表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類が増えすぎたので減らしてほしいと頼まれました【本編完結済】  作者: にゃんきち
人類が増えすぎたので減らして欲しいと頼まれました

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/143

第十五話:表と裏の構想


 だいたいの構想がまとまったところで大場社長はスタッフと弁護士を呼んで実施検討と送電関連の法律の検討に入った。


 この後は本社に稟議の提出、決裁、期内臨時予算獲得の後実行へと続く長い道のり。

 ゴーサインが出るまではこの計画は一時停止。技術職の俺はメガソーラーの建屋設計を詰めるくらいしかやることがない。


 とは言っても、今更予算に影響が出そうなダイナミックな設計変更が出来るわけもなく、忙しいのは調達部門くらい。

 かくして俺はしばらく会社を休んでも問題ないくらいに暇ができてしまった。


 丁度いい感じに時間も出来たし、この国に来てからずっと練りに練っていた人口削減の策を実行に移すとしよう。うん、決めた。


「市川さん、ちょっとお使い頼んで良いかな?」


「はぁい? 只今参ります」


 若返った市川さんは以前と比べてなんだかアタリが柔らかい。それに俺への話し方も年上の男性向けの微妙な敬語になっている。多分、絵的に20歳そこそこの娘が俺のようなむさい男に上から目線で話しかけるのはまずいとでも思ったんだろう。


「それで、お使いというのは?」


 市川さんも今は決済待ちで暇な筈。そんな彼女に出張のお願いだ。


「日本に行って、年末ジャンボ買ってきてくれないかな。売ってたら東京都宝くじも。買ったら一旦こちらに送って。アレやった後すぐに送り返すからさ。

 あとはメールで指示を出すけど、向こうでいろいろ買い付けてきて欲しいんだ」


「宝くじはともかく、いろいろ買い付ける方は本社の人に調達を頼めばいいのでは? その方が会計処理とか楽ですよ」


「そうなんだけど……ええと、俺が個人的に必要なものをちょっと……」


 市川さんが、ニヤリと笑ってこっちを見た。


「影山さん、会社のカネで私を出張させて、ご自分の御用で私を使うんですか?」


「あはは……じゃあ、やめとくよ。俺が行ってくるわ」


「行かないなんて言ってませんよ。そのかわり、何を考えてるのかちゃんと教えてくださいね。それと、お金が必要でしたら帰りにアメリカで高額の宝くじも買ってきますけど」


「そうだね。それもお願いしようかな。できるだけ当選日の近いのを頼むよ。何をするかはちゃんとあとで話すから」


 その夜、俺は市川さんに人口削減の件には触れない形で今考えている策について説明した。


「はぁ……せっかくの日本出張なのに忙しすぎるわ。なにこれブラック?」


 やるべきことを全てリストアップした市川さんは、軽い不平を言いながら日本へと旅立って行った。


◆◆◆◆◆


「やれやれ……君はいったい何をしているんだ。せっかく与えた能力を使ってやっていることと言ったら金儲けと異性の関心を買うことばかり。まさか君自身が異性とやたらに交尾をして人口を増やすつもりではあるまいね?」


 いきなり目の前が白くなった。いつか見た、あの白い空間だ。シャーロットの勉強を見てやって、あとは寝るだけだったんだが。


「……久しぶりだな。元気だったか」


 目の前の「あいつ」はイラついているのか言葉が刺々しい。こんな時は大人しく受け流すに限る。俺も「あいつ」の一方的な依頼のせいで平穏な生活から遠のいたぶん物申したい事は山ほどあるが、だからといって負の感情をぶつけ合っても良いことなんかない。


「ああ、そういう挨拶を大事にするのだったね、君の国では。ありがとう。私は元気だよ。私のコンピュータは少々苦しそうだがね」


「あいつ」ははぁっとわざとらしくため息をしてみせた。皮肉の翻訳ができるようになっているのか。さすが高次元知的生命体の翻訳機だ。


「意味もなくただ遅滞させているわけじゃない。直接的な攻撃による人体の殺傷はやり過ぎるとこちらが危なくなる。それを避けるために俺はいろいろ考えているんだ」


「そう願いたいものだね。どんな風に考えているんだい?」


「俺の国では実際に人口が減っている。理由は様々だろうが、俺はこう考えている。一人の人間をその国で一人前にするコストが高くなり過ぎて、複数の子供を育てるだけの負担を抱えるリスクを親世代が避けているんだ」


「ふむ……」


「この状況を、人口がやたら爆発している地域で再現して人口増加を抑制する」


 このアイデアはアイーダ月ヶ瀬の「富士山と釣鐘」から着想を得ている。というかほとんど丸パクリだ。富士山型年齢分布を加速度的に釣鐘型に変えてしまえば良い。こうすることで平和的に人口増加は落ち着く。いいアイデアじゃないか。ふん。


