#1 戦いの幕開け
起きてすぐ感じたのは嘔吐欲だった。明らかに昨日は飲み過ぎたみたいだ。時計を見てもすっかり昼時だ。
ふと、外が騒がしいことに気がつく。
窓を開けると、そこら中に騎士がいた。頑丈な鉄の鎧と控えめな剣、そして巨大な盾。中心には林檎を中心に様々な模様が広がっている。この国の紋章だ。
何か近くで事件でもあったのだろうか?そう考えていたが、直後にそんな生温いものではないと思い知る。純白の鎧に身を纏った、ほかの屈強な騎士たちより一回りも二回りも大きい、人の域を超えた化け物。聖騎士だ。この巨大な王国に7人しかいないとされる白鎧を着ることを許された人物がいる時点で、かなりの大事だということがわかる。
「そこの騎士さん、ここら辺で何か起こったのか?」
「…あぁ。貴様、朝の新聞を読んでいないのか?」
俺が喋った後、明らかに嫌な顔をする騎士さん。いくら息が酒臭くてもそんな明確に表さなくてもねぇ。
「あぁ、見ての通り寝坊しちまってね。んで、聖騎士様が出てくるような事態ってのはなんだ?」
「戦争だ。」
「…相手は?」
「ゴルディロックス帝国」
なるほど、聖騎士が出てくるわけだ。大陸屈指の軍事力を誇るあの国が、ついにこの白雪王国までにも手を出すとはな。
「情報サンキュー、騎士さん。頑張ってね」
玄関まで行き、朝の新聞を拾う。朝食がてらに明らかに賞味期限切れのサンドイッチを食べつつ、俺は新聞を読み始めた。
新聞の内容を要約すると、
昨晩の深夜、遠征部隊の一人が血だらけで帰って来たらしい。報告によるとゴルディロックス帝国の大軍が攻めて来ており、十数時間で王国まで辿り着くのだとか。遠征部隊はその一人をのぞいて、一瞬で始末されたらしい。
「はぁ、憂鬱だねぇ」
ぼんやりとこの先来る災難を想像すると、自然にため息が出た。
コンコンと扉を叩く音が聞こえて来る。
「断る」
「まだ何も言ってません」
「どうせ戦ってほしいとかだろ?」
「はい、そうです。あなたにも愛国心というものがーー」
「ねぇな」
言いながら、俺は扉を開けた。すると、体が丸ごと入る大きさのフードを目深かに被った人物が立っていた。俺の発言に心底イラついている様子で何か言いたそうだったが、俺が促すと彼女は素直に俺の家へと入っていった。
「仮にも一国の女王様が男の家にそんな簡単に入っちゃっていいのかよ?今ならあんなことやこんなこともできちゃうぞ?おじさん」
「あなたにそんな度胸がないことは知っています」
フードを外すと、艶のある黒髪と、雪のように白くきめ細かい肌が露になる。かつて毒林檎を食べ永遠の眠りにつき、王子様の熱いキスで目覚めたという、白雪姫…スノウ・ホワイト、その人だ。
「もう一度言います。世界有数の『二つ名』持ちのあなたにしか頼めないのです。この国のために、戦ってはくれないでしょうか?」
「無理だな」
即答。俺はもう戦わないと、決めた。
「それは…ゴルディロックス側が、『ハープ』の片割れを持っていると知ってもですか?」
スノウが告げた言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。
「…それは、本当か?」
「自我を持った、歌うハープ…その残骸を、帝国側は持っています。白雪王国の女王の名にかけて、断言しましょう。」
自分でもわかるほどの殺意が体から溢れ出す。
「…ゴルディロックスを潰せばいいんだな?」
「えぇ」
女王が微笑む。心はもう、決まっていた。
少し展開が早すぎましたかね
感想等くれると作者のモチベーションがググッと上がります!!