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人類が増えすぎたので減らしてほしいと頼まれました【本編完結済】  作者: にゃんきち
人類が増えすぎたので減らして欲しいと頼まれました
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第三十四話:温泉地にて


 中国自動車道を飛ばして夜に岡山市に着いた俺は市内のホテルで一泊した翌朝、市川さんの実家の住所に向かった。


 市川さんの実家は明治以来の地方の豪商で、お父様は現在は県会議員を3期務める付近では知らぬ者のない名家だそうだ。

 そんな由緒正しい家の前に俺の車を停めたら付近住民の視線が痛いのなんの……。車の車高が低いから、どこかのDQNが来たと思われてるんだろう。


「遅い。予約無駄になったじゃない」


「苦労して来たってのに開口一番それかよ。一応状況は逐一報告してただろうが」


 市川さんの不機嫌そうな顔と声ででまたご近所の好奇の目が俺の背中に突き刺さる。確かに新幹線を使っていれば2日前に到着できていたので反論はできないが、俺はこれでも結構急いだつもりだったのだ。雨が悪い。雨が。



 市川さんの家では俺は招かれざる客というより、ほぼ完全に敵だった。娘をかどわかしてナイジェリアに連れて行ったという誤解と、そのあとの宝くじの当選や株式売却による富豪化で家族のパワーバランスが崩壊した逆恨みなどがその原因だろうか。


 もともと、市川さんの東京での就職も家族には相当反対されていたらしい。その時は市川さんが東京と岡山での給与水準や仕事内容の差などを明快に説明し過ぎて誰も反論ができず、家族が折れた形になったのだそうだ。


 ご家族は市川さんの収入や仕事の充実よりも、早く結婚して子供を産む事の方が大事だったらしい。だがそれを言うと火に油を注ぐようなものだというのはさすがに解っていたらしく反論材料にはしなかったようだ。


「ま、何を言おうが言うことなんか聞きやしないわよ、あんな連中の戯言(ざれごと)なんて。荷物持ってくるわ。もうちょっと待ってて」


 市川さんは「負けないぞ」という感じで笑うのだが、その表情は儚い。不憫だな市川さん。家に上がることさえ許されず、外で待たされている俺も我ながら不憫だとは思うが。


 そういえば前にシャーロットの様子を見に行ってもいいかと言った時に、市川さんに「絶対来ないで!」って言われたっけ。今思い出したわ。こういうことか。


 ちなみにシャーロットはそろそろ米国へ渡る予定らしく、荷造りを始めているようだ。玄関先に引っ越し用の段ボールやエアキャップが無造作に置かれている。


「あ、影山さん!」


 シャーロットは俺を見つけると、たたたと歩み寄ってきてペコリと挨拶をし、再会を喜んでくれた。どうやら今日はカレー分が足りているらしく、落ち着いているようだ。

 さすがによそ様の家にご厄介になっている身では、玄関先ではしゃぎながら俺に抱きついたりはできないらしい。というか、どこであろうが抱きつかれたことは無いのだが何故か期待してしまう。


「向こうで住むところは決まったのか?」


「うん。兄さんと一緒に住むよ。ロスアンゼルスで家を買ったみたい」


「そうか」


「寂しくなるね。シンカンセンだと東京まで3時間ちょいで行けたけど、ロスだと東京まで12時間はかかっちゃうよ」


 シャーロットが何かしんみりしているように見えるのは、俺に手軽に会えなくなるからいうよりも10ヶ月も過ごした日本を去るのがやはり寂しいからだろう。


「俺もそのうちアメリカに行くよ。バイオの会社をアメリカに作るんだ。今、タイラーさんの事務所でいろいろ設立準備してもらっている。決まったら連絡するよ」


「わぉ。相変わらず次の行動が全然読めないね。影山さんは。あ……今日は今からオンセン行くんでしょう? 私も一緒に行くからね」


◆◆◆◆◆


「しゅっぱーつ!」


 市川さんとシャーロットは市川さんの車に乗り込み、俺はドロドロのBMWを1人で運転して美作へと向かった。俺の車は後部座席が狭く、さらに女性2人分の旅の荷物など搭載できない。市川さんの車も「悪いわね。この車、2人用なのよ」だそうだ。


