博麗神社到着
所変わって博麗神社。
久方ぶりの飯を、必死の形相で掻き込む巫女が一人。楽園の素敵な巫女こと、博麗 霊夢である。
また、スキマから上半身のみを出してそれを珍しく、優しい眼差しで眺める胡散臭い少女こそがこの幻想郷の創始者にして管理者、さらに妖怪の賢者の異名をも持つ、八雲 紫である。
ゴン、ドサリ。
スタッ。
其処に突然、スキマから誰かが落ちて来る。
「紫、能力持ちを二人連れて来たよ。」
「痛ってェ!」
軽快に降り立った秋山と、頭から落ちた刃である。刃は非常に痛そうにしている。
「て、天夜!?何で!?」
「もぐもぐ紫、アンタがもぐもぐそこまで取り乱すもぐもぐなんて珍しいわねもぐもぐ。そんでアンタ等もぐもぐ誰よもぐもぐ?」
食べながら話した挙句、刃を箸でつつく霊夢。行儀が悪い。
つつかれた刃はと言うと、
「痛ェなオイ!・・・あ?巫女?」
初めて現実で見る巫女に目が点になっている。
「巫女で悪い?もぐもぐ。」
「い、いや・・・。」
刃が困っているのを気にもせず、天夜は紫に話しかける。
「紫、この子の能力は『抜き出す程度の能力』応用によっては霊夢みたいに使えるかもね。」
「ええっと天夜、『二人』のもう一人は?」
「オイ秋山。ジークはどこだ?」
「え?・・・あっ。」
二人に同義の質問をされ、天夜は周りを見渡すが、ジークは見当たらない。
キョロキョロと周りを見渡した天夜は、肩をすくめて言った。
「・・・何処かに落としたかな?」
「オイ。」
悪びれもせずそう言う天夜にすかさず刃が突っ込む。
「あー、うん、直ぐに探すよ。」
「全く、天夜は時々おっちょこちょいね。良いわ、手伝ってあげる。」
「有難う、紫。」
と、巫女が食事を終える。
「ご馳走さま。・・・、紫、アンタが胡散臭い面の皮を使わない相手なんて珍しいわね。旧友?まあ何でも良いけど。」
「今はもう一人を探すのが先、悪いけど霊夢、話し掛けないでくれる?」
霊夢が旧友か何かか、と問うと帰ってきたのはそんな返答。
どうやら天夜とやらの用事を最優先にしているらしい。
「(・・・そこまで親しい友人?この胡散臭い奴相手によく近付いたわね。)」
霊夢がそう考えていると、刃が疑問を持つ。
「ん?そういや秋山、天夜って何だよ?」
「あー、刃、僕の本当の名前は天夜なんだ。秋山は偽名。」
「そうか。・・・すまねェが、寝てて良いか?」
霊夢の方に向き直り、唐突ににそんな事を言い出す刃。眉を寄せる霊夢に、刃は弁解する。
「いや、何故か知らねェが異常に眠いんだよ。」
「転移酔いかな?君みたいに眠気が出るケースは珍しいけどねえ。ま、次は症状は出ないと思うよ。次があればだけど。」
天夜の補足を聞いた霊夢は、興味がなさそうに許可を出す。
「ふーん。アンタ、刃、だった?寝るなら端に寄って。」
「ああ、わかった、巫女。」
「霊夢で良いわよ。」
「・・・言い直した方が良いのか?わかった、霊夢。」
「アンタ、以外と律儀ね。」
「うるせェ。」
律儀にも言い直す刃に対し、見たままに律儀ね、と霊夢が口にすれば刃は悪態をついて、そっぽを向いてしまった。しかしよく見れば微妙に刃の耳が赤い。
霊夢が問う。
「・・・照れてんの?」
「・・・・・うるせえ。」
返ってきたのは不愛想な言葉。
褒められ慣れて居ないのか、目の前の少女を意識しているのか、それともなにか他に理由でもあるのか・・・。それ以上の追及を辞めた霊夢に、刃は少しばかり安心した様子で眠りに就いた。
・・・・・座ったまま。
「ねえ。」
「なんだ?」
霊夢は、端にさえ寄ってくれれば寝転がっても構わない、と提案した。
「あー、良いのか?ならそうさせてもらう。」
そして、刃は眠り始めた。
ふ、と霊夢がお茶を飲んで一息つき、謎の男、天夜のほうを見れば、腕組みをしたまま空中を睨んで唸っている。
「うーん、見当たらない・・・何処だろう、ジーク君。」