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人類が増えすぎたので減らしてほしいと頼まれました【本編完結済】  作者: にゃんきち
人類が増えすぎたので減らして欲しいと頼まれました
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第百四話:カネが物を言う組織


「ある程度の分析が終わったって聞いたけど、どうだった?」


 敵の正体について分析の第一段階が終わったと聞いたので、俺は相田と貴子さんのいるスペースに顔を出した。こういう連絡は口頭で行う方が良い。Slackなどで話をしていると誤爆やらのぞき見やらのリスクがあるが、立ち聞きならされてもゲームや映画の話だとその場で誤魔化せるからだ。


「ちょっと向こうで話しましょうか」


 相田が真剣な顔をして空いている会議室を指さした。相田がちらと貴子さんを見ると貴子さんも軽く頷き、ノートPCを小脇に抱えて席を立つ。この数ヶ月互いに連携を取りながら密度の濃いコミュニケーションを取ってきた故か、この二人の間には以心伝心といった雰囲気が感じられる。


「ほな、報告させてもらいます」


 会議室でも相田と貴子さんの連携は完璧だった。相田の説明に貴子さんが適宜補足を加える形でプレゼンが進み、スキのない分析結果が会議室のモニターに映し出されて行く。報告を聞いている間、俺は唸るしかなかった。


「中国、米国、EUの3勢力については圏内市場の成長率や規模の維持こそが重要、というわけか」


「そうですね。それぞれの政府高官もそのように話をしています」


「国連はどうしてそんなに世界人口を増やしたがっているんだ?」


「彼等はその、何というか……」


「何か言いにくいことでもあるのか?」


「国連は人口を増やしたがっているというわけではないんです。戦争や飢餓などの、彼等が言うところの『理不尽な理由』で人が死ぬのは避けたい、というのが彼等の主張です。生き延びた後の生活やその質の向上は他の理事会が担当する問題だ、ということなんでしょうかね……。その割に常任理事国の国内で起こっている虐殺には全く言及しないという、ダブルスタンダード状態なんですが」


「ふむ……このあいだ貴子さんが言っていたドイツの難民受け入れ団体と同じだな。『可哀想だから難民を無条件で何人でも受け入れろ、ただし受け入れた後は知らん』というのと差が無いように見える」


 頭が悪いのか無責任なのか、どちらにせよこういう連中は将来的に「害悪を成すアホ」と見做す必要はあるな……。


「これは定量分析の結果に定性データを少し入れて解釈したものなので私達の主観が入っています。公に出したら何かと反発もあるでしょうが、とりあえず内々向けなので……」


「直感は大事だからな。そこは気にしなくていい。プレスリリースするわけじゃないんだ。それで、残り5つの勢力のうち2つはウチと壬生さんとこってことで判明してるんだよな? で、あと3つは? そいつらは3つが3つとも人口を増やしたがっている勢力なのか?」


「いえ、3つのうち人口を増やしたがっている勢力は2つですね。一つは減らす方向で動いているようです」


「ほう、減らしたい連中もいるのか……そいつらと共闘できないものかな?」


「是非そうしたいところですが正体が判らないので今は無理ですね。それに彼等の目標が『白人中心の世界にするために有色人種を根絶やしにせよ』みたいな事を言う人達だったら怖いですよ。私達も削減対象かもしれません」


「なるほど、むやみな共闘は危険だということか……これはこれで慎重にならないとな。で、人口を増やそうとする2つの勢力だが何か分かったことはあるか?」


「だいたいの資金力をフェルミ推定で出してみました。桁くらいしか合ってないかも知れませんが、これくらいの資金がなくてはさまざまな組織に息のかかった人間を送り込んだり、組織の方針を変えさせたりできないという感じで出してみた数字です」


「いくらだ?」


「おそらくですが、1兆ドルから3兆ドルの間の資金、またはこれと同等の影響力を持っていると思われます」


 ……影山物産の10倍以上だ。資金力では勝てないな……戦うとしたら最後はやはりレグエディットをうまく使って裏から相手を破滅に導くような勝負ということになるのだろうか。


「そんなカネ、分散して世界中の銀行に置いておいても目立ってしょうがないだろう……それが調べても判らないってどういうからくりなんだろうな?」


「ですよね……まさか現金でタンスにしまってるわけじゃないでしょうし……何か現金とは違う形で力を保持しているのではないかと思います。極端な例だとアジトの地下室に無尽蔵に金のインゴットを持っているとか、世界のキーパーソンの弱みは全部握っているとか……。

