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人類が増えすぎたので減らしてほしいと頼まれました【本編完結済】  作者: にゃんきち
人類が増えすぎたので減らして欲しいと頼まれました

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第百話:糠に夏野菜

「山中瞳と申します。これ以降の会議に参加させていただきます。邪魔はしませんのでよろしくお願いします」


 休憩の後、瞳が会議に参加することについて皆の同意を得ようとしたが、当然というか、壬生翁以外の全員からクレームの嵐。南極大陸での彼女の活躍を説明して場はなんとか収まった。「俺の命の恩人」扱いでならまあしょうがないということか。

 何より「瞳を怒らせたらここにいる全員が1分以内に屍になる」という俺の説明が効いたような気がするが、まあそれはそれで。


 で、俺は役員会議室の大画面にこの日のために作っておいた俺の能力に関する詳細資料を映し出し、一通りの説明をした。

 この資料はもともと市川さんにリファレンスとディープコピーの説明をしようとして作っていた資料だが「そもそもレグエディットとは」から書いているうちに興がのってしまい気がつけば大長編になってしまったものだ。

 長い説明が続いたが、メッセージは1ページに一つ、など分りやすいプレゼンの作り方のお約束を守って書いていたので聴衆たる淑女の面々には飽きずに聞いてもらえたようだ。


「んー。まあ具体例があるおかげでなんとか分かるけど……これはコンピュータプログラミングの知識が必要だね。鉄を金に変えたりするとか、モノを移動させたりするとか、そういう現象を起こせることは分かったよ」


 生化学系が専門のシャーロットにはやはり難しかったようだ。でも彼女のことだ。大学でコンピュータサイエンスの先生を捕まえて質問したり、エマさんに習ったりして最終的にはキャッチアップして来るんだろうな。


 ちなみに、位置情報の変更メソッド「アブソリュート」についてだけは今回説明を見送った。壬生さんが例のラゴスの核テロを俺の仕業だと思いこんでいたのと同様の疑念をここにいるメンバー、特にシャーロットには持たれたくなかったからだ。


「せやな。オブジェクト指向知らんかったら全然解らんのとちゃうかこんなもん……デストラクタの動きが解らん……というか謎すぎる。

 あとクリップボードやな。何やねんそれ便利すぎるやろとか思うわ」


「そうだな。影山君には前に言ったことがあるが、儂の若い時にはこんな言葉も概念もなかったからなあ。

 正直こんなことが出来ると全部知らされていたとしても使いこなせんかっただろうが」


「えええ? お父様もこれ、出来たんですの?」


「ああ、言っとらんかったか。儂ぁ影山君の先輩に当たるんだ。だが儂は彼のようには上手にこれらの機能を使いこなせなんだ」


「初耳ですわ……」


「ほええ……せやから前からチョイチョイ影山さんは壬生さんとこへ行ってはったんですねー」


「ああ、そのへんは今から話すから……」


 前に壬生さんと話していた時にも考えたが、そもそも「あいつ」が俺達担当者に付与する能力というのはせめて21世紀前半のコンピュータ関連、しかもプログラマレベルの知識がないと使いこなせるものではないのではないか。14世紀くらいに担当者になった人間にはいったいどう説明したのかすら謎だ。


 もっとも、俺の何代か後に担当者になる奴が居たとして、そいつが22世紀のコンピュータ事情に詳しかったらより効率的な使い途を考えられるかも知れない。その時代の担当者は与えられた知識と経験の中でなんとかお役目をこなしていたということなのだろう。


 続いて俺は自分の脳のMRI画像を皆に見せ、自分の遺伝子が一部「あいつ」に改変を加えられたこと、発生した小脳の器官と能力の関係などについて話をした。勿論ソフトウェアやプラグインの話も込みでだ。

 この遺伝子改変は壬生翁にもおそらくは行われており、貴子さんにそれが遺伝している可能性にも俺は言及した。


 壬生さんの頭には生検でグレード3か4のグリオーマがあったと報告があったそうだから、手術で摘出されたのは本当に脳腫瘍だったのだろう。だが、貴子さんがもし将来的に頭部MRIを撮影することがあったとしても俺と同じ位置に腫瘍状の物がある場合は病気でない可能性があるので注意するように、と俺は付け加えた。


 これについてはシャーロットが食いついてくるかと思ったが、まだピンと来ないらしく、特に興味を引くことはなかったようだ。ルーカスやクロエが居たらまた違っていただろうが、正直突っ込まれても当の俺にすら解らない事だらけだから実りある議論は出来なかったに違いない。


 次に、俺は俺の遺伝子に手を加えた「あいつ」との出会いや、俺がどうしてレグエディットという能力を獲得したかの経緯について説明した。

 当然「あいつ」から与えられた使命、すなわち人口削減を求められていること、1年に1万人の人口削減ノルマがあること等もいちいち詳細にだ。まあ、全部話したかと言われるとそれなりに漏れはあるかもしれないが。


