第三話 ステータス
前の回からかなりの時間を置いてしまいました。
リアルの方がかなり立て込んでしまい…申し訳ございません。
名付けが終わってから五年の月日が経った。
おっとそこ、ご都合主義の時間飛ばしとか言わない。
五年間のことを振り返ると、異常に早くから言葉を話すようになったり、勉強の飲み込みが異常に早かったりして周囲からは神童と呼ばれるまでになり、シルヴェスター家の跡取りとして多大な期待をされるまでになった。
勉強に関しては前世の記憶があるからというのもあるのだろうが、新しい知識もすぐに身に付けられたのは赤子の頭だからだろうか?それとも神様の加護によるものだろうか?
ともかくそうして俺はあらゆることをそつなくこなしていった。
その間に弟と妹も誕生。
弟の名前はマーク、妹の名前はクレアだ。現在弟は3歳、妹は生後6ヶ月。
マークは遊び盛りで、「にいちゃ、遊ぼ」が俺と会った時のお決まりのセリフとなっている。
弟よ、お前はRPGの村人か。
だが、兄弟とは可愛いもので、特に今の年頃だとよく甘えてくるのでこちらもつい甘やかしてしまう。
人を甘やかしてばかりでは上に立つ者として駄目だとわかってはいるが、小さい子供、それも自分の弟となれば甘やかさずにはいられない。
こうして例のお決まりのセリフの後、長い時間遊びすぎて乳母に怒られるというのがこれまたお決まりのパターンとなっている。
そして、気になる魔法だが、五歳になったことでようやく魔法を習うことができる。
これまで専属の家庭教師から様々なことを教えてもらったが、国の法律で子供は五歳になるまで魔法を習うことができなかったのだ。
いくら神童と呼ばれていようとも、まだ幼くて危険だからという理由で両親も俺に教えようとはしなかった。
俺自身、魔法を早く扱いたい気持ちもあったが、いくら精神が大人とはいえ体は子供の状態で何か事故でも起こしてしまったら一人で対処できるとは到底思えないので自重した。
我慢した。
うん、凄い辛かった。
RPGは子供の頃から暇さえあればやっていたので魔法には並々ならぬ興味があった。
日常的に魔法は使われているため、魔法を目にする機会も多い。そんな中、魔法はまだ危険だから教えないというのはなんたる焦らしプレイかと。俺にはそっちの気はないからホントに勘弁してほしかった。
そんな過去を振り返りながら、俺は今家庭教師が来るのを待っている。待ちに待った魔法の授業だ。わくわくしない訳がない。
そんな風にそわそわしていると、不意に部屋のドアがノックされる。
「どうぞ!」
気持ちが逸りすぎてノックに食い気味に返事をしてしまった。俺が返事をすると、部屋の中に一人の女性が入ってくる。
「あら、元気がいいこと」
笑いながら入ってきたのは俺の専属家庭教師であるマーリン先生。
おっとりしたような見た目で胸の圧迫感が凄い人だが、高名な魔女らしい。
母さんと古い知り合いで、母さんがプライベートで俺の話をしたところ、興味があるので是非とも家庭教師として雇ってほしいということで俺の専属の家庭教師となった。
方々に弟子がおり、弟子も多く大成していることもあって父さんも彼女を歓迎した。
父さんとの顔合わせの時胸を凝視していたらしく、それに母さんがぶちぎれて朝昼晩母さん自作のもやし料理を大量に一週間出され続けられて父さんが謝り倒していたのはまた別のお話。
「さ~て、今日は事前に話しておいた通り、魔法の授業をするわね」
「はい、よろしくお願いします」
「本当は次年度の頭に教会でステータスの確認を行ってから魔法を教わるものだけど」
「はは…すみません」
実は魔法を早く使いたくて父さんに無理言って先倒ししてもらったのだ。我ながら気が早いとも思うが、待ちきれなかったのだ。
「物事の関心が強いことは決して悪いことじゃないわ。じゃ、早速始めましょうか」
そう言って、俺に背を向けて黒板に文字を書いていく。
「魔法というのは昔からある生き物に宿る不思議な力のことよ。まだその謎は解明されてはいないけど、今日あらゆるところで魔法は扱われているわ。
魔法を使えるようになるにはその魔法を会得していないといけないんだけど、生まれつき持っている、修行して会得する、魔導書から会得するといったように大きく分けて三つの会得方法が存在するの。会得しさえすれば、後は自由に扱えるの。MPを消費してね。
私は色々魔法を会得しているけど、アイテムボックスやテイムなんかは便利でよく使ってるわ。そこらへんを会得していれば就職なんかにも困らないわね。
ちなみに、これから見るステータスには技能というものもあるんだけど、それはその人の特技だという風に解釈してくれて構わないわ。修得方法は魔法と似たようなものね。技能の魔導書のようなものはないけど…」
「はい先生」
「何かしら?」
「加護は魔法には入らないんですか?」