 彼等の組織としての活動は極めてシンプルで、要所要所に自分達の息のかかった人間を送り込むか、発言権のある人物の意思をカネか何かの力でガラっと変えさせているかです。送り込まれる人間の数、送り込まれる側の組織の規模もまちまちですし、共通点も見当たりません。背後関係を絞り込ませないことに大きな努力を払っていると考えられます」


 ああ、田辺さんによる秘密結社の分析にもあったな。贈賄を教義(ドクトリン)とした組織だっけ。実際に人口を増やすための活動、例えばボランティアを手配したり食糧や物資を供給したりするのではなく、既にある企業や政府機関の人事に介入して世論と組織の方針を誘導して人口を調整しているのか。


 それに資金。1兆ドルということは百万ドルの賄賂を百万人に配れるということか……こいつはなかなか厄介だ。超大国の元首と主要な閣僚をまとめて操れそうな資金力じゃないか。核保有国の発射ボタンくらいなら余裕で手が届きそうだ。いや、連中は人を減らさないから実際に発射ボタンを押すことはないだろうがな。


「よくそんな連中の分析ができたな……」


「歴代の経済トピックの中で、大きな事件で人がたくさん死んだ後、急に方針が変わったりした企業活動や団体活動に注目してその中から人口に関わる部分を抜き出してつぶさに見てみたというだけなんですがね……なにぶん数が多くて苦労しましたよ」


「いや、短期間でよくここまでやってくれた。俺と市川さんだけではとてもここまでは出来なかっただろう。敵の基本戦略と規模がわかっただけでもかなり助かる。後は戦略担当の市川さんが攻略方法を考えてくれるだろう。今日俺に見せてくれたのと同じレポートを市川さんに渡しておいてくれ」


 謎の敵対組織に対抗するための基本的な戦術は俺のレグエディットを使うことと、おそらくは連中さんが弱いであろう科学技術方面を軸にすることになるだろう。


「それで……あの……」


「ん。なんだ、まだ何かあるのか?」


「私達2人、お休みをいただけたらなと……ここのところ根を詰め過ぎまして土日もほとんど分析(これ)にかかりっきりで」


「わかった。業務の調整をして充分休みを取ってくれ。あとな、貴子さん」


「は……はい?」


「間違っても、超能力をあまり熱心に練習するんじゃないぞ」


「どうしてですの?」


 貴子さんは役員室へのディゾルブが成功してからというもの、毎日結構な時間をかけて練習しているらしい。俺はそれを聞いて、超能力発動への心理的ハードルを下げすぎるとどれだけ危険なことになるかを貴子さんに話した。


 特にディゾルブは移動先に個体があるとアブソリュートと同じ結果になる。貴子さんによる東京壊滅は決してあり得ない話ではないのだ。


◆◆◆◆◆


「これが分析結果と瞳さんからの秘密結社関連のデータかぁ。ようやく出来たのね。貴子と相田さんには少しお休みをあげないと、なんかもうボロボロになってたわよ」


「あ、ああ……2人には仕事を調整して休むように言っておいたよ」


「ふふ……影山さんの能力も若返りだけじゃなくて、疲労回復とかも出来るといいのにね」


 そう言うと市川さんは急に口数を減らし、席に座って3人からのレポートをPCで読みはじめた。市川さんのその表情からは真剣さ以外の何も読み取れない。おそらくは凄い集中力で資料の端々まで読み込んでいるのだろう。レポートを一通り読み終えた市川さんはパタンとノートPCを閉じて両肘を机につき、顎の下で手を組みつつにっこり笑って俺に話しかけた。


「これを踏まえて、影山さんの感想は?」


「え?」


「こういうのは当事者の直感も大事なのよ。『ホントにそうだよなあ』とか『いや違うんじゃないかなあ』とか、アバウトでいいから言ってみてよ」


 直感が大事か……それ、さっき俺も相田と貴子さんに言った気がする。それよりなんか今日の市川さん、妙にアタリが柔らかくないか? こんな笑顔で俺に話しかけてくる人だっけ?


