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1度目の人生ーーsideバシリードーー

バシリード殿下の視点です。

バシリード殿下から見たローゼリア。

ローゼリアに婚約者候補を解消宣言した後からその生を終えるまで。


婚約者候補解消時、バシリードはローゼリアと同い年なので、17歳。


結構長いです。

俺は、この国の第三王子。生まれたのが三番目というだけで、未だ父王の跡継ぎとしては、誰も定められていないため、俺にも可能性はある。

国王教育は正直面倒臭くてやっていられないが、優秀な側近を見つければ、俺が勉強をしなくても良いのではないのか? と気付いたのは、学園に入ってからの事だった。


宰相令息と騎士団長令息の2人を側近にしてしまえば良い。という事に。


その思い付きは素晴らしい、と我ながら思った。そして、俺は2人を側近候補にして様子を見る。

その間に俺は愛する女性にも出会った。子爵令嬢という身分が低い令嬢だが、常に表情が変わって愛くるしい。

俺の婚約者候補として、我が者顔で俺の側に居ようとする地味なあの女より、遥かに王子妃に向いている。


これだけ可愛らしく表情豊かなら、王子妃どころか、王妃にも良いのでは無いだろうか? そうだ。母上に言って、王子妃教育を教えて頂こう。ゆくゆくは王妃教育も、してもらうのだ。


この時、俺の頭の中には、国王となった俺と王妃となった彼女が映し出されていた。

そのためには、婚約者候補の分際で、俺の側に居る平凡な顔立ちで地味なあの女を排除する必要がある、と直ぐに考えた。


「アリリル。君は俺の妻になる気はあるか?」


あの女に下がれ、と言う前に先ずはアリリルの意思を確認しなくては。


「リードが望むなら」


俺の名前は、バシリード。愛称はリード。アリリルにはその愛称を教えて呼ぶように伝えてある。


そうか。アリリルも俺の妃になりたいか。ならば、遠慮なくあの女を下げよう。そうだ。国内にあんな女が居るってだけで、気に入らん。国外追放にしてしまえ。


「ルーク。ニルヴァーノ。お前達もアリリルが俺の妃になる事は賛成だろう? いや、返事は要らん。返事など無くても賛成だ、と分かっているからな」


そういえば、ケビンニルは、あの女の義理の弟だったな。あの女が婿を取るのでは無く、嫁に行くから、と、ベルヌ公爵家の一族から連れて来られた男爵家の三男とかなんとか。


肩身の狭い思いをしている、と溢していたな。アイツも、あの女が国外追放になれば、喜ぶだろう。


「ケビンニル。お前、あの女が公爵家からも国からも追放されれば、息苦しさが無くなるんじゃないのか?」


「それはまぁ」


「よし。では、あの女を国外追放処分にしよう。明日にでも、あの女を呼び出すから、皆、証人として生徒会室で待つように」


それだけ言うと、アリリルを連れて、俺は学園の中庭で散策する事にした。


あの女と初めて会ったのは、5歳だったか。なんだか婚約者とか何とか言われたが、初めて会って、その顔立ちの平凡さに失笑した。自慢じゃないが、見目麗しい父王と母妃の息子である俺だって、幼少の頃から美少年だった。

その俺の隣に、あの女が立つなんて、笑い話でしか無いだろう。

だから俺は、婚約者なんて嘘だ、と思っている。どうせ、あの女の家が無理やり婚約者として、王家と縁を持ちたい、と思っているのだろう。


それでも、身分としては国の最高位である公爵家。確かに候補になってもおかしくない。仕方ない。候補としては認めてやろう。


だが、月に一度の茶会で会う度に、仮面を付けたような微笑みが気に障る。話題も勉強しか無いなんてつまらない。どこまで勉強しているか、なんて、俺に対する嫌がらせだったとしか思えない。


おまけに、装いも公爵家という身分の割に地味だ。俺の好みを聞いてくるのも苛々する。俺の好みは、お前とは正反対だ、と言えば、困ったような微笑みしか浮かべない。

益々苛立つ。


せめて、華やかな色のドレスでも着ろ、と言ったことが有った。その次の時は精一杯だったのか、黄色いドレスだったが、これが笑える程似合わない。

この時ばかりは、盛大に笑ってやった。今思えば、あの時くらいだろうか、あの女と一緒で笑い声を上げたのは。


まぁいい。


今は、愛するアリリルが居るのだから。これからは、アリリルと笑い声溢れる家庭を築いていく。


そうして俺は、あの女……ローゼリアに国外追放処分を突き付けた。


最後まで微笑みを浮かべたままで、あの女は悔しそうな表情も見せなかった。あの女は俺が好きでは無かったのか?

