第八十話:拮抗
それは新興宗教団体「聖杯の光」の教主にとって悪夢以上の光景だった。
地を揺るがす轟音、荒れ狂う炎―― 富士吉田の山中にそびえ立つ「聖杯の光」の大聖殿はまたたく間に崩れ去り、信者の寝所や宿舎などが火に飲まれて行く。土曜の昼、教主の講話を聞くため集まっていた信徒達は残らず阿鼻叫喚の渦へと叩き込まれていった。
「馬鹿な……あの噂は本当だったと言うのか……」
一週間ほど前から富士吉田の信徒の間で囁かれていた噂は上級信徒を通じて教主の下にも届いていた。救世聖杯信教の教祖が奇跡の御業を以て我らが「聖杯の光」に鉄槌を下すという噂だ。
だがそんな噂をまともに取り合う者は教団幹部の中には一人もいない。
そもそも教義が薄弱な宗教だ。神を信じ祈る事より世の理を解き明かすことの重要性を説くのが彼等の教義であり、それは分派した救世聖杯信教であっても大した違いは無い。つまり「聖杯の光」であれ救世聖杯信教であれ、その教義の中に神の御業や奇跡というものは無いのだ。
しかし大聖殿と附設の宿泊施設には今、屋根にいくつもの大穴が空き、周囲一帯に大火災が起きている。今日の講話を聞くために集まった信徒数千名が火と瓦礫の中にいるのは紛れもない事実だ。
炎に包まれ崩れ落ちていく本部を見て呆然としている教主に、外部からの連絡が入る。報告は上級信徒達によって極力オブラートに包まれてはいたが、その内容は今、教主が目の前にしている光景と何ら変わりのないものだった。
浜松、小牧、大垣、亀山、栗東、出石、松任―― 各地の聖殿でも同じ事が起こっていた。今日の大聖殿での教主講話を中継で聞くために集まっていた信徒達がまとめて阿鼻叫喚の地獄絵図に叩き込まれ、屍へとその姿を変えていたのだ。
「どうしてこうなったのだっ?」
両手で顔を覆い自問自答を繰り返す教主。講話の後、夕方からささやかな花火大会を行う予定だった。その花火大会をゆっくり楽しむために宿泊施設に宿を取った信徒達が目の前で犠牲になっていく。
親を探して泣く子供、子供を探して叫ぶ親の声が教主に突き刺さった。
全長50m、全重5トンのタングステンカーバイドでできたレール。これが影山のレグエディットにより上空1万mから大聖殿と附帯施設に向けて放たれたのだ。
5トンのレールの断面は64平方㎝。これを上空1万mから落とすと地上に到達する時の速度は晴れた日で音速の1.24倍になり、45秒で地表に到達する。
十分な加速を得たレールはやすやすと屋根を突き破り、各宗教施設を破壊した。大きな振動と衝撃は建物の崩落を誘発し、周囲に居た人間を瓦礫の中に叩き込む。
そして火災の発生。レールの落着点を中心に数千度の熱風が周辺を襲う。灼熱の旋風は運良く建物の崩落から逃れた者達を逃さない。
崩落、火災、そしてパニック―― その場に居合わせたほとんどの信者は悲鳴と慟哭の中に命を散らせた。
教主はかろうじて無事だったが、それは加護や奇跡のおかげではない。登壇直前まで自室でリハーサルを一人で繰り返す彼の行動がたまたま彼の命を救っただけだ。
家業を継いでほとんど自動的に教主になった身ではあったが、自分を信じて付いて来た信徒達を思う気持ちは大部分の宗教家のそれと大差はない。そしてその信徒達が目の前で肉片となり焼かれていく光景を見て、彼の心が動かない筈がなかった。
――「聖杯の光」の信徒が今日、数万人死んだとしてもまだ50万人以上は残っている。彼等の安全と今後を考えるなら、公然と奇跡を振りかざしてこちらを攻撃してきた救世聖杯信教をこのまま放置してはいけない。
今までは祖を同じくする分派であることを慮って、いくら向こうから布教の妨害や心ない攻撃を受けていても黙っていたが、今、目の前に繰り広げられている光景を見てまだ何もしないというのはありえない選択だ。警察や国が事実を明らかにするまで待っている間に自分達は根絶やしにされるだろう。
