とある楼閣の日常
白玉楼編なのです
連投:③
ここは冥界。
死した者共が集う場所。
とは言え、邪悪な霊や悪人の魂は閻魔の裁きにより此処には来ず地獄行き、また善良な者の魂や聖人の霊も同じく閻魔の裁きを受け、天界行きとなっている。それ故、基本的に此処にいる死者は罪人でも聖人でもない者達である。
そして、其処には高地があり、長い階段と塀で囲まれた、白玉楼があった。
そこで今日も響く、半人半霊の庭師が主人を呼ぶ声。
「幽々子様ー?幽々子様ぁーー?」
彼女はあちこちの障子を開けながら主人を探しており、丁度今開けた障子の奥にこの楼閣の主人、西行寺 幽々子が、挙動不審な様子で居たのであった。
「あ、あら、妖夢。何かしら〜?」
「『何かしら』じゃありません!また調料兄さんが大皿が一枚無くなったって言ってるんです!食べましたね!?」
物凄い剣幕でまくし立てる妖夢。半霊も後ろでぐるぐると忙しなく動いている。
と、その後ろから大柄な、これまた大きな半霊を連れた、白いコック帽とコックコート、そして黒いエプロンを身につけた男がどたどたと走って来た。
「妖夢ちゃん!そんな怒らなくても構いやせんよぉ!あっしの能力で幾らでも「調料兄さん。幽々子様を甘やかさないで下さい。」あ、はい、分かりやした・・・。」
言いかけた台詞を妖夢に遮られ、縮こまりながらすごすごと引き下がる男。
また、男の名前は『調料』である様だ。
と、幽々子がこの期に及んでまだ言い逃れをしようとする。
「よ、妖夢ぅ〜何で私が食べたって「矠さーん!お料理、食べましたかぁー!?」
幽々子を遮るその言葉に、白玉楼の中庭で木の棒を振るっていた甚兵と袴を着た長身痩躯の男が動きを止め、妖夢に叫び返す。
「知らァーん!!」
この楼閣に居る者は四人。
幽々子、妖夢、調料、矠。
妖夢は今怒っている。調料は自分で料理をしている。矠は知らないと言っている。
つまり、料理を食べたのは幽々子以外にあり得ない。
妖夢はにこりと微笑み、また幽々子は恐れ慄く。
「だ、そうですよ?幽々子様?」
妖夢の優しげな、しかし半端では無い圧力を内包した笑みに、遂に幽々子は屈した。
「し、仕方ないじゃない!調料の料理は美味しいんだもの!お腹も空いたし!」
「開き直らないで下さい!」
益々怒る妖夢。その怒りの炎に調料が、余計な油を指す。
「おや、そうだったんですかい?幽々子さん。お腹が空いたならあっしに言ってくれりゃ、幾らでもいつも通り作りやすってぇのに。」
「い つ も 通 り ?」
「「あ」」
『ギ、ギギギ・・・』と言う擬音すら鳴りそうな不自然な動きで調料の方を振り返る妖夢。
そして調料と幽々子はしまった、とばかりに、声を漏らす。
「まだ幽々子様にご飯をあげてたんですか調料兄さん!?」
「面目次第もありやせん・・・あっし、ひもじそうな人にゃ弱くて・・・。」
「『ひもじそうな人』じゃなくて『女の人』に弱いだけでしょう!?」
コック帽をとって項垂れる調料に、妖夢は容赦無く判決を下す。
ついでに幽々子にも。
「調料兄さんは3日間厨房立ち入り禁止です!!幽々子様は今日の晩ご飯は抜きです!!!」
その大声は、離れた位置の矠すら、顔を顰める程。
「「そ、そんなぁ・・・。」」
幽々子と調料は、同時に肩を落とした。
暫くして、矠が中庭から縁側へ近づいて来ると、妖夢がおずおずと三つのお握りを差し出す。
「ぁ、矠さん、どうぞ。」
「おォ、有難く頂戴しよう。」
矠は妖夢にニコリと笑いかけ、左手でヒョイヒョイヒョイ、と三つのお握りを掴み、口へと放り込む。
そして、それを見た幽々子が騒ぎ出す。
「もう、矠ばっかりずるいわ〜!妖夢!私もお握り「何言ってるんですか幽々子様。矠さんは修行をして動いた上で食べているんです。動かずに食べたら・・・そうですね、太りますよ?」・・・・・。」
妖夢の言葉に黙り込む幽々子。
見かねた調料は、また余計な油を指す。
「いえ、あの、幽々子さん。霊である限り食べても太りはしない筈で「調料兄さん?」・・・・・。」
妖夢は調料に向き直り、笑みを向け、調料は冷や汗を流しながら黙り込む。
そこに、妖夢の背後から矠の右手が妖夢の頭に置かれた。そしてそのまま、矠は優しげな手つきで髪を撫でつける。
「妖夢、有難う。また、頼む。」
妖夢は身を固くし、赤面しつつも言葉を返す。
「は、ひゃいっ!いえ、いえそんなっ!ど、どういたしまして!」
それに対し矠は。
「そう謙遜せず礼は受け取っておけェ!ガハハハハハハ!!」
そう、高笑いしながら風呂場へと向かっていった。
風呂は既に沸いているが、湯加減の調整をする必要がある為、それを追いかける妖夢。
幽々子はそれをジト目で眺め、調料は地面に生えていた雑草を摘み取り、能力で菜っ葉やほうれん草に変えてエプロンのポケットから取り出した皿に盛っている。
これが白玉楼の日常である。