とにかく、これでアリリルを婚約者にして、これからの俺の将来は安泰だ、と思った。


「殿下」


溜め息をついて、ルークが話し出す。


「なんだ? 溜め息など失礼じゃないか」


機嫌が良いから許すけどな。


「殿下、私は、あくまでも側近候補、でしたから口出しを避けましたが、今日程、後悔した事は有りません。ローゼリア・ベルヌ公爵令嬢は、殿下のれっきとした婚約者でございます」


「はぁ? あの女は候補、だぞ?」


「それは殿下が勝手に思っているだけで、皆、知っておりました。私が側近だったなら、間違いなく止めましたよ。候補である立場が、これほどまでに悔やまれる事になろうとは……」


「なんだ、側近になりたいのか。じゃあ側近にしてやろう」


「ご遠慮申し上げます。淑女教育も教養もマナーも完璧な上に、王子妃教育も根を上げずに頑張っていらしたローゼリア嬢に、あのような事を言うお方の側近など務める気は有りません」


「なっ……。無礼な! たかが宰相令息如きが」


「その宰相令息如きに、学園の勉強に負け、騎士団長令息に、運動も負け、更にマナー講義でもケビンニル公爵令息に負けているあなた様は、王子で無かったら、誰にも見向きされない、と分かっていらっしゃるのですか」


無礼極まりないルークに、ふざけるな! と怒鳴る。ニルヴァーノとケビンニルを見れば、2人は沈黙している。


「ニルヴァーノ、お前は側近に格上げしてやる」


「同じく遠慮致します。私めも、ローゼリア嬢がどれだけ努力をしているのか理解しておりますから。側近であったなら止めましたが、候補だった事で止められなかった事は悔やまれます。ですが、寧ろ、あなた様のような愚かな方の側近で無くて良かった、と心から思います」


「なっ……。貴様も無礼だ! 2人とも側近候補をクビだ!」


俺は更に苛々しながらケビンニルを見た。コイツは俺に感謝しているだろう。


「お前は、俺に感謝しているよな?」


「感謝というか。元々、義姉上とはそんなに関わっていないですし、居ても居なくても変わり映えしないですからね。それより、ルーク会長とニルヴァーノ会計が居なくなったら、生徒会の運営が大変なので、お2人を引き留めたい、と思っています」


コイツも失礼だ。感謝くらいするべきだろう。


「ならば、俺が副会長を辞める。良いのか? 俺が辞めるぞ?」


引き留めろ、とケビンニルを見れば、ケビンニルは「分かりました。お引き留めしませんので」とか言ってきた。

どいつもこいつも信じられん。俺が居なくなって、苦労するべきだ。


とりあえず、今日の事を父王と母妃に報告しなくてはならない。アリリルを連れて城へ帰る事にした。


生徒会の方は、俺が居なくなって苦労したアイツらが頭を下げて来るまで放っておこう。


そんな風に考えていた俺は、だから、この後の両親の怒りを知らない。


「父上。母上。報告したい事があります」


父上の執務室に母上もちょうど良く居たので、アリリルと共に入室する。


「なんですか、いきなり。……バシリード。その娘は?」


「母上。俺の婚約者のアリリルです。彼女に王子妃教育をお願いします」


「なんだと⁉︎」


母上が眉間に皺を寄せて尋ねるので、俺がそう返事をしたら、父上が身体を震わせた。


「父上?」


「お前、今、なんと言った?」


「アリリルを婚約者として、王子妃教育を、と」


「ローゼリア嬢はどうした」


「あの女は、婚約者候補でしょう? 俺の視界に入るのも嫌なので、国外追放処分にしました」


「なんて愚かな事を! ローゼリア嬢は、あなたの正式な婚約者だ、と何度も言ったでしょう!」


俺の返事に、今度は母上が声を荒げる。


「えっ? 本当だったんですか? てっきり冗談だと……」


「愚かな! あの娘は、あなたの婚約者で、王子妃教育を受けている娘ですよ!」


そうだとしても、もう意味は無い。国外追放処分にしてしまったし、あの女も反論せずに受け入れたし。

俺の返事に、両親は揃って溜め息をついて、とりあえず、俺達に一度下がるように言った。


仕方なく、アリリルと執務室から出ようとしたところで、室内が光った。

父上の方を振り返ると、手紙を受け取っていた。急ぎの報告があると使われる魔法を、俺は初めて見た。父上が目を通すと、母上にもその手紙を見せて、2人共、深く深く溜め息をついていた。


一体、どんな報告だったのだろう。


「あなた……」


「致し方有るまい。が、惜しい。せめて抵抗くらいしてくれれば、あの若さで」


「ええ……。確かに教育をしていたとはいえ、あれ程優秀な娘をなくすのは」


俺が聞こえたのはそこまでだった。アリリルが早く退室しよう、と急かして来たからだ。


だがあの言い方だと、あの女について、らしい。

まさかあの女、国外追放処分が気に入らなくて、文句を言っているのか? 浅ましい女だな。


そう考えていた俺は、翌日、学園に登校して、その考えが間違いだと知った。急な朝礼との事で、学園長が全生徒を集めて話したのは……。


「急な事ですが、ローゼリア・ベルヌさんが亡くなりました。悲しい事ですが、死因は分かりません。おそらく何かの病だったのでしょう。皆で悼みましょう」


……なっ。


声を上げなかっただけ、上出来だったかもしれない。


あの女が死んだ? バカな。何故? 俺に振られて自死か?


