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人類が増えすぎたので減らしてほしいと頼まれました【本編完結済】  作者: にゃんきち
人類が増えすぎたので減らして欲しいと頼まれました
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第百二十五話:天知る地知る人ぞ知る

 米国とカナダで俺が行った報復攻撃によるオフィスの火災や地面の陥没は、少なくとも公的には「一連の事件」扱いされてはいないようだ。


 無理もない。30分以内に4000km離れたところで起こったビル火災の実行犯が一人などという結論はどこをどう振っても出てくるものではないし、爆発炎上した5件のオフィスの持ち主・借り主達は秘密結社のメンバーだ。共通点など出てくる筈もない。


 よって5つの火災事件の理性的な説明としてはどう頑張っても「何らかの組織による同時多発的無差別テロ」くらいが関の山だ。車がオフィスに飛び込んた事件など、明らかに別の手口の案件を除外すれば「多発」と言うほどでもなくなり、犯行声明がないことで「テロ」かどうかも怪しくなる。


 それに、俺がレグエディットを使ってこれらの事件を起こした以上、誰が捜査したところで証拠や目撃者が出て来よう筈がない。報道は賑わい市警や消防署は通り一遍の現場検証をするだろうが、そこで終わりだ。FBIが出てくる事もないだろう。


 実際オフィス火災よりも、あからさまに爆発物を使われた形跡のあるデンバーのホテル爆破事件の方がFBIにとってはよほど重要のようで、CNNは毎日捜査の様子をTVに流している。


 かわいそうなのはビルの火元責任者や違法駐車の車の持ち主だが、俺の命と引き換えには出来ない。すまん。


 地下シェルターを崩壊させたことによる地面の陥没2件に関してはオフィスの連続爆発事件と全く別案件として、これも地方の行政機関が調査を取扱うことになったらしい。


 だが、予算の都合か観察力の欠如か、はたまたその両方か、陥没の原因であるシェルターを所轄の警察が掘り起こすことはなかった。そもそもシェルターは他人に見つからないよう私有地の大深度域に建造されたものだったため、陥没した地面の遙か下に構造物があることなど寄せ集めの調査隊にも把握しようがなかったのだ。


 結局、この2件の陥没事件では表立った死傷者もいなかったので誰も頑張って地面をほじくり返そうとはせず、シェールガス採掘かなにかが原因のよくある陥没と体よく片付けられてしまった。


 以上の状況から「羊飼い」の7つの拠点を壊滅させたことで米国の捜査機関による捜査の手が俺に伸びることはないと言える。


 ここで俺が「羊飼いの(あるじ)」達と面識があり、彼等に面と向かって侮蔑の言葉の一つも吐いていれば主達(やつら)とて面子にかけて俺の排除にかかったかもしれない。


 しかし実際は彼等の手先からの問いかけに対して俺が知らぬ存ぜぬを通しているうちに全員勝手に酒に潰れてしまい、挙げ句に後先考えずに俺に攻撃を仕掛けたために、手痛いしっぺ返しをくらったというだけの話だ。少なくとも報告を受けた主達はそう考えるだろう。


 現段階で残っている連中は、今後はやり方を考える筈だ。「羊飼い」の組織が個人の集まりのようなものであるなら「潰された奴らが間抜けだった」で落ち着く可能性は大きい。

 敵討ちよりは、間抜けどもが起こした火事で自分の家が燃えないように―― これが「休戦の申し込み」の裏側ではないだろうか。


 逆に今回葬った連中と残っている連中との結びつきが強かったなら、俺の周りは今頃、報復目的で送り込まれた暗殺者でいっぱいの筈だ。そういう連中が今の時点で俺の周囲に見られない以上、その可能性は排除しても良いだろう。


◆◆◆◆◆


「で、休戦協定だけど、具体的にどう話を持って行くつもりなの?」


 飯高の倉庫の応接室で俺と市川さん、貴子さんの3人でミーティング。相田は自動車学校が忙しいとかで今日の話し合いは欠席だ。


「どう、とは?」


「ただ向こうから『もうやめて、死にたくないから』と言われて『ハイそうですか、じゃあやめますよ』と言うつもりじゃないでしょう? 子供の喧嘩じゃないんだから。今ならこちらの有利な条件で休戦できるんじゃないの?」


