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2度目の人生ーーsideケビンニルーー

2回目、最後はケビンニルです。1回目に死んだ直後からの話です。

僕は、ヒステリックな妻の折檻が元で死んだ。……はず、だった。しかし、今は目を開けている。という事は死んでないのだ。ようやく、一番大切な女性に会いにいける、と思っていたのに。またヒステリックな妻の言う事を聞く1日が始まるのか。僕との婚姻を望んでいたのは他にもいたのに、この家に決まったのは、一番金持ちだったから、だものな。僕自身は、実の父だというのに、どうでも良かったのかもしれない。


「おはようございます、ケビンニル坊っちゃま」


項垂れていた僕のところへ、誰かがやって来た。……坊っちゃま? は? 僕は子どもじゃ無いぞ。

そう声を上げようとして、その人物の顔を見た。ボートル男爵家の執事だ。同時に記憶が蘇る。……僕、ケビンニル・ボートルだ。まだベルヌ公爵家に引き取られていないケビンニルだ。今、僕は6歳になったところ。もうすぐベルヌ公爵家に引き取られるはず。


……そうか。もうすぐベルヌ公爵家に引き取られるのか。だったら今度こそ、義家族と本当の家族になろう。ローゼがあのバカ王子に酷い目に遭わされたら、僕が守ろう。


そう決意したのに、また思い出した。

あのバカ王子がアリリルを学友としている、という事実に。信じられない事だが、僕は2回目の僕の人生を始めている。けれど、僕だけじゃないらしい。あのバカ王子は絶対に1回目の記憶がある。

しかし、バカ王子に記憶があるとするなら……いや、あるから、アリリルを探し当てたわけだけど……あれ程ローゼを嫌っていたヤツとの婚約は無いだろう。実際、アリリルと既に会っているわけだし。そうなると、僕はベルヌ公爵家に行かないのか。とすると、またヒステリックな妻のような女性と結婚する?


その予想にゾッとする。


こうしてはいられない。僕は、ボートル男爵……父にとって価値ある存在にならなくてはいけない。どうせどこかに婿入りするなら、せめてまともな女性が良い。そのためには、貴族教育をきちんと修め、どこに出しても良いような男にならなくては。


1回目の時は、元公爵令息の肩書きも有効だったが、今はその肩書きが無い。だからケビンニル・ボートルとして、精一杯やらなくてはいけない。

そのせいだろうか。僕はボートル家の家族について観察していたが、母はあまり息子たちに興味は無く、会話が最低限。それは父も同じで長男も次男も僕も、教育過程を確認されるだけ。そもそも夫婦仲が悪くはないが良くもない。典型的な政略結婚の夫婦だ。

兄2人も、長男は跡取りとして勉強に励んでいるし、次男は男爵家を支えるように勉強をしているから、僕に見向きもしない。共に遊んだ記憶は数える程度だ。せめて、仲良くはしたい、と思うが、2人ともこちらを見ない。ベルヌ公爵家の皆とは全く違う、温かみのない一家。これが実の家族、とため息をついた。


僕が9歳になった頃、やはりあのバカ王子はアリリルを婚約者にした。


あの性格で、正直頭も良いとは言えない、あのアリリルを婚約者。……もし、変わっていないなら王家は親バカも良いところだと思うのだが。

そんな僕は貴族教育の基本が終わり、これからは領地経営を中心に学ぶ事になった。婿入りという事は、行く行くは領主として領地と領民を治めるのだから当然だ。

この頃、下位貴族の子ども達の交流会も始まった。婚約者探しのようなものだ。その時、1回目の時に結婚した妻とも会った。小さな頃から既に我儘で片鱗が見える。彼女の最初の婚約者は……ああ、隣で顔色を悪くしている奴か。

既に嫌そうにしているのが分かる。男女に分かれて交流しなくてはいけないのに、あの我儘さで、婚約者の方は男の友人を作る事も出来ないようだ。この交流会、主催は伯爵家だ。下位貴族の中にいくつかの伯爵家が含まれるが、その伯爵家の1番勢いがある伯爵家。僕はその使用人に声をかけた。


「あの2人はそれぞれ男女に分かれて交流をした方がいい、というのに、なかなかそうはいかないみたいですね。婚約者同士なのか、幼馴染みなのか。仲良しなのは良い事ですが、このままではせっかくの伯爵様の好意が無駄になってしまいます。僕は彼の方に声をかけてみますので、彼女の方を女の子達のところへ連れて行ってもらっても構いませんか?」


