プロローグ
同日、此処はとある高校。
時間はやはりと言うべきか、昼下がり。
授業が半日で終わったため部活に勤しむ学生達の声が、外から響いている。そんな空き教室に、二人の人影があった。
「・・・秋山サン、遅いデスね。」
金髪碧眼、かなり整った容姿の生徒。
彼が留学生のジーク・フォン・クロードだ。
「秋山の野郎、自分で呼び出しておいてコレかよ?酷ェ話だな?オイ。」
文句を言っているのが矢川 刃。
少々荒れている生徒であり、所謂不良である。
まあ、別段服装が悪かったり成績が悪かったりする訳では無いので外見上はただの真面目な学生だ。
「や、待たせたかな?だとすれば申し訳無い。ちょっと面倒事に巻き込まれててね。」
其処に、入室する男が、一人。
彼が二人を待たせていた者らしい。
「御託は良い。さっさと本題に入れ。」
「おや、これは手厳しいねえ。」
「早く帰りたいデス。」
本題を催促され、それでも本題に入らない秋山にジークが訴える。秋山という男、中々の曲者なのかもしれない。
「じゃあ、本題だ。君達二人には、僕等の管理する世界に来て貰いたい。」
「テメェ頭は確かか?」
「同感デス。」
「おや、これは手厳しいねえ。」
素っ頓狂な事を言い出す秋山と、正気を疑う二人。正気を疑われても、秋山は同じセリフを繰り返す。秋山という男、中々の曲者だ。
「君達の記憶は、消させて貰った。」
「あ?今普通に話してるだろうが。」
「あー、こう言えば良いのかな、今君達が帰っても、皆の記憶では最初から居なかった事になってる筈だよ。本当、申し訳ないとは思ってるよ?でも『能力』を持っている人があまり外側に多いと困るんだ。」
「ハァ?気でも狂ってんのか?」
「What is he saying?(彼は何を言っているのデスか?)」
「うーん、これなら信じて貰えるかな?」
言うが早いか、秋山は袖を捲る。
そして、見えたのは鱗の生えた腕。
「・・・、こいつァヤベェな。」
「あなたはトカゲだったんデスか?」
「おい、ジーク。オレを一人にするな。」
そして、頓珍漢な事を言い始めるジークに、取り残された様な気分を味わう刃。
「ハハ、トカゲじゃない。龍だ。」
「Dragonデスか?wonderful!」
「いやいやそんな馬鹿な。」
「まあ、此処に入るしか君達には道は無い。諦めてよ。」
秋山がそう言うと共に空中に開かれる、スキマ。
次元の裂け目の様なモノから、内部を覗けば、紫色の空間。其処に浮かぶは無数の目。
「「うわ。」」
思わず声が揃う二人。
まあこの二人でなくとも、似たような反応をするだろう。その反応を無視して、秋山は二人を促す。
「さ、入って。」
「嫌だぞ。絶対嫌だぞ。」
「ミ、右に同じデス!」
表情を引きつらせる刃。ジークは真っ青な顔をしている。当然ではあるが拒絶反応を起こす二人に秋山は強硬手段に出る。
「それ。」
「うわァァァァァァ!!?」
先ず、ジークを軽々と掴み、スキマに投げ込んだ。
「君もだね。」
「ちったァ待ちやがれ!・・・自分で飛び込ませてくれ。」
「わかった。」
刃は、自分で飛び込む・・・
「ふぅーー。飛び降り自殺する気分だぜ。」
「それ。」
「うわコイツ押しやがったマジでふざけんな冗談じゃねェぞ!!!」
・・・かと思われたが、とある芸人のネタよろしく落ちていった。
「で、僕も。」
そして秋山も、暖簾でもくぐるかの様な調子でスキマの中へと歩を進める。
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かくして、ほぼ同時刻に合計七人と一匹が地上より消えたのである。