2度目の人生ーーsideバシリードーー
2度目の人生、トップバッターは、バシリードです。1度目の記憶を元に今度は、最初からアリリルを婚約者にするつもりです。
目が開いた。何故だ。俺は死んだはずではなかったのか。……まさか助かってしまったのか……。歯軋りして起き上がるが、なんだかいつもより視線が低い。どういう事だ、と見回して気付いた。
ここは、俺の部屋だ。正確に言えば、第三王子として生活していた頃の俺の部屋。しかし、置いてある家具がやけに高く感じるし、なんだか身体も変だ。
そう思って自身を見れば「うわっ!」と小さく声を上げた。やけに小さい。
「殿下? お目覚めでございますか?」
そう言って顔を見せたのは、7歳でお役御免になった乳母だった。……どういう、ことだ。呆然とした俺を、乳母は怪訝そうに首を傾げる。
「殿下。体調が悪いのですか?」
言いながら近寄って来た乳母が、額に手を当ててくる。
「熱は無いようですが……。やけに大人しいですね」
何がなんだか分からないため、俺は乳母に言った。
「怖い夢、見た」
その声は随分子どもっぽい。
「まぁそうでしたか。確かに叫び声を上げていらっしゃいましたからね。どんな夢でございますか?」
「好きになった女の子とけっこんしたのに、女の子がいじわるな夢」
なんだか良く分からないが、とにかく夢を見た事にしておいた。
「左様でございますか。バシリード殿下。何故、意地悪なのか分かりませんが、きっと優しい女の子が殿下の前に現れますよ」
乳母が優しく笑って俺も「そうだね」と頷いた。
とにかく、どういうわけか分からないが、俺は“バシリード”をやり直しているらしい。ならば、前の人生で間違えた事をやり直そう。
1番の間違いは、アリリルに途中から淑女教育を、施したこと。ならば、アリリルに早いうちから上位貴族の教育を受けさせれば良い。ついでに、どこかの上位貴族に養女にするよう頼めば良い。
いや、その前に今自分は何歳なのだろう。確か、あの女が婚約者だと母上に言われて引き合わされたのが5歳だったはず。
それより前にアリリルを婚約者にしなくてはならない。子爵令嬢なのだ。直ぐに見つかるだろう。
「殿下。もうすぐ5歳の誕生日ですねぇ。何が欲しいか、プレゼントは決まりましたか?」
乳母に言われて、思い出す。そうか。まだ5歳になっていないのか。5歳の誕生日に貰ったのは、何だったか……思い出せない。だが、まぁ良い。これはチャンスだ。
「夢の中の女の子!」
「先程仰った意地悪な……?」
「夢の中では優しかったけど、僕と一緒にお勉強出来なくていじわるだった」
……という事にしておこう。俺もアリリルと一緒なら勉強出来るはずだ。乳母が目を見開いた。俺の勉強嫌いを知っているからな。夢でも女の子と一緒なら勉強する、と知って驚いたらしい。
やがて乳母から母上に話がいったのだろう。母上が俺に詳しく容姿を聞いて来た。夢の中だから名前は分からないって事にしておこうか。そうして極秘に探された女の子……アリリルが俺の前に現れた。
5歳も可愛いなぁ。城に来て目を輝かせている。俺に会えて嬉しいのか、ニコニコと笑っているのも良い。ああ、俺の愛しい人。
そうして、アリリルは俺と一緒に勉強をして、俺はどんどん成長した。アリリルを何とか励まして王子と同じ上級教育を受けるように伝える。アリリルも何とか頑張っている。いつの間にか、俺とアリリルは7歳になっていた。どうやらあの女が婚約者として現れるのは避けられたみたいだ。
よし。アリリルをどこかの上位貴族の養子にして、俺の婚約者に迎えよう。アリリルに俺と結婚したいか確認する。その気持ちに変わりは無いらしい。前回はやっぱり急に淑女教育や妃教育が有ったせいだ。最初からの今回ならば、上手くいく!