「入らないわ。加護についても知ってるのね。加護自体あまり持ってる人はいないのだけれど。
加護というのは神々によって個人に与えられる特典のようなもので、加護には小中大の三種類があるの。大きければ大きいほど強い加護ってことね。
与えてくれた神様によって得られる効果も変わっていて、農業神なら農作物がよく育つようになるし、商業神なら商売や交渉が生まれつき上手くなる。他にも神様もいるし今話した効果だけじゃないのだけれど。ちなみに、創造神に関しては能力の上がり方は不明ね。中々持ってる人はいないし、研究が進んでいないの」
「先生は何か加護を持ってるんですか?」
「私は魔法神の加護(大)を持ってるわ。魔法の力が増大する加護ね~」
なるほど、やはり高名な魔女というだけあって、そういった加護を持っているのか。
それにアイテムボックスやテイムも便利な魔法筆頭に来るものだろうな。異世界モノでよく目にするし、いろんなことに役立てそうだ。
そうしてしばらく魔法に関しての説明をされた後、
「じゃあそろそろ、キミのステータスを見てみようか」
「はい、教会に行くんですか?」
「いや、行かなくていいわ。ここで確認しましょう」
そう言って、マーリンはアイテムボックスから水晶のような物を取り出す。
「先生、それは?」
「これはステータス開示に使われる水晶。ステータス開示したことがない人はこれを使うことでようやくステータスを見ることができるの。教会に置いてあるものと同じ物ね」
その水晶を机の上に置き、少し距離をとる。
「じゃあその水晶に手をかざして、『ステータスオープン』と唱えて。そうしたらステータスが出てくるから」
「はい、やってみます」
いよいよ、自分のステータスがわかるのか。これが魔法を扱う第一歩となると思うと、こみ上げてくるものがある。
思えばこの五年、ずっと焦らされてきて…おっと、いけない。先生が待ってるんだから早くしないとな。
色々と考えつつも、意を決して唱える。
「ステータスオープン」
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アルバート・シルヴェスター
種族:人間 年齢:5歳
HP:210/210 MP:242/242
技能:計算術、弁論術、交渉術、記憶術、雑学知識、異国語読解、異国語会話
魔法:魔法創造、魔法操作
加護:創造神の恩寵(大)
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ふむふむ、技能のところは前世の経験と神様からの特典の分が大きいな。
魔法は…魔法創造と魔法操作だけか。まぁでもこれから増やしていけばいいよな。
…ん?加護のところ、加護じゃなくて恩寵とか付いてるんだけど。こんなのさっきの説明になかったよな?
そうして戸惑っていると、
「どう?どんな感じか見せてもらえないかしら?」
と、俺の身体に抱きつく、俗に言うあすなろ抱きで俺のステータスを覗こうとしているマーリン先生。
「あー、はい。いいですよ?で、ちょっと質問なんですけど」
この人ことあるごとにスキンシップを仕掛けてくるんだよな。油断も隙も無い。
とにかく抱きつかれたままだといろんな意味で窮屈なので抱きつきから逃れる。
しかし恩寵って、響きからしてヤバそうな気がするんだよな。聞いてみるしかないか。
そう思って、残念そうな、拗ねたような顔をして俺のステータスを見ているマーリン先生に質問をする。
「マーリン先生、このおんty…」
「何なのこれ!《魔法創造》!?《魔法操作》!!?そんな魔法聞いたことないわよ!」
あ、そっち?急におっとりな雰囲気が消し飛んだからびっくりした。
いや、他人からすればそっちも中々おかしいものなんだろうけど、そういう類のものは持っていると分かっていたから俺自身驚きが全くない。それよりも恩寵のほうが気になるんだけど。
「しかもこれ技能も《異国語読解》と《異国語会話》両方付いてるっていうのも…HPとMPは普通…いや、これ創造神の加護も付いてるじゃない…しかも(大)」
「あ、それ。加護じゃなくて恩寵って書いてるんですが」
「…へ?おんちょう?おんちょうってあの恩寵?」
いかん。先生がアホの子みたいになってしまっている。
しかしHPとMPは並か。そこも化け物だったらどうしようかと…これでも結構なことになっているみたいだが。
「えっと、その恩寵っていうのって何ですか?加護とは違うんです?」
「…恩寵っていうのは加護の上位互換のようなものね。神様にも対面できることもあるだとか。神の遣いではないかとも言われているけど…それもあなた。創造神って」
もう会っているからありがたみをそこまで感じないんだが。なんなら結構フレンドリーな雰囲気の神様だったし、会いに来るとも言ってたし…まさかその会いに来る為だけにこんなものを?
