ひとりの少女。序章の様な何か
『幸せ』の形は千差万別。
他人から見れば不幸のどん底に見えようと、本人は幸せを感じている場合もあるかもしれません。
望む幸せ、望む最期、幸せな死。
本人にしか分からない想いの かたち。
・・ここは何処だろうか。
あの建物、すごく綺麗・・。
皇帝様の住んでいる御城より綺麗・・。それに、すごく高い・・どうやって建てたんだろう・・。
すごいなぁ・・。
建物だけじゃあ無い。道も、すごく綺麗・・。石畳と違って、平らで、どこまでも平らが続いている。
・・。
人が増えてきた。すごく沢山の人達・・この人達も、すごく綺麗だ。
綺麗な服を着て、汚ならしい人なんて見当たらない。
ここの王族なんだろうか・・?
多分、爵位をお持ちの方も居るのだろう。
ぁ。
どうしよう・・。
少し雰囲気の違う方々がいらっしゃった。
多分、衛兵なのだろう。
この国の作法は分からないけれど、奴隷である私は、奴隷としての最敬礼の姿勢をとらなければ ならない。
攻撃をする意思は無いと示す為に、指を広げた手を、手の平を下に、地面に付け・・。
服従の意を示す為に、額を地面に付け・・首筋を見せる・・。
・・・多分、大丈夫だと思う。
この国が帝国と どのくらい違うのかは分からないけれど、奴隷の扱いは変わらないだろうから。
あの時死んでいたハズの私が何故生きているのか、それは分からない。
けれど、今・・この場で処分されたとしても、諦めもつく。
最期に、これだけ綺麗な街並みを目に出来た。
きっと、創世神様のお目こぼしを戴けたのだろう。
感謝致します・・。
■
「おい・・この子は何してんだと思う?」
「・・・土下座?」
「そう見えるよなぁ・・?」
「うん・・」
「でも何で」
「んー・・・道壊して御免なさい、とか?」
「ちげーだろ。第一、どうやって壊すんだよ・・?」
「そーだよなー。見た感じ、ボロきれ一枚しか着てないよなー・・壊せそーなもんなんか持って無いしなー・・」
「あぁ。それどころか、あの手首と足首の何だよ」
「だよなー・・まるで、映画に出て来る『奴隷』みたいじゃん?」
「これ・・、アレか?」
「アレって何だよ」
「いや、ほら、人身売買・・とか?」
「いやー・・無いだろ」
「いやいやいや・・それしか無いんじゃね?そう見たら、あのカッコは説明出来るよ」
「まぁ・・カッコはね?」
「うん、まぁ、カッコはな」
「じゃあ、あの道は どう説明すんだよ」
「だよなー・・どう見ても、あのカッコで壊したとは思えないよな・・」
「ああ・・」
「ま、とりあえずは女性警官の到着待ちだな」
「だな」
「で、線量計の方は?」
「問題無しです。むしろ、基準値にすら届いてないくらいですよ」
「んー・・そっか・・」
「じゃあ、あの地面の跡は・・」
「ん。爆発じゃあ無いみたいだな」
「まー、そーだよなー。破片も飛び散って無いしなー?」
■
《続いての特集は、本日正午過ぎに警視庁前で発生した爆破事件の続報です》
《いやー、驚きましたよねー♪まさか、警察の中の警察の建物前を爆破しようなんてねー♪》
《何で嬉しそうやねんっ》
《だってー♪報道だと爆破って言われてますけど?あの映像を見れば、違うって 一目瞭然じゃないですかっ♪》
《まー、そうやなー》
《では ここで、改めて、ライブカメラや防犯カメラ、視聴者撮影の映像など各種、ご覧いただきましょう!》
《あっ!ここ ここ~っ♪》
《興奮し過ぎでしょっ!》
《だって~♪これっ、どう見ても魔法陣じゃないですか~っ♪》
《まー・・どう見ても何回見ても、確かに そう見えるけど・・》
《これ・・CGじゃ無いんですよね?》
《ええ。リアルタイムで各種機器に撮影されて、記録されています。最新のプロジェクションマッピングの技術を使っても、リアルタイムに日中の照り返しのキツいアスファルトに投影する事は無理だそうです。それに・・『コレ』は、何重にも『空中に』投影されています。映像加工してCG多用した映像の中でもなければ、まず不可能だそうですよ》
《ですよね~♪魔法が実在したってコトですよ~っ♪》
《いやいや・・魔法なんて、作り話の世界ならともかく・・》
《じゃあ、他に どう説明するんですかっ!》
《いや~・・》
《それにーっ!この魔法陣の後こそ、本命じゃないですか~っ!》
《んー・・そうですよね・・》
《では、映像の続きを》
時間は午後3時過ぎ。
民放各局では、生中継を繋いでいる。