「母上。俺、アリリルと結婚したい」
「まぁバシリード。でもアリリルちゃんは、子爵令嬢でしょう? 公爵家か侯爵家の令嬢で無いと……」
「俺はアリリルじゃなきゃヤダ」
「そう? 分かったわ。どこかの公爵家か侯爵家に養女にしてもらいましょう。でもね、バシリード。本当にアリリルちゃんと結婚したいなら、今のアリリルちゃんじゃダメよ?」
どういうことか、と俺は首を、捻った。
「……ああ、分からないかしら。そうね。今度子どもだけのお茶会をやるから、そこにアリリルちゃんも参加させましょう。あなたは、きちんと周りを見るのよ?」
母上の言っている事が分からないながら、取り敢えず頷いておく。アリリルにお茶会の話をすると、新しいドレスが欲しい、と言っていた。今はまだ正式な婚約者では無いが、一緒に勉強しているお礼にドレスを贈りたい、と母上に話したら、それくらいなら……と頷いてくれた。
そうして迎えたお茶会当日。
伯爵・侯爵・公爵の令息と令嬢が集まっていた。あの女も居る。相変わらず地味な色合いのドレスを着ている。やっぱり、俺のアリリルの方が可愛い。そんな事を思いながら、招待客が全員、俺に挨拶に来る。爵位の関係でアリリルが最後では有るが、まぁそのうちアリリルの立場も逆転するし、今日は我慢だ。
「はじめまして、バシリード殿下」
公爵令嬢であるあの女が挨拶に来た。そこで気付く。公爵令息も公爵令嬢も、この女を含めて皆が美しい礼を取る。第一王子である長男の婚約者だって、第二王子である次男の婚約者だって、ここに来ていて、やはり美しい姿勢だ。子ども達だけだから、兄達も来ているが。
このローゼリアを含めて皆が完璧な紳士・淑女なのだ。俺は何か言おうとして、何も言えなかった。
何故だ。
アリリルは、俺と一緒に教育を受けている。そのアリリルよりも、ここに居る公爵令息・公爵令嬢の方が数段上。
どういう、こと、なのだろう。
アリリルの番になった時、1歳下の伯爵令嬢にさえ劣ったカーテシーを披露した。それを見て母上の言っていた事を理解した。
アリリルは、もしや淑女教育をサボっているのでは無いだろうか。
計算問題や国の歴史等は俺と一緒に勉強しているから、頑張っているのは知っている。だけど、俺が王子教育を受けている間、淑女教育を受けているはずのアリリルなのに、この差は何なのだろう。
その衝撃から立ち直れないまま、お茶会が終わった。翌日、勉強のために城に来たアリリルの様子を、アリリルには内緒で見たい、とアリリルの淑女教育の家庭教師に話した。了承を得ると、アリリルが淑女教育を受ける時間、隠れて様子を見た。
「ああもう! こんなに毎回、お辞儀しなくたって大丈夫だもん! 他の事を教えてよ」
アリリルが癇癪を起こしていた。……その姿は前回の結婚生活を思い出して、俺は息を呑む。このままではダメだ、と取り敢えず今日はそのままで、俺は何とかアリリルにやる気を起こさせる事にするべく考えた。
そして、アリリルが淑女教育を上手くやれたらご褒美を与えることにした。
これでアリリルのやる気が出た。何とか持続させて、いつの間にか2年が経った。俺もアリリルも9歳だ。
母上からアリリルに王子妃教育を始めさせようと話をもらった。ここまで、長かった。王子妃教育が始まるという事は、アリリルを婚約者として認めてくれる、という事。俺とアリリルが婚約破棄する事は無いのだから、結婚出来る。
ホッと肩の力が抜けた時だった。第二王子である2歳年上の次男が、珍しく俺を訪ねてきた。
「お前、あの子爵令嬢を婚約者にするのか?」
仲は良くないが、いきなりそんな事を言われて、俺はムッとした。
「何か問題が?」
「まぁ何処かの家に養女として引き取られるだろうから、身分は問題ない。問題は別だ」
次男の言葉に首を捻った。
「あの娘、俺や兄さんに声をかけてくる」
「……それが?」
別に声をかけるくらい、大した事じゃないだろう。
「あのな。正式な婚約者じゃなくても、あの娘はお前の婚約者として見られている。そんな娘が、俺や兄さんに駆け寄って、ベタベタと身体を触って来るなんて、有り得ないだろうが。本当に淑女教育を受けているのか?」
