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人類が増えすぎたので減らしてほしいと頼まれました【本編完結済】  作者: にゃんきち
人類が増えすぎたので減らして欲しいと頼まれました
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第百九話:鶴は千年進化は万年


 アントニオは小芝居でも見ているかのようにクスクスと笑いながら貴子さんを見ている。それを侮辱と受け取った貴子さんは強張った表情を緩めることもなく、一歩も引かぬ勢いでアントニオに食って掛かった。


「で、私が虚空に消えました。そんな非科学的な話があったとして、どうして私が貴方と夫婦にならなければならないのかしら? 答えてくださいな。ドン・アントニオ」


「そうだそうだ!非科学的だー!」


 出番を失った俺にできるのはヤジを飛ばすことくらいだ。だがこの小者感が地を出せてちょっと楽しい。


「ふむ。では私達が何者なのかから話しましょうか」


「世界の人口を増やそうとしている秘密結社の首領、そうでしょ?」


「え、あ?」


 相田がケロッと挟んだ言葉にアントニオは少しタイミングを外されたようだ。


「……皆さん私をそういう立場の人間だと思ってらしたんですね。なるほど、増やす側、ということになると皆さんの敵と思われてもしょうがないか」


「違うんですの?」


「完全に違うとは言い切れませんが、どちらかというと私は世界の人口を減らす側の組織の人間です。秘密結社というのは言葉的によろしくありませんがまあ、似たようなものですのでそこは否定はしませんが」


「え?」


 てっきり人口を増やす側の組織の攻撃を受けたとばかり思ってたのに……ってそういえばこの船も軍産複合体の参画企業がオーナーだよな。武器売って人口増やす筈が無いか。


「では我々についてお話しましょう。タカコも座ってください」


「シニョール、私、あなたにまだタカコと呼ぶのを許していませんよ」


「これは失敬。ずっとお会いするのを楽しみにしていましたのでね。あまり初対面という気がしないんですよ」


 アントニオは軽くウィンクと咳払いをした。その仕草が妙に絵になるのは外見はともかく中身がラテン系だからだろうか。ちょっと羨ましい。


「私達の組織の結成はおよそ125年前。数ある秘密結社と言われる団体の中では比較的若い組織です。名前を仮に『天秤(アーメット)管理者(インスタテーラ)』とでもしましょうか。仮に、というのは単純に私達の組織には名前がないからなのです。他意はありませんよ。

 説明のためにこれから映像を流します。日本語でナレーションを入れてありますから、しばらくご覧あれ」


 短い合図の後、プロジェクターのスクリーンに映像が映し出された。BGMやCGが散りばめられ、投稿サイトに投稿してもそこそこ再生数が伸びそうな出来だ。


「19世紀の終わり頃、スペイン北部に住む平凡な化学教師シプリアーノは、ある日神から啓示を受けたと周囲の人間に告げました。このまま人類が増え続ければ神の裁きが下される。ノアの洪水のような、誰も生き残れないものだと。

 誰もがシプリアーノは狂ったのだと考えました。しかし、シプリアーノは言葉を曲げません。

 彼は神から与えられたという不思議な力を使って様々な奇跡を起こし、自分の言葉は正しいと言い続けました。

 その言動が周囲の敬虔なキリスト教徒達の反感を買ったのは言うまでもありません。シプリアーノは住み馴れた街で徐々に孤立し、悪魔呼ばわりされていきました。


 一方この頃、シプリアーノには信じられない幸運が続きます。街を歩けば金塊を拾い、掃除をすればダイヤモンドが棚の奥から見つかるといった偶然が何度も起こったのです。そういったことが続き、彼はある程度の富を築くことができました」


 日本語のナレーションとともに当時の画像や映像がスクリーンに映しだされていく。これがなかなか良く出来ていて、俺達は歴史探訪のテレビ番組でも見るかのようにスクリーンを見つめていた。アントニオはというと、俺達がスクリーンに魅入る顔を眺めてご満悦なようだった。