画面の端に、円形に半径3メートル程と数十センチ程えぐられた道路。そして、映像の主役は警視庁本庁舎だ。
正確には、各局が注目しているのは本庁舎内に居るハズの『ひとりの少女』だが。
30分程前に、両足首に繋げられた金属球を警官が持ち、ひとまず警視庁本庁舎の中に収容された。
漏れ出て来る情報によると、まもなく救急車で病院へ搬送されるらしい。
両手首の手枷と、両足首を拘束する足枷から伸びる金属球の為に、対象の少女は、手首足首に酷い裂傷を負っているという。その治療と『枷』の除去に緊急を擁するという。
民放各局では、『少女』が現れた瞬間の映像が多角的に、有識者により分析されていたが・・『科学的に』無理矢理こじつけた感が否めない。
的を得た解釈は、主にネット上でまとめられていた。
『異世界転移』。
創作作品では主に、『こちら側』が『あちら側』に行くが・・『少女』は『あちら側から』こちら側に来たのだろう、と。
CGとしか思えない現象により幾重にも重なった魔法陣が現れ、その中心に現れた漆黒の球状の空間。その中から押し出される様に『少女』が現れ、地面に落ちた。
その『少女』は、あらゆる映像に記録され、瞬く間に全世界のメディア報道に載った。
身に纏うは、手術用の貫頭衣にも見え、古代を説明する歴史書の挿絵の古代人の衣服にも見え、映画世界での『奴隷』が着せられる粗末な布切れにも見えた。
だが、推測は『隷属させられた身』であると傾く。
何故か?
地面に落ちた時から映像に映り込んではいた。そう、映り込んでいたのだ。
『少女』の四肢を拘束する手枷・足枷の存在は。
そして、意識を取り戻した『少女』は、身を投げ出し恭順の意思を示した。
いや・・傍目には、手足を拘束された幼い少女が服従の意思を示した・・以外の何にも見えはしなかっただろう。
到着した女性警官達が『少女』に寄り添い、足枷の金属球を持ち上げ、車椅子に乗せ・・警視庁本庁舎に収容した。
少しずつ、判明した事柄が会見の場で公開された。
曰く、『少女』の口にする言語には、地球上のあらゆる言語が当てはまらない、と。
曰く、『少女』が身に着けていたのはボロ切れのみで、下着すら身に着けていなかった、と。
曰く、手枷・足枷を取り外そうと あらゆる手を尽くしているが、『外せない』、と。
曰く、急遽用意された飲食物を口にしているが、大粒の涙をこぼしながら、ゆっくりと咀嚼している、と。
少しずつ判明する事柄の ひとつひとつ、あらゆる視点から、『少女』が不遇な状況に身をやつしていたという事が見てとれた。
内閣官房長官の緊急記者会見が開かれ、『日本は国として『少女』を歓迎し、あらゆる救済措置を講じる』と発表された。
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私が『ここ』に連れて来られてから、もう20日になるだろうか・・ひと月も経ってしまった。
その間、『ここ』の人達は、とてもとても良くしてくれる。
とてもとても美味しい食べ物を頂けている。
とてもとても柔らかい寝所で寝させて頂けている。
とてもとても身体を綺麗にして頂けている。
とてもとても上質な服を着せて頂けている。
どうして、私なんかに・・。身に余る光栄に、居たたまれない。
『長』の様な殿方がいらした際に、せめてもの御礼に『使って頂こう』と裸になろうとしたら、良くして頂いている女官の方々に止められた。
どうやら、『ここ』では違うらしい。
どう御礼をすべきか、考えなければならない。
『ここ』で、私は何を すべきなのだろう・・。
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あの娘は辿り着いてくれるだろうか・・?
願わくば・・人並みの幸せを掴み、幸福の中、生を終えて欲しい・・。
私が至らぬばかりに歪んでしまった、この国の歪みの被害者達・・。
辿り着く者も居れば、苦しみ・・絶望の果てで生を終える者も居た。
あの娘は、辿り着くだろうか・・。
せめても安らかに・・。
あの娘の願いと代償は、中々に過酷だ。
『世界よ とどまれ、お前は美しい』と思い至る、その日まで。
あの娘に、幸あらんことを願う・・。
『連載』の形ですが、短期間のみになると思います。
多分、5話から10話以内の短編。
ホントは、全話分を一気に上げようと思ってたんですけど、まぁ・・改元の日だし・・上げとくか・・と。