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3度目の人生ーーsideグェンーー

そんなわけで、なんとか本日に間に合いました。グェンの話。グェンはヤンデレ気質のある子ですが、根はまともです。

義母を見送った瞬間、何故か俺は別の室内で突っ立っていた。目を瞬かせ周囲を見る。どうやら王城の自室らしい。……もしかしなくても3度目、か。しかもこの室内なら、俺は既に王家の駒として働き始めている可能性がある。さて、今のこの状況はどういったものなのか。


「グェン」


「先輩」


俺の指導係である先輩が、深刻な表情を見せる。殆ど表情に乏しい先輩が、表情を見せるという事は余程のことか。


「ちょっといいか」


「なんでしょう」


「お前の初仕事が無くなるかもしれない」


「……どう、いう、ことですか?」


「ああ、お前の腕の問題じゃない。お前の初仕事である、バシリード殿下の気に入りの子爵令嬢の護衛な? あれ、とうの殿下本人が、急に子爵令嬢を婚約解消にしたい、と国王陛下と王妃殿下に訴えた」


初仕事がどちらなのか見当がつかず、俺は戸惑ってしまう。先輩の話に、2度目の方か、と納得したが、続く説明に動揺しないでいるのが精一杯だった。

どういうことだ。

どういう風の吹き回しだ。

お前は、ローゼリアという心根優しく、淑女としても優秀で、地位も高い清楚な令嬢を袖にして、あのバカ女を取ったアホだろう。

2度目に至っては、最初からバカ女を選んだのに、今更、どういう事だ。


「あのご令嬢が気に入らなくなった、と?」


「さぁな。そこは俺たちが知らなくても良いことだ。ただ、王妃殿下は、やっと目が覚めた! と喜んでな。やっとって言ってもまだ12歳の王子なんだから、子どもなのにな」


バシリード殿下が12歳。ならば、ローゼリアも12歳。俺は17歳か。


「では、俺は暫く何をしていれば?」


「好きにして構わないぞ。実家に行っても構わないし」


「今更、ですか」


「まぁそうだな。婚約解消が成立したら、側妃として入る予定のご令嬢を繰り上げるつもりで居るらしいから、それまではのんびりしてろよ」


側妃として入る予定……それは、間違いなくローゼリアだ。側妃が決定していたのか! ……正妃になるなら幸せか? いや、1度目の人生は婚約者だったのに、あんなに不幸だったじゃないか。もう、不幸にしたくない。2度も若くして、そして俺の前で逝ってしまった彼女。3度目は、俺の前じゃなくていいから、皺が出来たお婆さんになるまで生きて、そして逝ってほしい。


そう思ってしまったら、居ても立ってもいられず。

俺はベルヌ公爵家を訪ねてしまった。1度目の人生の記憶があった2度目の彼女。だが、今は? また記憶があるだろうか。それとも無いだろうか。

勢いで来てしまったものの、現状何の関わりもない俺は、右往左往して結局来た道を引き返そうとした。


「グェン兄? 何してんの」


その声は、まだ幼い。けれど2度目の人生で、血の繋がった兄より長く共にいた義弟のものーー。

振り返れば、呆れた表情のケビンニルがそこにいた。俺をグェン兄と呼ぶ。2度目の人生で、彼がつけた呼び方。


「ケビン」


「入りなよ。ローゼを訪ねて来たんでしょ」


「分かるのか?」


「グェン兄もローゼの事が好きなんでしょ」


そこまで見抜かれる程、俺は分かりやすいのか?


