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人類が増えすぎたので減らしてほしいと頼まれました【本編完結済】  作者: にゃんきち
人類が増えすぎたので減らして欲しいと頼まれました
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第百二十三話:凝っては思案に能わず


「なーんで神様は私には能力をくれなかったんでしょうかねー?」


 米国コロラド州、デンバーの宿で瞳は不服そうに俺に疑問を呈した。


「あんな、影山さんをないがしろにしがちな人達よりよっぽど誠心誠意尽くして差し上げてるのに……あ、シャーロットさんは別ですが」


 瞳は俺と市川さんのナイジェリアでのジェットコースターのような目まぐるしさの生活を知らないし、相田がどれほど影山物産に貢献しているかも解っていない。貴子さんに限って言えば彼女が俺をないがしろにしたのは市川さんの知り合いだということを黙っていて俺をおちょくった時だけだ。


「お前には見えてないだけだ。今の俺があるのは彼女達のおかげだぞ」


「そんなものですかねえ……それよりも悔しいですよ、私。あーもう! カッコよかったなあ市川さんと貴子さん!」


 確かに、俺達のピンチに颯爽と現れて悪の手先を倒すと疾風のように去っていく彼女達はカッコいいと言えなくもない。ただ、世間一般の価値観に照らし合わせた場合悪の手先は間違いなく俺達だというのが残念といえば残念だ。


「まあ言わんとすることは解るが、能力に関して言えば市川さん達もそれなりに苦労したんだ。能力付与の交渉も、貰ってからの特訓も結構頑張ってたんだぞ。お前が思ってるようなお手軽でスマートなもんじゃないんだ」


「ううう……そうなんですかぁ……でも悔しいです。あ、そういえばシャーロットさんも毎日結構な時間かけて何かそれっぽいことをしてらっしゃいますね。私には何をやっているか絶対に教えてくれないんですけど」


「何だって?」


 俺が能力開発と練習を誘った時に頑なに拒んだシャーロットが毎日レグエディットの練習をしているのか……それは初耳だ。あれから何度か顔を見に行った時はそんなことをおくびにも出さないでいたのに……まあ、シャーロットにはシャーロットなりの考えがあるんだろう。


 しかし、朝起きたら隣でシャーロットが寝てた、なんてのが現実味を帯びてきたのはいいのか悪いのか……ううむ。


◆◆◆◆◆


 デンバー滞在3日目、俺はオスロのホテルに連絡を入れ、チェックアウトできなかった事情を話したり料金をどうやって払うかなどの話を済ませた後、瞳とメシを食いに外に出た。


「オスロで潰れてたあの連中、どうなったんでしょうね?」


「さあな。知りたいとも思わないが、一晩二晩病院で過ごして、そろそろ家にでも帰ってる頃じゃないか?」


 そんな話をしつつでかいステーキを食べ、チップの額を店側に指定されたことに怒り、外を走る馬車に驚きながら観光気分で街を歩いていると電話が鳴った。市川さんからだ。


「やあ、どうしたの? 日本はまだ早朝だろう?」


「あああああよかった! 無事なのね?」


「どうしたんだよ?」


 市川さんの声はただ事ではない何かが起こったことを示していた。こんなに焦っている市川さんも珍しい。


「今テレビ見てたら、デンバーで爆破事件があったって言ってたのよ。ホテルがあるって聞いてた所と同じ地名だったから無事かなって思って」


「アラモプラシータ?」


「そう。そこって言ってたわ」


 それを聞いた俺と瞳はとるものもとりあえず宿へと急いだ。


「うおっ! なんだこりゃあ!」


 そこで俺達が見たのは、散逸したガラス破片と立ち上る黒煙に汚されボロビルに成り果てたホテルの姿だった。近くの歩道ではケガ人が泣き叫び、救急車で次々と運ばれていく。誰が見ても凄惨で、テロを疑う光景だ。警官と消防士が忙しく動き回る様を、心配そうな顔をした野次馬達が見守っていた。