「普通聖女様くらいしか持てないものなのに…いや、初代国王も持ってたなんて話も…でも恩寵なんて普通の人間が持てるものじゃ…それに魔法創造って何?字そのままの意味だとしたらそれは最早神の領域……」
それからマーリン先生はぶつぶつと独り言を言い出した。
こうなると先生長いんだよなぁ。朝礼の時の校長や上司のよう。
あれ、上司に至っては少しでも先延ばしにして仕事の実働時間を減らそうとしてるだけだろ。こっちは仕事溜まってるっていうのに。
思い出したら腹立ってきた…思えばあの上司は…。
そうして、お互いに自分の世界に入って一分経過して、俺は我に返る。
傍から見ればそれはそれは異常な光景だったに違いない。
しかしいかんな。上司への恨みがまだ残っているのか、最早癖になっているのか、たまにかつての上司への悪態をついてしまう。いい加減治していかなければ。今の世界とは関係ないし。
そうしてマーリン先生の方を見るとやはりまだ独り言を続けている。
先ほどまでの俺もこんな感じだったのだろうか。
弟子は師匠に似るものなのか。マーリン先生は研究者気質なだけな気もするが。
とにかく、今のままでは埒が明かないので声をかける。
「あの、マーリン先生?」
「……え?あ、ごめんなさいね。《魔法創造》と《魔法操作》なんてもの過去に前例がないから慌てちゃって…」
「いえ…それはそれとして魔法を扱ってみたいんですが…いいでしょうか?」
「名前からして魔法を創って操るんだろうけど…物は試しでやってみる?いざとなったら私が止めるわ」
「いいんですか!?」
「えぇ。ただし、危ない魔法を創ろうとは思わないように」
良かった。実践主義な考えはやはり素晴らしいな。何事も挑戦だからね。ただし無理な仕事を除く。
さて、何を創るかだが…ここは異世界モノの定番の魔法でも作るかな?あれ便利そうだし。
え~っと、とにかく唱えてみればいいのかな。わからないが、先生の言う通り物は試しだ。
「《魔法創造》、《鑑定》!」
そう唱えた瞬間、俺の周囲の空間にいくつかの魔法陣が出現する。
おぉ、これが魔法か!何かが流れ込んでくる感覚がする。満たされていく。
そうして魔法を使えたことに歓喜していると、急に先ほどまでの心地よい感覚から一転、頭を打つような感覚に襲われる。
思わず膝をついてしまい、その場に倒れこむ。
頭が割れるように痛い。今にも気絶してしまいそうだ。
「ちょっと、アルバートくん!?大丈夫!!?」
先生が駆け寄って俺の顔色を見た後、アイテムボックスから小瓶を取り出す。
「ほら、これを飲んで。MP回復薬だから」
緑色の液体の入った瓶の口を俺の口に押し当てられる。
そのまま、中身を口の中に流し込まれる。
…にっが!ナニコレ!?吐き出してしまいそうになるが、これを飲まないといけないというのは何となくわかる。
良薬は苦いと言うが、これは今後あまり口にしたくはないな。
そうして瓶の中身を全部飲み干してしばらくすると幾分か頭の痛みが取れてきた。
「…先生、ありがとうございます」
「MP切れね。242って決して低くはないはずだけど、それが一気に持っていかれるなんて私も予想外だったわ」
《鑑定》創るだけでもうMP切れになるのか。もっと強烈な魔法とか創ろうと思ったらどれだけのMPが必要なのか。
それに、その時何らかの危機に瀕していた場合、創造しただけではダメだ。その後、またMPを削ってその魔法を使わないといけないのだ。
…今後暇なときに魔法のストックを増やしておかないといざという時に全く役に立たないな、これは。
「でも一応魔法は発動したみたいね。魔法陣が出るってことは魔法は使えたってことだから。《鑑定》を創ったのよね?気分が落ち着いたらステータス見てみたらどう?」
「はい、今大分落ち着いたので見てみます」
そうして、改めてステータスを確認するため、ステータスオープンと唱える。
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アルバート・シルヴェスター
種族:人間 年齢:5歳
HP:210/210 MP:20/242
技能:計算術、弁論術、交渉術、記憶術、雑学知識、異国語読解、異国語会話
魔法:魔法創造、魔法操作、鑑定