 こんな映像を用意してあるくらいだから随分前から貴子さんを拉致する計画って進んでいたんだろう。今の少し緩んだ気分は引き締め直す必要がある。俺は映像を見つつ、気合を入れ直した。


「第一次大戦が始まる頃になるとシプリアーノはその経済力をより大きく、強固なものにしていきます。戦争のために世間では様々な物資の需要が爆発的に増えましたが、彼は仲間と一緒にそれらの物資の供給を引き受ける会社を作り、財を成したのです。

 シプリアーノはどこからか大量の硝石を持って来たり、当時はまだ珍しかった化学肥料を農家に配って大量の兵糧を調達するのに成功したりしました。精製済みの鉄やクロム、モリブデンなどもどこからか手に入れて、造船所に売ったりもしていたようです。当時は入手手段がどうこうよりも、とにかく戦争に勝つための資源を持っている者が正義でした。

 彼は敵にも味方にも武器弾薬や兵糧を供給しました。その物資の出処は謎という他はありません。『サンタンデールの海岸沿いに建てられた粗末な倉庫からは鉄でも小麦でも、何でも出てくる』と各国の軍の調達担当者の間では評判だったと言います」


 市川さんが俺の方をじっと見ていた。解っている。シプリアーノは当時の担当者に違いない。そして当時最先端の化学の知識とレグエディットを使って軍需産業に取り入り、時代の混乱の影にその存在を隠してきたのだ。


「ある者は、シプリアーノは大理石を金に変える魔法の手を持っていると言い、またある者はシプリアーノがインドから一日で帰ってきたといいました。頭のいい人は、シプリアーノは大変な奇術師で、しかも双子なのを皆に隠しているのではないか、と言いましたが、それでもサンタンデールの倉庫に山と積まれた物資がどこから来たのかは誰にも説明がつかなかったのです」


 ここで映像がパチン、と切れた。なんだよ、もうちょっと続きを見たかったのに。


「さて……おわかりいただけたと思いますが、我が曽祖父、シプリアーノは君達、私達と同じく『世界の人口を減らす』ことを人生の一大事業として捉えていました。そのための手段として彼は超能力とでも言うべきさまざまな能力を使っていた形跡があります。

 実際、当時のスペイン北部には彼の客の注文をこなすだけの工業力はなく、海運力も怪しいものだったのに、彼が約束を(たが)えたことは一度もなかったそうです」


 アントニオが語りはじめた。グラスには食前酒が注ぎ込まれ、(アペタ)(イザー)の配膳がされはじめたがアントニオは構わず続けた。


「さて、すこしフランクに話させてもらう。曽祖父の死後も彼の仲間は世界の人口を減らすためにはどうすればいいかを懸命に考えたが、どうにも良いアイデアは出せなかった。

 それで、いずれどこかに曽祖父のような人物が現れて、その人が曽祖父の意思を継ぐと言ってくれるなら、その人に組織を任せようと決めたらしい」


 アントニオの顔が少し歪んだ。


 おそらくアントニオはシプリアーノの直系だが、貴子さんのように形質遺伝をしなかったか、能力発現がなかったのだろう。直系だから組織の上には立たせもらってはいるが、それは仮置きで、いつかふさわしい人間がいたら降ろされるって立場なんだとしたらそりゃあ屈辱で顔も歪むよな。


「少なくとも、組織の人間にとって曽祖父は人間的な魅力に溢れていたようだ。

 普通、盟主が死んだ後に国が二つ三つ買えるようなカネがあったら組織の中でちょろまかしや奪い合い、殺し合いが起こるだろうに、そんなことは無かった。

 曽祖父は二度の世界大戦、そして苛烈なスペイン内戦の中、仲間とその家族の命を守りきったと言われている。その恩義からか尊敬からかは分からないが組織の団結は強固なものとなった。だから曽祖父没後の当時のメンバーにとって、『シプリアーノの再臨』を探し、曽祖父の意思を継がせることこそが至上命題だったんだ。

