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キヴォトス  作者: ととこなつ
第九部 ~十二の預言詩篇~
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365話 新しい家と新しい同居人 Ⅱ 


「おうちを……購入してしまいました」

「そうでしゅね……」


 今日は、ついにミシェルもアホ面になってしまった。いくらララが「勉強する」(値引きする)とはいってくれても、もとの金額が金額である。実に途方もないローンだった。


 ララは、持ち主を四人に提示したが、ルナとミシェルから多額の金を受け取る気はないようだった。ふたりの支払いは、K38区にいたころと同じ、シェアして計算した家賃分の金額。それ以外は、アズラエルとクラウドが支払うのだ。


「どうやって払う気だろ」

「わかんない」


 ルナとミシェルは、ふたりきりでリズンに来ていた。


 ララとシグルスが帰ったあと、アンジェリカはサルビアと一緒にペリドットに会いに行ったし、グレンはラガーへ向かい、セルゲイはタケルが宇宙船に帰ってきたことを知って、会いに出かけた。


 セシルとネイシャは、今日の夜にやる、新しい同居人の歓迎パーティーのためにワインを買いにでかけ、アズラエルとアルベリッヒ(+サルーン)が、夕食の買い物に出た――。


 屋敷内の片付けをしようにも、すでにさまざまな家具は用意されていたし、部屋割りを決めて、数少ない荷物を運びこむだけで終わった。


 相変わらず、三階はルナとアズラエル、クラウドとミシェル、ピエトがひと部屋に。

 セシルとネイシャで一室。

 二階には、グレンとセルゲイが一室ずつ取り、アルベリッヒとサルーンが一室、サルビアとアンジェリカで一室となった。


 ルナたちは、一週間前再オープンしたばかりのリズンへ、シグルスが教えてくれた河川敷を歩きながら、やってきた。

 リズンは、リニューアルオープンしたとはいえ、外装も雰囲気も、なにひとつ変わっていなかった。そのことにルナたちはすこしほっとしながら、コーヒーを注文した。

 夕方の中途半端な時間で、ひとも少ない。


「アズはね、役員さんになったらたぶん危険手当がもんのすごい金額入るからだいじょうぶって、ララさんはゆってた」


 傭兵だったアズラエルは、おそらく派遣役員になったら引っ張りだこで、忙しくなるだろうという話だ。


「クラウドはさ、ぜったい、いくつか怪しいルートの仕事持ってんのよ。だって、あんなにお金持ってるはずないもん」


 ミシェルもぼやいた。クラウドも役員になると言ったが、「派遣役員」ではないと明言したところが逆に怪しかった。


「ルナ! あんた、金塊をお金に換えた分があったでしょ? それで払うってわけにはいかないかな?」


「――あ」

 ルナが思い出してアホ面をしたときだった。


「オッヒョオオオオオオ! いたあああああ!!!!!」


 ものすごくハイテンションな声が、ひともまばらなリズンのオープン・カフェに響き渡った。


「!?」


 ルナはウサ耳を立たせ、ミシェルはシッポをビーン! と立たせた。公園のほうから、夕焼けを背に、ひっつめアップ髪の女性が猛然と走ってくる。


「はじめまして二度めまして!! ミシェルちゃんオンリーで! あたしのこと知ってる? おぼえてる?」


 ずいぶん使い込んだ赤い革バッグをさげた、ジーンズ姿の飾り気ない女性である。勢いよく手を取られ、ミシェルは「!?」となったが、やがて思い出した。

 このハイテンション――間違いない。


「アニタさん!?」


「あったり―!!! ウヒョオ、ウレシー!! やっと会えたあああああ!!!」


 アニタはブッフォ! と涙を放出させた――「もしかして、もしかして、こっちはルナちゃんかな!?」


 ルナは口をO型にあけて、迫力と勢いある女性を眺めていたのだが、手をガッシ! と握りこまれて、ウサ耳はこれでもかと立った。


「はい! あたしるなちゃんです!!」

「ウレシー! マジ嬉しいやっと会えた! やっと会えたあああああ!!!」


 アニタの感激の絶叫は、天を突き――空を割った――わけはなかったが、それが実現可能であるかのような、すさまじい歓喜の叫びだった。


