#4 天災の一撃
テントから出ると、俺が兵達の相手をしている間にテントから抜け出したフクロウが澄まし顔で肩に乗ってきた。
「スノウ、ちょくちょく思うけどお前って性格腐ってんな」
「あなたに言われたくはないですね」
くだらない会話をしつつも、俺はグレーテルが案内した偽拠点を出た。捜索の必要はない、どうせ俺を騙すためだけに適当に作らせたんだ。敵拠点は別の何処かにあるだろう。
ちなみにだが、グレーテルが広場に五人の兵士を引き連れてきた時点で俺は怪しいと思っていた。言った通り、ゴルディロックス兵の人間なんてのは動物達より強いという判定の精鋭しかいないんだ。つまり、あの兵士五人は俺が倒した熊五体よりも強いという事になる。8歳児が熊五体相手に一時間は歩く道を無傷で逃げ切れると思うか?否。
「そういえば、中に兵士は何人いましたか?」
「十人だな」
「それはまぁ、頑張りましたね」
「多対一は俺の専売特許だよ」
なんでこいつは一々他人事みたいな話し方なんだろうか…クソフクロウ
「今失礼なこと考えましたね?」
「滅相もございません」
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ヘンゼルは気絶しているグレーテルを抱え、自室のテーブルを叩いた。
「あぁもう、なんなんだよあいつッ!!なんで簡単に精鋭十人を倒してんだよ、何で躊躇う事なく8歳児を蹴飛ばせるんだよ!!」
常識外としか言いようのない男、ジャックに対して理不尽に怒り散らすヘンゼル。
「今度は最初から…本気で潰してやる」
彼の瞳が、殺意で染まった。
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「右に六匹、左に二匹です!」
「了解ッ!」
スノウが偵察結果を報告したと同時に、俺は駆け出す。まずは手薄な左側から。先日の熊とは違い、小柄でありながら筋肉質な熊は俺の姿を見た瞬間高速な殴りを繰り出す。右斧の刃で拳を受け止め、左斧でカウンター。勢いよく振りかざした左斧は一匹目の熊を仕留めるだけではなく、地面へと直撃し二匹目の熊に向かって土埃を発生させる。唐突に視界が霞んで戸惑った熊に慈悲なき右斧を振りかざす。
だが、左側の二匹を相手している間に騒ぎを察知した右側の熊六匹は、俺を完全に包囲した。
ジリジリと包囲網を狭めていく熊達。楽しい展開につい、笑みがこぼれる。そして敵が自分の間合いに入った瞬間ーー左斧を、投擲した。驚くべき速度で一匹を屠ったその斧に戸惑い、陣形が乱れる熊達を見逃すほど俺は優しくない。残った右斧で一番陣形が乱れた箇所だけを狙って一匹ずつ熊を倒していくうちに、最後の一匹となった。満身創痍の状態で自陣へと帰ろうとするその熊に向かい、右斧を投擲。直撃し、最後の熊が絶命。
ゴルディロックス帝国の偵察部隊の壊滅、完了。
「いやぁ、今日の依頼も上出来ですよジャック」
「やっと勘が戻ってきたって感じがすんな」
投げた相棒の斧達を拾ってからその場で手入れを始める。
「ほんと、『タイタンキラー』基、最強の傭兵の名は伊達じゃないね」
鳥肌が立つ。スノウの声ではない声が唐突に、耳元で囁いたのだ。即座に振り返り、殴り飛ばそうとするがーー俺の拳は空を切った。
「…どこだ」
「さぁ」
どこからか、ナイフが投げられる。紙一重で躱し、ナイフが飛んできた方に跳躍する。だが、声の主は見つからない。
「ほら、こっちだよ」
背後から声、そして投げナイフ。一本一本に猛毒が塗られている武器をまたしても紙一重で躱す。
「…ヘンゼル、お前のワープか」
「ご名答!まぁ、わかったところでって話だけどね。さぁ、避けて避けて!」
ナイフが投げられるペースが上がる。ここは森の中、幾ら何でも場所が悪すぎる。隠れ場所なんてどこにでもあるのだ。恐らくヘンゼルはワープストーンを投げてから即座に投げた先にワープすることで、常に場所を変えながらいろんな方角からナイフを投げている。
高速で投げられる小石を掴もうとするのは不可能に近い、つまりワープをどうかするのではなく、ワープ先を制限することができれば…
「アレを使うしかない、か」
高速で投げられる猛毒のナイフを全て躱しながら、俺はため息を吐く。一旦木の陰に隠れてから、自嘲気味に言う。
「ちょこまかと動き回る男を探し出す、か…御誂え向きだな」
深く息を吸い、俺は自分の二つ名、『タイタンキラー』の真技を解放する。
「フィー」
噛みしめるように唱えると、空気が止まる。鳥が、風が、止まったのだ。
「ファイ」
少しずつ、地面が揺れ始める。
「フォー」
俺を中心に、大地が割れていく。樹木をなぎ倒し、俺の周りの全てが破壊されていく。
「ファム」
唱え終わった頃には、俺が当初いた森は消滅していた。小さな森が、地図から消えたのだ。
かつて、天空の巨人が俺を探すために使った、天災とも呼べる技だ。
周りを見渡せば、縮こまってガタガタと震えているヘンゼルがいた。
「みーつけた」
斧をヘンゼルの眼前で寸止めすると、彼はその場で泡を吹いて気絶した。
「フィーファイフォーファム」ってのはジャックと豆の木でジャックの気配を察知した巨人が、彼を怯えさせるために唱えた詩のようなものです。
「フィー、ファイ、フォー、ファム
人間の血がにおうぞ
生きていようが、死んでいようが
骨を粉にして、パンにしてやるぞ...」
という風に続きます。
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