「あ、うん。いいとこ突いてるとは思う。気になってるところもあるけど」


「何が気になってるの?」


「動機だよ。その……謎の組織の方がどうして人口を増やしたいなんて思っているのか、そこが気になる」


「そうね。そこがはっきりしたら随分闘い方が簡単になるわ」


 まるで家庭教師が生徒に回答を誘導しているような話し方だ。市川さんの中では既に何かしらの答えが見えているのだろうか。


「あと、資金の出処だ。世界経済がまだ未熟で、世界全体のGDPがそんなに大きな数字じゃない時代に既にこの団体は今の先進国並の経済力を持っていたことになっている。おかしいだろうそんなのは」


「よく出来ました。そうね。私もその2点が気になってたの。もう一点気になるとすれば、現代にこれだけの経済力があればいい加減表に出てきて好きなように振る舞えばいいのに、どうしてそうしないかってことよ。案外主要構成員は少なくて、なおかつ替えが効かないんじゃないかしら?」


「どうしてそう思うんだ?」


「だって、巨大組織で人材がせめぎ合っていたら表に出てきてもちゃんと健全な競争環境の中で発展できるけど、そうじゃないってことでしょ? だとしたら人材が極めて限定的で、その人達を引き抜かれたり暗殺されたりしたら組織が立ち居かなくなるような組織構成ってことなんじゃないかな?」


「ふむ……。世界的な金持ちの一族があまり表で派手にカネを使って見せないのと同じで、恨みを買ったりちょっかい出されたりしないように裏に回っているということなのか……」


 納得できる。あり得る話だ。俺がウンウンと頷いていると市川さんがクスっと笑った。


「感心してくれるのは嬉しいんだけど、人材の特殊性という意味ではこれ、うちと同じなのよ……影山さんというキーになる替えのきかない能力者を前面に出さないで暗躍させているでしょ私達。

 敵さんの替えのきかない人材というのが影山さんのような能力者である可能性は極めて低いけど、似たような何かである可能性は高いと思ってるの」


「あ……」


 ふーん……市川さんの俯瞰的な視点の高さは凄いなあ……。相田や貴子さんもかなりロジック詰めで分析をやって来たけど、市川さんはなんというか、間違っててもいいから思ったことを言ってみるというダイナミックさがあるんだ。そのあたりが発想の大らかさを産んでいるような気がする。


「それと、これは感想なんだけどね」


「うん」


「この徹底的な動きは凄い。ある種の妄執すら感じるわ。であれば、この組織ってのはもしかしたら恨みつらみみたいなものが教義(ベース)になってる可能性があるように思えるの」


 以前、妄執に駆られて俺をナイジェリアまで追いかけてきた市川さんが言うのだから、きっとこの組織にも妄執はあるに違いない。


「じゃ、動機について考えられるようなものを想像してケースごとにまとめておくから、出来上がったら声をかけるわ。それと、影山さんはこのレポートをあまり読みこまないでちょうだい。今後も先入観の無い意見を聞きたいの」


「了解。ところで市川さん、ツンツンした感じが抜けたね。何かあった?」


「うーん……秘密とか使命とか、そういうので頑張っちゃってたのかなあ。秘密を知ってる人が増えて若干肩の荷が降りたのと……あと、こないだの嫁騒動で思い知ったんだけど、私あんまり可愛くないなあって……まあそういうのの反省がいろいろ混ざってるのよ。できれば突っ込まないで暖かく見守ってほしいところであります。ハイ」


 そう言って照れて笑う市川さんを見て俺は何も言えなくなった。何か気の利いた言葉の一つでも返したいところだが、残念なことに俺の語彙はこっち方面にそんなに豊富ではないのだ。


 洒落た一言がなかなか出て来なくて焦っていた時、俺のポケットの中の携帯電話が鳴った。


「ちょっとごめん」


 俺はそのタイミングに感謝しつつ電話をとった。


「ああ……はは……影山さん?」


 瞳だ。だが聞こえてくる声はいつもの自信に満ちた声ではなく、むしろ消え入りそうなほど弱々しい。


「どうした? 何があった?」


「ちょっとねえ……ちょっとしくじっちゃった……ごめんなさい」


「おい! 瞳?」


 鈍い落下音とともに電話が切れた。瞳に何かあったに違いない。


「市川さん、瞳の自宅わかる?」


「入社時の書類に記載があるわよ。嘘は書いていないって言ってたけど ……どうしたの? 瞳さんに何かあったの?」


「判らん。とりあえず行ってくる! 住所はメールで!」


 俺は財布を引っ掴んで外に飛び出し、タクシーを拾った。スマートフォンには瞳の住所が書かれたメールが届いている。さすが市川さん、仕事が早い。


「清澄白河! 有料道通ってもいいから急ぎでお願いします!」


 俺の目はスマートフォンの地図アプリに釘付けになっていた。

 瞳の身に何が起きたのか。無事であることを祈るばかりだ。

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