 そして、私を含む直系子孫達はその至上命題を遂行する立場を任された代わりに組織から大きな権限が与えられたんだ。わかるね?」


 あ、なんか分かっちゃった。そうか、アントニオにとっては貴子さんは何代もの間探し求めた「シプリアーノの再臨」そのもので、今の組織のトップである自分が貴子さんと結婚することで自分の地位を盤石にし、組織の求心力も高めようって魂胆なんだな。


「我々は長い間『シプリアーノの再臨』を探し回った。そうしたら東洋のちっぽけな島国に、世界の人口をこっそり減らすような真似を40年も続けながら巨大企業になったコングロマリットがあるじゃないか。

 そこの御令嬢が実家を飛び出したと思ったら今度は別の会社で最先端テクノロジーを使って人口削減をはじめた。削減規模は2億人に迫る勢い。そして御令嬢本人はテレポートが出来る……これはもう、『シプリアーノの再臨』と言って差し支えないだろう」


 よし、正解(ビンゴ)。さすが当事者(オレ)


「あーすいません。ちょっと作戦会議をさせて下さい。影山物産、集合」


 俺は右手を挙げてそう言うと部屋の隅の方に妖艶なチャイナドレスの美女3人を集めた。


「今の話は理解できたな?」


 全員が首を縦に振って頷いた。


「どうする? あいつ、貴子さんが担当者だと思ってるぞ」


「嫌ですわよ私。服部さんといい、どうしておかしな男にばかり目をつけられるのかしら」


「バカ、貴子(あんた)を嫁にやるかどうかを話してるんじゃないわよ。このまま誤解させておくかどうかを話してるの」


「解ってるけど一応私も意思表示はしておかないと……」


「あいつら貴ちゃんしか見てないやんな。それはそれで難儀やわ。もうちょっとこう、Win-Win な関係築いて帰らんと私なんかタダの拐われ損や」


「もう、相田さん! 貴ちゃんって言っていいのは二人のときだけって言ったでしょ」


「あ、ごめん」


「とりあえず、壬生商事(たかこさんとこ)影山物産(うち)の商売が邪魔されてたり、瞳が襲われた件についても聞いておきたいし、もう少しだけ話をしようか」


「あ、せやわ。それ重要やな」


「とりあえず、貴子さんとのご結婚はお断りの方向でみんなで盛り上げよう」


「あのアントニオって人、年いくつなのかしらね。若いようにも若作りのようにも見えるけど」


「うーん……俺にはちょっと分からんな」


◆◆◆◆◆


「いや、中座して失礼しました。我々も意を決して仲間の救出に来たら全く別のお話のようで面食らいまして。私が英語が苦手なこともあって説明してもらってたんですよ」


「ほう、日本人の中ではかなり話せるようにお見受けしたが、私の英語が聞き取り辛かったかな……これは失礼した」


 いや、ちゃんと聞き取れてはいるけどさ。時々作戦会議をするためには方便も必要だよね。


「それでシニョール。あなたは『自分は人口を減らす側だ』と最初に私達に言いましたが、実際には世界の人口は増えていますよね。私達の分析では人口を増やしたがっている組織というのもありそうなんですが……どうでしょう。これまであなたの組織はどのようなことをしてきて、敵対する組織はどんな考えを持っている人達で、どうやってあなた達の努力を上回ったのか、教えていただけないでしょうか?」


 市川さんが下手に出ながら情報を引きずり出しにかかった。しばらく交渉は任せておきたいところだ。俺は当初の予定らしく小者らしく振る舞うことで向こう側の警戒心を抑えておきたい。