 市川さんの言うことは正しい。実際に俺も有利な条件とやらを考えないわけではなかった。だが一つ嫌なことに気がついたこともあって、あまり上から目線で行くのはどうなのかと思い直したのだ。


「判るんだけどね……市川さんの言うことも。ただ、この戦いは現状、こちらが不利なんだよ」


「はぁ? 一日で相手の拠点を7つ殲滅出来るのにどうして不利なのよ?」


「イッチー、殲滅戦とフラッグ戦の違いよ」


 さすが貴子さん、気がついていたか。そう、この戦いはこちら側は向こうを全滅させるための殲滅戦を行わなくてはならないのに対し、向こうは俺を殺しさえすればいいのだ。不完備情報ゲームで戦う上に、多対一。向こうの勝利条件が圧倒的に緩く、こちら側の勝利条件はあまりに厳しい。


 向こうが通常戦力なのに対し、こちらは超能力を使えるのだから攻撃面での戦力差は確かにある。しかし、この中の誰一人遠距離からの狙撃に対応できるものはいないし、爆破テロを事前に察知できるものもいない。有り体に言えば防御面が壊滅的にスカスカなのだ。


 全員メシを食わなければ生きていけないし、寝なければそのうちまともな判断も出来なくなる。不十分な情報に振り回されて抗争が長引けばそれだけこちらの負ける確率は跳ね上がっていくのだ。睡眠を取る度に負ける確率が増えていく戦闘などしないに越したことはない。


 それを理解せずこちらが上から目線の休戦条件を出したりすれば簡単に交渉は決裂し、相手はこちらを攻撃する大義名分を手に入れてしまう。「不遜な邪魔者に我らの力を見せつけてやれ」というやつだ。「羊飼い」の中にだって好戦的な奴の一人や二人いるだろうし、今回の休戦の申し入れがそいつが書いた筋書きだったらと思うとゾッとしない。


「はぁ……つまり、休戦をこちらの有利な条件で締結するためには現時点で欧州勢全滅くらいの状況でないと駄目なわけね」


「残念ながらね」


 確かに、欧州勢の15拠点を全滅させれば残りは4箇所だ。こうなると相手はもう組織的な行動が出来なくなるので俺との戦いどころか人口増加のための活動すらできなくなる。

 このくらいまで相手の継戦能力を削ぎ落としてはじめて出せるのが有利な条件での休戦協定なのだ。


「で、どうするの? 休戦協定までに相手の数を減らす?」


 さすが市川さん、あくまで有利な条件を引き出す腹か。


「やるなら南半球の連中が先だろうな」


「どうしてですの? 地域的に密集している欧州の方が一気に殲滅できそうですし、個々はともかくトータルの経済規模はあっちの方が上でしょう?」


「単純に、連絡が回るのが遅いんじゃないかというのが一点、それと、組織の目標から考えられる連中の特色とでも言うのかな……?」


「何よそれ」


 俺は連中の目標について2人に話した。


 極端に人口を増加させて「あいつ」を挑発し、結果「あいつ」が起こすであろうカタストロフィに予め万全の備えをして耐え抜くこと。その際地球環境に劇的な変化があったとしても、十分人口を増やしておけばその環境に適応する遺伝子を持った人間が出てくる筈だから、そいつから環境適応に関する遺伝子部分を抽出して自分達の遺伝子にノックインすることで環境への適応を図ろうとしていること。そして自分達が破局後の地球のリーダーとなろうとしていること……。


「酷い……すごく利己的な集団なのね」


「ここで考えてほしいのは、リーダーになるためなら人類の大部分を滅ぼしてもいいという連中の考え方についてだ。妄執の類だとは思うけど、ここから考えられる彼等のペルソナってやつを考えて欲しい」


