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人類が増えすぎたので減らしてほしいと頼まれました【本編完結済】  作者: にゃんきち
人類が増えすぎたので減らして欲しいと頼まれました
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第十三話:で、どこまで知ってるんだ?


 一日が過ぎた。


 俺が市川さんに与えた猶予は一日。別に一日じゃなくても良かったんだが、まあ成り行きだ。


 市川さんの先見性や機転の利き方は俺の想像を遥かに超えていることは過去の事例で検証済み。余計な時間を与えたりしない方が良いってのはある。


 前の職場で有象無象が大挙して俺のカネに群がり来る中で、市川さんだけが俺のレグエディットの尻尾を掴んだ。それだけでも俺にとっては十分脅威なのに、その謎を解くために彼女ははるばるナイジェリアにまで俺を追いかけて来ている。


 何故そうまでして謎を解きたいのか―― カネか、それとも他の何かか?

 今のところマグカップを金に変えられるってことしか知られていない筈なんだが……


◆◆◆◆◆


 昼一番のミーティングが終わった後、俺は市川さんに会議室に残るよう指示した。

 彼女の本当の目的は何なのか、直接本人に聞いてみることにしたのだ。


 カネなら幾らか用立てる事は出来る。多少の出費で彼女と穏当な関係になれるならそれもアリだ。


 二人になった会議室。市川さんは会議室の窓の外を少し気にしてカーテンを閉め、振り返って俺と対峙した。その表情は真剣そのものだ。


「……昨日の話だよね?」


「そうだよ。シャーロットがいるから家ではちょっとな。

 あらかじめ言っとくけど、俺は市川さんと敵対する意思はないよ。どちらかと言うと俺は市川さんには助けてもらってばかりでありがたいと思ってる」


「それを聞いて嬉しいわ。確かに私達が敵対しても私に良いこと何もないのよね。晩御飯もいつもご馳走になってるし」


「晩御飯でもウォシュレットでも、何が目当てでもいいよ。俺は市川さんとは仲良くしていたい。だけど懸念が一つだけあるんだよ」


 市川さんがちょいちょい俺の家のトイレを使っているのは知っている。トイレットペーパーの減り具合が日本で一人で暮らしていたときより段違いで早いのだから一目瞭然だ。

 会社のトイレも洋式だがウォシュレットはついていないしな。


「……黄金のマグカップね……」


「そうだ。市川さんが今後、もろもろのリスクを受け入れる覚悟があるのなら、俺は市川さんに協力をお願いする代わりに相応に報いる用意がある。ルーカス兄妹にもそうするつもりだ。逆に、市川さんがリスクを避けたいなら俺は何も話さない」


 まあ、現時点で市川さんに話せることなんかそうないんだが。レグエディットの詳細にしても俺の使命にしても、大半は話さなくてもいいものだしな。


「……ほんと、難しいわ……」


「市川さん、腹の探り合いで俺が君に勝てる筈がないから率直に聞きたい。君はどうしてナイジェリアにまで来て俺の秘密とやらを知ろうとしたんだ?何かやりたいことがあるのなら、内容によっては協力出来ないこともないが――」


 市川さんがふぅ、とため息を吐いて苦笑した。


「優しさの大バーゲンねえ……そんなんじゃ長生きできないわよ。それともそんなに黄金のマグカップのことを他人に知られたくないのかしら?」


「マグカップについてはまあ、どうとでもなると思ってるよ。たとえば、カエルの方も黄金にしちゃえばいいだろ。これは昔陶器でしたと言ったところで信じる人のほうが少なくなる」


「え?」


「ん?」


 ……なんてこった、口が滑った。どこを落とし所にしようこの会話――


「……やっぱり、あなたは陶器を黄金に変えることができるのね?」


「もう言い逃れはできそうにないな。だけど他人に言わないほうが良いよ、こんなこと」


 ここはどう頑張ってもどうにもならん。開き直るしか無い。


「そうね。こんなことが誰かに知られたら最後、あなたは国だのマフィアだのに拉致されて、次に事情を知ってる私が同じ運命を辿るわ。恭順か死か、どちらかの選択を迫られるでしょうよ」


「ここは金の産出国だからな。十分に有り得る話だ」


 強がってみせたが、もしそういった組織が俺の拉致ではなく殺害を選択した場合、俺は自分の身を守りきることはできないだろう。俺を殺すのは簡単な筈だ。不死身でも何でも無いんだから。