「面白い考えだが……今の君の国、日本と言ったか。日本での人口減少と同じ現象はそうどこでも見られるものでもあるまい。何より、今の日本の現状は一人二人の手によるものではないだろう。できるかね、一人で?」


「容易ではないだろうが不可能ではないと考えている。高学歴高コスト社会、閉塞感、厭世観、経済格差みたいな条件が揃えば可能だろう」


「気の長い話だね。前に担当させた男はあっという間に6000万人くらい消し去ってくれたものだが」


 随分頑張った先輩がいるもんだな。例によって誰とは聞かないでおこう。


「あんたから貰った俺の能力は少々使い勝手が悪い。使っている間変な顔になるし、結構な時間もかかる。だが、今の地球の人間社会を動かす原動力となる経済に干渉するには相性がいい。だから、日本で50年で起きたことを無理やり25年くらいであちこちに起こすことは可能だろう」


「ふむ。使い勝手が悪かったか……まあ、使えてるようだからいいじゃないか」


「おい」


「使い勝手の向上は鋭意努力しよう。ただ、いついつまでと約束はできない。言っただろう? 君達の脳は我々にとってもかなり複雑なものだ。君に与えた現状の能力だって、君の身体への負担を避けるように作るのには随分と手間がかかっているのさ。

 まあ、使い勝手が悪いことを考慮して、君の活動は気長に見ることにしよう。ただ、これは覚えておきたまえ。もしも地球の人口が100億を越える事態になったらもう一人、今度はまさに殺人鬼というエージェントを送り込む。それが嫌なら少なくとも年に1万人くらいはなんとかしたまえ」


 やれやれ、能力の使い勝手は現状維持か。期待してたんだがな。それにしても一年で1万人か……気軽に言ってくれるなまったく。

 だいたい、地球の公転周期なんかこいつらにゃ何の意味もない時間だろうにいちいちこっちに合わせて条件出してくるあたり、俺をいびるのを楽しんでるんじゃないかと思うくらいだ。


「こないだ減らした40人は3200人でカウントしておこう。百年で80倍なんだろう? 実際はこの200年で8倍というところだが、これはオマケだ」


「助かる」


「ところで君の能力の使い方だが……どうして位置情報がオブジェクトのパラメータの一番最初になっているか、考えたことはあるかね?」


「いや、考えたこともないな」


「位置情報を、もう少し有効に使ってみたまえ」


 曖昧なアドバイスだ。これは迂闊に位置情報はいじれないな。おそらくこのアドバイスはこいつにとっては都合がよく、俺にとっては何かと面倒なことが起きるに違いない。


「君、私のアドバイスを聞く気がないだろう」


「なぜ分かった」


「そういう顔をしている」


 翻訳はどうやら言語だけに限らないらしい。


「一つ聞いていいか」


「なんだね?」


「あんたの話し方が前に話した時よりも妙に芝居がかった感じがするのはどうしてなんだ?」


「ああ、君の行動を見ている最中に、人間の創った人形劇というやつにハマってしまってね。賢者とか仙人とか黒幕っぽい登場人物は何かとこういう話し方をしているものだから少し真似してみたんだ」


「そうか……人形劇な」


 人形劇は登場人物のキャラクター性を操演とジェスチャーで補うが、それ以外にモノを言うのはやはり台詞回しだ。なるほど。特殊な語彙や言いまわしが身につくわけだ。翻訳機能に。


「こうやって、シミュレーションの中の知的生命体が創るものを楽しむのがこのゲームの醍醐味なんだよ」


 ゲームの醍醐味ときたか。覗き見られてるってのは、あまり気分のいいものじゃないがそれが神様ならしょうがないってところか……


「もういいかね。ではまた、時々こうやって話そう」


「あ、おい」


 俺の引き止める声を無視して白い空間はかき消え、昏倒していた俺が目を覚まし最初に見たモノは朝9時半を指す時計だった。


「シャーロット! 8時に起こせって言ったろおぉ!」


◆◆◆◆◆


 壬生の本社に上げたメガソーラー兼マイニングファーム計画の稟議はあっさり承認された。リスク管理さえちゃんと出来るなら問題ないとエネルギー事業部からもアフリカ・オセアニア統括本部からもOKが出たのだ。


 俺は建設部と連携して、エヘブーイグボの東、オスーン川近くにある建設用地にこの建屋を作るための準備を始めた。


 この土地は元々は耕作放棄地であり、その前は木材の違法伐採地だったところだ。周囲は熱帯雨林の密林。日本の雑木林と違って生物多様性の確保などには十分気をつけなければならない。

 それにあのあたりはヨルバ族の土地で、近くを流れる川の上流には彼等の信仰対象である聖なる木立があり、世界遺産にもなっている。

 だからなのか、用地を確保する際には環境や宗教に対して配慮する以上に、贈り物や雇用の確保など面倒なことをする必要があったらしい。そのあたりは俺の前任者が頑張ってくれたようだ。


