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キヴォトス  作者: ととこなつ
第八部 ~セパイロー篇~
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327話 兄弟神の末裔と、最後の封印 Ⅱ 2


「それぞれ見えている神が違うというのはどういうことなんだろう……」

「考えてもしかたがない。入ってみるしかない」


 地球行き宇宙船サイドでは、クラウドとペリドットがそんな会話を交わしていた。

 たしかに、いつまでも入り口で考えあぐねていても、先に進まない。

 地球行き宇宙船サイドとアストロスサイドは、クラウドとバンビの通信がつながった時点で、同時に遺跡に入ることにした。


「では、ここからは私たちだけで」

「お気をつけて」


 バンビと九庵、スペツヘム親子も、軍人の敬礼と、オリーヴたちの「ここで待ってるね!」という声に見送られて、ロープを越え、遺跡に進入した。


 バンビは遺跡に入る前、自分の若いころそっくりのバンヴィの像の真上に、うっすらと白く――月が出ているのを見た。

 今は昼間だ。――ということは、あれは新月。


 ZOOカードの世界では、満月ということを知らないまま、バンビは、不思議な運命を感じながら、遺跡に足を踏み入れた。


 中は、とてつもなく広かった。すうと太陽の光が遮られ、涼しくなる。

 遺跡はずいぶん保存状態がいい。長い年月、人の手が入って管理されていただろうことが伺える。ところどころ真新しく見えるのは、すこしずつ復元が施されているからだろう。


 入り口の外壁に施された彫刻の像とは別に、太古の文明――アストロス創成期時代に作られたバンヴィの神とアストロスの神の像が玉座に座っている。その像も、五メートルはあるだろうか。


 宮殿の大広間であろう、色あでやかな彩色が施されたイアラ鉱石の床をまっすぐに進み、ふたつの玉座の後ろへ回り込むと、金の扉があった。


 スペツヘムがバンビに手を差し出した。


羅針盤(らしんばん)を、お貸しください」

「え? あ、は、はい」


 スペツヘムの手に、羅針盤を預ける。彼は金の扉の真ん中に、羅針盤を嵌め込んだ。

 途端にそこから金色の光が扉の模様に沿って走る。走り切った先端から、ガチャガチャと音がして、周りから順に鍵が開いていく。


「ファ、ファンタジーだわ……!」


 憧れのファンタジーな展開に、バンビは感動して目を潤ませた。重そうな扉は奥に向かって開き――一面、金に覆われた回廊を現した。


「こ、ここここここ、古代の、ロマン……!!!」


 バンビはふたたび目を真っ赤にさせた。主に感動の側面で。

 おさないころ、父母とともに世界各地の遺跡を見に行ったときの感動がよみがえる。

 回廊の壁には、等間隔にくぼみがあり、中には火を内部に灯した透明な石が飾ってあった。いったい、何万年前からあるのか。バンビが口を開けてマヌケな顔をさらしながら歩いているとき、同じ回廊を、同じ顔で、ルナたちも歩いていた。


 こちらも、バンビサイドで扉が開いたとき、同時に開いた。

 中に火がともる石を見て、ルナはミンファが見せてくれた石を思い出した。あれはミケリアドハラドの色彩石だったか――。

 カザマも思い出したようだ。回廊をひどく明るく照らす石を見て、驚いていた。


「大きな結晶が、こんなにたくさん……」

「なんだ!? この石!!」


 ルシヤとピエトが感動してくぼみを覗き込み始めたので、ルナはやっと両手を解放された。ちこたんはルナにしがみついたままだ。


 まっすぐ、百メートルほども歩いた回廊の奥もまた扉だ。金ではないが、同じく豪勢な装飾がついた扉。


 先ほどと同じく、羅針盤を使って開けると、大きな広場に出た。ここも、壁に沿ってずらりと並んだ火中石が、円形の広場を照らしていた。ここは最初の大広間ほど天井が高くはないが、同じくらい広い。


 そして、いくつものドアが、火中石の間に並んでいる。


「あっ!」

「バンビ! 九庵!!」


 クラウドとペリドット、そしてふたりの子どもが真っ先に広場に入った。

 ほぼ同時に、真正面にある扉が開き、バンビと九庵、スペツヘム親子が登場したので、驚いたのだ。


「えっ!?」

「おや……」


 もちろん、驚いたのは、アストロス側から来たバンビたちもだ。


「どういうことだ……アストロスと、地球行き宇宙船がつながっているのか?」

「厳密には、ZOOカードの世界と、かね」


 クラウドの疑問符に、エーリヒの困惑無表情顔。


「よし。俺は考えねえぞ。頭が混乱する」

 唸ったのはアズラエルとグレンだった。


「バンビ! 心配してたんだぞ」

「無事でよかった」


 ルシヤは真っ先にバンビに飛びついた。九庵の肩をアズラエルが叩く。


 バンビと九庵は、地球行き宇宙船サイドからきたみんなと再会して、無事を喜びあったが、見知らぬ顔がふたりいるのを見て、子ども二名はすぐ人見知りを発揮し、バンビと九庵の陰に隠れた。


