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1度目の人生ーーsideグェンーー

1度目の人生を送る最後の人物は、ローゼリアの監視兼護衛役・グェンです。


彼は学園でもローゼの監視兼護衛をしていましたが、彼自身は学生では有りません。ローゼが死んだ時は、グェン22歳です。


彼から見たローゼの様子。ローゼを手にかけた時の心境等の話。

俺は、グェン・ハイムール。22歳。ハイムール侯爵家の嫡男だった。過去形だ。


正確に言えば、8歳までは、ハイムール侯爵の長男で嫡男だった。この年、俺は誘拐され、命の危機に陥った。そこで、運が良いのか悪いのか。魔力を使って暴走した。

魔力とは、魔法を使える魔術師が持っている能力の事で、希少の存在だ。魔力持ちは、貴族・平民問わず、あまり居ない。


そのあまり居ない希少の存在だった俺。


拐われて助けようとしていたハイムール侯爵家の私兵が、俺の暴走を見てしまった。隠す事が出来ないくらいの暴走に、父であるハイムール侯爵は、即決して王家に報告した。

王家に報告された俺は、その日から王家の駒として働く事が決まり、ハイムール侯爵嫡男の座を廃された。


これは国法だから仕方ない。

俺を引き取った王家は、俺を引き取った分として、ハイムール侯爵家に金を出した。これで俺はハイムール侯爵嫡男では無くなった。姓はそのまま名乗れる。ハイムール侯爵家にとっても、魔術師が現れた事は栄誉なのだから。


俺個人の幸せも尊厳も無いが、そんな事は父も王家も興味ないのだろう。幸いと言うべきか、俺も幸せだの尊厳だの、全く興味が無く。淡々と魔力を制御する生活を送り、王家の駒として動くように意識を変えていった。


俺が俺自身に無関心だった事が、王家の駒として優秀になったというのは、何かの皮肉かもしれない。

とにかく俺は、早々と駒教育を終えて、実践に移っていた。最初の任務から割と過酷だった。罪人の処罰だから。しかし、どこか冷めていた俺は、難無くクリアして、俺は正式に監視兼護衛役の任務を負った。


その相手は、第三王子の婚約者、ローゼリア・ベルヌ公爵令嬢。彼女が婚約者である事を妬んだ輩が彼女の命を狙い出した事と、王子妃教育が本格化していた事で、俺が付けられる事になった。

ローゼリア嬢が8歳。俺が13歳の時だった。

王家は、俺の存在をローゼリア嬢だけに話した。公爵家に居る彼女は、その身柄を公爵家が安全に守っていたからだ。

だが、公爵家から外出……特に城へ出かける時などは、彼女の危険度が増していた。


それ故に、その間の護衛だ、と王家は彼女に話し、彼女もそれを疑う事なく受け入れた。

こういう護衛が嫌だ、とごねられたら厄介だったが、そんなこともなく。かと言って、護衛が付いている事で自分が尊い存在だ、と傲るわけでもなく。

ローゼリア嬢は護衛しやすい女性だった。


身分からすれば確かに貴族達の中で最高位なのだが、それを勘違いした我が儘で傲慢な人間を俺は良く知っている。実際に見て来た。だが、そんな存在とはかけ離れた女性ーーそれがローゼリア嬢。

何故か、彼女は自分の価値を低く見積もっている。まぁ自分の価値が高いと思っているバカよりは良いが、それにしても、だ。


その理由は直ぐに知れた。


彼女の婚約者であり、俺からすれば主人側にあたる第三王子・バシリード殿下の言動。

彼女の髪と瞳の色彩は、彼女自身でどうにかなる事ではない。生まれつきのもの。それを貶すところから始まる。


更には彼女が自分に似合う色合いのドレスを着ているのに、地味だ、と嘲笑う。言っておくが、女性のドレス姿を見て、似合う色合いを着ている者は半数にも満たないんだが。

それを思えば、彼女はきちんと似合う色合いのドレスを着ているのに、赤やピンクやオレンジに黄色じゃないと、全て地味なのか?

それは、それ以外の色を着ている女性達を敵に回してないか?


