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人類が増えすぎたので減らしてほしいと頼まれました【本編完結済】  作者: にゃんきち
人類が増えすぎたので減らして欲しいと頼まれました
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第八十五話:デコピンと煎茶の詰め合わせ

 日本に帰った俺は時折相田を捕まえて議論をしながら、量産型エリザベスの自律行動プログラムを作ることに専念していた。近くに相田がいたほうが何かと都合がいいので役員室ではなく、相田達がいるオフィスフロアに開発機材一式を持ち込んでの作業だ。


「私達は仕事してんスけどね……」


「いや、これだって仕事なんだってばよ」


 相田は不満げだ。すまん。


「でもこれ、自分でやればやるほど狭山さんのところが優秀だってのが解るよ……」


 エリザベスの計算リソースをほぼ体躯制御につぎ込み、足りない部分をサーバー群に担当させる実装を施す。これでエリザベスの能力はノーマルより格段に上がったように見えたが、いざ比べてみると狭山社長とその愛弟子達が心血を注いで作っているスペシャルチューンなエリザベスとは雲泥の差だった。俺もまだまだということか。


 俺は今後もエリザベスの自律行動プログラムを通じて俺の求める人工知能を追い求めていくつもりだ。まだ先は遠そうだが。


 狭山社長はエリザベスのさらに廉価版「ベアトリス」を作成中だ。ベアトリスは極限環境で作業する人達や富裕層向けの特殊な用途を想定して作られているらしく、一部にモーターではなく人工筋肉を使うなどの新しい技術的アプローチが盛り込まれている。もう少し安くなれば某国のバイオスフィアに実験参加者向け機材として試験的に導入されるようだが、いったいどこからそういう注文を取ってくるんだろう?


 最近はエロ漫画を片手に「この動きが出来なきゃ意味がないんだ!」と大きな声で愛弟子達を叱咤激励する狭山社長の目が真剣すぎて怖い。その叱咤激励を受けて真剣に開発をしている愛弟子達の顔がまた怖い。六分の狂気四分の熱とは良く言ったものだ。


 さて、対馬の養殖場のダツが育つにもまだ時間はかかるしドイツで出資したスーパーや雑貨店もまだ内装の検討や物件の契約の段階だ。

 思いついてすぐに取りかかれるお役目はこの間ケニアでやって来たばかりだし、研究開発で視野狭窄になっている自分を直すにはどうしたらいいのか……と思ったら、おお! アイーダ月ヶ瀬先生の「★転生したチキン魔王は人類絶滅の詔を下す。ただし猶予は300年★」が更新されているではないか!


 いいね。ラノベは頭のおやつだ。おやつばかり食べていても太るばかりで成長できないが、なければないで悲しい。さて、どんな方法で人類を減らすんだろう……。


―――第88話「晩婚」より―――――


「さてもさもしきは女どもよ。夫婦(めおと)になるなら(みめ)目良し金あり頭良し、3拍子揃わねば嫌と来た。人めらめ、暮らしが豊かになると満ち足りること無くさらに飢えるのだな……悲しい種族だ。選び放題なのは最初のうち、その後はどんどん焦る日々が待ち受けているのだ。挙げ句の果てに妥協に妥協を重ねて理想とは程遠い男と仕方なしに(つご)うた時にはもういい歳よ。二人三人とは産める筈も無し……。良かろう。三拍子揃うた男とやらをあちこちに出没させよ。本当に揃っている必要もなし。『意外に近くに居るのだな』と思わせるだけでいいのだ」


――――――――――――――――――――――――――


 ああ、現代日本の晩婚化による少産化ね。ふむふむ。若干アイーダ先生自身の何か怨念みたいなものを感じるけど……。選びたい放題の立場から語っているのか、そろそろ焦っているのか推測するのは失礼かな。やり方的にはまあ、簡単にこちらでも真似できそうだ。