 別に一緒の車に乗りたかったわけじゃないが、のけ者にされるとアレだな……。


 俺達は県道27号線から国道484号線に入り、道なりに北上して温泉を目指した。昨日来た道を引き返している感じだ。信号が少なく、適度にゆるいカーブが連続しているので運転するには楽しい。


「うなれ! 吠えろ! 俺の直列3気筒!」


 俺のBMWはハイブリッドなので360馬力もあるくせに唸ったりはしない。気分だ気分。だってこれ、前からやりたかったんだよぅ。できればV型12気筒とかで。


 美作の温泉は美作三湯と言い、湯原、湯郷、奥津の3つの地域に温泉が湧いているらしい。市川さんのチョイスは下湯原というところの高級温泉宿だ。社員の慰安旅行の名目で必要経費で落とそうという市川さんの魂胆だが、それに乗るのはやぶさかでない。

 なにせ俺はストレスを解放しレグエディットの暴発を抑えるためにここに来たのだ。慰安されて何が悪い。


 せいぜい、ふにゃふにゃになるまで湯に浸かって、その後は人口削減の企画を練ろう。


◆◆◆◆◆


「オラ影山! 飲めー! 飲めっつってんだよオルァ!」


「ノメー! ノメー! ゥケケケケキャホーゥ!」


 お食事宴会場「松の間」はサバトの会場になっていた。市川さんが酔って俺に絡み、笑い上戸のシャーロットが俺のグラスに次々とビールを注いでくる。二人とも浴衣から上気した肌がチラ見えしてかなりエロい。なんだこのサービス回は?


「お客様……あの、もう少しお静かにお願いできませんか……」


 女将が俺に囁いてくるのだが、そんなことができるならとうにやっている。


「すいません。普段はこんなに乱れるヤツじゃないんですが……」


 女将がちらりと市川さんのほうを見て、肩で小さいため息をついた。


市川県議(センセ)んとこのお嬢様でしたか……わかりました。でも、できましたらご協力お願いします」


 市川さん身バレしてるじゃないか。というか、ここ、何度か来たことあるところなんだな。なるほど。ここなら多少暴れても大丈夫……なのか?


「ストレスぅ? プレッシャーあ? あたしにもあるんだーっ! もー! なんなのよーもうー!」


「モー!」


「そうだよなー。市川さんにもストレスあるよなー」


 適当に相槌を打って徐々に勢いを削っていこう。確かにあの家の雰囲気からして旧家のしきたりや未婚女性への風当たりなど、さまざまに理不尽なストレス源がありそうなのは俺にだって解る。