教主は血の涙を流しながら全国の信者に向けて声を発した。
「救世聖杯信教の悪魔どもに死を。これは聖戦である」
◆◆◆◆◆
救世聖杯信教の大聖堂は現代建築の粋を凝らした作りで、8つの柱だけで5階建て5000坪の建物を支える構造になっている。
だが、天から降り注いだレールは屋根を貫通し、8本の柱のうち2本を破壊していた。
躯体が軋む音があちこちから聞こえ出す。絶妙なバランスを計算して設計された大聖堂だ。柱を2本も失えばどうなるかは誰の目にも明らかだった。
―― 崩落が始まる。
俺とデルフィノさんはレールの落着の際、聖堂入り口のドアの陰にいたため無事で済んだ。ドアの陰に隠れられると判断してレールを落としたんだから当然だな。
目の前にはさっきデルフィノさんに踏み潰された小林君が横たわっているが、爆風で吹っ飛ばされてどこかにぶつかったのか、首が可愛そうな角度に廻っていた。
「本格的に崩落が始まったな」
ゴム弾で撃たれたデルフィノさんは意識はあるがまだ起き上がれない。瓦礫が降り注ぐ中、俺はデルフィノさんをおぶって安全な場所を求めて走った。
「重い……ギギギ」
大男のデルフィノさんを担ぐのは大変だ。人間やろうと思えばなんとか男一人くらい担げるものだが、おんぶは背負われる方の協力がないとかなり辛い。
「それにしても……リファレンスは使い方次第だがマジえげつねえな」
俺は昨年のアジア外遊の際、上海でタングステンカーバイドにしたレールのレジストリを32本分クリップボードに入れておいた。
俺の頭の中のクリップボードにレジストリをまるごと入れた場合、このレジストリは実体にリンクされる。クリップボードの中の数値をいじればそのまま本体のレジストリに反映されるのだ。
レールは構造も材質も簡単なので情報量も少なく、32本をクリップボードに収めても容量的な問題はなかった。
今からおよそ20分前、俺は上海に置かれているレールの移動メソッドを起動し、座標を「聖杯の光」の重要施設の上空1万mに設定した。1万m上空に瞬間移動したレールはその後、下を向いてまっすぐ落下し、派手に施設を破壊した筈だ。
落下から45秒後、俺はすでに着地したであろうレールの温度を10000℃まで上げた。沸点6000℃のタングステンカーバイドは高温の金属蒸気となって周囲を焼き尽くしただろう。落下点近くにあった物はほとんどが蒸発し、余熱は大規模な火災を発生させたに違いない。
そしてついさっき、俺は救世聖杯信教にも同じことをした。
富士吉田でやったのと唯一違うのは、俺自身が高温で蒸発するのを避けるため、ここに落ちたレールを高温で蒸発させず、酸素へと変えたことくらいか。
これで何が起こったか後日の調査でも判らなくなると言う効果もある。
「ふぅ。ここなら安全かな」
数分後、比較的被害が少なそうな裏庭と思しき屋外に逃げ出すことが出来た時には俺の体力はほとんど残っていなかった。もう動けん。脚も腕もパンパンだ。
俺はデルフィノさんを下ろすと大の字になってひっくり返った。
ふと周囲に目をやると、崩落の轟音を背景に青紫の綺麗な花が乱れ咲く花園が広がっていた。だが俺は息を整えるのにも一苦労な状況で、花を愛でる余裕など無い。そもそも、この花は愛でられるためにここに植えられているわけでは無いようだしな。
「影山ぁ! 貴様何をした!」
ようやく息が整った頃、後ろから浴びせられた下卑た大声。竹内だ。何人かの信徒も一緒のようだ。
あの状況で生き残れたとは悪運だけは強いらしい。皆、手には武器のような物まで持っている。槍のような錫杖のような……いや、俺は武器には疎いんだ。わからん。
