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人類が増えすぎたので減らしてほしいと頼まれました【本編完結済】  作者: にゃんきち
人類が増えすぎたので減らして欲しいと頼まれました
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第百三十四話:人衆ければ天に勝つ

★★★★★


 貴子達は影山が幽閉されているベルンハルトの屋敷から2㎞ほど離れたヌジロ湖のほとりに車を停め、車中で作戦会議をしていた。


「なるほど……それにしても奇抜なことを考えるものね」


 市川から説明を受けたシャーロットはひとしきり感心してリクルートスーツを狭い車内で着替え始めた。

 その間にも市川は地図を広げて自分が練った作戦を皆に説明する。余程頭の中で繰り返し練ったのか、その言葉には淀みがない。

 スマートフォンの懐中電灯アプリで照らされた地図の上を市川の指がするすると動き、ところどころで止まる。それをメンバー達は熱心に見ていた。


「うぇ……」


 説明を受けたメンバー達の顔がみるみる曇る。皆が市川を見る顔が、素人をいたぶっているヤクザを見るような顔になっていった。ありえないことだが皆、ベルンハルトに同情していたのだ。


「えっげつなあ……ドン引きやわ」


「いやいや、イッチーならこれぐらいするでしょうよ」


「そうね。私がいじめられてた時も凄かったしね」


 市川の眉間に皺が寄るが、皆見ないふりをして各自が役割と装備の確認をしていく。


「では配置につきましょう。皆これを持って。チャンネルは合わせておいたから連絡は密にね。」


 市川は無線機を全員に配り、その場でスイッチを入れさせ正常に動作しているかを確認した。この戦いのために秋葉原で買ってきたものだ。無線機は全員分問題なく動作が確認できたので市川は内心ホッとしていた。

 電波は国によって使って良い周波数が違うので、想定されている国以外で無線機を使うのは難しいと前に影山から聞いていたのだ。


「いやぁ私、あれがやりたかったな。配送業者に変装してトラックで乗り込んでエリザベスに扮したシャーロットさんを『お届けにあがりました』って言って中に運び込んで……みたいなやつ」


 相田がどこかで聞いたようなアイデアを話すが他の3人は相手にしない。戦闘前のジョークでリラックスさせようと言う気持ちは分からないではないが、すでに心のスイッチは真剣モードに入っている。


「トロイの木馬と怪盗アニメを足して3で割ったような作戦は採用しません」


「せやかて、私だけここでお留守番やろ? せめて作戦とかのお役に立ちたいやん」


「気持ちはわかるけどね」


 貴子も市川も、シャーロットも少し苦笑いをして相田の背中をポンポンと叩いたり頭に手を置いたりしたが、すぐに表情を引き締め直し、装備と手順の最終チェックに入った。


「予定時刻よ。準備はいい?」


 草木も眠る午前2時。貴子がコルウェジに到着した頃には見えていた月はすっかり厚い雲に隠れてしまっている。ベルンハルトの屋敷から漏れる灯りと、眼下の24時間稼働の露天掘りコバルト鉱山の作業ライトだけが地面を照らしていた。


「行こうか」


 貴子のメルセデスから出た乙女達は一人、また一人と闇の中へと消えていった。


★★★★★


「……始めるわよ」


「了解」


 市川はヌジロ湖の湖面を見渡して、可能な限り広い範囲をターゲットすると一気に水面の温度を上げた。水面からは水蒸気がモウモウと立ち昇り、暗い空へと吸い込まれるように消えていく。


 高温に耐えられなくなって湖面から飛び出す魚や小動物が岸でびたんびたんとのたうち、唸り、暴れ始めた。その音が闇の中でどんどん多く、大きくなっていく。

 顔も髪の毛も、もちろん服も立ち昇る水蒸気と汗でびっしょりだ。しかし、どれだけ恐怖と不快感で逃げ出したくなっても市川は湖面の温度を下げない。


 15分後、周りには雨が降り始めた。コルウェジの10月は雨季だ。ただでさえ雨が降りやすい。そこへ市川が立ち上げた膨大な量の水蒸気が呼び水となり局地的な豪雨(スコール)を降らせはじめたのだ。


「雨を確認したわ。こちらも始めます」


 貴子は飯高の倉庫に跳び、中にあった原付バイクのタイヤほどの大きさの鉄の塊30個をコルウェジにテレポートさせ、次にその鉄塊をディファレンス・メーカーで屋敷の上空へと放り上げた。

 上空高く放り上げられた鉄塊は雨に混じり屋敷の周囲にどすんどすんと降り注ぐ。急に降り始めた雨を避けるため詰所や屋敷のテラスの影に身を寄せようとしていた見張りのうち一人の頭にこれがあたって死亡した。


「始めますわよっ」


 間を置かずして貴子は上空にある低い雲の下面と地表との間に静電誘導現象を起こした上で、伊勢志摩でやったように鉄塊と雲との間に大きな電圧をかけた。

 すさまじい音と雷光が空をつんざき、マラカイボの灯台のような、またはファンタジーRPGの範囲攻撃のような雷の束がベルンハルトの屋敷を何度も襲う。

 この攻撃により、屋外で銃を携帯していた警備の傭兵達の大半は雷に撃たれて行動不能になるか、または死亡した。


「カウント報告。12名死亡。6名が行動不能です」


 相田がカウント能力で死亡者の数を随時報告する。誰にとっても聞いていて気持ちの良いものではないが、障害が排除されている証拠と考えればいくらかは気が楽になるというものだ。