「結構真面目にやってくるなあ……これ、あいつらだろうな」


「でしょうね」


 こぢんまりしてはいるがいろいろ行き届いていて過ごしやすいホテルだったのに、俺達が泊まったばかりにえらいことになってしまった。申し訳ない。


 ああ、でもこれって後で事情聴取とかで呼び出されたりするんだろうなあ……。対テロについては徹底的にやる国だからな、米国は。ううう面倒くさそう。


「これからどうしようか……というか、どうしてくれようか……。これ以上アントニオに世話になるわけにもいかないしな」


「影山さん、とりあえず私はシャーロットさんの護衛に戻りたいと思います。ここまでやってくるならロスも無事とは限りません。チョチョイっと転送お願いできますか?」


「そうだな。金庫に入れた手荷物は回収して後で持っていくから、護衛に専念しておいてくれ」


 正直、瞳を抱えたまま戦闘をするのは荷が重い。俺1人ならどこぞへ跳んでしまえばそこで派手な戦闘(ドンパチ)は終わるので周囲への被害も少なくて済む筈だ。


 俺は瞳をシャーロットの家に跳ばし、自分も宿の金庫に入れておいた手荷物を回収してからカーソンの家に跳んだ。


「まあ、ここまで爆破されるってことはないだろう。さっきまでデンバーに居たんだしな」


◆◆◆◆◆


「さて……と」


 家に人がいる気配を抑えつつ、少しばかりの休憩。落ち着いたら市川さんに無事を報告だ。


 携帯電話はさっきデンバーで使ったばかりなので、時間的な矛盾を避ける意味でもここでは使えない。PCのブラウザで動くSNSクライアントの会話機能なんかがいいかもしれない。


 久々に電源を入れたPCはOSのアップデートが始まったりしてなかなか使えるようにならず、市川さんに連絡を入れられたのは1時間も経ってからだった。


「あー、もしもし、市川さん?」


「あ、影山さん。どうだった?」


「ホテルは心配してもらってた通り、結構残念なことになってた」


「うわぁ……やっぱり先日の人達と根っこが同じ人の仕業かしら?」


 俺も市川さんも阿吽の呼吸で「テロ」とか「爆発」とかいう言葉を極力使わないで会話を始めた。あんなことがあろうがなかろうが、どんなに暗号化通信をしていようが米国の諜報機関は盗聴しているとお互いが考えていたからだ。


 ただでさえ、ホテルの件では事情聴取されるかも知れないのだ。その時の係官に怪しまれるような材料は与えない方がいいに決まっている。日本の会社社長がテロの標的になったとは向こうも思っていないとは思うが、どこで何が間違うか分かったものではない。


「そうだろうと思う……というか間違いなくそうだろうな。市川さん、そっちでも何かあると困るから2週間ほどオフィス閉めといてよ。理由は何でもいいから」


「うん。こっちもそうするつもりで田辺さんと貴子には話つけたわ。相田さんも一旦システム手仕舞いするって言って作業に入ってる」


「頼んだ。貴子さんのお父さんに一言入れておいてくれ。動いてもらえるかもしれん」


 こういった先の見通しと手回しの良さはさすが市川さんだ。溜池山王のオフィスが同じ目にあうことを既に想定して動いている。あとは壬生戦略研究所と警備会社が上手く連携を取ってくれて、3日くらいで良いから相手を抑止出来ればなんとかなる筈だ。


「影山さんはどうするの?」


「とりあえず、やれることをやってみる。しばらく飯高とこっちを往復するよ。居場所を探らせないのと、被害を抑えるためにはそっちの方が良いだろ?」


 飯高は三重県と奈良県の境、例の俺の倉庫がある場所だ。ディゾルブを使えばすぐに跳んで行けるうえに、人も通わぬ山奥なのでセーフハウスとしては最高の立地だろう。さすがにタングステンレールは置いていないが、大きな岩や金属の塊など上から落とすには最適な重量物がいろいろと置いてあるので出番もあるかもしれない。


「じゃあ、会社の方はよろしく頼んだよ」


 俺は通話を終えると、PCを使って「羊飼い」の連中が持っていた装飾品や時計の現在の在り処を丹念に地図にマッピングしていった。何通りの何番地まで克明に解るように。急性アルコール中毒で死んでいようが居まいがあれらの品は彼等の拠点に戻る筈だ。つまりこの地図は彼らの拠点マップと言っていい。


 彼等の拠点と思しき場所の多くは欧州に集中しており、他の地域というと南半球では南ア、オーストラリア、アルゼンチンに合計4箇所、北アメリカは米国に5箇所、カナダに2箇所と言った具合だった。逆に、東アジアには一箇所もない。


「そういや、一応あいつらも今回の犯人候補だよなあ……」


 あいつら、というのは南極で俺達を拘束したロシアン・マフィアの連中だ。あいつらの根拠地はペルミとエカテリンブルクに在るところまでは判明している。


 経産省の五十嵐局長から聞いた話では、ロシアもまたレアアースを自国の産業とするために多大な補助金を出しているとのことだった。おそらくあいつらはその補助金を末端で食いつぶしている連中だろう。


「ま、これまで報復が無かったのに、このタイミングで急にって事はないわな……」


 スウェーデンの高速道路で秘密組織同士がドンパチをやった直後にロシアンマフィアが急に俺の正体を突き止めて短期滞在先のデンバーまで来るか? うん。たぶん来ない。一旦ロシアン・マフィアの事は忘れよう。


