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キヴォトス  作者: ととこなつ
第九部 ~十二の預言詩篇~
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364話 新しい家と新しい同居人 Ⅰ 2


『ルナさん!!』

『みなさん、ご無事でなによりです』


 屋敷の案内がすんだあとは、再会が待っていた――ちこたんは変わらぬまま。新しくなった機体のヘレンと、ルナたちは抱き合った。


「ちこたんおかえり!!」

『ただいまです!!』

「無事だったんだねヘレン!!」

『はい。新しい体をもらいました』


 ヘレンは、ステラ・ボールの最新型、1440型になっていた。カラーバリエーションは「パイナップル・キティ0322」の鮮やかな黄色だ。

 ちなみに、クラウドのキックもすでに新しいボディをもらって研究所にいる。お目見えはもう少し先だ。


 そこへ、インターフォンが鳴った。玄関ドアはカギがかかっていない。


『ヘレンが出ます』


 さっそく役割を果たそうとしたヘレンだったが、ドアにたどり着く前に、遠慮がちに開かれた。


「こんにちは――みんな、いるのかな?」


 玄関に立っていたのは、セシルとネイシャ、カルパナだった。


「セシルさん! ネイシャちゃん!!」


 ルナがまっしぐらに玄関に向かって駆け、ミシェルに追い越された。ネイシャが、呆気にとられて天井を見上げていた。


「……すげえ。前の家とおんなじだけど、もっとすごくなってる」

「おはよう、みんな。なんだか庭がすごかったね」

 セシルも、興奮を隠せない声で言った。

「大門までタクシーで来てさ。ここまで来るのに、だいぶ歩いたよ――今度は右手側に駐車場とテラスがあるんだね」


「タクシーに、玄関まで来てもらえばよかったのに」

 クラウドの言葉に、カルパナが半分白目で言った。

「そうしようかと思ったんだけど、怖くなっちゃって……。本当にここでいいのかなって」


「プールを見た?」

 セルゲイが二人のトランクを引き取りながら聞いた。

「見た見た! ありがとうセルゲイさん――今日からまたよろしく」

「こちらこそ」


「ふたりだけか。ベッタラはどうした」

 アズラエルは不思議に思って、尋ねた。

「ベッタラさん? ベッタラさんは一緒に住まないよ。前から言っていたじゃないか」


 ベッタラは、「文明人の生活に慣れると故郷に帰れなくなる」と前々から言っていて、この屋敷に住むことは断っていたのだが、それは決戦が終わった今も同じだった。彼は今まで通り、K33区で暮らす。


 セシルとネイシャは、とりあえず地球旅行が終わったら、ベッタラの故郷に向かうことになっている。だから、それまでは――地球到達まではルナたちと暮らしたいと言って、ルーム・シェアをつづけることにしたのだ。


「おかしいな……新しいルーム・メイトって、ベッタラじゃねえのか」

 アズラエルは首を傾げた。


「これから一緒に暮らすサルビアさんだね。話は聞いています。あたしセシル。こっちは娘のネイシャ。どうかよろしく」

「よろしく!」


「まあ――お可愛らしい。わたくし、サルビアと申します。分からないことばかりで、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうか、よろしくお願いいたします」


 サルビアは、セシルたちと握手をしたあと、深々と礼をした。


「全員そろったら部屋割りを決めよう――アンジェはまだ?」

「来ないね。宇宙船にはもう入ってるはずなんだが」


 ララも腕時計を見ながら言った。そこへインターフォンが鳴ったので、ルナは「はいはーい!!」と叫んで、ドアを開けた。


「アンジェ、いらっさ――」

「こんにちは」


「――!?」


 ルナの知らない男性が立っていた。だが、相手はルナを知っているようだ。


「わ、わかんないかな」

「ど――どちらさまだったでしょう?」


 ルナはほんとうに、だれか分からなかったのだ。相手は苦笑した。ルナはその笑顔で、やっとだれなのかが分かった。

 決定打は、彼の肩にバサバサと舞い降りてきた、彼の髪の色のように茶色い、大きなタカの存在。


「アルベリッヒさん!?」

「正解。こんにちは、ルナちゃん」


 オシャレなカラーTシャツに重ね付けネックレス、テーラード・ジャケット、チノパンにスニーカーのスタイル――茶色の、ちょっぴり長めのボサボサ髪をひとつに束ねて、帽子を被って。背丈は百八十センチ弱――クラウドと同じくらいだ。手首から甲にかけて、両の手に彫られたトライバルも似合っている。