 市川さんにだって吐き出したいストレスもあるってことだ。


 そしてシャーロット、何気に一緒に騒いでいるが、こいつも酒飲ませると結構ヤバイ奴だったんだな。


「心がこもってなーい! もーどいつもこいつもアメリカ行くとか言うしー! あたし1人こんなとこ残ってもつまんないでしょー? そうでしょー? つまんないでしょー?」


「ソダー! ツマンナーイ! ノメー!」


 俺がアメリカ行くと寂しくなっちゃうんだな。市川さん。


「あたしも行くー!」


 え……


「聞いてなかった? あ・た・し・も・い・くーー! アメリカっ!」


「いいのかよ市川さん。こっちは願ったり叶ったりだけど、またその……家の人とか……」


「家とか、かーんけーなあーいからっ! あたしが行くっつってんだから行くの!」


「ィリャフゥゥッ! オーケイカモーン! ウェルカムトゥジユナイテッドステーツ! イェアアッ!」


 俺はひたすら騒ぐ2人に相槌を打ちながらチビチビとビールを飲むしかなかった。

 食卓にずらりと並ぶ岡山ならではの料理も二人のせいでぶち壊しだ。ああ、サワラの刺身とか密かに期待してたのに…… 鮒飯……はいいか。


 酔っぱらい達はそれから1時間ほど管を巻いた後に、かくんと糸が切れたように寝てしまった。


◆◆◆◆◆


 ぐでんぐでんになって意識を失った二人を部屋に運び込んでようやく一息ついた俺は自分の部屋に戻って夜のニュースを見ていた。

 まだ夜の9時を過ぎたところだ。晩飯を食べ始めたのが6時半と、結構早い時間だったからな。


 ニュースに映し出される世界の状況を俺はただ、ぼんやりと見ていた。国際条約よりも国内法よりもデモと銅像が強い自称法治国家。LGBTの差別発言を政治家がしたとか、麻薬組織の抗争で一般市民が多数巻き添えになったとか、インドで白昼堂々行われた多人数によるレイプが無罪になった、とか。

 合間合間には公共放送とは思えないほど思想の偏ったアナウンサーの稚拙な私見が電波に乗せてばらまかれていた。


 見ていて心がささくれる。今日はこんなニュースばっかりか。こんな連中、直接その場に行って塩の柱にしてしまっても俺は少しも後悔しないだろう。

 沢森のようなクズは世界中どこにでも居る。そしてそいつらが口八丁で麻薬や銃や権力を手に入れたら、やることはだいたいいつも同じだ。


「ホントに、どうしようもないな……」


 そんな言葉が俺の口からポツリと出た。


「根こそぎなんとかしちゃいたいよね」


「うん……やっちまうか……って、えぇっ?」


 俺の後ろで市川さんがニヤリと笑っていた。さっきまで部屋で人事不省に陥っていた筈なのに……。


「もう復活したのか、早いな。でも、音も立てずに俺の部屋に忍びこむのはどうなの?」


「いいじゃない、減るもんじゃなし」


「いや、確実に何かが減るよ。何より寿命が縮む」


「はいはい、ごめんなさい。いえね、話があって来たのよ」


「何だ? 話って」


「……そろそろ私に話してくれないかな。影山さんが私に、何を隠してるのかを」


 そういった話を前振り無しにしてくるのか。泥酔が収まった直後に……。そして、何かを隠しているところまではお見通しか。さすがだな市川さん。


 独りで抱えるには重すぎる使命だ。今まで何度告白しようと思ったことか。でも、市川さんがある日「お巡りさん、こいつです」って言うかもしれない可能性が払拭されるまではなあ……。


 それに、俺の使命を知り、協力するとなると大きな精神的負担が市川さんにのしかかる筈だ。俺のように「あいつ」にメンタルを強化されていなければとても抱えきれないだろう。うん、無理だ。


「いずれってことで……。市川さんのことを信じてないわけじゃないんだが、あまりに事が大き過ぎてさ。巻き込みたくない」


「巻き込みたくないって、前の(きん)のマグカップの時もそう言って、結局ケロッと話しちゃったわよね。でも、私、そのリスクちゃんと受け止めたよ? だから話してほしいんだけどなあ。ケチ」


「ケチで上等だ」


「んー……私の仮説では、影山さんは異世界から転生してきた一般人。剣と魔法が当たり前の世界からやってきた影山さんは転生に当たって神様からチート能力をもらってこの世界で無双してるんだけど、倒すべき魔王が居ないんでとりあえず愚かな人々を間引きしてる……ってとこかしら」


 市川さんらしからぬ仮説だ。というか市川さん異世界(そっち)方面のリテラシーが高いじゃないか。面白い、乗ってやる。それにしても「間引きする」というところにはもう気づいているのか。やだ、何この人、本当に怖い。