 一通り、俺の説明が終わると瞳が土下座をしていた。


「やはり影山さんは神の御使(みつか)いだったんですね……ああ、向こう辞めて来て良かった……」


「いや、瞳、土下座はやめろ。いいか、俺は『あいつ』を神だとは思っていないし思いたくもない。造物主かどうかで言えばこの世界シミュレータを作ったのは『あいつ』ではなくゲーム会社らしいからな。『あいつ』はこの地球を含む宇宙の一部を観察・操作している高次元知的生命体に過ぎん」


「過ぎんって、銀河14個分でしょ? 充分凄いんじゃありませんか……?」


「『あいつ』が厳しい修行の末に高次元生命体になり仰せたのなら少しくらい敬ってもいいが、ただ親が高次元生命体だっただけって可能性だって無いわけじゃないからな……」


「どんな理屈だ……。お前さん、金持ち相手に(ひが)んでるのと発想が同じだぞ」


「そういうとこよね……」


 俺の発表についてはあらかた内容を事前に知っていて、今まで黙っていた市川さんがボソッと言った。俺も言いたい。そういうところが市川さんの怖いところだ。


「で、1年1万人は避けられないノルマなので俺はちょくちょく国内外で悪い連中を消しに行っていたわけだ。これが第1の議題で相田がそこに書いた『出張後一年以内に確実に出張先で起こる暴動・騒動』というやつだな。正直、巻き添えになった人達もかなりいるとは思うんだが、俺は巻き添えはしょうがないと思うことにしている」


「つまり、影山さんは人がバンバン死んだら嬉しいということですか?」


 瞳が眼を輝かせながら質問をしてきたが、ここで「はい」というと面倒なことになるのは確実なので俺は返す言葉を詰まらせた。


「無差別というわけにはいかんだろう。まずは悪人だな。悪人がいっぱい死んでくれると嬉しいかもしれん」


「でも、悪人が減ったらそいつらに頭を抑えられていた新しい悪人が出てくるだけですよ?」


「そうだよ? 影山さん何言ってるの? 悪い人が居なくなったら良い人の中から何割かが悪い人になるだけだよ?」


 瞳とシャーロット、この二人の悪人像は各々の経験から来るものだろう。だが、それでも俺は善人相手に機関銃を乱射するような間引き方はしたくないのだ。。


「悪人、なんて言い方をするからさまざまな理解が発生するのよ。きちんと言えばいいのよ。ヤク中、マフィア、ギャング、ヒモ、強盗、殺人狂、カネや権力に目がくらんで理性を失う連中って」


「長いわよ。イッチー」


「ああでもそんなんだな。それでだいたいカバーできていると思う。その時その土地の新鮮な『欲望に忠実な外道』の皆さんが減ってくれれば俺は嬉しい」


「それ、私が()ってもカウントされますか?」


「いや、多分無理だろう。というか、ここはあまり前のめりになるところじゃないぞ?」


 俺はそれから、自分の人口削減手段を暴動の誘発や直接的な殺傷から社会科学的現象としての人口減少へシフトしようとしているのを説明した。ここでは投資先企業をどう使った、とか何故影山物産(うち)が性具のベンチャーへ投資しているのかとか、そういうことも含めて説明できたと思う。


 壬生翁が「壬生商事(わしんとこ)も同じアプローチを取っていて、日本では人口減少を達成した」と言ってくれたことで俺の手法の有効性に箔がついたのは嬉しかった。


「以上を踏まえて、まだ俺に協力してくれる人が居たら会社に残ってくれ。それと、今日の俺の話は他言無用に頼む。メールや電話回線等での話もやめてくれ。盗聴するシステムというのは必ずどこかしらにある筈だからな」


「……まだ話してないことが結構あるんとちゃいますか?」


 相田にはまだ情報が必要なようだ。「俺が今までどういう削減をしてきたか」についてはボンヤリとしか話していないのではないか、そこをもっと聞かせろと言外に迫っている。


 ゴールドラッシュやコカノキ畑、宗教法人の本部襲撃なんかの顛末はとても詳細に言えたものではないし、正確な死者数は誰にもわからない。俺は、血なまぐさいだけで具体性を欠く話をするのはこの場では避けたかったのだが……。


「私ら、残るか残らんか決めなあかんのでしょ? どのレベルで協力したらええのかちょっと分からへんから事例の中でもキッツいやつを2、3教えて欲しいんやけど……それ聞いて決めるからお願いしますわ」


「しょうがないな」


 俺はいくつかの例を話した。まずは金の延べ棒の入ったバッグを酒場の椅子に置いていった例、NPOに頼んで風呂や側溝を張り巡らせた例、高級自転車のサドルに放射性物質を仕込んだ例、そしてゴールドラッシュを誘発させた例などだ。


 俺がこれらの事例を話している途中から、相田の顔がなんとも言えない表情になってきた。


「なんかこう、自分が書いた小説(ラノベ)とちょっとかぶってるような気が……ひょっとしてパクリました?」


 イエス、という答えが返ってくるであろうことを確信した表情で相田が俺に詰め寄った。


「アイーダ月ヶ瀬先生の作品を、非常に参考にさせていただいております」


 俺は頭を下げてそう答えるしか無かった。


「分かりました、ほな、これからも気合い入れて書かんとなぁ…… で、影山さん、敵対勢力についての分析は?」


「は?」


 突然何を言い出すんだ相田。敵対勢力って……俺達がいるこの世界には分りやすい悪役は居ないぞ?