「ご――ご一緒、しても?」


 言葉は遠慮がちだったが、目は爛々(らんらん)と光輝き、期待に満ち溢れていた。


「い、いいよ」

「どうぞ……」


 ルナとミシェルは、勢いに負けて、空き席を示した。


 そのとき、アニタのバッグ――ウサギのペーターのバッグ――ルナのジニーと色違いの同じショルダーバッグ――を見たルナは、ついに思いだした。

 宇宙船に乗ったばかりのころ、毬色(まりいろ)で出会ったお姉さん。

 ジニーのバッグをメッチャ長文で、熱心に勧めてくれたお姉さん。

 そう――「アニタさん」と呼ばれていた――。


「その節はお世話になりました!!」

「えっ!?」


 いきなりルナがぴょこんとお辞儀をしたので、戸惑ったアニタだったが、ルナが持っていたジニーのハンドバッグ――こちらはタキおじちゃんのプレゼント――を見て、彼女もようやく――ほんとにようやく、思い出した。


「あのときの!!!!!」

 アニタはガッシリ!! と力強くルナと握手した。


「いやあ~、世間って狭いわぁ……」


 ミシェルは一度、無料パンフレット「宇宙(ソラ)」の表紙を飾ったことがある。だから、アニタとは顔見知りだ。


宇宙(ソラ)の編集長さん!?」


 アニタのテンションマックスの自己紹介のあと、生クリームを口の端っこにくっつけながら、ルナは叫んだ。アニタのおごりだと言われて、夕食前だというのにハワイアン・パンケーキを注文したのだ。ルナはアズラエルに怒られるだろうが、最近狂暴なウサギは噛み付くだろう。


「ご愛読、ありがとうございます」


 アニタは、ハワイアン・パンケーキを五口で片付け、今月号の「宇宙(ソラ)」をふたりに渡した。表紙は、宇宙船から撮ったアストロスの写真だった。


「わあ……ステキ!!」

「これ、帰ってくるときに移動用宇宙船から撮ったの。なかなかうまく撮れてるでしょ?」


 カメラマンはにわかだけどね~、とアニタは豪快(ごうかい)に笑った。

 中身も、アストロスの特集だ。あのメルーヴァ騒ぎの中でも、アニタはジュセ大陸を可能な限りあちこち回っていたらしい。


「マジでメルーヴァ到来の事件はすごかったね……あたし、喫茶店のソラにいてさ、マジで生命の危機を感じたね――見た!? アストロスに移動するとき、つぎつぎL20の宇宙船が燃えてさあ――本体が、ホントに燃えちゃったかと思ったもん」

「う、うん――すごかったね」


 ルナとミシェルの返事が濁った。ルナはその光景を見たが、ミシェルは見ていない。避難していないからだ。しかし、それをここで言うわけにはいかなかった。


「あたしはメンケントに避難したんだけど、ミシェルちゃんたちはどこにいたの?」


 ルナとミシェルは顔を見合わせた。


「え、えっとお――バーダン・シティに」

「バーダンか! あそこも避難民であふれてたもんね――残念ながら、今回はさすがにナミ大陸のほうは行けなかったよ。古代都市クルクスとか、中央都市のオルボブとか、まわりたいところはいっぱいあったのに――」


 ミシェルはあわてて、話題を変えた。なるべくアストロスのことは話題に出さないようにしないと、どこからボロが出るか分からない。ルナたちは、バーダン・シティにいたということになっているが、ジュセ大陸のことはまったく知らないのだ。泊まっていたホテルはどこ? なんて聞かれたら、答えようがない。


「そ、それより、ひさしぶりですね! アニタさんが乗ってるなんて思わなかった。ソラが毎号発行されてるとこを見ると、それなりにまだ、編集部のひとは宇宙船にいるの?」


「みんな、降りちゃったのよ……」

 アニタはいきなりハイからローにギアを切り替えた。


「え!? じゃあ、毎号のソラ、だれがつくってるの?」

「あたしひとりで」

「アニタさんひとりで!?」


「びっくりされるけど、まァ、なんとかなるもんよ? あたし、今年の一月からはずっとひとりでつくってたの。コラムや四コマ漫画は、降りちゃった仲間にメールで送ってもらえるし、取材して、原稿を仕上げるのはあたしひとりでもだいじょうぶ。配るのだけは、けっこう大変だけどね。でも、それも広告料くれるお店の人たちが協力してくれるから」