「惜しい。俺は異世界から転生してきた魔王で、神様からチート能力をもらってこの世界で愚かな人々を間引きしながら勇者が現れるのを防いでいるんだ」


「マジ? 魔王が神様にチート能力もらうなんて反則じゃない?」


「だいたいマジ」


「うん。わかった。じゃあ協力するよ魔王様、全面的に」


「へ?」


「影山さんは嘘が下手だから、今までの嘘は全部見破れた。だけど、今回の魔王転生についてはどこまでかは分からないけど嘘じゃないみたいね。

 間引きのくだりは影山さん自身が追認してるからきっとそうなんでしょう。つまり、間引きが影山さんの行動原理であり、不思議な力の根拠になってるんだわ」


 どうしてそう頭がいいんだ、市川さん。ここは笑い飛ばして「やだーもう、影山さんてば冗談ばっかりー」って言って俺の肩をぺしっと叩くところだぞ……。


「まあ、どこまでホントかわかんないけど、あなたが私をいろんなものから救ってくれたのは確かよ。誰にもできない方法でね。

 そしてこれからもそうして欲しいなって思ってる。だから、Win-Winになるように私もあなたに協力するわ」


「お、おう……」


「それからここの旅館、うちの実家の定宿なのよ。あんまりこっちの部屋にいると女将から実家に告げ口されちゃうの。だから今日はこのへんで。また明日ね」


 ガラピシっと勢いよく俺の部屋の戸が閉まり、市川さんは去った。これは……うまく誤魔化せていないな。酒の上の戯言だったとか言えないかなあ……言えないよな。


 その後俺は寝るまでの間、関西で絶大な人気を誇るバラエティ番組をリアルタイムで視聴し、大笑いしながらもどこか冷静な気分を保っていた。


「どうすっかな……」


 夜が更けていく。湯煙が闇に溶けていく温泉街で、俺は今日も泥のように眠った。

 テレビはどこかで聞いたようなインストルメンタルをただ、流していた。


★★★★★


 ルーカスはロスアンゼルスのハリウッド郊外に買った自宅に、米国西海岸の個人投資家、起業家とナイジェリアから招いた投資先の起業家を招いてパーティを開いていた。ルーカスの起業直後から一緒にやってきたIT企業の仲間達も一緒だ。


 彼等をアメリカの投資家や事業家と交流させ、まともな国際感覚を身に着けさせると同時に、先進国のインフラやサービスのレベルを実感してもらって国に持ち帰らせるのがパーティのねらいだ。


 サービスのレベルというのはどうしても自分の周辺環境が基準になりやすい。生まれた時から残飯を平気で次の客に出す食堂を見ていれば、きっと残飯を客に出すことが当たり前になってしまうだろう。

 ナイジェリアから招待したのは新進気鋭で教育レベルも高い起業家達だが、そのあたりのサービス感覚を先進国レベルで身に着けているとは正直言い難い。ルーカスはそこに問題意識を持ち、今回は自腹を切って彼等を連れてきたのだ。

 ルーカスは影山と違い、祖国としてナイジェリアに愛着もあるし発展も願っている。いずれ羽ばたく若者達を郷里(くに)から呼んで遇するくらい、なんでもないのだ。


 ルーカスは米国に住んではいるが、ニュースでナイジェリアが取り上げられれば目が釘付けになり、災害が起きればチャリティで結構な金額を寄付してしまう。それくらいに地元が好きなのだ。


 ナイジェリアから起業家達を招待したもう一つの目的は、いわゆるタイムマシン戦略だ。

 米国で流行りつつあるビジネスのいくつかを、彼等がナイジェリアに持ち帰って実行させるための足がかりの場としてこのパーティを使ってもらえればいい。

 幸いにもナイジェリアは公用語が英語だ。訛りは酷いがお互い意思疎通ができないほどではない。業務提携でも代理店契約でも、タッチポイントがあれば締結もできるというものだ。


