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第58話

「離してください!! 私に何のようが!?」


「安心しろ、俺たちは高志の知り合いだ」


「え? や、八重さんの?」


 走りながら、繁村は高志と自分の関係を説明した。


「え? じゃあ学校のお友達なんですか?」


「あぁ、そうだ! お前に言いたい事があって、こうして屋敷に侵入したんだよ!」


「そ、そうなんですか? ではなぜ、貴方たちは追われているのですか?」


「それは……まぁ置いといて!」


「置くんですか? 私に取っては結構重要な事なのですが?」


「あぁぁぁ!! 高志からお前に伝言預かってるんだよ! 黙って聞いてくれ!」


「そうは言われましても……大体八重さんはどこに行ったんですか?」


「だから!! それも含めて説明してやるから!!」


 繁村は瑞稀と口論しながら、屋敷内を走り回る。

 野球部で鍛えただけあって、体力だけは自身のある繁村は瑞稀を背負っているにも関わらず、まだ余裕があった。

 少し走ると繁村は瑞稀と共に、屋敷の中の一室に隠れた。

 

「はぁ……はぁ……土井とはぐれちまった」


 逃げるのに夢中で、繁村は土井とはぐれてしまった。

 繁村が逃げ込んだのは、客室のようだった。 大きなソファーと大きなテーブルがあり、窓からは屋敷の庭が見えた。


「なんなんですか! 人の事を物みたいに持って!」


「あぁ、それは悪かったけど………ってそんな事を言っている場合じゃない! 俺はお前に高志からの伝言を伝えて、ここからとっとおさらばするんだ!」


「伝言? 八重様に……一体何が?」


「あー、どこから話せば良いか……まず、あいつには彼女が居るんだよ」


「そうなんですか?」


「ん? なんかあっさりした反応だな……」


「えぇ……確かにショックではありますが……あの方であれば納得出来ます……優しくて本当に良いお方ですから……」


「あ……そう?」


 繁村はそんな瑞稀に今までの高志と紗弥の話しをした。

 仲が良かった二人が、今日突然別れてしまった事、その原因が瑞稀の父にあること。


「お父様が……」


「あぁ……でも、別に高志がお前を嫌いって訳じゃねーぞ。あ、嫌いって言っても友達としてだぞ、勘違いすんなよ」


「分かってます、そんなに私は馬鹿じゃありません」


「……そうかよ……そう言うなら……泣くなよ」


「え……」


 瑞稀は自分が泣いている事に繁村に言われて気がついた。

 そんな瑞稀に繁村は声を掛ける。


「……まぁ、アンタは可愛いし……これからも良い出会いがあるよ」


「……私にこれからなんて無いですよ………」


「は? なんでだよ?」


「……私は体が弱くて………来年だってどうなっているか……」


 瑞稀の話しを聞き、繁村は高志から聞いていた話を思い出す。

 体が弱く家からあまり出られず、友人も居ない。

 そんな瑞稀を高志は心の底から心配していた。


「はぁ……あいつのお人好しめ……」


 繁村は高志に対してそんな事を思いながら、ため息を吐く。


「まぁ、そう言うことだ……悪いがあいつは今日はもう戻ってこない」


「そうですか……仕方ありませんね……」


 そう言うと瑞稀はドアの方に向かい始めた。

「おい、どこ行くんだ?」


「皆さんを止めてきます。父の行き過ぎた心配で皆様には大変なご迷惑を……」


「そうしてくれ、外で殴り合ってるお前のとこの執事とうちの優一は、そろそろ限界だろうけど……」


「八重様には……私のせいで大変なご迷惑を掛けてしまいましたね……」


「別にお前のせいじゃないだろ? お前の親父さんが半分、高志が半分くらい悪いと俺は思うけど」


 繁村がそう言うと、瑞稀は繁村の方を向き不思議そうに繁村に尋ねた。


「それは何故ですか? 父はともかく、八重様は何も悪いことなんて……」


「いや、悪いだろ? 一番大事とか言って、彼女放って他の女のところに言っちまう彼氏なんて」

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