後ろには瞳に連れられた服部もいる。俺に対しての交渉カードのつもりだろうか。
「おい竹内、『貴方、いったい何をしたんですか? 』だろうここは。敬語キャラが敬語崩すと早死にするぞ」
「やかましい! 大聖堂に何をした! 爆薬でも仕掛けたのか?」
信徒達が俺をぐるりと取り囲み、武器を構える。先がちょっと尖っているのが怖いけれど、どうも儀仗用の武器のようだし、信徒達に人間を刺し殺す覚悟など無いだろう。
「知らないのか? 『聖杯の光』の教主が奇跡を以て邪悪な悪魔を討ち滅ぼすとかネットで言ってたぞ。今日やるとかいう噂だから俺も今日来てみたんだ。面白いものが見れるかもしれないと思ってな」
この日の為にコツコツと双方が双方を討ち滅ぼすとネットに書き込んでおいたからな。俺が。
「な……奇跡だと? ふざけるな! 奇跡でこんなことが起きるか!」
「知らねえよ。戦争でも始まったんじゃないのか? 俺みたいな善良な市民が個人でこんなテロみたいなこと出来るわけ無いだろう。おい、そこの後ろの金魚のウンコ達、スマホくらい持ってんだろ? ちょっとニュースでも見てみろよ。俺のタブレットは吹き飛んでしまったからな」
俺にそう言われて竹内の陰に隠れていた信徒がスマホをササっと使うと「ひっ」と一言声を上げて血相を変えた。その信徒が恐る恐る竹内に画面を見せると、それを見た竹内の顔面もまた真っ青になっていく。俺の予定通りに。
「なに……? 本当に? 本当なのかこれは? こんなバカな…… しかもこんなタイミングで……」
富士吉田に落としたレールがそろそろニュースになっていてもおかしくないタイミングだ。速報か何かが入ったんだろう。
「なんかあったみたいだな。そこのあんた、後で俺にも教えてくれよ。
ところでな、竹内、お前間違ってるぞ。『貴様何をした? 』じゃないだろう? 『影山さん、何もしてませんよね? 』じゃないのか?
もし俺が何かをしてこの状況になったのだとしたら責任は誰が取るんだ?」
「あ」
その場にいる信徒全員が顔を見合わせた。もし影山が竹内の呼び出しを受けたのが発端となって今日のテロじみた事件を起こしたのなら、直接的には影山が悪いことに間違いはないがそもそも藪をつついて蛇を出したのは竹内ということになる。
それはまずいのではないか? いや、まずいに決まっている。
「竹内様、教祖様より非常呼集がかかっています。『誠心の間』に集合せよとの仰せです」
竹内のお付きの女性信徒が俺に隠そうともせず連絡事項を竹内に告げた。つまり俺は何を知られても構わない存在……ってことはこの後どのみち殺されるということか。やだなあ。
「こっちは今忙しいんだ。後にしてもらえないのか?」
「それが、信徒のリストがネットに出回っているとかでその……『聖杯の光』がそのリストを基にこちらの信徒を……殲滅すると言っております。富士吉田の大聖殿にこちらが攻撃を仕掛けたと向こうは言っているそうで、至急対策を講じたいとのことです」
「何故だ? 何故そうなるんだ? どうしてそんなリストが外に漏れてるんだ……?」
「便利なリストがあるもんだなあ……」
俺のその一言で竹内はやっと気がついたようだ。リスト作成にもっとも近い人間が誰なのかを。
なにせついさっきまでそいつはタブレットで信者のデモ参加履歴からプロフィールまで読み上げていたのだ。
「エイギス!」
竹内が怒声を上げた。
「我らを脅かし、仇なす奸物・影山を誅戮せよ。
彼奴めの以前からの教団に歯向かうその不遜な態度を諌め、諭す為に此度はここに呼び出したが、それを不服とした挙げ句にこの鬼畜の所業、許し難し」
おおう。そう来たか。信徒達が構えた武器を下げたところを見ると、ここはエイギスとやらに任せるのか?