「ええと、まずはリーダーのポジションが欲しくてしょうがないけれど、何かの理由でそれが叶わない人ですわね。自分の王位継承権があと少し上だったら……みたいな」


「王族として育ち、王家から出て行くことになった人達だね。いいね。そういう感じ。他にないかな?」


「リーダーのポジションに居たけど、それを革命やクーデターで追い落とされた一族ってのはどう? 民衆や側近に対して激しい恨みと嫌悪感を持っていて、滅ぼうがどうしようが構わないって人もいるんじゃない?」


「なるほど。それもアリだね」


「ビルダーバーグ会議と結びついているのだとしたら、やはり優生学的な側面は否定できない感じですわねえ……」


「そうだね。そういった特徴を兼ね備えているのはやはり、やんごとなき家の方々なのかなと思うんだ。と言っても王家皇家を継いだ方々ではなく何世代も前に分岐した傍系の人達を俺は想定してる。

 で、欧州のそういう人達って国を違えてもほとんど親戚でしょ? だとすると手を出すと親戚連合で報復してくると思わない?」


「思うわ……手を出す前に気がついて良かったわね」


 上手く行けば自分は王になれる筈だった、そのまま何もなければ自分は皇帝になれたかも知れなかった、民衆が蜂起しなければ自分は領主として領地の全てを意のままに出来た……それがある日ひっくり返された人達の恨みってどんなものなんだろうな。

 たぶんひっくり返した方にも相当恨みはたまってたと思うけど。


「だから、今後は相手の拠点から背景を掴み、相手をある程度特定してその横の繋がりも考えないと攻撃するのもまずいんだ。下手をすると大きな反撃を誘発しちゃうからね。

 北米で俺がやっちゃった『羊飼いの主』は特例的にあまり欧州と繋がっていなかったと考えた方が良いみたい。それに北米だって手先の拠点を潰しただけで主が健在のところもあるだろうし」


「実際、あと何人くらいいるのでしょうか……」


「名簿なんかの具体的な連中のデータも今度の協議で入手できるといいんだけどな。

 それに俺達の目的は戦闘じゃない。

 俺達から彼等に何かいい条件を提示出来て、彼等が人口増加を止めてくれれば敵対する理由は無くなるわけだし、そっち方面も考えておかないとね」


「それはきっと向こうもそう考えてるわよ。どういう条件を提示すれば人口抑制をやめてくれるかなあって」


「何か良い落とし所はないものかな。全面戦争はできれば避けたいんだよなあ……」


「今、フラグが立った音がしたわよ……」


「嫌なこと言うなあ……。さて、纏めよう。こちらからの要望は向こう側の構成員のリストと連絡先をくれってことでいいかな。 たぶん渡してくれないだろうけど」


 リストがあれば相手の拠点と照合もできるし、残りの人数も判る。個別にコンタクトを取って離脱させる工作も出来るかも知れない。秘密組織にとっては大きなリスクだから聞いてもらえるかどうかは五分五分だが、そんなに上から目線でない感じもする。


 ここらへんが落としどころだろう。だけど、リストをくれ、あげないで話し合いが終わるのも面白くないな……。


「貴子さん、悪いけど欧州に現存する王家と、18世紀くらいまでに滅びた王家皇家の傍流が今どうなってるか調べてもらいたい。その中で巨大なシェルターを建設できるくらいカネまわりの良さそうな連中をピックアップしてくれれば最高だ」


「了解です。今度は深く静かに調べますね。調べていることすら相手には悟らせませんわ」


 自分で仕事を振っておいてなんだけど、最近貴子さんのモチベーションが妙に高いなあ……まあ別に悪いことじゃないけど。


「市川さんは俺がマッピングした拠点の持ち主やその土地と(ゆかり)の深い名士を調べてくれ。後で貴子さんのピックアップしてくれたリストと突合すると『羊飼い』の主が判るかも知れない」


「はいはい。任されて〜」


 たとえ完成していなくても、そんなリストがあったら交渉の場では面白い武器として使えそうだ。




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