使用人も伯爵の顔に泥を塗るわけにもいかないのだろう。困惑しつつも、頷いて、彼女に上手く声をかけたようだった。婚約者の方は明らかにホッとした表情を見せる。僕は少ししてから彼に声をかけた。

会話を交わすと、相当なストレスだったのか、これでもか、という程文句が止まない。僕が頷きながら話を聞くと、ようやくスッキリした表情になった。


「そこまで酷いのに、ご両親はどうしているんだい?」


1回目の人生であの妻と結婚してから、義父母と話していて気づいたが、物凄く甘い。叱らないのだ。全て肯定している。あれでは我儘に育つのが当然だ。僕の疑問に、目の前の男の子は大きくため息をついて、娘を甘やかしている、と言った。


「じゃあ、良い機会だ。ちょっと懲らしめてやらないか?」


どういうことだ、と問われたから僕は考えを言ってみた。


「子どもだけとはいえ、これだけの人の目がある。その中で君が彼女に逆らったら? 彼女は君を打つだろうね。ここは伯爵家。使用人も伯爵家の使用人。きっと伯爵の耳に入るだろう」


そうしたら、伯爵から子爵へ叱責が飛ぶかもしれない。となれば、子爵も甘やかしてばかりではいられないだろう?

僕の提案に、目の前の男は目を輝かせて受け入れた。さてその後は、僕の目論見通りになり、大勢の目の前で打たれた状況が伯爵の耳に入り、その場に居合わせた子ども達から、それぞれの親の耳に入り。


僕の元妻は、甘やかしていたツケを払うように、父親から厳しく再教育を受ける事になった。という内容の手紙を、元妻の婚約者からもらった。今後は様子を見て、もしかしたら婚約解消になるかもしれない、との内容だ。彼との交流はその後も続いた。


それから少しして。僕はベルヌ公爵家へ養子として招かれた。という事は、ローゼが嫁に出るという事。嫌な予感を打ち消したくて、誰と婚約したのか聞けば、嫌な予感通り、王家からの意向で第三王子・バシリードだという。それも、正妃がアリリルで、義姉さんは側妃。扱いが酷い。

義姉さん……ローゼ、あなたはそれで幸せになれるんですか?

こう言ってはなんだが、義姉さんさえその気になれば、義父母は絶対に王家へ義姉さんを渡さないはず。それは何より、義姉さんが分かっているはずなのに。それでもあなたは、それを望まないんだね。


せめて短い間でも、前回の分も込めて義姉さんを大切にした。義父母も大切にしたけれど、何よりもローゼを最優先した。聡いローゼは、僕の本当の気持ちに気づいただろう。それでも、僕が何も言わないから、義姉さんも何も言わなかった。


学園生活も義姉さんをフォローして常に側にいた。そして確信した。あのバカ王子は、記憶がある奴だ。義母と義姉さんもおそらく、そうだろうとは思っていたが、上手く隠している。だが、バカ王子は、本当にバカだから隠す事すら出来ていない。僕が義姉さんを大切にしている事に首を捻っている。


そんな日々もあっという間に過ぎてしまった。バカ王子とバカ子爵令嬢が派手な結婚式を挙行した。

平民の間には、バシリードとアリリルが互いの初恋を叶えて結婚した。なんて、都合の良い綺麗な話が広がっているようだが、貴族の……それもバシリード達と同じ時に学園に通っていた令息・令嬢達は、その裏にある1人の公爵令嬢の犠牲を知っていた。

本来なら、側妃ではなく、正妃として第三王子の隣に立つに相応しい身分。顔立ちは確かに平凡だが、手入れを欠かさない美しい肌や髪。公爵令嬢の名に恥じない教養と知識。淑女の手本のようなマナーと気品ある動作。どれを取っても、ローゼリア・ベルヌは側妃に甘んじるような女性ではない事を、貴族の誰もが知っていた。


それに気づかないのは、アリリルの実家の子爵やその一族くらいなもの。彼らは、自分達が第三とはいえ王子の正妃に迎えられたアリリルを自慢しているが、それがどれだけ不快だと周りに思われているか、知らないらしい。やがてローゼは、結婚式すら挙行されず、ひっそりと第三王子の側妃として嫁入りした。