「ふむ、今日は念願の『再臨』と出会えて気分が良いし、少し話すとしよう……まず、私達は明確に人口を減らすためにあることを目標に掲げたんだ」


「あること……?」


「大きな戦争でもない限り、曽祖父のように両岸の火に油を注いで回るようなやり方では人口は減らない。局所的な暴動や虐殺はいくら煽ってもそのうち沈静化する。考えた挙げ句の結論が『人類はもっと賢くなればいい。だから人類を賢くしよう』ということだったんだよ」


「賢く?」


 なんだろう。シプリアーノよりよほどスケールが大きい気がする。シプリアーノのやったことは、担当者なら当時の時代背景があれば少し科学知識があれば可能だったと思えるが「人類を賢く」というのはちょっと違う発想だ。


「理性の時代……とでも言うのかな。我々が目標とするのは人々が全て、理性によって己を律し、社会を収め、自然と調和する、そんな世界だ」


 あ、ジョージア・ガイドストーンにそんな碑文があったな。やっぱりあれを作ったのはこいつらの関係者なのか?


「ジョージア・ガイドストーンにそんな碑文が書いてあったように思いますね。東西冷戦で何かあったときのためのものかと思っていましたが……」


 俺は小者らしく口を挟んだ。この、頭が良さそうに見せないための匙加減が意外に難しい。まあ、俺の頭の良さなんて全力を振り絞っても怪しいものなんだけど。


「ああ、あれを見たのか。まあ、勇み足だな……どうとでもとれるように書いてあるから後は読んだ人間の知性次第だよ。あれは」


「それで、人類を賢くする、とはどういうことでしょうか?」


「うん……最初は教育と科学技術や工業の発達が労働集約型産業の比率を下げ、もっぱら労働力として期待されるような人口を減らすことが出来ると思っていた。農家が労働力欲しさにたくさん子供を産むような産業構造を変えようとしたわけだ。君達の国、日本が辿った道だな。だが、そんなモデルが上手く機能する国は我々の想定を超えて少なかったんだよ」


「我々は今、その路線を少し変えつつ踏襲していますが……」


「我々はそのモデルを早々に諦めたんだよ。教育で人は賢くならん、作業が楽になって生まれた余暇を使って人は自らを高めない。ならば種として進化すればいいのではと考えたのだ」


 進化って……簡単に言うけど最低でも何万年かかけて穏やかな突然変異を繰り返してやっていくもんだと思うけどなあ……。まあ、田辺さんの言うようにこういう人達は理系の知識持ってなさそうだから、茶々入れるといい結果産まなさそうだし黙っていよう……。


「それで我々はまず、原点に立って人を減らすことを考えた。簡単だったよ。民族意識やイデオロギー、宗教問題……そういうのでいきり立った連中に銃を渡してやるだけで良いんだからな。

 一方で、我々の組織からスピンアウトした連中が、減らした人の穴を埋めるという任を負った。

 こうして、世界のどこかしらで短期間の世代交代を繰り返すと、中には生存と知略に特化した別の人類が誕生するかもしれないだろう? 『賢い人類』の誕生というわけだ」


「長寿命化した人類社会で短期間の世代交代を促すには有効な手段でしょうね。しかし、片っ端から殺して産ませてを繰り返していたら、せっかく生まれたかもしれない新人類の芽もうっかり摘んでしまうのではないですか?」


 話の流れ上軽く流したが、増やす側に回った連中の話は気になるな……。あとでちゃんと聞かないと。それに進化のさせ方が乱暴にすぎる。まるで農業試験場が世代促進やってるみたいじゃないか。


「乱暴な言い方だが、うっかり摘まれてしまう程度ならしょうがないという考え方だな。実際、ミズ・ミブを見てみたまえ。通常の人類と明らかに違う能力を持っているだろう? 我々が期待していたのはこのレベルの進化なのだよ」


 確かに「人類を賢く」という理念と方向性は異なるが、貴子さんの能力は現人類の能力と比べると異質かつ高付加価値のものだ。さて、アントニオに貴子さんを諦めさせるにはどんな口八丁手八丁を駆使すればいいか、それと「もう一方の組織」についての情報も欲しいなあ……。

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