「はいっ! あの……ではこの服部はどうしましょう?」
瞳が元気よく声を上げた。笑顔で竹内の要請に応える気満々のところを見るとこいつがエイギスか。どっちかと言うと服部のお守りより「誅戮」のほうが性に合っているように見えるな。
服部は水槽を抱えながら酷く怯えている。そろそろ水槽のポンプのバッテリーが切れる頃だ。ひょうちゃんも苦しくなるかもしれないな。可哀想に。
「そいつはもういらん。影山との交渉材料に使えるかと思ったが、必要がなくなった」
「だってさ。ごめんね服部さん」
どうやら服部から殺すことに決めたようだ。瞳はサディスティックな笑みを浮かべ、楽しそうにポケットから細い串を何本か取り出して服部の目の前でチラつかせた。
「がげやばざぁぁん」
「これはね、トリカブトの毒をたっぷり塗った竹串。これをほっぺたにブチュッと刺すと大抵の人は死んじゃうんだ。動かないでね。動いても動かなくても死ぬけど」
やはりそうか。
この花壇に植えてある青紫の花は全て猛毒を持つヤマトリカブトだ。反抗的な信者や知るべきでない秘密を知った信者を殺すのに使っていたのだろう。植えているだけでも脅しに使えそうだしな。
不審死をした信者のリストの死因の半分ほどが山中での毒死だったのはやはりこういうことだったのか。
「ふふ。私は前口上を延々述べて逆転されるどこかの間抜けじゃないのよ」
言うが早いか瞳は服部の右の頬に竹串を刺し、左の頬へ貫通させる。
「ああああ!!」
「服部、水槽に手を突っ込め! 今すぐだ!」
俺が出せる限りの声を振り絞って叫ぶと、服部は反射的に水槽に手を勢いよく突っ込んだ。不意に水槽に手を突っ込まれたひょうちゃんはそれまで蓄積したストレスが爆発し、服部の手に攻撃を開始する。
そう、服部の手をがぶりと咬んだのだ。
「んぎゃあああ!!」
「あははは。タコに何ができるのさ! 次はあんただよ!」
一旦は足を止めた瞳だったが、服部がひょうちゃんに手を噛まれたのを確認するとこちらを振り返り、妙なテンションで笑いながら俺に突進してきた。目がヤバイ人のそれだ。怖い。
ぱいん
突然、殺戮のフィールドに響く気の抜けた様なゴムの音。
同時に瞳の突進が止まる。
「え?」
信じられない、といった表情で瞳が顔を向けた先にはデルフィノさんがいた。
持ち直したデルフィノさんが撃ったスリングショットの弾が瞳に命中したのだ。例のヤドクガエルの毒を塗りつけた鉄球弾が瞳の太腿に当たって皮膚をやぶり肉に食い込んでいる。
「あ……」
崩れ落ちる瞳。ヤドクガエルの毒は強い神経毒だ。効果が出るのは早い。
「わかったようだな。こっちも毒の武装と対策はして来たんだ。死にたくなければそこのタコの足を齧れ。少しは長生きできるかもしれん」
「た……助けて」
ガクガクと震え、憐れみを乞う目で俺を見上げる瞳。恐怖で失禁さえしている彼女に、俺は大きな声を上げ服部を指差しながら叫んだ。
「いいから早く! あっち見てみろ!」
瞳が朦朧としながら服部を見ると、服部は「いってえなチクショー」と言ってはいるが何故か元気な様子だ。おかしい。本来なら絶命しているか、少なくとも昏倒しているくらいの時間が経過している筈なのに。
「え……?」
「とっとと齧れ! 間に合わなくても知らんぞ!」
瞳は諦めたように、力なく動くひょうちゃんに手をのばし、その足を齧った。
トリカブトの毒であるアコニチンやヤドクガエルの毒であるバトラコトキシンはナトリウムイオンチャネルを活性化させる。反対に、ひょうちゃんの体内に宿る毒、テトロドトキシンはナトリウムイオンチャネルを不活化させる性質を持つ。
そのため、この二種類の毒を同時に注入した場合わずかの時間だが拮抗状態が生じ、どちらかの毒が勝る状態になるまでの間は生存できるのだ。うまく調整されれば数時間もの生存が可能らしい。
そして1分ほど時間的余裕があれば、レグエディットでどちらの毒も解毒することは出来る。俺が今日、ひょうちゃんを連れてきたのはまさにその時間稼ぎのためだ。
俺は逃げ出す竹内を横目に、服部の解毒、次に虫の息になっていた瞳の解毒をしてやった。ひょうちゃんは熱く焼けた7月のコンクリートの上に放り出され、どうやら助かりそうにない。可哀想なひょうちゃん……。