―――第93話「狭い部屋」より―――――――


「余が与えた知恵の数々で産業は興り、王都は栄えた。田舎からは重労働から解き放たれた次男坊三男坊が王都に集い、狭い長屋でぎゅうぎゅうにひしめいておるわ。これでは田舎におった時のように産めよ増やせよといかぬであろ。されば、あとは建材となる石や木材を高騰させるだけでいいのか……ふん。つまらん」


――――――――――――――――――――――――――


 都市の人口集中と住宅環境の整備不良からなる出生率の低下というやつか。実際産業が発達すれば都市に人口は集中すると国連の人口統計予測でも言ってるもんな。

 都市で子沢山だと子供一人当たりの教育費用などの点で不利になって貧困からの脱出が難しくなる。何より狭い家に人が沢山いては暮らし難いから少子化に陥りがちになるのは当然だ。これは案外、良い発見だぞ。要するに夫婦1組から二人以上生まれなければ人口は減っていくわけだ。


 ええと、今出生率の多い国は‥‥ニジェール、ソマリア、コンゴ、マリ、チャド、ブルンジ、アンゴラ、ウガンダ、ナイジェリア、東ティモール……なんだこれ。現在進行形の内戦地域やかつての内戦地域ばかりじゃないか。というか、世界203の国と地域のうち、出生率2.0を切っている国が81地域もある。


 え……これ、俺が頑張って減らさなくても人類そのうち勝手に減っていくんじゃ?


 ああ、いやいや。残りの122地域は爆発的に増えてるからそういうわけにも行かない。しかし、日本がヤバイってよく聞くけどイタリアとかスペインとか韓国ってもっとヤバイじゃないか。


―――第94話「無慈悲な魚」より―――――――


「海越えて此方(こなた)に来むとする阿呆どもが幾千と居るらしいな。畑を枯らし、水を汚し、木を切り倒し、魚を獲り尽くしてどうにもならぬからと言って我らが魔国の芝生までが青く見えるか痴れ者どもめ。そのような木っ端でできた船など、我らが海では剣魚と毒クラゲの戯れの相手にしかならぬわ……」


――――――――――――――――――――――――――


 うーん……難民というより、自業自得な人々を水際で沈めるのか。現実世界ではアフガニスタンとかソマリアとか、難民の送還が始まってるような国から今も難民のフリして出稼ぎや犯罪、社会保障目当てで出てくる人もいるからなあ。でもこれは難しいな。巻き添えが多そうだ。


―――第95話「医は仁道なれど魔道にあらず」より―――――――


「か細くも育ちたる医道の輩に奴ばらは石を投じるか。根拠もわからぬ白魔法に魂を抜かれ、自助努力もせぬ豚どもに今一度、死の疫病の恐怖をくれてやろう」


――――――――――――――――――――――――――


 これはジェンナーとかパスツールみたいな、地味で努力家の医者がワクチンを発明したのに白魔法大好き派の民衆に疑われ石を投げられる話だ。理系の魂が揺さぶられる系。

 実際、ワクチンの効果を否定する人っているよな。ああいう疑似科学に騙されちゃってひとしきり人に謎理論布教しまくって引っ込みがつかなくなった人達が、腹を括って本気で周りに毒を撒き散らすのは何とかして欲しいくらい醜悪だけど、そういう人達は罹患したら死んでくれる確率高いから俺的には手を出せないんだよね……。ほっといても死ぬ人達って最高だからね。


―――第96話「甘味な罠」より―――――――


「飢民の待つ先は餓死か斃死か……王都は今や万全の蓄えは持っておろうから民も重税を収めた甲斐があるというもの。存分に施してもらえ。我らも少しばかりの馳走を贈ろう」


――――――――――――――――――――――――――――


 ああ、ケニアで聞いたなこの話。難民キャンプで供給される食糧の食味を先進国基準にしてしまうと、難民の舌が肥えちゃって後々地元に戻って昔の主食だった芋を作ったりしなくなるなんてことがあるらしい。しょうがないよこれは。肥えた舌はなかなか戻らないから。