「敷地内、詰所付近の警備員数現在ゼロです。貴子さん落雷ストップ。シャーロットさんは落雷停止を確認したら敷地内にテレポートして下さい。屋敷内まだ人が居ます。多くは非戦闘員ですが注意が必要です」


「了解、落雷停止後突入します」


 突入の合図で落雷が止まった。死屍累々となった詰所の前を足早にリクルートスーツを着たシャーロットが通り過ぎる。彼女の手には市川の部屋のロッカーから失敬してきた拳銃が握られていた。


「ヒュゥ、やるもんね」


 焼け焦げた死体を横目にシャーロットは感心していた。支援があればこんなにも楽になるのか、と。単独で突っ込んでいたらまずこの警備の傭兵達をどうにかしなければいけなかった。

 最初の二、三人はうまくいっても十人を超えるとなるとそれなりに面倒だったに違いない。


「言いすぎたかな……」


 足手まといだ、自分の成果へのぶら下がりだと市川を非難したことをシャーロットは反省した。

 しかし今はそんなことを考えている場合ではない。銃のグリップで自らのこめかみをコツンと叩くと、シャーロットは口を真一文字に閉めて前進を続けた。


「侵入を開始する」


 カーテンが引かれていない窓を見つけ、中の家具の座標を取得。そして少しずらした地点へディゾルブを起動。シャーロットはやすやすと屋敷の中へと侵入した。


「侵入に成功した。落雷を再開してください」


「了解。落雷を再開します」


 一方、屋敷の中ではベルンハルトが脂汗を垂らしていた。

 鳴り響く雷と鉄塊の落ちる音、そして窓から見えた傭兵達の焼け焦げた姿。

 押し寄せる不安と目の前の現実は彼に最悪の事態を想定させた。


 もしかしたら自分はとんでもない連中を敵に回してしまったのかもしれないーー。


「くっ!」


 ベルンハルトは手元に置いていた緊急事態を知らせるスイッチを躊躇なく押した。

 しかしその緊急事態のために動ける人間はもはや両手の指の数より少ない。大半は既に屋外で焼け焦げていたのだ。後は市街にいる連中の応援を待つ他ない。


「アンネリーゼ、ここは危険だ。逃げるぞ。お前も来い」


「お祖父様! 私……怖い! 何? 何がどうなってるの?」


「壬生貴子だ! 壬生貴子が来たんだ! おおお……」


 住み込みの使用人や警備にあたっている者達が邸内を右往左往する中、ベルンハルトはアンネリーゼとともに屋敷から姿を消した。


★★★★★


「ほら、旦那サマの居場所をアタシに教えとくれよ? 綺麗な絨毯がお前の脳みそで汚れちまったら明日の掃除が大変だろう?」


 屋敷のことなら屋敷の人間に聞くのが一番いい。そう考えたシャーロットは使用人を捕まえては銃を突きつけ、影山とベルンハルトの居場所を聞き出だそうとしていた。


「だ……旦那様とお嬢様は時折こんな風に突然姿を消すんです。ここ最近は毎日です。私らもどこにいるかは知りません……本当なんです、助けてください」


「ちっ」


 誰に聞いてもこんな有様(ありさま)だ。シャーロットは捕まえた使用人の胸ぐらを雑に手離した。いったい影山は、ベルンハルトはどこに居るのか……?


 屋敷中を虱潰しに探し回ったが見つからない。出てくるのは雑魚ばかりだ。


「そこの女!銃を捨てて手を頭の後ろで組め!」


「ふん、こうかい?」


 屋内警備の者と鉢合わせることも何度かあったが、戦闘にはならない。

 こんな時、シャーロットは影山から教わった温度操作を応用する。彼女の顔が一瞬歪むと、警備員達は体の温度を数百度に上げられ、ほとんどが声をあげることも出来ず絶命した。

 遺体や衣服、装備品は燃え上がり、嫌な匂いと炎を屋敷内に撒き散らす。それを見た使用人達は悲鳴を上げながら消火に駆けずり回ることしかできない。


「こちらシャーロット。ターゲットが発見できない。そちらで何か分かる?」


「スキャンするからしばし待て。貴子、お願い」


 湖畔でずぶ濡れになっていた市川を貴子が迎えに行き、屋敷の側に転送した。

 市川はすぐさま空間情報エディタでベルンハルトの屋敷をスキャンする。


「大きな地下空間があるわ。あと、1階の大きな部屋に大きな金属の箱がある……エレベータかしら。そちらから見える?」


「居間だね。チェックする」


 シャーロットが居間の壁をチェックすると、大きな肖像画のかかった額の裏にエレベータの出入り口が見つかった。


「ビンゴ。エレベータの扉を確認した。協力に感謝する」


「早いわね」


「居間は角部屋だったからね。片方の壁が外に向いてるしもう片方は廊下側。チェックする壁は一つしかないよ」


 シャーロットは冷静だ。報告を聞いた市川はそう感じた。この状況で凍るような声で報告をしてくるシャーロットを市川は頼もしく思ったが、同時に少しだけ恐ろしくも感じていた。


「地下階に行くのね。気をつけて」


「了解」


 シャーロットは市川に持たされたサングラスをかけ、エレベータに乗って地下に向かう。何の疑問もなく、そうするのが当然であるかのように。


 夜は更け、雨は本降りになっていった。


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