その他、彼女は王家とベルヌ公爵家で結ばれたれっきとした婚約者だと言うのに、どうやらその自覚がまるでない。


こんなのが自国の王子なのか。


というのが正直な感想だ。3番目の末っ子だからか甘やかされて育ったとしか思えない。

まぁ自分達の第三王子に対する教育不足に気付いているのは良いが、陛下も妃殿下も、だからといって、ローゼリア嬢への王子妃教育が厳しいのはどうかと思う。


俺は彼女が勉強中は外で護衛しているだけだが、彼女の王子妃教育が終わって、彼女が出て来ると決まって泣きそうな表情を一瞬だけ見せる。

そして俺を見ると、瞬時に淑女の仮面を付けるのだ。つまり、人前じゃ泣けないって事だろう。


自分に関しては無頓着な代わりに、彼女の感情は手に取るように解ってしまう。

だから俺は、必ず一度は彼女から少しだけ離れる。用事を思い出したフリや、手洗い等。その間に彼女が泣けるように。もちろん、気配を消して彼女から見えないところで、護衛の任務を果たしているが。


それが両手の指を超えた頃だっただろうか。


「いつもありがとうございます、グェン・ハイムール様」


お礼を言われた。


「何のことだ」


惚けて知らないフリをすれば、泣きそうだった彼女は、クスリと笑って俺を見た。

淑女の仮面を付けた微笑みじゃない笑顔は、何故か俺の網膜に焼き付き、俺の胸に焦げ付いた。


「私の心を慮っていらっしゃるので。お優しい方ですね」


優しい?

俺が?

感情など知らない。

自分の事など分からない。

誰が何を思おうと考えようと、駒である俺は気にならないのに。


そんな俺が、彼女の心を思い遣っている?


そんなローゼリア嬢の言葉に俺は唖然として、結局何も言えず、今日も彼女から少し離れた。だが、その日の彼女は泣かなかった。


いや、その日から彼女はあまり泣かなくなった。常に凛として。その姿は美しい。けれど淑女の仮面も貼り付けたまま。

あの宝石のような涙を見る機会が減った。


それから直ぐだ。彼女と殿下が学園に入学したのは。俺は特例で学園に入っている。王家から通達されているし、俺は彼女付きだが、他にバシリード殿下付きの監視兼護衛も学園にいる。

その方は俺の先輩で、俺に魔力の制御方法を教えてくれた人だ。だが、彼も俺も互いの任務中。会話を交わすどころか目線すら合わせない。何故なら対象者の一挙手一投足を見逃せないからだ。


彼女は、バシリード殿下との距離をなんとか縮めようとしていた。自ら交流を持とうと積極的に声を掛けに行ったが、いつだって殿下は彼女を貶して嘲笑うしか無い。

殿下のこういった態度は、きっと先輩が陛下に報告しているのだろう。殿下は、自分の言動が自分の価値を落としている事に、全く気付いていないらしい。


そんな矢先。

殿下は愛する女性とやらを見つけたそうだ。下位貴族の娘。子爵令嬢だったか。アリリルとか言うらしく、ローゼリア嬢が殿下に声を掛けに行く度、今度は彼女とアリリルとやらを比較する。


曰く。アリリルの方が華やかだ。

曰く。アリリルの方が可憐だ。

曰く。アリリルは気が利いて優しい。

曰く。アリリルと居ると楽しい。

曰く。アリリルが居るのに、お前はたかが婚約者候補で何故、近寄ってくる。不愉快だ。


……まさか、陛下と妃殿下が、ローゼリア嬢をきちんとした婚約者だと言っているのに、未だ婚約者候補だと勘違いしているとは思わなかった。

どれだけ頭が悪いんだ、この王子。

そして、俺の目から見て、彼女とアリリルとやらだったら、彼女の方が数倍上なのだが、見た目にしか気付いてない王子では、彼女の魅力に気づかないようだ。


それにしても、このアリリルとやらは、なんだか嫌な予感がする。

何というか、王子を持ち上げて媚を売る姿は、傾国になりそうだ、というか。確実に金遣いの荒そうな娘だ。王子が国庫を使い込まなければ良いのだが。


その俺の予想は、大体当たる事になる。


ある日、生徒会役員でもない彼女を王子が呼び出した。(当然のように、役員でもないアリリルとやらは常に入り浸っている)

なんだか嫌な予感がした俺は、魔法を使って、部屋の中を透視する。

側近候補の宰相令息・騎士団長令息・彼女の義弟と王子・アリリルとやらが居た。


そして、彼女に婚約者候補を解消する。

と、アホな宣言をした。候補じゃなく正式な婚約者だ、と言っているのに。


彼女は何と言うのだろう。


この時、俺は了承しないで欲しい気持ちと、了承して欲しい気持ちがぶつかっていた。その事に若干驚いて、少しだけ魔法がブレる。直ぐに気持ちを切り替えると、彼女は何も言わずに了承した。