「さてと……始めるか。早いところ枕を高くして寝たいしな」


 アトランタ、シアトル、ボストン、ウィチタ、スプリングポート、オタワ、クロンダイク……「羊飼い」の手下どもが逃げ帰ったのはこんな場所だ。都市部のオフィスもあれば、連中の言っていたシェルターが地下に建設中なのか、地上に一切構造物が見当たらない郊外の辺鄙な場所もあった。


 このあたりの土地に縁のある名士でもたどっていけば連中の飼い主もそのうち解るだろう。どうせ親譲りのカネは腐るほど持っているくせに権力に上手くたどり着けなくて支配欲をこじらせた挙げ句、新世界に望みをかけるような連中だ。案外簡単に網にかかるかもしれない。


 まずは都市部の小綺麗なオフィスに籠もった連中だ。俺は簡単な変装をした後、緯度経度(ラトロン)からディゾルブ先を計算して「羊飼い」の下僕の1人が居ると思しきオフィスの近くまで跳んだ。


 レグエディットを発動してオフィスのドアや窓枠を6000℃に上げてやると、それらの金属部品は融解・蒸発し、室内には高温の金属蒸気が吹き荒れ火災が発生する。通常の火事の3倍の高温の前ではスプリンクラーも焼け石に水だ。オフィスはガス爆発を誘発しながら灰燼と化していった。おそらくはそこにいた人間ごと。


 次に跳んだ場所ではオフィスが道路に面した1階にあったので、近くにある違法駐車の自動車を加速して放り込み爆発炎上させてやった。


 こんなふうに、場所が離れているうえに襲撃方法も異なれば、科学捜査をすればするほど同一人物による犯行という仮説は立たなくなる筈だ。そう考えた俺は単調な襲撃を極力避け、バリエーションをひねり出すのに頭を絞りに絞って「羊飼い」達の拠点を潰し続けた。


「死んで(あいつ)のところに行ければいいがな……」


 俺としてはかなり迅速に連中の拠点を回ったつもりだったが4件目の拠点を破壊したところで連中のうちの誰かが気ついたらしい。5件目のスプリングポートのオフィスはもぬけの殻になっていた。

 だが俺はオフィスではなく「羊飼い」の手先のアイテムを追いかけているのだ。奴等が逃げ回った先に回り込むことなど造作もない。


 俺は無慈悲な鉄槌を振り下ろしては奴等の拠点を塵芥へと変えていった。残るはシェルターに隠れている連中だ。


 天変地異を想定して設計されたシェルターだが俺には外側の物理的な防御力など通用しない。シェルターの中にいる誰かの腕時計のレジストリのリファレンスは俺のクリップボードの中にある。これで全て事足りるのだ。

 シェルター内部にある腕時計の構成物質を体積固定で金にした後、重量固定でチタンに物質変換する。これを20回ほど繰り返せば腕時計の体積は数兆倍にもなり、シェルターは内から簡単に、しかも徹底的に破壊できてしまう。中の人間がどうなったかは推して知るべし。後は残された巨大なチタンの塊を綺麗な水へと変えてしまえば良いだけだ。


 地下のシェルターの中で飛び散っていたであろう血飛沫も、響いていたであろう断末魔の悲鳴も、俺には何も見えなかったし聞こえなかった。一体地下に何人くらい埋まっているのか、今となっては知る由もない。


 こうして、北米地域の「羊飼い」に対する俺の報復は全部足しても16時間もかからずに終了した。それから数日経過してナントカ上院議員や国際カントカ協会の理事が行方不明になったというニュースが何件か流れたが、もしかしたら今回の報復で「主」ごと殺ってしまったケースがあったのかも知れない。


 まあ、殺るか殺られるかだからね。先に手を出したのはそっちだし。


 それから3週間、影山物産のオフィスや俺の自宅は誰からも何の危害も加えられることはなかった。これはこれで気持ち悪い。殴られたので殴り返したら相手が黙ってしまったなんて、スッキリしないにも程がある。良い悪いは別にして、なんらかの反応があって然るべきだ。


 ああもう、いっそ北米に限らず判明している拠点を残らず血祭りに上げてやろうか……


 そんなフラストレーションが渦巻く梅雨の晴れ間のある日、意外にもアントニオを通じて「羊飼い」から休戦の申し入れがあった。これが「羊飼い」の総意なのかどうかはまだ分からないが、とりあえず直接攻撃の危機は去ったと考えても良さそうだ。


 だが、この話し合いのために俺はまた連中か、その主とやらと会わなくてはならない。同じことの繰り返しにならなければ良いのだが……。




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