 でもそれが常態化すると皆さん供給される食糧目当てに難民キャンプから出て行かなくなっちゃって、その結果誰も手を入れない一次産業のためのインフラが崩壊して帰るところが本格的になくなってしまい、難民キャンプが常態化してスラム化する、と。


 なんというか……相田って勉強家だよな。JICAに知り合いでも居るんだろうか……って、そういえばこの間ポンコツプロデューサー達のコンテンツ売り込みの相談でJICAに行ってたから今は知り合い居る筈だ。その人達が面白おかしいエピソードを教えてくれるかどうかは知らないけど。


 とりあえず、闇落ちしていた魔王様も復活して人を減らしていることだし、現実(こちら)の世界の魔王の俺としてもやることはやらないと。とは言っても今回のアイーダ先生のやり方はどれも効果が出るまでに時間がかかるものばかりだし……どうしたものか。


 俺はしばし考え、軽く今後の方針を立ててみた。


 うん。今後は出生率の高めの国をターゲットに様々な角度からアプローチをするのが良いだろう。逆に、人口が減り始めている国にわざわざ行って人を殺さなくても良いかも知れない。人の命をなんとも思ってないやつとか人の財産と自分の財産の区別がつかないような悪い連中はその限りではないけれど。ああいうのは居るだけで害悪だからな。


 これとは別に、人類が使用するシミュレータのリソース削減を考えてみる。

 知識階層みたいに海馬の多くがリンクに置き換えられている人達より、自分の体験を通して獲得した知恵で生きてる人達を間引いたほうが効率がいい。同じ理屈で、宗教に生活様式を依存するあまり自分で生き方暮らし方を考えなくなった人達よりは無宗教で悩みにのたうち回っている奴のほうが間引く対象として目的に適っているだろう。


 これに俺の好みとして「悪いやつ」を加えると……うーん、意外に難しいな。間引くべき人物像が思い浮かばない。


「あら、影山社長、何を読んでますの?」


 四半期決算の報告をしに来た貴子さんが俺のパソコンのディスプレイを、俺の後ろから肩越しに覗き込んだ。


「ああ貴子さん、これ、相田が書いている小説だよ。面白くてさ」


「わーーっ! 何やってんスか影山さん!」


 相田がダッシュで跳んできて俺のディスプレイの電源を切った。早い。串を持って向かってきた瞳と同じくらいだったかも。アイーダ先生はそんなに身バレが嫌だったか。俺的にはむしろ文豪手当とか出してもいいくらいなのに。


「相田さんは多才ですのねぇ……。お取り込み中のようですし決算の報告はまた後で。急ぎませんよね?」


「あ、うん。じゃ、また今度……」


 貴子さんはクスクス笑って向こうへ行ってしまった。相田は顔を真赤にして少し目に涙を浮かべながらこちらを見ている。


「ああすまん……お前がそこまで秘密にしていることだとは思ってなかったんだ。もう会社では読まないよ。ごめんな」


 相田の不機嫌はその後しばらく続き、俺のソフトウェア開発はその間絶不調を極めた。狭山社長に「たとえ大株主でも、うちのエリザベスをマトモに使えないのなら帰してもらいますよ」と言われるほど進捗が悪かったのだ。


 この一件で俺は相田のソフトウェア開発における貢献度の高さを改めて思い知り、伊勢丹で高い煎茶の缶を買って来て相田に詫びを入れた。


「謝らなきゃいけないようなことは最初からしないことですよ。今回はこれで許してあげますけど、次はありませんよ」


 相田はそう言うとニッカリ笑って俺の頭にデコピンを放った。乾いた音がオフィスに響く。


「~~~っ!」


 久しぶりのデコピンは、目から火花が出るような痛さだった。




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[良い点] アイーダ先生が頑張らないと影山が前に 進めませんな。
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