 ペリドットが「スペツヘムか?」と聞いた。


「はい。私は、スペツヘム・AAA・ベルタヘルムと申します。アストロス太陽系治安防衛部隊総司令官です」

「私は、息子のレイーダです」


 親子は、バンビと会ったときと同じ自己紹介をした。


「なるほど……あなたたちが」


 アンジェリカがうなずき、ちらりとアズラエルとグレンを見たが、どちらも「先祖でーす」と名乗りたそうな顔はしていなかった。ふたりとも、そのことを忘れているかもしれない。


 親子のほうもじゅうぶん困惑していた。エーリヒほど無表情でないにせよ、ほとんど感情を表すことのないふたりだが、この状況には。


「先ほど、バンビさんと通信されていた方々では? ――地球行き宇宙船にいらっしゃったはず」

「もちろん、俺たちは地球行き宇宙船から来た。というか、正確には“ZOOカードの世界”からだが。ああ、俺はL18の陸軍に在籍していた。クラウド・A・ヴァンスハイトといいます」

「ZOOカードの世界……?」


 スペツヘムらは、シャトランジの封印についての知識はあっても、さすがにZOOカードのことは知らないようだった。


 クラウドと握手を済ませ、ついでに、順番に自己紹介をした――アストロス防衛軍の総司令官というのもたいそうなものだが、地球行き宇宙船サイドには、次期サルーディーバの存在や、サルディオーネ、ラグ・ヴァダの王などがいたので、スペツヘムはともかく、レイーダがいちいち動揺していた。

 それが普通の反応かもしれない。

 だいたい、ルナも、そういえばサルーディーバがサルーディーバだったことを思い出した。


 アズラエルとグレンと握手をしたとき、親子は不思議な顔をした。無表情ではないが、一定の柔和な表情を崩すことのなかったスペツヘムも、すこし呆けた顔をして、ふたりから目が離せなくなったようだ。


「――おふたりは、ごきょうだいでは」

 という、レイーダのどこか感極まった問いに、アズラエルとグレンは歯をむき出した最上級の柔和なツラで、

「残念ながら違うんだ」

「似てないだろ?」

 という言葉を返すことしかできなかった。最大限の譲歩だ。


 ルナが「み」しか言えなくなっていることに関しては、問題なかった。ちこたんが、ルナの口の役割を果たし、「ルナ・D・バーントシェント様です。わたしは、pi=poのちこたん」と自己紹介を済ませてくれた。


 律儀な親子は、ちこたんとも丁寧に握手をした。それに、サルーディーバとサルディオーネとラグ・ヴァダの王と、祖先の兄弟神っぽい面子のインパクトの中では、ルナのカオスな様子も、pi=poがついてきていることでさえ、印象には残らなかった。


 ひととおり自己紹介がすんだあと、ペリドットがあたりを見回し、スペツヘムに聞いた。


「この先は、どう行けば? どの扉を行けばいいんだ?」


 ぐるりと広場を囲む壁には、いくつもの扉がある。自分たちが入ってきた扉もあれば、バンビたちが入ってきた扉も。


「……しまった。あたしたち、どの扉から入ってきたかしら」


 どれも同じ扉なので、すっかり見失ってしまった。クラウドが親指で背後を指す。


「あれが俺たちの入ってきた扉だ。印をつけておいたから――あの扉の真正面に当たる扉が、バンビたちの入ってきた扉」

「さすが、クラウド君。抜かりがないね!」


 ニックが素直に感嘆の意味を込めて言ったが。


「だとしてもだ。次はどの扉に向かえば?」

「……扉はそれぞれ、羅針盤を使って開けていくことは伝承にありましたが、この広間のことは書いていなかった」


 スペツヘムも、どこか途方に暮れた顔で広間を見渡した。


「われわれも、この先はどうしていいか……」

「さっきの廊下に、ヒントはなかったかね、」


 エーリヒが言いかけた刹那(せつな)――全員、身体に揺れを感じた。揺れ、というよりか、空中に放り出された感じだった。


「――!!」


 無重力状態になった、と思ったのは、床がなくなったからだ。底が抜けた。

 皆、悲鳴を上げるヒマもなく、真っ逆さまに落ちていった――。





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