「僕もローゼを好きだし。グェン兄とはライバルだね」


「……成る程。1度目は、あんなに素っ気ない態度だったくせに」


「うっわ。相変わらず容赦無く人の弱いところを突いてくるグェン兄。やなヤツ。ローゼ、こんな男のどこが好きなんだろ。僕の方が良い男なのになー」


「……ローゼが俺の事を話したのか?」


「その事も含めて、グェン兄に話があってさ。魔法が使えるグェン兄が教えてくれたじゃん。グェン兄を遠くからでも呼ぶ方法。アレを試してみるかなぁって外に出たら、門の前でウロウロしてる意気地なしが見えたからさ」


意気地なし。

そんな事を言うのは、世界広しと言えど、ケビンくらいだ。

だがまぁ義弟だし。聞き流してやろう。


「グェン。僕はローゼリアを妻にしたい。でも、それ以上にローゼの幸せを願ってる。アンタは?」


「俺もだ。1人の女性として恋しく思う。でもそれ以上に、人生をかけて幸せを見届けたい」


「じゃあさ。協力して欲しいんだ」


「協力?」


「まぁ、ちょっと義母上と義父上とローゼリアに会って話し合おうよ」


にやっと笑う義弟は、隣国で暮らしていた頃に時々見た。こういう時のケビンは、自分だけが知っている事に優越を感じているのだ。……まぁ直ぐに知っている事を教えてくれるから、毎回黙って付き合ってやっていた。

さて。今回はどんな事を教えてくれるのだろうか。8歳で家族と物理的にも精神的にも離れた俺に、家族を教えてくれた義弟に促されて俺はベルヌ公爵家に入った。


最後に見た時よりも若い義父母。そして、まだ幼さが残る少女のローゼリア。


「ローゼリア、様」


「グェン様……。お久しぶりにございます」


「ああ。本当に。ローゼリア様。1度目の人生であなたをこの手にかけた事、後悔してます」


「いいえ。私は、いつも私を気遣ってくれたグェン様をお慕いしておりましたから。あなたに殺されたのは、本望でございました」


俺は漸く1度目の事を謝れた。……俺が楽になりたかったのも有るけれど。彼女が受け入れてくれなくても、言いたかった。それなのに、本望だ、なんて言われる程、思われていた事を知って、俺の心は歓喜に満ちている。


「ハイハイ。ちょっとそこ。2人の世界作らないで。大体ローゼ、妻にしたい、と告白した僕の前でそれって酷くない?」


「ご、ごめんなさい」


ケビンが嫉妬を剥き出しにする。それを見たローゼが顔を真っ赤にした。


「お前、ローゼリアに何をした?」


「意識させるためにちょっと」


スイっと視線を逸らす時は、話す気が無い証拠。ちょっとがちょっとじゃないのは、なんとなく分かった。問い詰めたいが、義父上が咳払いをしたので、やめた。


「グェン。さっきぶりね」


「はい。義母上」


「旦那様には、今までの事を全て話してあるので、あなたにも話すわね」


義母上は、甘い菓子のような柔らかな外見とは裏腹に、割と男らしいさっぱりとした気性で、そして時間は有限だ、と思っている人。だから、サクサクと話を進めていく。そして、さすがに義母上が異世界で生まれ育った前世持ちというのは、驚いたが納得もした。

……いやだって、対外的には淑女なんだけど、身内には、どちらかと言えば淑女の仮面を脱ぎ捨てた感満載の、ちょっと大雑把で豪快な性格だったから。


そんな義母上の話が終わり、ローゼリアとケビンニルの話も聞く。特にケビンは、1度目の人生について、知られたくないだろう事も話してくれた。

それもこれも、ただ只管にローゼリアがお婆さんになるまで歳を取れるように。

だったら、俺も全てを話そう。

ローゼリアに俺が出来る事だから。


誘拐された事も、人をこの手にかけた事も。全てを偽りなく話す。全てを聞いて、ローゼリアや義父母やケビンが俺を嫌っても、俺はこの人達の幸せを願う。


「よく、話してくれたわ。グェン。辛かったでしょう」


義母上は、ゆったりと笑った。それにつられるように、俺も少し顔を緩ませた。

この繰り返す人生に終止符を打ち、ローゼリアが長生き出来るように。俺は俺の全てを差し出そう。


「グェンの話を聞いて、仮説が出来たわ。ただ、それが正解なのか分からないけれど」


義母上が少しだけ、困ったように微笑み、それ以上は語らなかった。だが、希望が有るのは良い。繰り返しの人生を送らなくて良いのなら、それに越した事はない。

なんとか本日更新分、間に合いました。明日はバシリード。最後がローゼリアの予定です。最後までよろしくお願いします。

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