それは、確かに良くない。不敬だ、と咎められてもおかしくない。
「アリリルはまだ身分とか分かっていないんだよ」
「そういう問題じゃない。まぁ早いうちに何とかしないと、婚約解消の可能性もあるからな。忠告はしたぞ」
婚約解消⁉︎ 俺はギョッとした。それはさすがに言い過ぎだ……と思いつつも、そう言えば、前回のことを思い出す。
俺は婚約者候補だと思っていたけれど、あの女を含む周囲は、やたらとアリリルに注意をしていた。婚約者がいる殿方に近づくなんて、はしたない……とか何とか。
そうか。兄が言っていた事の意味が、前回の注意と似ている。つまり、兄は、アリリルに対して、はしたない。と思っているのか。
それはマズイな。
そんな事で足を引っ張られて、婚約解消など、とんでもない。アリリルに注意をしておこう。
だが、良かれと思った注意が、アリリルの癇癪を起こす事になろうとは、俺は知らなかった。
「どうしてですか! 未来のお兄様達と仲良くなりたいだけですわ!」
「それは良いことだけど、もう9歳だからね。兄達に駆け寄るとか、気安く触れてはダメだよ。淑女教育の家庭教師が言っていたと思うんだが」
アリリルに注意した途端、眉間に皺を寄せて癇癪を起こし始めた。俺が宥めても、聞く耳を持たない。
「ただ、腕に触れただけですわ!」
「それはなんで?」
「仲良くなりたい相手なんですもの。腕に触るくらい、あります!」
いや、無いと思うが。
「ねぇアリリル。婚約が無くなったら困るから、私の言う事を聞いてくれないかな」
「バシリード様まで、私にあれをするな、これをするな、と言うんですね! 私は立派な淑女です! その私に失礼ですわ!」
立派な淑女なら、俺の言う事を聞いてくれると思うんだが……。そこで俺は、ハッとした。前回の時、あの女は俺に何か言って、それに対して俺が反論すると黙った。
俺の反論に納得した、と思っていたのだが、俺が言う事だから、間違っていても、言う事を聞いた……?
淑女教育を受けていた、完璧な淑女なら、その可能性が有った。
アリリルにも俺の婚約者として相応しい淑女になってもらい、誰からも認めて貰わなくては……。
俺は何とか宥めて、結婚のために我慢してくれ、と頼んだ。だが、この頼み方が拙かったと知るのは、結婚してからのこと。今の俺には、解るわけも無かった。
それから母上が王子妃教育を始めた、と言ってくれた。10歳の時、アリリルに護衛がついた。前回もアリリルが婚約者になった時についた護衛だった。確か、グェンと言ったか。俺達の5歳年上だから15歳のはずだ。表情を変えない、常に冷静な男だったと思ったが、それは今回も同じらしい。
だが、前回も思ったが、やけにアリリルがこの男をチラチラと見るのが気になる。
だが、少しまたやる気にはなっているようだ。それにしても、飽きっぽい性格は困り物だ。褒美を与えているのに、やる気が下がったのは参った。
それにしても。まだこの年齢だというのに、褒美にドレスを強請られる。結婚してから大丈夫だろうか?
少しだけ不安になりつつも、それから2年が経過した。そして、母上から俺は呼び出された。
「バシリード。もう無理だわ」
「……何が、ですか?」
いきなり言われても全く分からない。
「あなた、アリリルから何も聞かされていないの? アリリル付きの侍女からも?」
母上の眉間の皺に、俺は嫌な予感に囚われた。一体、何を聞かされていないのか。
「どういう、ことですか」
「何も聞かされていないのね。あの子に王子妃教育は無理よ」
「えっ? 開始してから2年は経過してますよね?」
「もうすぐ3年。でもね、物覚えが悪過ぎて。しかも前提として終わっているはずの淑女教育すら終わっていないわ。王子妃教育の基本中の基本である淑女教育を復習したのだけど、まるでダメ。あなたが望むから、私の目の前で淑女教育をもう一度受けさせていたけれど、無理。
言っておくけれど、1年は淑女教育を叩き込んでいたのよ?