「で、どこまで知ってるんだ?」


「まあ、ここでカードを伏せていてもしょうがないわね。あなたが陶器を黄金に変えることができるのを知ってるのが私の一番のリスク。知っちゃったからもう協力するわよ。今後は盗聴なんかにも気をつけなきゃね。できるだけ一緒に居たほうが良いかも」


 一緒に居たい理由の一つは俺の家のトイレとメシだろうけどな。


「日本から次の便でもう一つ二つウォシュレットを取り寄せておくよ」


「ふふ。ありがとう。結構大事よね、そこ。二つ目は宝くじを自在に当てることができること――そうなんでしょう?」


 ……かなわんな。この人はいつから俺を観察していたんだろう。


「そうだ。俺はなんであれ確率をある程度操ることができる。ただし、スロットやパチンコみたいにコンピュータで確率を管理されてるのはダメだ。ルーレットもおそらくダメ。あれはディーラーがどこに落とすかをコントロールできるものだからな」


「手元で何かしたら本当に宝くじが当選するなんて、どういう理屈なのかしら?」


 市川さんが首をひねる。


 俺も最初はそう考えた。なぜ手元の宝くじの当選確率を100%にしたら本当に当選してしまうのか。

 おそらくだが、宝くじというものは当初から当選者や当選番号を恣意的に決められる機能を持っていたのではないか。権力者が買った宝くじの番号を運営側が手を回して当選させるといったお手盛りの茶番は宝くじの存続と不可分だったのかもしれない。

 つまり後付で当選確率を100%にしたくじを当選させる、という機能は宝くじという存在クラス基本機能メソッドとして当たり前に存在していて、その機能を活用できる能力を持った俺が当選できたというわけだ。


「まあ、詳しくは俺も分からんが、なんなら次の年末ジャンボでも当ててみせようか?」


 ここで宝くじについて深く論じてもしょうがない。しかし、宝くじがバレてたか。まあ、俺をおかしいと思って見てたなら当然の不自然さではある。


「あと、お肌ピチピチなところ」


「それはセクハラ」


「セクハラじゃなくて、実際ルーカスも影山君のことを20歳そこそこって言ってたじゃない。影山君、若くなってるよ」


 そういえばルーカスもそんなこと言ってたな。


「日本人が若く見えるというのは常識だよ。バラエティ番組でよくやってたじゃないか」


「甘いね、ルーカスは医者だよ?彼は大学院生だけど、医学部の博士課程なんてのはもう、医師の資格は持ってて当然だわ。その彼が20歳って言うからにはちゃんとした理屈がある筈なのよ」


 そういやそうだ。あいつ、医者の資格あるならそっちで稼いでりゃ良かったんじゃないのか?なんで当たり屋やってたんだ……。


「俺の肌がピチピチなのも俺の能力だと、そう言いたいのか?」


「ええ、間違いないと思ってるんだけど……違うの?」


 もう、ここまでバレたら一緒だな。言ってしまおう。

 

「正解です……」


「やったぁ! イエスッ! アイッガリッ!」


 飛び上がってキャーッと嬌声を上げる市川さん。興奮した彼女が壁を激しく殴ったせいで、何事かと大場社長が飛んできた。けしからん事でもしていたんじゃないかと思ったらしい。


「……何か知らんが紛らわしいことはしないように。ああそうだ、今日、私は外出後直帰するから」


 俺は窓際、市川さんは廊下側の壁際に立っていたので不謹慎な行為がなかったことは説明できたが、大場社長には大目玉をくらってしまった。きまりが悪いったらありゃしない。


「えらい喜びようだな……」


「ええ……っしゃああああ!」


 市川さん、天を仰いでガッツポーズが止まらない。


「うん、社長も言ってたろ。落ち着け」


「あ、はい……」


 市川さんはポツリポツリと自分の昔話をしだした。


 付き合っていた男性がいたこと。その男を愛していたこと。いつか、結婚しようと言ってくれる日を心待ちにしていたある日、その男が自分より若い女を連れて「今日からこいつと一緒に暮らす」と言いだしたこと。その男は「25を過ぎた女性は無理、絶対に愛せない」とはっきり自分に言ったこと……。