「さて会社はOK。次はこっちだ」


 壬生の計画が進む裏で、俺は日本に行かせた市川さんに日本の中古のユンボ、パワーショベル、ブルドーザーといった建機を40台ほど買っておいてくれと注文を出した。

 また、露天掘り用油圧式パワーショベルをなんとかして買ってもらうようにも頼んだが、これは一台13億円もする。即金で買うには資金が足りないと市川さんから連絡を受けた時はその値段に感心したりしなかったり。


 市川さんと相談して支払いを年明けにできるか確認したところ、どこも大丈夫とのことだったので思い切ってパワーショベルも発注した。支払い期日はどうせ年明け以降になる。その頃俺達は宝くじの当選金を手にしている筈だ。


 12月半ば、市川さんは買い集めた建機42台と補修部品を載せた船を横浜・南本牧からラゴスのアパパ地区にあるコンテナ埠頭に送り届ける各種手続きを終わらせた。

 これだけの荷物が個人名義だと何かと面倒らしいので、市川さんは俺の了承を得て日本に「影山物産」という会社を作り、その会社の名義でさまざまな交渉や手続きを進ませたようだ。


 設立して間もない会社が大きな商取引をしようとすると普通は取引先も何かと様子見をしたがるものだが、現金先払いかつ預金証書の提示でなんとか切り抜けた。もちろん、預金は俺の口座から移したものだ。

 億のカネを動かすのは初めてだったのでマウスを動かす手が汗でびっしょりになったけどな。


 ともあれ、これで何の問題もなければ3月には各種建機がラゴスに到着する筈だ。


◆◆◆◆◆


 市川さんは大晦日に年末ジャンボ宝くじ1等前後賞10億円3本、2等1000万円7本の当選を確認し、年明けにみずほ銀行で担当者の引きつった顔を横目に当選金を無事全額受け取った。

 当選金の30億7000万円は市川さん、俺、影山物産が3等分して受け取る形だ。

 これで影山物産の各種支払いは滞りなく行えるって寸法だ。


「あー一生分のお金できたわー。これでも会社辞めれるわー。親もうるさいしナイジェリアそっち帰るのやめよっかなー」


「いいよ。その代わり俺はもうキミのお肌がどうなっても知らんからな」


 最近の俺たちの会話はそんな軽い鞘当さやあてみたいなのが多い。


 まあ、市川さんのご両親の心配も解らないでもない。大切に育てた自慢の娘がある日相談もなくナイジェリアに行ったかと思うとえらく若返って日本に帰ってきて宝くじを当てたとか、ご両親はどこからどう突っ込んで良いのかわからんだろう。


「ふふ、冗談よ。日本での用事が終わったからアメリカ経由でそっちに帰るわ。それより、そっちの首尾はどう? うまく行ってる?」


「概ね順調だよ。重機の運搬車両も抑えたし、お餅もたっぷり作ったよ」


「おお、ついにお餅作りましたか」


「うん。ジャリジャリのお餅を10ダースほど。シャーロットは自分達が食べるものだと思ってたみたいでちょっと不服っぽいけど」


 お餅というのはこの国の国民食の一つ、パウンデッドというやつだ。


 俺はこれの作り方をシャーロットに頼んで教えてもらい、ひいひい言いながら大量に作った。なんと合計で10ダース。

 作業には途中までシャーロットも製作に参加していたが、自分が食べるものではないということが判ってからは手伝ってくれなくなった。


「あー……食べるつもりで作ってたんなら怒るでしょうねえ」


「もうね、怒っちゃってさ……」


 彼女には「バザーで売るから」と言っておいたが、あまり信じてはいないようだ。


 そうそう。シャーロットは最近高校へ復学して勉学に勤しんでいる。半分諦めていた状況が盛大にひっくり返ったせいか彼女の勉学への意欲は高く、俺も若い頃これほど勉強していればもう少しマシな人生だったかもしれないと思うほどだ。


 彼女はいつか俺に恩を返したい、と真剣に言ってきたりするが、そんな事を言われるとこっちが恐縮してしまう。俺はルーカスにその恩とやらを100倍にして返してもらう予定でいるのだ。


「あとは小高い山を一つ、買えればいいな」


「そうね。それでほぼ完璧ね」


 人口構成を釣鐘型に変えるのに宝くじの当選金だけが財源だと心細く、手持ちのカネを増やすためにいろいろと勝負に出ることにしたのである。今回の市川さんへの様々な買い物依頼はそのためのものだ。


 なに、勝負に負けても一文無しになることだけはない。なにせ、カネがなくなったら宝くじを買えばいいのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
だ、大躍進⁉︎
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