 オタオタしながらもあちこちで名刺交換をはじめている若き起業家達を見て、ルーカスは目を細めていた。


 ルーカスは投資家として、慈善家として一角の人物になりつつある。もうすぐシャーロットと暮らせることも彼にとっては嬉しい出来事だ。


 プールの脇でカクテルグラスを傾けていたルーカスと話そうと、招待客が次々やって来る。ルーカスは時に歓迎し、時に恐縮しながら彼等と挨拶を交わし、ホストとしての責務を果たしていた。


「うまくいってるようね」


「ああ、君のおかげだ。ライラ」


 ナイジェリア現地でルーカスの代理人を務めるライラ。今や彼女はラゴス周辺だけでなく、危険な北東地域にさえ出向いて見どころのある起業家と会っては投資ラウンドの開催を勧めている。今日のパーティが開催に漕ぎ着けられたのも彼女の手腕に依るところが大きい。


 女性の人権が低い彼の国にあって、弁護士資格を取り法廷にまで立つのは並大抵の気概ではない。さらに彼女には企業経営のセンスがあり、投資対象には懇切丁寧な経営指導を行う。

 結果、投資を実施した企業の7割は順調に業績を上げた。それらの中には数年後の上場を目指せそうなのも何社かはある状況だ。


 ナイジェリアが急速な経済成長をしている国という背景を考慮からはずしても、プライベート・エクイティの勝率としてはかなりのものだと言っていい。


「実家で商売でもしていたのかい? 凄い回収率だ。感心してる」


「影山さんに教わったのよ。勘所(かんどころ)みたいなものを。向こうは教えたとか思っちゃいないでしょうけどね」


「影山か……シャーロットの合格祝いがどうのって一回連絡してきたけどそれっきりだな。久し振りに聞く名前だ」


「そう? 私には時々連絡をくれるわよ?」


「そうか……俺、嫌われてるのかな」


「そういうとこホント馬鹿ね。変わってない。普通に考えて、嫌ってる相手に何百億ドルも渡さないと思うわ」


 ライラが苦笑いしてルーカスの方を見ると、ルーカスもライラの方を見ていた。


 二人の目が合った。プールの水面で乱反射した光が2人を照らし、揺らめく。二人の間にはしばしの静寂が訪れた。

 今日のライラはいつものビジネススーツではなく、頑張りすぎない程度に背中のあいたパーティドレスだ。いつもと違うライラの姿を見たルーカスはまんざらでもないという顔をしている。


「どう? このドレス。こっちで慌てて買ってきたにしては良いと思わない? さすがロスね。こんなのが普通に売ってるんだもの……」


 ライラも、普段と違う格好をしているせいか少し気持ちが高揚している。今この場で直接的な行動に出て、眼の前の金持ちイケメンを落とすつもりはない。

 しかし、彼女とて妙齢の女性。ルーカスにジャブの2,3発は入れておかないと後で後悔するかも、くらいには考えていた。


 ルーカスはそのジャブを真正面から食らって多少混乱したものの、自分自身の基本方針は固まっていたので動揺は最低限で済んだ。


 ライラが自分に気があるのは分かっているし、自分もライラならいいとは思う。だが今、彼女にアメリカに嫁いで来いと言うのはいささか乱暴だ。これから一緒に暮らすシャーロットの意見も聞いておかないといけない。焦りは禁物だ。

 ここは慎重に行くのが良いだろう―― 色恋沙汰が得意でないなりにルーカスも考えていた。

 実は彼も、ライラのアメリカへの印象を聞いてみて、悪くないようなら一緒に暮らさないかと言うつもりが無いわけではなかったのだ。


 つまり、この時点で2人の思惑はだいたい一致していた。


「そういえば、影山さんはアメリカに会社作るって言ってたわ」


「ん?」


「バイオや薬品の会社だって言ってたわよ。そのうち相談に来るかもね。あなたに」


「イジメられたら慰めてくれるか?」


「その依頼、受けたわ。でも高いわよ」


 ライラとルーカスの控えめな笑い声がパーティ会場の隅で響いては夜の闇に消えていく。



 暦は、7月になろうとしていた。

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