「そ、そうだったんだ……」


「でも仲間がみんな降りちゃったことはさみしくてさ……船内に、だれか知ってる人残ってないかなあって思ってたら、アストロス到着前に、ニックさんがミシェルちゃんたちのこと教えてくれて」


 ニックと知り合いだったのか。でも、あちこちに取材に回っているアニタは、知り合いが多くて当然だろうな、と二人は納得した。

 まさか、最近知り合ったばかりの関係とは、ルナもミシェルも思い及ばなかった。


「ニックさんに、ミシェルちゃんたちもそろそろ宇宙船にもどってくるころだからって教えてもらって、リズンによく来るんだよね? 三日通い詰めたんだけど、会えなくて。今日なんか、これで十回目だよ十回目! リズンに来たの」


「十回目!?」

 さすがにふたりは驚いた。


「コーヒーも十杯目! うん――嬉しいよ。あたし、船客で残ってるのはもうあたしだけだと思ってたの。だから嬉しい」


 アニタは本気で感極まったように泣き出した。


「……」

「……」


 そういえば、宇宙船に残っている船客は、何人いるんだろう。ルナたちは考えたこともなかった。


「アニタさんの周りでは、もう、宇宙船に残ってる船客のひとはゼロ?」

「うん。だれもいないよ」

「いったい、ぜんぶでどれだけ残ってるんだろうね」

 ルナが首を傾げたときだった。


「たぶん、二十七人だよ」

「え?」


 声がしたので振り返ると、アントニオが、コーヒーサーバーを持って立っていた。


「俺もお邪魔していい?」

「うん」


 アントニオはテーブルにコーヒーを置き、椅子を引っ張ってきた。カフェテラスにも中にも、もう客はいなかった。


「おもしろいジンクスがあってさ」

 アントニオはおもむろに話し出した。

「十人以上の船客が地球に着くときは、住んでいる区画と同じナンバーの人数になるって」


「ホント!?」

 ミシェルが叫んだ。


「ホント。だいたいいつも1~3人、ゼロの時もあるから、そういうのは例外ね。一番最近のツアーで最高人数は二十五人――劇団仲間で乗ったんだけど、ひとりだけ降りて二十五人で到達した。そのとき住んでいた区画はK25区」

