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2度目の人生ーーsideグェンーー

さて。前回の人生では、ちょいとヤンデレっぽかったグェンの話。ネジェリアの話で、いくらかどういう2回目人生を送っているか、分かりますね。

彼女をこの手にかけた時の感触が、今も残っているーー。


あの時、確かに彼女の最期を自分のものに出来たと思った。それは仄暗い喜びに包まれた。だが、正気に返って死ぬまでの日々は、寧ろ後悔ばかりが身を包み、何故彼女を助けなかったのか、と己を追い込んだ。


ローゼリア。


あなた1人くらい連れて逃げる事、俺には簡単だったのに。


あの時は、あなたを手にかける事だけが、俺に出来る唯一の方法だ、と思っていた。後悔しながら王家の駒として生きるしか無かった俺。

ようやく死ぬ事を許された時、これであなたに会いに行ける。ーーそう思っていた。


「何故、俺は生きている?」


そう。生きているのだ。

絶望しか無い。

そう思って、また眠ろうとした。そこで気づいた。


長年、王家の駒として城に居た俺の部屋ではない事に。寝具も家具も目に入るもの、全てが違う。目がおかしくなったか、と擦ろうとして自分の手をマジマジと見つめた。……小さい。そこで先程呟いた自分の声が幼い子どもの声だったことに、今、気づいた。


一体、どういう事だ。


呆然としていたが、部屋に入って来た執事の顔を見て気づいた。きちんと“昨日”までの記憶が蘇る。


「グェン様、おはようございます。もうお目覚めでしたか。本日は天気が良くてお出かけ日和でございますよ」


俺はハイムール侯爵家の自室に居る。執事の言葉から察して、今日が、俺がならず者達に拐われる日だ、と思い出した。という事は、どういうわけか知らないが、“俺”を繰り返している? 2回目の俺の人生? ならば、俺は彼女に再び会える?


そこに気づいた時、俺の身体は歓喜で震えた。


そういう事ならば、これから起こるならず者達による誘拐など耐えられる。あの時は命の危機を感じて魔法を使った。だが、隠せないからこそ王家の駒になって、彼女に会えた。

前回彼女に会えたのは、今から5年後。5年経てば、彼女に会える。


その時は、間違えない。何としても彼女を生かして守り抜く。


その後、再び俺は拐われて、予定通り王家の駒になった。そして、彼女に……ローゼリアに会える時を待とうと思ったのに。

どうやら、2回目の人生を送っているのは、俺だけじゃないらしい。バシリード殿下も、だ。あの忌々しい子爵令嬢を探している。冗談じゃない。あんな忌々しい女を婚約者にでも据えるつもりか!


バシリード殿下とあの忌々しい女が自滅するのは勝手だが、何故、ローゼリアが1回目の人生で、婚約者に選ばれたのか、さっぱり解ってないな、あのバカ王子。

胸の内で散々罵倒するが、顔に出す事はしない。所詮は駒だから。


結局、あの忌々しい女が現れた。だが、俺はあの忌々しい女と会うような腕前じゃないから、護衛にもならないだろう。数年後には王子妃教育が始まるなら、だが。


通常、王子妃教育が始まった時に真の任務を背負った護衛が付けられたら、余程の事が無い限り、変更は無い。だから現在一人前では無い俺が、あの忌々しい女の護衛は有り得ない。そう思っていたのに。


俺が15歳を迎えた時、あの忌々しい女が王子妃教育を開始する、と聞いた。……あの女がバカ王子と仲良くなってから、既に5年の月日が経っているのに、今頃である。しかも、よりによって俺がその護衛を務める事になった。腹立たしい事この上ない。


2回目も、同じ人が俺の先輩で、相変わらず尊敬する相手だが。そんな先輩が、俺に心底気の毒だ、という視線であの忌々しい女の護衛を告げて来た時は、つい「替わって下さい」と真顔で頼んでしまった。当然、断られたが。


先輩が俺に同情心を向けてくる程、あの忌々しい女のやらかし具合は、割と早いうちから知られていた。というか、城に来たその日から、自分がバカ王子の運命の相手だ、と思っているらしく、何をしても許される、と勘違いしていたらしい。

俺がこの城で鍛錬している時から噂が聞こえていた。淑女教育すらまともに覚えられないって、どれだけだ。


こういうところは、2回目とはいえ、変わらないらしいな。


というのが本音だ。ただ、忌々しい女の方は、1回目の記憶が無いようだ。

一体、誰が、若しくは、何が、どんな目的で、どういう基準で、記憶を持ったまま、俺とバカ王子の人生を繰り返させているのだろう。それとも、俺とバカ王子だけではなく、他にも繰り返している人がいるのだろうか。


