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キヴォトス  作者: ととこなつ
第九部 ~十二の預言詩篇~
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364話 新しい家と新しい同居人 Ⅰ 3


「じつは、新しいルーム・メイトが、あとふたり増えることは、ルナちゃんが“予言”したんだけど、それがだれかは分かってなかったんだ」


「ええっ!? そうだったの!?」

 アルベリッヒは、困惑顔で言った。

「ペリドットさんが、どうせなら、おまえもルナたちと住んだらどうだって言ってくれたんで、とっくに話は着いているものだと……」


「ペリドットは、適当なところはすごく適当だからね」


 だいたい想像がついていたクラウドだ。アルベリッヒは呆れ顔で言った。


「じゃあ、君たちは、俺たちのことを、なにひとつ聞いちゃいないんだな。やれやれ――もし迷惑だったら、無理にとは言わないよ」


「べつに迷惑じゃねえよ。おまえは俺たちも知ってるヤツだし」

 アズラエルは言い――その言葉に、異論を唱えるものはいなかった。

「おまえこそ、俺たちと住むことに違和感はないのか?」


 アルベリッヒはリュナ族――どちらかというと、ベッタラと同じく、文明人の生活は嫌がるものだと勝手に考えていた――クラウドも言うと、アルベリッヒは肩をすくめた。


「俺はもともと、中央区に住んでいたんだ」

「――君が!?」


 驚くのも無理はなかった。ルナたちが初めて会ったときのアルベリッヒは、K33区の山奥も山奥に住み、リュナ族の衣装を着て、文明とはほど遠い生活をしていたのだ。

 しかし、中央区にいたというのを証明するように、アルベリッヒの服装は、ルナたちと同じ若者の服装――しかもかなりオシャレな方だ。両腕のトライバルも、ファッションと言ってさしつかえなかった。


「これはリュナ族のまじないだ。俺のこれは、交通安全のまじないといったらいいか――旅をする人生と決めていたからね。ノワのように」


 ノワの名前に、ルナのウサ耳がぴこたんと揺れた。


「俺は都会で暮らしてみたくて、この船に乗ったときは中央区に居を構えたんだけど、サルーンが、都会の空気はダメだったみたいで」


 都会の喧騒(けんそう)と、夜でも明るい街並み。ほとんど自然のない環境に、サルーンは慣れることができなかった。徐々に元気を失っていくサルーンを見かねて、アルベリッヒは、K33区に移り住んだ。故郷と変わらない土地に――そうしたら、サルーンはみるみる回復した。


「K27区は適度に都会的で、広い公園もあるし、自然が多いから、サルーンにも俺にもちょうどいいんじゃないかって――勧めてくれたのは、ペリドットさんなんだけど」


 アルベリッヒの台詞の最後は、苦笑交じりだった。


「あたしたちは、だいじょうぶだよ。アルベリッヒさんがだいじょうぶなら」


 ルナとミシェルも、アルベリッヒのルーム・シェアに賛成し、特に反対意見は上がらなかった。


「サルーンも、ここならだいじょうぶ?」


 ミシェルが尋ねると、リボンをつけたタカは、ぴょこん! と首を縦に振った。


「賢いタカだなあ」

 アンジェリカも目を丸くしていた。アルベリッヒは、嬉しげに言った。

「じゃあ、サルーンともども、お世話になります。あ、俺のことはアルって呼んで」


「もとサルーディーバに、サルディオーネに、リュナ族ね――ますます屋敷がカオス化してきたな」

 ララが、楽しげに言った。


「ところで、K27区の街並みはどうだった?」

「おっきなショッピングセンターができてた!」

「住宅街が多くなったね」


 ルナとミシェルがかわりばんこに言うと、ララは満足げに笑った。


「今回区画整理で、K24区とK27区が入れ替わったのさ――」


 ララの合図で、シグルスが、テーブルに大きな船内の地図を広げた。


「いつも思ってたけど、区画は上からとか、玄関口から順番に数字が振られているんじゃないんだね」


 アンジェリカが常日頃思っていた疑問を口にすると、ララは言った。


「区画のナンバリングは、宇宙船ができた当初、街が出来上がった順番につけられたんだ」


 ララは、地図を指して、説明した。


「完成当初は、ここに家族で来た船客を住まわせようとか、ここは親子連れだとか、明確に決まってはいなかったって話だ。――まあ、ざっくり、原住民やS系惑星群、軍人たちや貴族のセクションは決められた。治安の意味もあって、L4系のチンピラと、L5系のお嬢様の屋敷を、隣同士にするわけにゃァいかないからねえ――でもまあそのうち、ひとってのは似たような人間がまわりにいると住みやすいのか――自然と、似たような生活環境の人間が集まるようになって、徐々に区画割りは細分化されていったんだけど、今だって、ぜったい決められた区画に住まなきゃいけないって決まりはない」