 まさか、アルベリッヒだとは思わなかった。

 K27区にいても違和感はないが、どちらかというと、夜な夜なK37区のクラブに出没していそうな青年――だった。


「服装がちがうと分からないよな。久しぶり――アルベリッヒです」

「アルベリッヒさん!? マジで」


 後ろのミシェルも時間差で叫んでいた。まったく分からなかった。だって彼は、リュナ族の衣装ではない。見かけだけなら、K37区の若者が大きなトランクを引っ提げて、玄関口に立っていたという登場シーンであったのだから。


「アル! もしかして、新しいルーム・メイトって君か!」

 クラウドも驚いて、玄関にやってきた。


「見違えたぞ。おまえ、マジでリュナ族か?」

 アズラエルがからかうように言った。アルベリッヒは頭を掻き、「似合わないかな?」と苦笑した。

「この地区に住んでる若いヤツらとまるで変わらねえんでビックリしたんだよ――サルーン、おまえも、おめかししてンじゃねえか」


 サルーンは、頭に、赤い水玉のリボンをつけていた。


「サルーンって、女の子だったの!?」


 ルナは絶叫した。すると、サルーンはふたたびルナの頭の上に乗ったので、ルナはぷんすかした。


「あたま! どうしてあたまに乗るのう!?」

「サルーン、降りなさい――そうだよ。サルーンは女の子――降りなさいってば。お言葉に甘えて来てしまったけど、ほんとうにいいの? 俺がいっしょに住んでも?」


 まさか、新たな同居人がアルベリッヒだったとは。


「玄関じゃなんだから、とにかく、入って」

 セルゲイが促し、アルベリッヒは「お邪魔します」といって入った。

「いやあ――すごいお屋敷だな」

 そういって天井を見上げ、目を丸くした。

「外なんか、ほとんど森だったじゃないか」


「俺たちもびっくりしていたところ」

 クラウドが苦笑した。


 サルーンがアルベリッヒの腕から飛び立ち、はしゃぐように大広間を一周して、ルナの頭に落ち着いた。


「あたまはいけないの!!」

「サルーンにもよさそうな環境だ――コラ! サルーン、ルナちゃんの頭に乗るなってあれほど、」

「すっげー!! かっこいい!! タカだ――触っていい?」


 ネイシャが近づくと、サルーンはポンとネイシャの腕に飛び乗った。ルナはほっぺたを極限まで膨らませた。


「なぜに! なんであたしだけあたま!!!」

「カッコイイし、可愛い~!! サルーンっていうの。あたしネイシャ。よろしくね!」


 ルナは、すぐそばに来たネイシャに驚いて、叫んだ。


「――ネイシャちゃん、おっきくなってない?」


 ルナは、ネイシャを見上げていることにようやく気付いた。もとから、ルナより背は高かったが、ミシェルと同じくらいだったはず。しかし、今は見上げないと、ネイシャの顔が見えない。心なしか、顔もすこしおとなっぽくなったような――。


「十センチ伸びたよ」

 ネイシャは得意げに言った。

「十センチ!!」

 ひとつきで!?

「うん。いま、174センチ――あたしだって、もう13歳だよ」

 ネイシャはルナにウィンクした。よく見たら、セシルより大きくなっていた。

「カレシだって、できる年ごろ」


 ルナは口をぽっかり開けた。

 先日、クルクスのホテルで会ったときは、互いの無事を確認しただけ。慌ただしくふたりはベッタラのもとへ行ったので、ネイシャの変化に気づく余裕がなかった。

 たったひとつき、会わなかっただけで。

 子どもの変化は(いちじる)しいというが、ひと月前までのネイシャとは、まるで別人のような気がした。


「ねえ、ルナ姉ちゃん」


 そうか、ネイシャはそろそろ思春期か、とひとり腕を組んで難しい顔をしだしたルナは、ネイシャに話しかけられて「ほえ!?」と顔を上げた。まるで別人になった感じがしていたが、ひと懐こさは、なにも変わっていない。


