表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/70

第17話

「君はバイト代を受け取らなかったらしいね」


「あ、まぁ……はい」


「何故だい? 君はバイトに来たんだろ?」


「あぁ……それは……」


 忠次の視線に高志はいちいち緊張してしまう。

 またこの話しかと思いながら、高志は理由を話し始める。


「いや……なんていうか……あんな事でお金を受け取りたくないっていうか……普通にみ、瑞稀さんと友人になりたいなーなんて思ったりしたので……」


「……そうか」


「は、はい……」


「………」


 無言で高志を見つめる忠次。

 そんな忠次の視線から目を反らし、高志は冷や汗を流す。

 一体何を言われるのだろうか?

 高志は何も悪いことはしていないはずなのに、怒られている気分だった。


「……君は娘を気に入ったのかい?」


「へ? 気に入った……とは?」


「いや……たまに居るんだよ……親のひいき目で見ても娘は美人だからね……悪い虫がつくのは困るんだよ……」


 高志は一気に血の気が引くのを感じた。

 背後では伊吹さんが何故か知らないが、指をポキポキと鳴らし始めている。


(まって! そんな意味で言ったんじゃないの!! 俺はただ彼女が可愛そうに見えたから友達になれればって思っただけなのに……)


「い、いや! 誤解です!! 俺は娘さんをそんな目では見ていません!!」


「ほう……では私の娘には女性としての魅力が無いと?」


 背後の伊吹さんの方から、今度は何か棒状の物を振る音が聞こえてきた。


(ヤバイ……殺される……)


 高志は内心でそんな事を思いながら、ビクビクと震えていた。


「で、ですから! 決してそう言う訳ではなく! ただ……あの子があの家に閉じこもってばかりだと言っていたので……俺が話し相手になれればって思っただけです……」


「………」


 高志がそう説明をすると、忠次は何かを考えるように顎に手を当て始めた。

 

「……あの子の母は体が弱くてね……あの子を産んで直ぐに死んでしまったんだ」


「え……」


「それから私がそだててきたのだが……私も忙しくてあまり相手が出来ない……母に似て体が弱く、いつ発作を起こしてもおかしくない……だから学校にも満足に行けず、友人も居ない」


「なるほど……」


「……あの子はもう……長く無い」


「………」


 高志は忠次の言葉を聞き何も言えなかった。

 長く無い、それはもう長くは生きられないと言うことだ。

 奧さんを早くに無くし、今度は娘を無くそうとしている。

 たった一人の家族を思い、この人が娘の為にバイトを雇っているのがなんとなくだが、高志には分かった。

「私は娘が生きている限り、娘を幸せにするつもりだ……その為なら私は何でもする」


 そう話す忠次の瞳は真っ直ぐだった。

 高志はそんな話しを聞いてしまい、ますます瑞稀の事が気になってきてしまった。


「……ただそれを言いたかっただけだよ……それと君さえ良ければこれからも瑞稀の話し相手になって欲しい」


「え、良いんですか?」


 話しを聞いている限り、高志は忠次に「もう娘にちかづくな!」とか言われるのかと思っていたが、真逆の反応に驚いてしまう。


「あぁ、これが前金だ」


「え?」


 忠次はそう言うと、伊吹に分厚い封筒を持ってこさせ、中身をちらっと高志に見せる。

 ざっと見ただけでも50万円以上あるようだった。


「いやいや!! こんなお金要りませんよ!!」


「足りないかい? ではこの倍を……」


「だから! お金は要りません!!」


「何故だ? 君はお金が必要なのだろ?」


「こんなことでこんな大金貰えませんよ! 娘さん……友達の家に言って話しをするだけですし」


「……そうか」


 高志に言われ、忠次は封筒を引っ込める。

 あぁは言いつつもちょっと惜しいことをしたかと考える高志。

 しかし、こんな事でお金を貰うのはやはりおかしい。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