「……!」


 アントニオは、ルナたちのカップにコーヒーを注ぎたした。


「数十年に一度、十人を超えることがあるんだ。K13区の芸術家たちが、十三人そろって地球についたときもあったし――でもなかなか、二十人以上はいないよ」

「あたしたちがK27区にいるから、二十七人ってこと?」

「そう」


 アントニオはうなずき、ミシェルはあわてて言った。


「ちょ、数えてみよ! あたしとルナ、クラウドとアズラエルでしょ――」


 ルナとミシェル、クラウドとアズラエル、リサとミシェル、キラとロイド。ふたりの娘、キラリ。

 グレンとセルゲイに、ピエト、セシルとネイシャ。

 アンジェリカとサルビアに、ツキヨ、リンファン、エルウィン、エマル。

 アンドレアに、ベッタラ、アルベリッヒにサルーン。


「pi=poは入らない?」

「pi=poは一応、船客の資産扱いだね……」

 アントニオが苦笑いした。

「じゃ、サルーンは?」

「サルーンはありかな」

「アルの相方だから、ここは、サルーンもひとりに数えとこう」

「うん」

 ルナはうなずいた。


「で、――アニタさんで、二十五人?」

 ミシェルは首をかしげた。


「俺とアンジェの子もカウントして」

 アントニオがウィンクした。

「アンジェは船客だから、子どもも一応、船客にカウントされるよ」

「――! そっか! じゃあ、アントニオとアンジェの子で、二十六人?」

「二十六人じゃ、ひとり足りないよ?」

 アニタが言った。


「ララさんとシグルスさんは?」


 ミシェルが思いついたように言ったが、アントニオは首を振った。


「もし彼らが地球まで行ったら、それもはじめての到達だろうけど、ふたりは株主だから、船客にはカウントされないんだ」


「――じゃあ、もうひとり、あたしたちのまだ会ってない船客がいるってこと?」

 ルナも尋ねた。


「そうなるけど、実は、君たちのほかにもう船客は乗ってないんだよ」

 アントニオは笑顔になった。


「じゃあ――どういうこと? 二十七人じゃなくて、二十六人? あたしたち、K26区に移住するってことなの?」


 ミシェルは首を傾げた。

 だいたい、今日お屋敷を買ったばかりである。おまけにK26区はS系惑星群住民が住む土地で、ルナたちとはまるで縁がない。


「いや。ちがうよ。きっと、あとひとり、とんでもないところから出てくるのかも」

 アントニオはおもしろそうに言った。

「あと、ひとり――」


 ルナがつぶやいていると、「てんちょー! あたしたち失礼しますねーっ!」という、ウェイトレスたちの声が聞こえた。


「うん! おつかれさん! また明日ね!」

「え? もう閉店?」

 アニタが慌てたが、アントニオは首を振った。

「いや、今日は客もいないし、早めに閉めたんだ。店じまいは俺がするからのんびりして」


「でも、あたしたちもそろそろ帰らなきゃ」

 ミシェルが腕時計を見た。

「アントニオ、お店閉めたらいっしょに行こう? そうだ。アニタさんも来ない? ルーム・シェアのパーティーやるの」

 ミシェルがアニタを誘った。

「え? パーティー?」

「そう――ニックも来るよ――」


 ルナは言いかけ、やっと、最後のエプロンの行く先を悟った。ルナのアホ面から、ミシェルも何かをキャッチした。ふたりは顔を見合わせ、うなずいた。


「あたしたち、みんなでルーム・シェアしてるの」

「アニタさんももしよかったら、いっしょに住まない?」

「えええっ!?」





 ――アニタは、「お屋敷」を見上げて絶句していた。無理もない。


「ルナちゃんたちって、セレブ?」

「庶民です」

 ルナは厳かに言った。

「いっしょに住む人間に、庶民以外がいるだけなの」

 ミシェルも言った。

「怪しいルートの仕事してるヤツとか、お医者さんとか……」

 アントニオが吹き出した。

「怪しいルートの仕事って、クラウドのこと? それともアズラエル? グレン?」

「え!? そのふたりもアヤシイの!?」


 車庫の前には五台も車があったので、すでに大勢が屋敷に結集していることが伺えた。


「あ、おかえり!」

 玄関ドアを開けると、さっそくもらったエプロンをつけたアルベリッヒが、アツアツのラザニアを運んでいた。

「ルナちゃんありがとう! このエプロン、ポケットが大きくて便利だ」

 アルベリッヒは、ポケットというポケットに、あれこれ詰めていた。タオルにおたまにカッターにと。


「なんだ? そいつが新しい同居人か? 女のほうの?」

 アズラエルが、アニタの姿を認めて言った。

「……!?」

「入れ。取って食いやしねえから」


 アニタは、絶句顔で――言葉がやまないマシンガンの異名を持つアニタが、まったく言葉も繰り出せず、大広間を眺め渡した。どこかのダンス会場みたいな大広間のせいもあっただろうが、主に大広間を埋める人間たちのカオスぶりに失語していた。


 老若男女――年寄りから赤ちゃんまで、勢ぞろいしている。


 アニタに話しかけたのは、どう見てもマフィアにしか見えない筋肉ムキムキの入れ墨男で、同じくらい派手な刺青(タトゥ―)のヤンキー兄ちゃんが、料理を運んでいる。


 そして、銀髪の、これまた派手な男がワインをテーブルに並べていた。ここだけ見ると、マフィアのアジトに紛れ込んだような緊張感がある。


 スーツ姿の人間がちらほら見えるということは、役員も混じっているということだ。


 背が高くてカッコイイ系のおばあさんと、アンドレアが、少し離れた場所で赤ちゃんの面倒を見ている。いっしょにいるのは、どう見ても髪の毛が四方八方に爆発し、七色に染め上げられた、パンクというレベルを軽く超えた女性だった。


(キラちゃんだ)


 アニタは、彼女だけは思い出した。ルナたちの同乗者。ここにリサはいないようだった。


 L03のアクセサリーをつけた、どことなく一般人とは違う雰囲気の女性が三人もいて、どう見てもL5系の上流階級のセレブに見える男性がひとり、モデル並に美しい男性もひとり、原住民にしか見えない男性も一名――。