「ピエト、いつもどってくるの」

「う~ん……三日後くらいには到着するかも」


 このあいだ、やっと電話がつながって、無事を確認できた。ピエトは元気だったし、リサもミシェルも変わらなかったが、どうして今まで連絡が取れなかったのか、ルナは不思議に感じていた。ピエトはアズラエルが発ったあと、目覚めて普通病棟に移されたらしい。電話連絡ができない環境ではなかった。


(特に変わったことはなさそうだったけど)


「そっか……」


 ネイシャが思いつめるような――急に大人と変わらない顔をするものだから、ルナはどきりとした。


「ピエト、あたしに彼氏ができたって知ったら、どんな反応するかな」

「……!」


「こんちは~! ほんとにK38区の屋敷と同じじゃないか! すごいね」


 アンジェリカが、玄関に、メリッサと一緒に立っていた。


「ルナ~! もどってきちゃった」

「あ! アンジェ、おかえりっ!!」

「ルナ姉ちゃん、あとで相談に乗って――母ちゃんには、内緒!」

「う――うん」


 ネイシャは小声で言って、ルナに両手を合わせ、アズラエルのほうへ走っていった。「アズラエル兄ちゃん、ただいま!」と、いきなり後ろからアズラエルの背に飛びつくところは、今までのネイシャと変わらない。

「重くなりやがって」

 ネイシャを小突くアズラエルは、苦笑気味だ。ネイシャをおんぶしたまま、クラウドと間取りを見ながらなにか話している。

 ルナはその後ろ姿をじっと見つめていた。


「ル、ナ!!」

 肩を叩かれて、我に返った。

「どうしたの。ぼーっとして」

「う、ううん――もどってこれてよかったね! アンジェ」

「うん。これからよろしく」

「こっちこそ!」


 ミシェルも後ろからアンジェリカに飛びつき、その様子を、サルビアも微笑ましく見守っていた。


「アンジェ、よくもどりました」

「ごめんね。アントニオから話を聞いてたら、遅くなって――どうも。アンジェリカです。姉ともども、これからお世話になります」


 アンジェリカは、はじめて会うセシルとネイシャ、そしてアルベリッヒたちに挨拶をした。


「初対面の方もいらっしゃるようですから、お茶をかねて、自己紹介をいたしましょう」


 カザマが声をかけ、大広間から応接間に移動した。入って向かいの壁面に流れる滝のような水流を見て、アンジェリカもセシル親子も息をのんだし、サルーンが本物の滝かと思って突撃し、ガラス戸にぶつかって落下した――「驚いた。これ本物の水? 映像じゃなくて?」

 アルベリッヒも、しょげたサルーンを抱きかかえながら、感心して眺めた。


「ライトをつければまた別の(おもむき)になるよ――夜になったら試してみな」

 ララは大威張りで言った。


 けっこうな人数だったために、ソファはすっかり埋まった。皆が席に着いたタイミングで、シグルスがコーヒーや茶菓子をワゴンに乗せて運んできた。


「コーヒーの方は? それから、紅茶の方――ジュース類は、アップルとオレンジがあります」

「ルーシーやミシェルとお茶ができるなんて嬉しいよ!」


 一度でいいから、夕食をいっしょに囲みたいもんだ――と言いかけたララの言葉が、シグルスが彼のまえにコーヒーを置いたことで遮られた。


「ララ様、コーヒーをどうぞ」

「……なんだっておまえはジャマばかり、」

「ララ様と夕食をともにする、は、ベッドまでがディナー・コースに入っていますからね。ルナ様、ミシェル様、お気を付けくださいませ」


 アルベリッヒが動揺して、受け取ったコーヒーを受け皿にこぼした。


「あたしだって分別はあるよ!」

「その分別で、幾人デザートになさいましたか」


 アルベリッヒにおしぼりを、サルーンに水の入ったコップを与えたシグルスは、面倒事を背負い込むのはこっちだといわんばかりに、鋭い目を光らせた。

 シグルスの言葉に、めずらしくララがおとなしく引っ込んだのは、彼がつい先日、たいそうな「失敗」をやらかしたからだった。理由がないわけではない。


 クラウドがあわてて話題を変えた。




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