「だからって25歳になりたいってわけじゃないんだけどね、ただ、どうしても若さには勝てなかったってことが心に(おり)のように残っていて、どう頑張っても取れないの。

 馬鹿みたいでしょ? 高い化粧品使って、アンチエイジングに必死になって、それでついた渾名(あだな)が『廊下の天使』よ? 情けなくって涙も出ないわ」


 市川さんの声が震えている。心の奥底にある弱い部分を表に出したことでだろうか、彼女の顔にはいつもとは違う全然余裕の無い表情が浮かんでいた。


「でもね……ダメなの。年齢相応にキレイって言われても、全然嬉しくないの! 年を取るのはイヤ! 怖いの! ずっとそう思って化粧品をとっかえひっかえして、ヨガやって、それでもだんだん……」


 切実だなあ……。


「そしたら目の前で明らかに若返ってる男がいるわけよ! 何これって思ったわ! だって、若返りだよ? 私が何年も研究して、すごいお金使って、それでも全然たどり着けない若返りっぷり! どんな化粧品使ったのか、何を食べたのか、もしかしたらもっと違うなにか?

 そう思って影山君のこと見てたらマグカップやら宝くじやらもう明らかに他の人間とは違う何かが出てくるじゃない。これはもしかしたらチャンスなんじゃないかと思うでしょ?」


 いや、人間扱いはしてくれよ……。


「だからね……だから私、ここまで来たの。影山君の謎を解いて私も若返るために。綺麗で居るために。私が私でいるために」


「わかった。じゃあ、市川さん、ここに5億円あるとしよう」


 俺はパン! と手を叩き、目の前の机の上に山のような形を手で描いた。


「へ?」


「その5億円を使ってタイかどこかで整形すれば見かけの年齢はずいぶん若返れるだろう。ヒアルロン酸とか注射しまくって、高額な化粧品を使えば俺も良くは知らないけど、きっと相当に若返れると思う」


「そう……なのかな?」


「で、逆にこっちには俺の得体の知れない能力がある。俺が市川さんの体のすみずみを見渡し、ある部分をいじり、若返らせることが出来るかもしれない。理屈は全くの不明。効果を立証するのは俺の肌のツヤツヤのみ。さあ、どちらを取る? 5億円を選ぶなら俺がなんとか用立てるよ?」


「ううううう……」


 迷いに迷った市川さんが口を開いたのはそれから四、五分経った後だった。


「影山君に賭けてみるわ。お金は影山君が作っちゃうからありがたみないし」


 まあ、そんなところだろうな。てチョット待て。俺のカネが自由になると思ってないかこの人……?


「先に一つだけ聞くけど、市川さん、腎臓に疾患とかないよね? しばらくお酒飲めなくてもいいかな?」


 レグエディットによる若返りを使うと猛烈な新陳代謝が始まる。腎臓疾患があったりすると大量の老廃物で腎臓のフィルタが目詰まりして、急性腎不全で死ぬかもしれない。

 それを避ける意味でも一応聞いておかないとね。


◆◆◆◆◆


 その晩、市川さんの肉体年齢は26歳になった。


 一度でもやってしまえば何度でも同じだ。本人の気が済むまで若返らせてやろう。未成年てのはさすがに駄目だと思うが。


 作業の効率化のため、市川さんには全裸でベッドで横になってもらった。実際、若返りの施術をされた人間は事後に昏倒するのでベッドの方が何かと都合が良いからな。


 決して役得のためではない。うん。


 そうそう、時間は大きく短縮できた。俺自身に施術した前回は夜通しかかっていたのが、今回は2時間ほど。大きな進歩と言えるだろう。

 とはいえ2時間もの間、俺は裸の市川さんの前でアヘ顔を晒していたわけだ。おそらくその光景を見たであろうシャーロットが何か物言いたげな顔をして下品な手付きをしていたが、叱っておかなくては。


 いやしかし女ってのは難しい。今回の件でそれが解った気がする。


 今まで俺の周りで妙齢の女性と言うと相田だけだった。相田もあれでなかなかなのだが、それを上回る美女が二人も身の回りにいるのだ。

 彼女無し歴の長い俺にはどうしていいか正直よく分からん。とりあえず、不名誉な罪で訴えられるのだけは避けたいものだ。


「自重自重……」


 俺はそう言いながら、市川さんの匂いが残るベッドに転がっていた。


 メイド部屋ではシャーロットが休学期間の遅れを取り戻すため必死に勉強している。シャープペンシルのシャッシャという音が夜遅くまで途切れず聞こえてくるのには素直に感心してしまう。


「俺も頑張って、また何人か減らさなきゃな……」


 いろいろ妙なアイデアが浮かんでは消えていく。


 俺は、いつしか眠りについていた。

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