九条家一行の交渉
「ああ、それとレミィ、実験は成功よ。明日明後日には紅い霧を幻想郷中に出せるわ。」
「そう、流石パチェね。・・・それで、御客人方。いえ、もう取り繕っても仕方ないわね。貴方達、ここに住むつもりなの?」
そう、館の主人であるレミリアが問うが、返事は住みたいと言い出した代表者ではなく、その使用人から帰って来た。
「出来れば、と思っている筈でさぁ。あ、若は本を読み始めると梃子でも動かないんで代わりに交渉致しやす。」
「そ、そうなのね。」
どうやら政亜(若)は相当の本好きの様だ。
と、そこに噂をすれば影・・・ではなく声。
「む、御堂。何の話だ?」
「若、もうその本読み終わったんですかい?」
「読み終わるも何も既に知っている事ばかりだ。そうだな、小学低学年の問題集の解答を見ている様な気分、と言えば分かるか。」
驚く御堂にこの本は良いものでは無い、と吐き捨てる政亜。
暫しの沈黙がその場を覆う。
次に口を開いたのは御堂だった。
「全く、若が何を考えてるのか知りやせんが、今ここに住むつもりなのか、と尋ねられた所ですよ。ホラ、ちゃんと頭として交渉して下せぇ。」
「それは当然だがその『頭』とかヤクザ時代の言い回しはまだ治らないのk「どうにもなりやせん。」
少し呆れてそう言う政亜に、御堂は寸分の間すら無く被せ気味に力強く断言し、更に政亜に呆れられる。
「そうか。・・・さて、失礼致しました、レミリア・スカーレット氏。短刀直入に申しましょう。私の希望は此処に住む事です。」
「・・・そうね、それなら・・・パチェ、この客人達も味方に加えるわ。貴方達も、それで良いかしら?」
何か思案し、そう言ったレミリア。
パチュリーは無言でそうすれば良いとばかりに頷く。
「味方、と言うと?」
政亜の疑問に答えたのは館の主ではなく、その後ろから近づいて来た許婚。
「僕達はこの幻想郷に『異変』を起こすのさ。それも、とびきりの、ね。館と館の主人を示す、紅い色の霧。どうだい?」
「ちょっとモーニ。今喋ってるのは私よ。」
「や、ごめん。でもこの三人は少し練習すればそれなりに動けると思うんだ。」
何が何やら、といった様子で話を聞いている御堂。
そこで政亜がある事に気づく。
「・・・待て。三人だと?おい、御堂。正人は何処だ?」
「えっ、絶の所じゃないんですかい?」
「は?あア、マサなラ地下ニ降りて行っタぞ。何でモ『よばれてる気がするー!』だトか言ってイたな。」
絶がそう言った途端、レミリアとパチュリー、モーニが黙り込む。
ただならぬ雰囲気に、政亜と御堂も黙る。
数秒の沈黙の後、レミリアが口を開いた。
「・・・マサ、と言うのはあの子供ね。早く助けに行った方が良いわよ。きっと私の妹が―――」
「レミィ、これだけ時間が経ってると手遅れよ。あの子は物持ちが良い方じゃない、でしょう?だからこそ地下に居る。」
レミリアが言うのを遮り、パチュリーは淡々と述べる。
「・・・九条政亜、だったっけ。弟さんは・・・残念だったね。」
「は、何ヲ言う、モーニブラッド。アイツはそんナに柔じゃなイ。若の弟ダぞ?若が何モ仕込まナい筈が無イだろウ?」
「おい絶、『仕込む』とは人聞きの悪い。」
気まずそうに言うモーニに対し絶が鼻を鳴らしながらそう言う。
政亜も絶に文句を言う有様で、正人を心配する様子は無い。
「無理よ。あの子の能力を前に生きていられる人間が居る筈が無い。パチェの言う通り、危険だから地下に・・・」
「アイツが死のうと自己責任だ。」
危険など知った事かとばかりに政亜が言う。
弟の話のハズなのだが、随分と冷たい調子だ。
「ちょ、若、それは「いヤ、御堂。自己責任デ片付けらレる程度にハ―――」
「俺はアイツに色々、教えた。流石だ絶。よく分かっている。御堂、お前が態々『子供は守る』とか義を通さなくてもいい程度には兄として色々やったつもりだ。信用ならないか?」
政亜のあまりの薄情さに御堂が苦言を呈そうとするが、絶がそれを遮り、更にそれを政亜が引き継ぐ。それを聞きやれやれ、とため息をつく御堂。
「いえ、若が言うのなら大丈夫なんでしょうよ。それに、正人様も中々徳のあるお方ですしねぇ。とは言え若、弟が死ぬのが自己責任ってぇのは少々薄情過ぎやせんかね?」
「そうか?・・・ふむ、情が薄いのは何時もの事とは言え、気を付ける必要があるな。」
そこでまた会話が途切れ、気まずい沈黙がその場に続く。
「え、ええと、あと敬語も辞めて頂戴?仲間になる事は了承なんでしょ?」
「了解した、館の主人。で、モーニとやら、『少し練習すればそれなりに動ける』と言ったな?早速その練習とやらを始めようじゃないか。そもそも此処に来た目的も『能力』の使い方を教えて貰う事だからな。構わんだろう?」
「分かった、構わないよ。今教えよう。」




