経験値入るんですか?」
「EXタグをつけていれば、仲間内で均等に経験値を分けることができる」
そこはゲームみたいなんだな。ていうか、それなら十六夜と一緒に森に行って、十六夜にモンスターを倒させれば良かったのでは?
「レベル差がある場合には、倒した人にしか経験値は入らないんです」
そう言ったのは、ふらふらと立ち上がった十六夜だった。
「和泉さん、よくもアタシの経験値を奪ってくれましたね。おかげで見習い修道女のレベルが15に下がったじゃないですか!」
どうやら俺に負けたことで、レベルが半分も下がってしまったらしい。ご愁傷さまです。
「おかげで、高校生に職業選択できなくなりましたよ!」
そうか、まだ他の職業に転職していなかったから、初期選択職業がマスタリーしていない状態になったのか。
「どうするんですか! アタシ、見習い修道女なんですよ! せっかくあんな奴らとパーティー組んでレベル上げたのに、ステータスもポイントで割り振った部分がほとんど低下しちゃったし、本当にどうしてくれるんですか!」
「それなら、三人でレベルを上げるしかないのぅ」
そう言う先生は楽しそうだ。もしや、ここまで計算して俺に二人を倒させたんじゃないだろうか?
良くわからないまま転職をしてしまった俺は、わずか2日で魔法を使えるようになった。おかげで、これからはモンスターを倒してレベルを上げることができる。いわゆるチュートリアルが終わった、といったところだろうか。
新学期開始まで後18日。果たして俺は、無事高校生に戻ることができるのだろうか?
ここまでがチュートリアル!
次回から……本編?