了承して、しまった。


側近候補達は止めなかった。彼女の義弟でさえ。その場に居る全員が愚かだとしか思えなかった。

殿下の監視兼護衛の先輩は、どこにいるのか。先輩だけあって、俺では気配も見つけられない。そう思っているうちに、彼女が生徒会室から出て来て、俺に頭を下げた。


もう知っているはずだ、と。

もう護衛は不要だ、と。


彼女はそう言って、1人で去って行く。馬車まで俺は付き添いたかったのに、二の足を踏んだ。彼女が泣けない、と思ったから。

しかし、先輩が現れて、俺の頭を叩いた。


「任務を果たせ」


俺は、ハッとした。そして、動揺している自分に気付いた。

任務。……それは、婚約者を辞退した彼女の事。もう既に王子妃教育で、ある程度王家の秘密を知っている。

それはつまり。


彼女にその気が無かったとしても、王家の弱点を知る彼女は、危険人物なのだ。


バシリード殿下と結婚しない、と彼女が受け入れた時点で、彼女は王家から危険人物扱いされる。

即ち、その末路は“死”だ。

彼女にその末路を与えるのが、監視兼護衛である俺の本当の役割。彼女が何か王家の不利益になった時点で、俺は彼女を手にかけるのが、本来の俺の任務。


頭では解っているのに、身体が動かない。手足が冷える。心臓も胃も五臓六腑が全て冷たい感覚がした。


「お前がやらないなら、俺がやる。お前は、初めてこの任務に着いたからな。戸惑っているのだろう。……情でも湧いたか? それは捨てとけよ」


先輩の言葉に、心臓の音がいやに強く聞こえた。情? この俺に?

分からないが、とにかく、先輩にやらせるわけにはいかない。


いや、違う。


先輩にやらせたくない。

彼女の……ローゼリア・ベルヌ公爵令嬢の死は、俺が。


強い願いが生まれる。


彼女の死は、最期は、俺が貰う。

誰にもやらない。

彼女の生が俺のモノにならないなら、彼女の幸せも希望も価値も全てが俺の手の中に入らないなら。


せめて、その最期くらい、俺が貰う。


ああ、この願いはなんて言うのだろう。なんていう思いなのだ。これが感情か。俺の感情。初めて抱いた感情は、途轍もなく黒くてドロドロとしたもの。


そうして俺は、俺の顔を見られたくなかったから、彼女の意識を奪って、その最期をもらった。やがて彼女が待っていた彼女の家の馬車が来る。御者に軽く事情を話して、彼女を抱いたまま、ベルヌ公爵家まで行く。


そして、彼女の母親に全てを明かした。


彼女に良く似た面差しの母親は、彼女の亡骸を受け取った。俺は打たれた、らしい。この辺の記憶は曖昧だ。


ただ、温かった彼女の身体が徐々に馬車の中で冷たくなって行くのを、俺は彼女の頬に自分の頬を寄せて感じていた。


俺は、ずっとこうして、彼女に触れたかった。一番近くに居たのに、触れられなかった事を悔やんでいた。

もっと前からこうして触れていたかった。

あの微笑みが網膜から消えない。この胸にこびり付いて消えない。

この激情をなんていうのか知らない。


その日の夜、俺は、初めて、彼女を想って涙を流した。泣くという感情があった事に驚いた。


だが、翌日から、俺は思い出した。俺は王家の駒である事を。

そして俺は、ベルヌ公爵家が火事で燃えた、と知る。そっと、その焼け跡を見に行った。また涙が溢れたが、それっきりだった。王家の駒である俺は、もう彼女を忘れないといけなかった。


その後、何の皮肉か、第三王子ご執心のアリリルとやらを護衛する事になったが、やはり俺の予想は当たっていた。


俺が護衛につくことで、自分が偉くなったと勘違いし、俺は王家の命を受ける者と言っているのに、バシリード殿下の婚約者だから、自分も王家だと言って、俺に命令してきた。それだけじゃない。


俺はここで初めて知ったのだが、俺の見た目は良い部類に入るらしく、この女は、バシリード殿下に知られない範囲で俺を誘って来た。好きだの、かっこいいだの、男らしいだの、そういう言葉と共に、貢いで来る。そこまでならまだ良い。無視できる。


無視出来ないのは、あからさまに身体を触り、唇を寄せて来る事だ。どういう事かくらい解るが、分かりたくなかった。その上、第三王子の婚約者として城に入ったくせに、寝室まで誘って来る。

バカか。アホか。脳みその足りない娘め。


この女なら、何とも思わず、速攻で瞬殺出来る。


そうイライラした俺に朗報がもたらされた。


本当に脳みそが足りなかったのだろう。妃殿下が、王子妃教育を放棄した。結果、第三王子とアホ女は、城から出て行った。その後などどうでもいい。

俺は、身体が動かなくなる老齢まで王家に仕え、身体が動かなくなった時点で、毒杯を賜った。俺達のような王家の駒には栄誉ある死だった。

そんなわけで、グェンの1度目の人生でした。なんとなくヤンデレ臭がするのは気のせいか。

さて、これで人生を繰り返す登場人物は出揃いました。

次話から、2度目の人生が開始します。

最初はバシリード殿下視点です。

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