そこまで考えて、ふと昨日の両親の会話を思い出した。両親は、急ぎの報告で、あの女の死を知った。

その報告は、一体、誰が、寄越したのだろう。


なんだか嫌な予感がしたが、俺は気のせいだと思う事にした。

そして俺は、更に知らなかった事を知っていく。


それは、周りの令息・令嬢達の反応だった。


曰く。俺の婚約者として完璧な淑女だった。

曰く。優しい人だった。

曰く。俺の婚約者に相応しい人だった。

曰く。勉強を分かりやすく教えてくれた。

曰く。令嬢達の憧れだった……。


周囲は、あの女を「バシリード殿下の婚約者」として認めていたのだ。俺の婚約者として、あの女が認められていた? 知らなかったのは、俺だけ? そんなバカな。


あんな愛想笑いしか出来ない、何を考えているのか分からない女だぞ?


そう思っていた俺は、それから少しして、母上から呼び出された。


「バシリードが選んだ、あの娘。仕方ないから王子妃教育を受けさせますが、それまでに上位貴族の教育を完璧にするように伝えておきなさいね。

子爵令嬢では、身分も有るけれど、教育にも差があるのよ」


「母上が直々に教えてくれるのでは?」


「王子妃教育は、そうしても良いけれど、上位貴族の教育が出来ていて当たり前なの。そこから教える気は無いわよ。第一王子の婚約者も第二王子の婚約者も、公爵家の娘なのだから、当然、上位貴族の教育は終わっているの」


母上がそう言うので、俺は仕方なくアリリルに話した。アリリルに最高の家庭教師を、と俺の家庭教師に相談すれば、俺の家庭教師は、嫌そうな表情ながら、教えてくれた。


そうしてアリリルが勉強を始めたので、俺もアリリルのために勉強を再び始めたのだが。直ぐに、俺の判断が間違っていた事を知った。


「リード。あの家庭教師酷いのよ! ローゼリア様や他の公爵家の令嬢達を教育して来た。って自慢して、私を馬鹿にするの!」


「そんな奴、クビにしてやる!」


俺の家庭教師に文句を言えば、どの王子の婚約者達もその家庭教師に教わったのだ、と逆に責められた。それならば仕方ない。確かに最高の家庭教師なのだ。


俺は、アリリルを宥める事にした。

だが、アリリルは「こんな勉強嫌よ! 厳しいわ!」と泣き叫ぶ。俺と結婚するためだ、と宥めて納得しても、直ぐに癇癪を起こす。


あまり厳しくしないように、と、アリリルの家庭教師に言えば、冷たい視線を投げられた。


「上位貴族のご令嬢は、もっと幼い頃からこのような教育を受けておられます」


つまり、あの女……ローゼリアは、もっと幼い頃から、アリリルが泣き叫ぶ教育を受けて来たのだ、と今更ながらに知った。


「大体、本当に下位とはいえ貴族令嬢ですか? あんな感情を表沙汰にするなど、淑女に有るまじき事ですが。

あれでは、夫となった相手に不利益だ、という事も分からないのですかね」


更には、家庭教師にこんな嫌みを言われる。俺はそこで更に淑女教育というものを知った。いや、紳士教育も王子教育も変わらないのだが、要するに感情を抑えて、常に優雅な態度で、自分の立場の利益になるような言動を心がけて、状況を読むのが、本来の貴族教育なのだ、という。


だから、あの女は、ローゼリアは、完璧な淑女だった、と、俺はようやく周囲の評価を理解した。


だがもう遅い。

全ては遅過ぎた。

やがて、アリリルは、教育をまともに受けられずに、癇癪持ちの娘として、見切られた。

俺は、責任を持つために、王籍から抜かれて、子爵家へ婿入りする。

そして、アリリルの言う事を聞くだけになって、嫌気が差して、自死を選んだ。


一体、俺はどこで間違えたのだろう。

長くてすみません。

1話ずつ、違う視点を入れようとしていたので、1話が長くなる……。

バシリード殿下も人生を繰り返します。


彼、繰り返さなくて良い気がする……。


2回目の彼は、どんな人生を送るのでしょう。


次話は、ローゼリアの母・ネジェリアです。もちろん、ネジェリアお母さんも人生を繰り返します。

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