 美人だが、プロレスラーにしか見えない筋肉ムキムキの中年女性が、椅子を五客も肩に乗せて運んでくる。大した迫力だった。


「タカ……」


 リボンをつけたタカが、ケーキの入った袋を下げてこちらへ飛んでくるのは、幻だと思っていいのだろうか――。


「よくできた! すごいよ、サルーン!!」


 若い入れ墨オトコがケーキの袋をキャッチした。褒めると、タカは嬉しげに「ピイ!」と鳴いた。

 犬猫がペットの家庭はよくあるが、タカがペットというのはあまり見たことがないアニタだった。

 物怖じしない方のアニタも、玄関から一歩も先に進むことができず、固まっていたが――。


「アニーちゃん!」

「ニックさん!」


 アニタはニックの姿を見つけて、たちまち情けない顔をした。


「カオス屋敷へようこそ!」

「だれがカオス屋敷だ」


 銀髪男にどつかれるニック。ニックは笑いながらアニタを連れて、大広間へ踏み出した。


 キッチンから、ドスドスと言わんばかりの足音をさせて、オルティスがチキンの丸焼きを運んでくる。


「おお、アニタじゃねえか。ルナちゃんたちとともだちだったのか?」

「オルティスさん!?」


 知り合いなの!? と絶叫したアニタ――デレクとエヴィも、酒の瓶を抱えてキッチンから出てくる。


「お! ついにアニタちゃんまでこのカオス屋敷に!」

「え? え? みんなお知り合い――マジで!?」


「だから、アニーちゃんは、ぜったいルナちゃんたちと仲良くなれるって言ったじゃないか」


 ニックが肩を叩いて言うのに、アニタの目と鼻と口から、いろいろなものが噴火した。


「え? マジですか。あたしほんとに、ここに住んでもいいの!? 冗談とかじゃなく?」


「なんだ、最後のひとりって、君か」

 モデルも真っ青の美形に気さくに話しかけられて、アニタは飛び上がるところだった。

「よろしく。俺はクラウド。ここはたしかにカオス屋敷だけど、居心地の良さだけは保障するよ」


「あたしはセシル、こっちは娘のネイシャ」

 びっくりするほど綺麗な親子だ。

 姉妹かと思ったとアニタが言うと、セシルは嬉しげに微笑んだ。


「セルゲイです、よろしく」

 モデルのようなL5系セレブに握手を求められて赤面した。


「俺はグレン、あっちの入れ墨男はアズラエル」

 入れ墨男を紹介した銀髪男も、悪い人ではなさそうだが、コワモテだった。だがイケメンだ。


「サルビアですわ」

「あたし、アンジェリカ。よろしくね」

 L03の衣装を着た姉妹は、姉は目を見張るほど神々しく美しく、アニタは見惚(みと)れたし、妹のほうは、ものすごく頭がよさそうだった。


「俺はアルベリッヒ、こっちは妹のサルーン。よろしく」

 両腕がタトゥだらけのイケメンは、真っ黒なタカの飼い主だった。


 すれ違いざまに、たくさんの人間が自己紹介していく。アニタはいつもの十分の一の声で自己紹介し返した。

 このお屋敷は、あんまりなくらいにイケメンと美女だらけで、めずらしくアニタは気後れした。


 キッチンに走っていったルナが、ぺぺぺーっと大広間にもどってきた。アストロスで買ってきた、エプロンの包みを携えて。

 ルナはアニタに、クラフト紙と紙ひもで包まれたプレゼントを渡した。

 中身はエプロンだった。ルナもミシェルも身に着けていたし、部屋には同じエプロンをつけている人物が幾人かいる。

 なるほど、このエプロンをつけているのが、この屋敷に住むメンバーなのか。


「これ――あたしに?」

「うん! いっしょに地球に行こうね! アニタさん!!」

「……!!」


 ルナが差し出したのはエプロンだが、アニタに必要なものはハンカチとティッシュだった――だれかがティッシュボックスを探したが、アニタは自前のバッグからハンカチを取り出して涙を拭き、ポケットティッシュで盛大に鼻をかんだ。

 そして、エプロンを受け取った。


「行く! いっしょに、地球に行こう!」


 こうして、地球に到達すべき仲間二十六人目が、カオス屋敷に集まった。


 ――二十七人目はまだここにはいなかったが、彼の存在は、ピエトとともに、着々と地球行き宇宙船に近づいていた。




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