赤く、紅い霧
「で、御堂。此処は何処だ。」
眼前に広がる湖に、若はそう言った。
「いや、知りませんよ。若が知らないのに俺が知ってる訳ないでしょうや。何で俺に聞くんですかい。」
「いや、先に着いたお前が何か掴んでいる可能性があったからな。」
「左様ですか。」
現在位置の確認をする二人。
しかし湖のほとりに居る、という事と湖の対岸に何か赤い物が見える事しか分からない。
「ほウ?対岸ニ見知った奴が居ル様だガ、どうすべキだろウな?」
「友だちがいるの?」
「まァ、そんナ所ダ。」
と、対岸の赤い物から何か・・・赤い、いや、紅い霧が少しずつ吹き出て来る。
発生したり収まったり、何か試行錯誤している様な調子だ。
「ほウ?中々愉快ナ事が起こっテいそうダな。アイツは何をやっていルんだ?」
「紅い霧か、これは興味深い。」
紅い霧に興味を示す二人。
自然に発生するものでは無いだろう。
人為的な霧だろうか?
だとすれば、その色のメカニズムは?
絶と若がそう考えていると、後ろから突然掛かる声。
「・・・そこの方々。」
「あ?」「ヨ?」「え?」「何ダ?」
各々、疑問の声を上げる。
因みに左から若、御堂、正人、絶である。
「ジーク、と言う人はあなた方の中にいらっしゃって?」
四人が振り返れば胡散臭い雰囲気を纏うスキマ妖怪、紫がそこに居た。スキマと呼ばれる異空間から上半身のみを出し、優雅に口許を扇で隠している。
「いや、知りませんね。お役に立てず申し訳ありません。」
急に仏頂面から胡散臭い薄ら笑いになり、更に敬語になる若。
他の三人は珍しくも無い、と言った様子でそれを見ている。
「・・・貴方も私と多少同類の様ね。素のままで話して頂いても結構ですよ?」
「成る程、そう仰るのでしたら・・・御同類、か。まあ良い、まず聞きたい。此処は何処だ?」
言葉通り若は敬語と薄ら笑いをやめ、無表情で問う。
不遜な言葉遣いだが紫に気分を害した様子は無い。
「此処は幻想郷、現実に忘れ去られた、全てのものが集う場所。ここの管理人として言っておきましょう・・・幻想郷へようこそ。この地は良くも悪くも、全てを受け入れますわ。」
「成る程な、俺達の様な余所者もか?」
「ええ。・・あら、ジークさんを探さないと。失礼しますわ。」
そう言って紫がスキマに消える。
同時に一行をふわり、と紅い霧が包む。
そして、霧を吸った御堂が急に咳き込み始める。
「ゲホ、ゴホ!や、ヤバイですぜ若、この霧、多少有害かもしれやせん。どうしやしょう?ゲッホゲホゲホ!」
「・・・逃げるか霧の発生源を止めるかだが、逃げる事は叶わないだろう。故に発生源へ行く。各々、バンダナで口を覆っておけ。御堂は・・・ガスマスクを使え。行くぞ。」
「れっつごー!」
「旧友ト再開、か・・・悪く無イ。」
「シュコー・・・シュコー・・・」
そして一行は紅い館に向かった。