 ララは、K27区を示した。


「まあ――ここ」

 コーヒースプーンで、K27区をつついた。

「今回、あたしがそっくりK27区をつくりなおしたんだけど、 “家族が住む町”をテーマにした」


「――家族?」

 ルナが聞いた。


「うん。今までK24区が“ファミリー向け区画”だったんだけど、K24区は、中央区に近いだろ。で、となりにK14区。ここは役員居住区も多いけど、資格取得の学校が多くてさ――K27区の若いヤツラがここに通うことが多い。だったら、となりのK24区を若者の街にしたらどうだって意見が、株主の間でも多くてね」


「なるほど」

 クラウドが腕を組んだ。


 リサもキラも、よくK14区の講習会場に通っていた。リサはK27区からだと遠いので、多少家賃は高くなるが、中央区に住むことにしたのである。


「逆にK27区は公園もあるし、河川敷や並木道が多くて、家族連れにいい環境だという意見が多かった。――だから、今回作り直すならいい機会だと、区画移動をした」

 ララはソファに座り直してコーヒーを手にした。

「来期のツアーからは、K27区に家族連れが住むことになる」

「家族連れ……」

 ルナは口を開けてつぶやいた。


「さてここからが本題――ルナ、アズラエル。それからクラウドとミシェルもか? もし、あんたたちが役員になり、これから地球行き宇宙船に永住するってンなら――この物件、買わないか?」


「――え?」

 思いもかけない申し出だった。


「別に提供したってあたしはかまわない。だけど、タダで受け取る気はないんだろう? おまえらは」


「タダより怖いものはねえっていうだろうが」

 アズラエルは、ララの言葉を肯定した。


「でも、正規の値段じゃァ売らないよ。あんたたちにはこれからも世話になるだろう。そういった無形の価値も含めてもちろん、勉強させてもらう。――この家が借家のまンまじゃ、あんたたちが今季のツアーを終えて資格取りに行ってる間に、この家には別の連中が住むことになっちまう――押し付けるわけじゃないが、この家は、あんたたちのためにつくった。できれば、あんたたちに所有してもらいたい」


「そうしよう」

 あっさり答えたのは、クラウドだった。


「クラウド!?」

 ミシェルがびっくりして恋人を見た。


「俺は、この船の役員になるつもりだ――派遣役員ではないけど」

「クラウド……」

「あたしの秘書になる気はないってことかい――まァいいさ。そうだと思っていた。ミシェルもどうせ、この船で暮らすんだろ?」


 ミシェルは迷い顔だったが、これだけは分かっていた。ツアーが終わって、L77にもどり、ガラス工芸教室に通い直す自分の姿より、この宇宙船で暮らしていく自分の姿のほうが、はっきりと形になっていた。


「きっと――そうなる感じがする」

「なら、話は早い。――ルナ、アズラエル。あんたたちは派遣役員かい」

「うん!」

 ルナは力強く返事をした。

「そうなるだろうな――船内役員になったって、することはねえからな」

 アズラエルもうなずいた。


「ほかに、役員になることを予定しているヤツらはいるかい?」


 グレンとサルビアは地球に住むことになるだろうし、セルゲイはカレンのもとにもどる。アンジェリカは、アントニオと結婚後、十年ばかりは宇宙船に住むことになるだろうが、そのときは彼と一緒だ。セシルはベッタラと彼の故郷へ。ネイシャは軍事惑星群に行く。アルベリッヒは、先のことは分からないと言った。

 ララの質問に、とりあえず手を挙げる人間はいないようだった。


「じゃあ、今のところ、四人ってことだな」

「四人のほうがいい、これ以上増えると、金の問題が起こりそうだ」


 アズラエルは言い――そして、決断した。


「俺は、この家を買うよ」


 ララは不敵に笑った。

「決まったな」

 シグルスは、ブリーフケースから、書類を出した。

「今日からここは、あんたたちの家だよ」




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