帰化
ふと、昔書いていた小説を見つけた。
あの頃は楽しかったなー、とつくづく思う。何も知らずに生きていた。常識もなくそれ故友達も少なかったが、今よりはいくらか幸せだったと思う。昔は幼いながらもなかなか秀逸で退屈しないネタを書けていた。文章力は今の方がマシだろうが、もう昔のように書きたいもの自体を考えてさえいられない。思いついたって、3日もすればボツ原稿だ。
あの頃の方が本当によかったかと訊かれればわからない。昔に比べれば歌もいくらか上達したし、友人も増えた。世間を渡っていくスキルも身についただろう。そして、自分を知った。
知りすぎたんだ。
何も知らずに誰かに責任を全部押し付けて生きている方が楽だったと思う。だけど、もう今更そんなことはできない。人格形成の7割は環境依存だとか言うが、強いて言うなら運が悪かったと思い込むしかない。誰かのせいにしたら、された誰かが傷つくだけ。たとえ事実だったとしても。
だけど、私自身それを半分くらいは受け入れて生きている。自分が「肯定されることでひどい苦痛を覚える」人間であることを。いつだっけ、大会でいい所まで行った後1週間くらいは倦怠感に襲われていたし、幼い頃から美味しいものを食べるだけで憂鬱な気分になる。美味しいのに。
だけど、片手で数えるほどもいる私を大切にしてくれる人を傷つけるのはいちばん辛い。だから私はこれをひた隠しに生きている。そして、究極の自己否定だけはしない。大切な人を傷つけることになるから。
他人に厳しいのは、他人を大切にしているから。
自分に甘いのは、自分を見捨てているから。
それでも生きなきゃならないんだ、大切な人のために。たった数人と、それから他の友人たちのためにも。結構きついよこれ。自分を否定しながら生きるなんて矛盾している。それでも、しなきゃならない。だって生物だからね。
うーん、こんなことを書いていたら喉が乾いた。グレープフルーツジュースでも取りに行こう。だって、もう大会は終わっちゃったんだからね。