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現世にて土産を買う

九条家裏の空き地に居た、着物の男はぶつぶつと独り言ちながら歩き出した。


「さて、如何様な者が入ったか・・・見に行こうと言ったが、土産が無い。まあ、あの娘には『けぇき』とやらで良いだろう。あ奴にはいつも通りアレを買い、持ちくとするかな・・・。」


そうして、辿り着いたのは古銭ショップ。

昔からやっているらしい、ボロボロの商店。

そこに彼は入り、叫んだ。


「お()い!店主!生きているのだろうな!?」

「何だい?客なら駄目だ。古銭は今ビタ一文無いよ。」


億劫そうに二階から降りて来た店主に、話を聞いていたのかいないのか、彼は問答無用でこう言い放つ。


「店主、両替を頼む。」

「は?アンタ、貼り紙読めないの?ホラ、『両替はお断りさせて頂きます』ってよ?」

「いや、此処はれを両替する場所では無いのか?」


そう言って彼が取り出し、カウンターにブチまけたのは、一文銭、一分銀、小判。


「・・・やっとツキが回って来やがったか。おい、兄ちゃん。これ、他所に持ってくんじゃないぞ?色付けてやるからよ。」

「先代も同じ事を言っていたぞ。」

「あのクソ親父が?アンタ知り合いかい。そうか、クソ親父の言ってた50年に一度大量に古銭をブチまける客ってェのはアンタか。ならもっと色ォ付けてやるからよ、末永くこれからも宜しく頼むぜ?」

「ああ、私としても願ったり叶ったりだ。さて、値は如何程いかほどだ?」

「そうさな、家が・・・ひぃふぅみぃ、五つは立つだろうよ。しかもただの家じゃなく、ぷうる(プール)のついたハイカラな奴がな。正直今すぐにこんだけ工面すンのは難しいな、こりゃ。」

「そうか。しからば店主、今店主が持っている全財産からこの品が売れるまでの間の生活費を引いた分だけ、私に支払ってくれ。」

「・・・・・ほう、そいつぁ、俺の商売人としての才を試そうってェのか?分かった。明日には捌いてやるとして、そうだな、全財産持って行け。これは俺の商売人としてのプライドだ、遠慮なんぞすんなよ?」

「成る程、了承した。だがな、先代もそう言って・・・」

「何だよ溜めるなよ気になるじゃねぇか。」

「ククク・・・いや、失礼。先代は妻のへそくりのお世話になって居たぞ。」

「何でぇ、俺が破滅しねぇのならそれで良いさな。そんなもん大した問題じゃねぇ。」

「そうだな。さらばだ、店主。」

「あいよ。」


そう言って彼はその足で昔ながらの商店街に向かう。

商店街の入り口に来た時、彼は足を止め、しばらく立ち尽くし、ようやく声を絞り出した。


「これは・・・・・知らぬ内に随分と寂れてしまった様だな。」


彼は再び歩き出し、再び足を止めた。

彼が残念そうに見る先には、シャッターの降りてしまった、商売をやめた商店。


「何と・・・此処が店仕舞いとは、世も末よな。あの絶品たる油揚げがもう買えぬとはなあ・・・これが世の常か。」


しばし彼が嘆いていると、後ろから一人の老人が声を掛ける。


「おや、この爺の店に何か御用ですかな?生憎あいにく昨日店仕舞いした所ですゆえに売れる物は豆腐ぐらいしか御座いませんが・・・勘弁しておくんなはれ。」

「この店が片付くとは、受け入れがたい。しかし豆腐があるのなら、油揚げを頼めるか?」

「この爺の店が潰れる事を残念がって頂けるととは露とも思いませんでしたぞ。これは渾身こんしんの油揚げを作らねばなりませんな。して、数は幾らで?」

「有る限り頼む。」

「ひょひょ。しかと引き受け申した。」

「代金はこれで頼む。」


そう言って彼が渡したのは廿(20)万円。

老人は絶句した後、断ろうとしたが、彼は商品を受け取り、強引に支払って店を出た。


その後、彼は流行のケーキを買い、しばしの間の夕食に、と秋刀魚、鯖、鮪に鯛など新鮮な魚をいくつか買い、人の居ない僻地へ来た。


「さて、此処で良いだろう。隙間の符、とやらは何処いずこへ仕舞ったか。」


そう言って彼は紫色の紙を取り出し、破き、その場に開いたスキマに消えた。

スキマはしばらく残って居たが、誰にも目撃される事無くじられた。


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