アリリルが癇癪持ちだから、と、国王陛下も王妃殿下も、結婚式はやらない事を了承しているが、それがどれだけ他の貴族達から反発を食っているのか分かっていないのかもしれない。


ローゼリア・ベルヌ公爵令嬢は、王家に飼い殺されるのだ。


密かにこの噂が流れた時は、義父母からあなたが何かしたのか、と問われたが、さすがにそれは僕じゃない。こんな噂がベルヌ公爵家とは関わりないところから流れる時点で、貴族達が王家に対して不審感を抱いているのだろう。

最もその懸念は分かる。公爵令嬢という貴族の中で最高位の娘が、王家からの打診とはいえ、こんなひっそりとまるで罪人のように隠れて城に入るなんて、というわけだ。公爵令嬢でその扱いなら、身分が低い者達はどうなるのだろう、と想像してもおかしくない。まぁ王家は自業自得だろう。


そう思って高みの見物をしていた僕が悪かったのか。


ローゼが側妃として城に上がってから、僅か1年半。


ローゼが死んだ、と城から連絡が来た。


は?

何を言っている?


混乱する頭で、城へ向かう。そこには沈痛な面持ちの国王と王妃。なんだか腑抜けた顔のバカ王子がいた。

どういう事だ、と問い詰めれば、あのバカ子爵令嬢がバカ王子を刺そうとしたらしい。ローゼは、バカ王子を助けようと代わりに刺された、とのことだった。そしてそのまま意識が戻らずに死んだ、という。


有り得ない。

有り得ない。

有り得ない。


今回だって、このバカ王子はローゼを散々馬鹿にして侮辱して貶めたのだ。それなのに、ローゼは、こいつを助けた上に代わりに死んだというのか。

ローゼは、こんなことのために生きていたわけじゃない。

こんな風に呆気なく逝ってしまっていいわけじゃない。僕の胸内で渦巻く怒りは、義父母も同じだったのだろう。

公爵位の返上及び国外追放を願い出ていた。僕もそれに反対しない。義父母は、僕に男爵家に帰れ、と言ったが、僕は今度は拒否した。ローゼに頼まれたのだ。義父母の事を。


国王は疲れた表情で、ベルヌ家の公爵位返上と国外追放を申し渡した。バカ王子の処分も伝えて来たが、どうでもいい。バカ王子が何か言い出そうとしていたから、早くローゼの元に行く事にした。あのバカの話など聞きたくもない。そこで僕はローゼの亡骸を慈しむグェン様を見た。最期までローゼを助けようとしていたそうだ。


第三王子側妃・ローゼリアとして、王家が葬儀を執り行った。それはそうだろう。結婚式こそ行っていないが、王妃がローゼに公務や外交など様々に押し付けたのだから。国内外にローゼは認知されていた。それを素知らぬフリではいられまい。隣国から使者が代理として葬儀に出席したり、国内の貴族達が軒並み出席したり。


そんな中で、厳かにローゼの葬儀が行われていく。バシリードも一応出席しているが、どう控えめに見ても、ローゼの死を悼んでいるように見えない。おそらく、ローゼを死なせた咎で捕らえられているアリリルのことが、気にかかるのだろう。

だが、今、この場くらいは、例え嘘偽りであっても、ローゼの死を悼むべきだった。大勢の者が見ているのだから。


結局、繕うことも出来ず、バシリードは呆けたまま。

そして、貴族達はそんなバシリードと正妃というお飾りの女もろくに御せなかった王家に不満を抱いていた。僕達が国外へ出たら、どうなるのか。まぁどうでもいい。


僕とグェンは、ローゼに好意的だった隣国に身を寄せる義父母の息子として、兄弟として、新たに生きていく。義姉さん。ローゼリア。あなたは、こんな僕の優しい姉になってくれてありがとう。もっとあなたと一緒にいたかったことだけ悔やんでしまうよ。義父さんと義母さんの事は、僕とグェン義兄さんに任せて欲しい。

ケビンニルは、少し大人になった……かな。


そんなわけで、5人の2回目の人生が終わりました。明日からは最後の繰り返しの人生です。トップバッターはまだ分かりません。書いていないので。頑張って書きたいと思います。

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