加護:創造神の恩寵(大)
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鑑定が追加されている。
先ほどのMP回復薬とやらのおかげか、MPも最低値にはなっていないようだ。
「なるほどね。名称そのままの魔法ねそれ。ただ、MPの消費量が尋常じゃないみたい。魔法使ってMP切れになった時って足りない分MPは身体に負担として返ってくるんだけど、さっきのは結構重症だったみたいだし…本当にギリギリ発動できたって感じね」
うーむ、これはどういった魔法が燃費がいいのか研究していかなければならないか。
「それで…創造した《鑑定》、使ってみる?一般的な《鑑定》だったらMPは消費しないはずだし、今のMPでも問題ないと思うわ」
「そうですね。創造した魔法がちゃんと使えるのか確認しておきたいですしね」
「じゃあ何を鑑定しましょうか…」
「先生に《鑑定》するのは?」
「あら、女性のこと知りたいお年頃なの?おませさんね。でもアルバートくんならちょっとくらい良いわよ?」
そう言って小悪魔的な表情を浮かべてたわわな身体ですり寄ってくるマーリン先生。
おい、あんた五歳児に何仕出かそうとしてるんだ。
というか今の発言からどうしてそうなる。
「…いえ、やっぱり結構です」
「あら、いいの?我慢することないのよ?」
うん、わかっていたけど、からかいたいだけだこの駄目教師。
「はぁ…取り敢えずそうですね…さっきの瓶でも」
と言って机の上に置いてある空き瓶を見る。
先ほどのMP回復薬の瓶だ。
「うん、ちょうどいいんじゃない?《鑑定》するときは対象を視界に入れたまま『鑑定』と念じれば使えるはずよ」
「わかりました」
言われた通りにしてみる。
瓶に向き合って、頭の中で『鑑定』と念じた。
すると、目の前にステータス画面に似た画面が表示される。
魔法陣が出現しなかったが、これはMPを消費しないからか?
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MP回復薬(中)の空き瓶
MPを回復する薬が入っていた空き瓶。
中にはわずかに回復薬の成分が残っている。
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「《鑑定》の画面は他の人には見えないから私にはどう表示されているのかわからないけど、どんな感じ?」
「えっとですね…」
画面に表示されている文章をそのまま読んだ。
「《魔法創造》で創った《鑑定》は普通のようね。一般的な《鑑定》と同じ文章よ。
う~ん、でも《魔法操作》っていうのはどんなものなのかしら…またMP切れになっても困るし、万全の状態でどんな魔法か試してみましょう。疲れているだろうし、今日の授業はこれまで。身体を休めた方がいいわ」
「はい…ところで先生。この魔法の件なんですがあまり周囲には…」
「わかってるわ。広言したりしないわよ。あなたの両親にはいった方がいいかもしれないけど、ある程度その魔法のことがわかってからの方がいいわね」
「はい、ありがとうございます」
「でもあなたぐらいの年頃の子だったら自分の力を周囲の人に言いふらしたくなってもおかしくないんだけど…それに、いつも思ってるけど言葉遣いも五歳児とも思えないし…」
「はは…」
そりゃあおかしいと思うよな。俺もそう思う。こんな五歳児普通いないだろうし…。
とはいえ、変に勘繰られて探りを入れられるのも面倒だな。先生はまだいいが、そんなことができるだけないように気を付けなければ…少なくともステータスは見せられないな。ステータス偽装できる魔法でも創っておいた方がいいかもしれない。
ともかく、今日の授業は終わった。
楽しみにしていた魔法実習だったが、思った以上に《魔法創造》の使い勝手が悪かった。流石に好きな魔法好きなだけ創れたらチートにもほどがあるが。
《魔法操作》のこともまだ全然わかっていないしな…単純に《魔法創造》の補助魔法なのか?
そこも含めて色々実験していかなければならないな。
次はもっと早く、そして更新ペースを安定させていけたらと思っています。
他にも書きたい小説があるのでそっちも上げていけたら…いいな。