「あなたはもしかして……」
助かった瞳が目を輝かせて俺を見ている。うん、まあ言いたいことは解る。
「神じゃないぞ」
その代行者みたいなものだがな、と俺は言おうとしたが言わなかった。言うと何かと面倒臭そうだし。
しばらくすると救急車とパトカーと消防車がサイレンを鳴らしてわらわらと到着し、俺達は無事保護されたが、意外にもその日のうちに全員がそのまま家に帰された。
どうやら俺達は好奇心でネットの噂を聞いてこの場を訪れたオカルトマニアの物好きか何かと判断されたらしい。軽い身元照会と事情聴取の後は「後日またお話を伺うこともあるかと思いますが、その際にはご協力下さい」と言われただけだった。
その事情聴取もえらく軽く済んだ。ヤドクガエルの毒を塗った弾も竹串も俺がどさくさに紛れて自宅に転送しておいたし、見つかって不味いものは何も持っていないのだから大きな問題になりようもない。
突っ込まれると困るなと思っていた服部の頬の傷や瞳の太腿の傷は、阿鼻叫喚の地獄絵図から運び出されて来た怪我人の傷と比べると些細なものだったようで、見向きもされなかった。
警察は公安と手を組んでテロの線で捜査を展開するようだが、大聖堂崩落や重要施設爆散の原因は分からないまま事件は迷宮入りになるだろう。彼等の想定通りなら高性能爆薬か何かの痕跡が現場で見つかる筈だが、あいにくそんなものが出てくる事は絶対にないからだ。
◆◆◆◆◆
後日、瞳が俺のところにやって来て、世間話のように教団の内部について語って行った。
あの場を逃げ出した竹内は、何日か後に山の中で死体となっているところを発見されたそうだ。あの日、事の成り行きを見ていた信徒達の中に上手なストーリーを作る者がいたそうで、そちらの主張が通ったらしい。竹内の、教祖への必死の言い訳はどうも不発に終わったようだ。
そしてその後、教団による俺への追求はなかった。
そもそも一人二人では不可能な大規模同時破壊の首謀者を俺だと断定することには無理がある。それに「聖杯の光」が一丸となって救世聖杯信教を誅殺すると宣言し、各地で刃傷沙汰が繰り返されている状況では俺を相手に何かしている余裕など無いだろう。
当局が捜査に入ったことで明るみに出た教団の問題行動が次々と報道され、教団中枢が信徒からの信頼と信徒への発言力を双方失っているようだし、教団的には存続に関わる大きな問題から片付けるしかないだろうしな。
今回の件とそれに続く宗教戦争で「聖杯の光」は2万4千人、救世聖杯信教は3万人の死者を出し、鋭意継続中とのことだ。ただ、宗教というのはどうも人数を過大報告するのが世の常なのでこれが本当かどうかは誰にも分からない。
◆◆◆◆◆
「『聖杯の光』はいいとばっちりじゃないの? 可哀想に」
事の顛末を聞いた市川さんがチクリと刺してきたが、俺は平気だった。
「聖杯の光」とて似たようなビジネスをやっていたのだ。さらに信者から多大な寄進を募ったり、一部の二世信者を親から引き離して教団のロボットにしたり、人の家に乗り込んで仏壇を破壊したりと「聖杯の光」がやっていたことの中には救世聖杯信教よりえげつないのもある。
それにあれだ。「巻き添えはしょうがない」は俺のポリシーだからな。
「そうか? 別に心は痛まなかったなあ……」
「善人は避けるのがポリシーじゃなかったの?」
「人が汗水垂らして働いている間、ずっと人の足を引っ張ることしかしてない連中のことを俺は善人とは思ってないんだよ。政権が、社会が、隣国が……ムカつくのはいいけど正しい抗議の仕方、正しい意見反映の方法を全く無視する阿呆は生きてるだけで害悪だと俺は思ってるんだ」
「まあ、間違っちゃいないわね。でも今回初めてじゃない? 自分で手を下したの」
「ん……確かに、やっちゃった感があるね。でも今回は降りかかる火の粉を払う為だったし、ノーカンにならないかな?」
「知らないわよ。誰がカウントしてるのかもわからないし」
バトラコトキシンがナトリウムチャンネルを開きっぱなしにする(テトロドトキシンとは逆)のを勘違いしておりましたので、修正しました (2021/09/19)