それでも無理ね。物覚えが悪い。というより、思い込みが激しくて、自分は既に完璧な淑女だから、毎回復習するなんて時間の無駄だ、と言っているわ。だから何度やらせても覚えない。
仕方ないから、王子妃教育を開始したけれど、王家の歴史を教えようにも、貴族なら誰でも知っているような王家の歴史すら覚えていない。
あれが出来ていないのでは、代々の王子妃・王妃が学ぶ王家の歴史など、到底教えられないわ。だから、基本中の基本の歴史を復習を兼ねて教えたけれど、そんな昔の事は、今は関係ないとか言い出した。
あれでは無理よ」
母上が一気に言い募る。
相当ストレスを抱えていたのだろう。
しかし、それでは俺と結婚出来ない。
「母上、婚約解消しないと、ダメですか? 俺はアリリルが良いです」
「……婚約解消をするべきね。でも、中途半端に王子妃教育を始めているから、おいそれと解消も出来ないのよ。……そうね。あなた、側妃を娶りなさい」
「側妃⁉︎」
「ええ。あの子を正妃にしとけば、側妃を迎えてもあの子も嫌がらないでしょ。本当はあの子が側妃の方が良いけどね」
「しかし」
「あの子との間に子を儲ければ良いじゃないの。側妃との間にも子が居て欲しいけど。あの子をお飾りの正妃に据えて、対外的な部分は側妃に任せなさい。王子妃として、公務も外交も熟すのは側妃にさせる。それならあの子との婚約解消はしなくていいわ」
逆に言えば、側妃を迎えない限り、婚約解消をしなくてはいけない、という事だ。俺はアリリルと結婚するつもりだったから、渋々その提案を受け入れた。
そして、俺の側妃として迎え入れる相手は、あの地味女……ローゼリア・ベルヌと決まった。地味女は、側妃に迎え入れるように、と母上から言われるのも仕方ないくらい、淑女として完璧だった。癪に障るが。
そうして、ある日を境に王子妃教育をしなくて良くなったアリリルは、機嫌が良くなり、常に笑顔で、前回、学園生活を送っていた頃のようだった。これから学園に入学するのだが、結局のところ、この時点であの女と婚約する事になっているのは、皮肉だ。
しかも、側妃でありながら、公務では、事実上の第三王子妃になるらしい。
だが、私的な部分では、あの女を絶対に認めない。あの女を妃になどしない。あの女の寝室には行かない。白い結婚を突き通すつもりだ。
こればかりは、母上に言われても突き通す覚悟が有った。
そして、二度目の学園生活を送り、卒業してからアリリルと結婚した。
それから半年で、あの女を側妃として迎える事が決まった。アリリルとの結婚式は、華々しく皆に見せつけるような幸せな結婚式だったが、あの女を側妃に迎える時は、結婚式すら行わなかった。
ただ、城へ迎え入れただけだ。
あの女は相変わらず地味で、それでも俺に文句一つ言わずに、黙って俺の言う事を聞いていた。
その後は、母上の目に狂いは無かったのだろう。
あの女は、王子妃教育を開始したら、瞬く間に覚えた! と母上が喜んでいた。当然、側妃として、公務の場に出ると、俺をきちんと支え、俺を立てた。しかも、外交だって、他国の言葉をまるで自国語のように操っていて、俺は恥をかかずに済んだ。
これが、王子妃教育を施された“妃”なのか、と納得した。
いつの間にか、アリリルの護衛だったグェンが、あの地味女の護衛になっていた。確か王家の命で護衛任務につく。という事は、父上も母上も、側妃である地味女を“妃”として認めているのだろう。
だが俺は認めない。俺の妃は、アリリルだけだ。
そう思いながらも、一方でアリリルは結婚してから次々と物を欲しがった。ドレスに装飾品に靴や化粧品……。
「アリリル。先週もドレスを頼んだばかりでは無いのか?」
「あら。リード、私に綺麗で居て欲しいでしょう? だったら当然じゃない」
確かにアリリルには綺麗で居て欲しい。だが、こんなに次々と強請られるのは……。いや、そうか。側妃に割かれる予算を正妃の予算に充てればいいのだ。