何にせよ、あのバカ王子が呼んだこの忌々しい女は、本当に中身が変わらない。俺にまた言い寄ってくる。お前など、要らん。……ああ、今回は彼女に会えないのだろうか。そう思っていたが、それから直ぐに会えた。


そうか。あの忌々しい女の護衛は心底嫌だが、学園に来たのだ。彼女に会えるのは、当然だった。それに、バカ王子の護衛についている先輩から密かに聞いたのは、彼女がバカ王子の側妃に迎えられる、という事。

正直、彼女が側妃など、信じられないのだが決定事項らしい。本当ならば彼女こそ、正妃に相応しいのに。


……自分の本当の気持ちに蓋をして鍵をかけて見ない事にして、俺はそう思った。


忌々しい女は相変わらず、バカ王子に隠れて言い寄ってくるが、それでも、彼女に会える日々が俺の唯一の癒しだった。彼女は1回目と同じく、いつも穏やかで勉強も頑張っていた。そして、同じように、色とりどりの花を愛でて、飛んでくる小鳥に目を細めて過ごす。……ああ、変わらない。

声もかけられないが、何故か彼女と視線が合う事だけは多かった。そして、俺に微笑んでくれる。……もしかしたら、彼女も、記憶がある? だが、俺は任務中だから、護衛対象以外に気を散らすわけにはいかない。痛む胸を隠して、俺は任務を続けた。


もう一つ。もしかしたら、と思う事がある。それは、彼女の義弟の存在。前回は、彼女の事を疎ましく思っていたはずなのに、今回はやけに過保護に接している。おそらく記憶持ちのバカ王子も、首を捻る程だ。

だが、それ以上に気になるのは、その接し方が、義理とはいえ姉弟の距離間では無い事。彼女は、姉としての距離を持って接しているから気付かない者が多いが、俺は分かった。


あの義弟・ケビンニルが彼女を女性として好意を抱いている事を。

彼女は、弟からそんな目を向けられているなど思ってもいないようで、過保護な弟を困った子ね、とばかりに笑っている。他の人間が気付かないのは、ケビンニルが上手く隠している証拠なのだろう。逆に言えば、気付いた俺は、自分がどれほど彼女を想っているか、改めて気付いてしまって、せっかく蓋をして鍵をかけたのに、意味が無い。

再び奥底へ蓋をして鍵をかけて、日々を過ごす。学園を卒業し、あの忌々しい女がバカ王子と派手な結婚式を挙げた。


その半年後。公爵令嬢であり、完璧な淑女である彼女が、結婚式すら挙げず、それどころか歓迎していない、という意思を見せつけるように、ひっそりとバカ王子の側妃として召し上げられた。

こんな、こんな扱いをされて良い人では無いのに。

どこまでもバカで腐った王子を、俺は、今この時、本気で殺意を抑え込むのに必死だった。


だが、王妃様が彼女に妃教育を始めて直ぐに、俺はようやく、彼女付きの護衛になった。歓喜で再び身体が震えた。

彼女付きだから、差し障りの無い範囲で会話が出来る。それ以上に、彼女を今度こそ守り抜ける。


「何があっても、あなたの味方で居続けます」


俺が彼女に言える精一杯。彼女は嬉しそうに受け入れてくれた。それからの日々は、彼女から尋ねられた事に返すだけだが、言葉を交わす事が俺の支えになった。

今回も優秀な彼女は、王子妃教育を修めていく。相変わらず泣きそうなのは、多分妃教育がそれだけ辛いからだ。あのバカ王子、その辺の事を理解すれば、彼女の扱いを雑にするなんて、許されないはずなのに。


「グェン様」


「何か」


「少し、お話をしても?」


ある日、彼女を側妃の部屋に送り届けると、中に入るように言われる。護衛として常に部屋の外には居たが、中には入った事が無く、躊躇してしまう。だが、話、というのも気になった。


「お伺いしましょう」


彼女は王妃様から、愛人を持つ事を許されている、と彼女付きの護衛に代わる時、先輩から伝えられた。……部屋内に2人きりなので、不意にそんな事を思い出してしまった。


「ご存知ですか? 旅人の守護神を」


全く予想も付かなかった切り出しに、俺は若干残念に思いながら(愛人になりたかったとか、そういう事じゃないけど)彼女の話に耳を傾けた。


旅人の守護神というのは、子どもの頃に聞かされた御伽話の一つだ。それを彼女は何故?