「これだけ、昔から何代も担当者が頑張って来たのに人口が幾何級数的に増えてるっちゅうことは、どっかで人口を増やしまくろうとしてる誰かが居るっちゅうことなんとちゃいますの?」


「いや、ここんとこ大きな戦争もないし、食糧事情や衛生事情の改善、医療の進歩による若年層の死亡率の低下や、人道支援のおかげで……」


「人道を叫ぶなら、飢饉になりがちな国で産めよ増やせよ言うのはおかしいですやん。『今はちょっと我慢しとき』て言うのが理性的な判断とちゃいますのん? いつ供給が途絶えるか分からん国連(UN)印のトウモロコシと小麦の袋渡して『無くなったら持ってきてあげるからリスク考えずに子供バンバン生みなさい』って、それ、家畜みたいなもんですやん」


 えげつない表現を使ってはいるが、一つの意見として筋は通っている。なるほど、何処かで人口が減ってもらっては困る勢力というのが居るのかも知れない。先進諸国でも人口が減少の兆候を示すと、さも人口と国力が直結しているかのような言い方をして移民の受け入れを検討しろとか言い出す人が一定の割合でいるようだし。


「移民を受け入れろ、それが当然だと言うばかりで受け入れた後は何の支援もしない団体がいくつもあるのは確かですわ。ドイツなんかはそういう団体がたくさんあって問題視されています」


「そうだな。宗教や教育の問題があったとしても、歴代の担当者が結構な数を減らしてきたのにすぐにその穴を埋めるくらい増えているのはおかしいかもしれん」


 壬生親子には何か思い当たる節でもあるのだろうか。その勢力の存在を前提にした場合、どのようなアクションを取れば良いのかが俺には最も大事なのだが……


「その様子やと今まで敵対勢力の存在について考えたこと無いみたいですね? せやったら私はそういう組織があるという前提で今後、分析作業に入らしてもらいますわ。良いですね? 影山さん」


 キョドる俺に相田がニカっと微笑みかけた。


「では私は相田さんの分析のためのデータ取りと、後は投資先をつついて、より人口削減寄りの商品開発やサービス開発を促す役目を」


 貴子さんが会議前半の泣き顔からすっかり立ち直り、俺に凛々しい目を向けた。


「じゃ、私は全体のパフォーマンス測定と敵対勢力への対抗措置について、オプションを常にいくつか挙げておきましょう。あと全体の収益管理かな」


 市川さんがにっこり微笑んだ。


「んじゃ、私は時折インタビューで『避妊は大事だよ』とか言っておくよ。あとは1年ノルマの方のアイデア出しを。電話やメールじゃ駄目って言うから休みの日には会いに来るね?」


 シャーロットも皆に並ぼうと頭を絞ったようだ。


「じゃ、私は実行部隊で影山さんの出張のボディーガードを……」


 調子に乗って瞳までが自分の役割を言いだした。


「山中さんには影山物産(うち)に入社してもらって雑巾がけからお願いしようかしら……?」


 市川さんが悪戯っぽく瞳を弄った。瞳にとっては影山物産への入社は一つの目標だと前に聞いたことがあったが、雑巾がけとかいうのはあんまりな話だ。壬生翁の顔に緊張が走った。壬生翁は瞳の危険性について俺の半分くらいは理解している筈だ。


「あ、じゃあ明日からお願いします」


 瞳がにっこり笑って答えると、市川さんも「じゃあ、明日朝10時にここに来て頂戴」とひるまず返した。おそらく、市川さんとしては予測不可能な瞳を少しでもコントロール可能な状態にしておきたいのだろう。さすが戦略家、さすがPM、さすが市川さんだ。


「えー、ではめでたくも全員がこのまま影山社長と仕事を続けるということで意見が一致しました。これを以て今日の臨時役員会を終了します。本日の議題および議論内容は全て機密扱いとします。では、解散!」


 相田の終了宣言で皆がガタガタと席を立ち、無言で自席に帰っていった。誰も無駄口を叩かず、おそらくは今日の俺のプレゼンを踏まえ、自分は何をするべきかを真剣に考え始めたのだろう。


「いい会議だったじゃないか」


 壬生翁が俺の脇腹を肘でつついてニンマリ笑った。


「ええ、俺にはもったいないくらいですよ。みんないい女です」


「分かっていると思うが、あまり長く引き伸ばすなよ。そのうち全員、肉体が20歳でも中身が50とか60の老獪な山姥になってしまうぞ」


 そんなになるまで皆俺と一緒に居てくれるんだろうか? それはそれで面白そうだが。



申し訳ありません。シリーズ編集の途中、誤って第百話、百一話を消してしまいました。

文章は復旧していますが「いいね」をいただいたものが消えているかと思われます。

伏してお詫び申し上げます。

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