俺は結局黙った。
黙ったその翌日にはエメラルドとダイヤモンドを使った首飾りを購入し、その2日後はルビーのピアスを……。
兄達の妃でもこんなに頻繁に買わないのだが。
結婚してから1年を過ぎて、俺はまたアリリルに注意する。
「アリリル、ちょっと買い過ぎだと思うんだが……」
「リード! あなた、結婚するまで私に我慢しろ、と言っておいて、結婚してからも我慢させるの⁉︎」
それは9歳の頃に言った言葉。アリリルは納得したのではなく、結婚まで我慢すれば、結婚後は自由にして良い、と受け取ったのだ、とこの時初めて俺は理解した。
それでも俺はアリリルが可愛いから、それ以上は言えなかった。
だが、第三王子と王子妃に組まれている予算を超える勢い、らしい。予算は年単位で組まれているのだから、何かの時に予算が無いのではマズイ。
それが解っていても、それ以上は言えなかった。アリリルを愛しているから。
結婚してから2年。
俺は21歳。アリリルとの間に、男の子どもが生まれた。
だが、とうとうアリリルが、自分の状況に気づいたようだ。あれほど物欲を満たしたので、今度は周りからドレスや装飾品を褒められたくなったらしい。
公務にも出なくて良い。外交もしなくて良い。そう言い含めていたから、最初は喜んでいたが、2年も経てば、さすがに気付くらしい。夜会には出ていたが、外交を含むものは参加させていなかったから、いつかは気付くと思っていた。
そして、普段は自分の私室から出ないはずのアリリルが私室から出た時だった。
間が悪い事に、公務で俺と共に居た地味女を見つけてしまった。
「な! リード! どういう事⁉︎ 私が居るのに、そんな地味女と一緒って! 浮気⁉︎」
「浮気じゃない! 俺はアリリルだけだ!」
「じゃあその地味女は?」
「それはその……側妃だ」
俺は誤魔化しきれず、本当の事を話した。
「何ですって⁉︎ それじゃあ皆は、私がお飾りだと思っているって事じゃないの! こんなにも完璧な王子妃である私をお飾りにするだなんて、リードったら酷いわ!」
案の定、アリリルが癇癪を起こした。それだけならまだ宥めれば良かったのだが。
「しかも、グェン! あなた、何故その地味女と一緒なの⁉︎ 私の護衛でしょ!」
「私は王家の命で護衛任務についています」
護衛のグェンにまで、癇癪を起こしたまま発言した。その通りなのだが、癇癪を起こしている時に真実を言わなくても良いだろう! と俺は溜め息をつきたくなる。
「何ですって⁉︎」
更に癇癪を起こすのか、と俺は少しゲンナリした。だが、次の瞬間は予想外で、アリリルの私室に飛び込んだ。なんだ? と思ったら、また出てきた。首を捻った俺に、アリリルが突進してくる。
その手には、小型の果物ナイフ……!
咄嗟に動けなかった俺。
その俺の前に彼女が、地味女が立った。
同時にアリリルのナイフが、地味女の腹に刺さった。
呆然としていると、グェンが直ぐに応急処置を始めていた。
何故、俺を庇った?
そんな諸々のことを尋ねるより前に、地味女は刺された事によるショックが原因で命を落とした。
その後は、アリリルが捕まり、国庫を使い込む悪女として処刑された。
俺はアリリルを正妃にした責任を取って王籍から出て平民に落とされた。平民に落とされた事から俺は酒浸りになり、浴びるように飲みまくって、病気になり、それが元で命を落とした。
そんなわけで、バシリードの2度目の人生でした。1度目の記憶を駆使して、今度こそアリリルと幸せな結婚生活を送ろうとしていたのに、ね。
最初から婚約者になっていれば、アリリルも何の問題も無く淑女教育を受けて、王子妃教育を受けて、バッチリ!と考えたのに、この結果。
ちなみに、アリリルは国庫を使い込んだ罪と、正妃でありながら側妃を害した罪でも処罰されました。
そして、やっぱりこの王子の話は長い。
さて、お次はローゼリアのお母さんであるネジェリアさんです。