「旅人の守護神。かの神は、全ての旅人の守護者。どのような旅人でも旅人であるならば、かの神の守護がもらえるーー。そう、どんな旅人でも」


最後の一言がやけに低い声で紡がれる。


「これは私が聞いた事ですが」


とある国の貴族令嬢が、婚約者に虐げられ、挙げ句に婚約破棄をされる。そして、その最後は死ーー。

その話に俺は気付いた。彼女は、前回の人生について、話している、と。


「旅人の守護神の話はこの後で。そのご令嬢は、即死では有りませんでした」


俺は動揺をしないでいられただろうか。


彼女は即死では無かった?


「仮死と言って、死んだような状態だったそうです。だから助かる見込みがあった。けれど、彼女は助かろうとはしなかった。それは彼女が人生の最期を迎えるのに、最高の瞬間だったから。彼女はいつの間にか側にいた愛する方の腕の中でした。だからこのまま助かりたくなかった」


今、彼女は、なんて言った?


彼女の話が前回の人生なら、その最期に共に居たのは……俺だ。

愛する方の腕の中。

それは、俺の腕の中、という事?


「そして彼女は、彼の腕の中で息を引き取ったそうです。しかし、本来なら死後は直ぐに生きてきた人生を忘れ、魂だけの存在になるそうです。魂の奥深くに人生の記憶は残るものの、魂だけの存在は、その人生を忘れる。それなのに、彼女の魂はそれが出来なかった。

そして彼女は旅人の守護神に出会います。かの神は、魂でさえも彷徨えば、旅人とみなす神。そうして彼女の魂は彷徨ってしまったので、かの神に助けられ、彼女の魂からその人生を聞いたかの神は、気紛れに人生をやり直す機会を与えられました。

彼女の魂は半信半疑でしたが、実際にやり直している事に気付いた時は、驚いたそうです。しかも、前回の記憶を持ったまま……。同時に彼女は、かの神に言われた事を思い出します。

ことわりを捻じ曲げるが故に、彼女と同じように前回の記憶を持ったまま、人生を繰り返す者も居るだろう、と。そんな巻き込まれた者を憐むならば、寿命をきちんと生きよ、と。寿命を捨てる事は、調和を乱す。寿命をきちんと迎えれば、人生を繰り返す事は無い、と」


彼女の長い長い話は終わった。

彼女は、ローゼリアは、俺も人生を繰り返している事に気付いている、らしい。だから、この話をしてくれたのだろう。


「面白い御伽話、でしたね」


俺が理解した事に彼女は嬉しそうに笑った。そうか。繰り返したのは、彼女が寿命より短く死んだからか。それで神を動かしたのか。ならば、今回は彼女に生を全うする人生を送らせてやりたい。


俺は決意して、改めて彼女を守る日々を送っていた矢先だった。

あのバカ王子と公務を終えた彼女は、久しぶりに見た忌々しいあの女とばったり会って。忌々しいあの女は、癇癪を起こした。そしてその怒りを、バカ王子に向けて。俺にも向けてきた。イライラする。その苛つきが不味かったのか。


あの忌々しい女が果物ナイフを持ち、バカ王子に突進する。

先輩も俺も、一瞬不覚を取った。忌々しい女がそんな大それたことをするとは思って無かった。その一瞬の不覚が、彼女を再度死に追いやるなんて思わなかった。


彼女はどうしようもないバカ王子を庇って刺された。


俺は彼女を守ると言ったのに……!


一瞬の不覚がこんな事態を起こした。その後の事は、どこか夢見心地のような現実感が無いもので。結局、俺はまた彼女を守り抜けなかった。再び彼女の最期をこの腕の中で迎えさせるしか、出来なかった。


そうして俺は、彼女の家族に守れなかった事を詫び、王家に願い出て彼女の家族と共に在る事を選んだ。

当然、王家は俺が駒として働かなくなる事に反対した。それでも出ていくならば、と毒杯を差し出そうとしてきたので、国王と王妃に魔法を使って、動きを封じ込めた。不敬なのだが、べつに構わなかった。彼女の家族は、国を出るのだから。


妥協案として、俺が王家の秘密を喋りそうになった時点で直ぐに息の根を止める、首輪を作って差し出した。国王の手で付ければ、俺が喋りそうになった途端に、首輪が締まる、と教えて。

それを手ずから付けた国王が、俺をようやく手放した。


それ以降は、彼女の両親と義弟であるケビンニルと共に、彼女の死後が安寧であるように祈りながら日々を過ごした。

そんなわけでグェンの話でした。

ちょっとヤンデレからまともになった……でしょうか。


次は、ローゼの2回目です。

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