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キヴォトス  作者: ととこなつ
第八部 ~セパイロー篇~
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312話 セパイローとpi=poと、はじまりの予感 3


「――それじゃあ、ここの四人は、K19区の遊園地は、初めから見えてたってことなんだな?」


 ペリドットの困惑顔に、困惑顔で返したのは、シュナイクルを含め四人全員だった。


「はじめからって……なにがはじめか知らんが、廃園になっている遊園地だろう?」

「あの遊園地がどうかしたのか?」

 ルシヤも首を傾げて聞いた。


「K19区には……いつ行ったんだったか。海があるところだろう? 俺たちは北方の出で、山は馴染み深いが、海はあまり……。だが、ジェイクが海辺育ちだと。いつだったか、四人で海を見に行った」


 シュナイクルが記憶を探りながら、訥々(とつとつ)と話した。


「そもそも、隣の、K25区に行こうとしたんだ。K19区は通り道だ。遊園地があったのは覚えてるよ。だが、廃園だったから、そのまま通り過ぎた」


 シュナイクルの言葉に、ぺリドットが頭を抱えた。


「なんで全員、見えたんだ? 守護神はバラバラだろう。なぜだ。ええと……シュナイクルはグリズリーか。太陽の神の守護だな。ルシヤはウサギで、ジェイクがオオカミ、バンビが……」


 ペリドットが思い出せないでいるようだったので、バンビは「あたし、シカだって言われたわよ」と教えてあげた。


「ああ。おまえはシカか。――シカ?」

 ペリドットが顔を上げた。

「ZOOカードは?」


 バンビは仕方なく答えた。


贋作士(がんさくし)のオジカ……だって」


「贋作士のオジカ?」


 反応したのは、アンジェリカとペリドット、同時だった。

 ふたたび、ルナのウサ耳が、なにか言いたげにぴょこりん、と立った。クラウドの「カオス」というボヤキが聞こえる。


「え? 贋作士のオジカ? あなたが?」

 アンジェリカまでやってきた。pi=poを放って。


「そう――言われたけど」

「だれに?」


 アンジェリカとペリドット同時に言われて、バンビはますます困惑した。


「だれって――たぶん、ルナに?」


 今度はふたりがルナを見た。ルナのウサ耳と本体が、ぴょこーん! と跳ねた。


「待て。待ってくれ。なにか確かめたいことがあるのは分かるけど――ひとつの説明は、とにかく最後までしてくれないか。混乱する」

 ジェイクが、俺はあまり頭がよくねえんだよ、と泣きそうな声を出した。


「ああ、すまん。――どこまで話したっけ」

「K19区に遊園地があるんだが、知っているかという質問で終わっている」

 シュナイクルが言った。


「そうだった」

 ペリドットはうなずき、

「実はあの遊園地、特定の人間にしか見えないようになっているんだ」

「なんだって?」

「まぁ、いろいろあって、今は、ラグ・ヴァダの武神に対抗する軍団の、集会場になっている」


 ペリドットはあまりに要約した――あまりにも。

 要点はつかんでいたが、あまりにも要点だけだった。彼はそういうところがある。

 四人の首が傾げる方向に曲がっていくのを見て、たまりかねて、クラウドが口をはさんだ。


 あの遊園地は、特定の人間しか見えないようになっている――なぜなら、あそこには、ラグ・ヴァダの武神を倒すための秘策があった。「シャトランジ!」という、千年前のサルディオーネがつくったアトラクションだ。それを起動するため、ルナたちは導かれ、封印を解きに行った。


 白ネズミの女王から槍を預かり、シャトランジの秘策を、白ネズミの王から授かった。

 そのシャトランジは、「アヘドレース」に変わり、さらに進化中だということ。


「アヘドレース」は、チェスのことだった。


 機能そのものは、ラグ・ヴァダの武神を倒すというよりか、武神の「軍隊」に対抗する秘策らしいということ――。


 なんとか要点に説明を付け足す形で、クラウドは説明した。


 ジェイクは途中から混乱気味だったし、ルシヤは目を輝かせて聞き、「わたしも、いっしょに封印を解きに行きたかった!」と叫び、シュナイクルはまったく表情が変わらなかったが、理解はしているようだった。


「シャトランジとは、L03の駒取りゲームか?」

「形状は、おそらくL03のものに近い。古代の地球にも、そういったゲームがあった」

「ハン=シィクでは、チェスだったな。シャトランジというのは、聞いたことがあるが……」


 シュナイクルが悩む顔をした。


「アヘドレース、がチェスに該当する」

「なるほど」

「おそらく、進化したアヘドレースは、“セパイローの庭”というところに作られる」


 そこまで説明したとき、バンビが首を傾げた。


「“セパイローの庭”も、封印を解かなきゃ入れないんじゃない?」


 バンビの言葉に、店内にある人間の目が一斉に向いた。


「ヒイっ!?」

 気が小さいオジカは、ちょっぴりビビった。


「その通りだ」

 ペリドットは、バンビを見つめたまま言った。

「どこでそれを?」


「え?」


 バンビは必死で、説明をしようとした。出典の記憶がない。


「ええと、たぶん……最近、マ・アース・ジャ・ハーナの神話を読んでるのよ。アストロス版の――その中に、そんな話があった……かな……?」


 記憶にない。バンビの語尾は頼りなかったが、ペリドットははっきり否定した。


「どこの神話だろうが、そんな話は載ってない――ほかに“思い出したこと”ないか」


「ほかにって……」

 バンビは戸惑った。


 思い出したこと?


「セパイローの封印は、七つ解かなきゃいけない。それから……、」

「もしや、“シャトランジ!”は、“バンヴィ”がつくったものかね?」


 突如、割り込んできた声があった。

 バンビが聞いたことのない声に振り返ると、やはり知らない男が立っていた。


「だれ!?」

「申し遅れた。私はエーリヒ・F・ゲルハルト」


「エーリヒ……」

 バンビは、「名」だけ、覚えていた。

「エーリヒ!?」


「あれ? 君、エーリヒには会ったことないっけ」

 クラウドが不思議そうな顔をした。


「私は、君に会ったことがあるかな?」

 口をパクパクさせるバンビを面白そうに無表情で眺め、エーリヒは聞いた。


「こっちも言ってなかったか。エーリヒ、彼、アレクサンドルだよ。アレクサンドル・K・フューリッチ」

「ほう」


 絶叫したのは、バンビだった。


「なんで! 心理作戦部の隊長が、この宇宙船に乗ってるのよ!!」


 気絶しかけたバンビを救ったのは、ルシヤの張り手だった。相変わらず容赦がない。顔も腫れたが、頭も晴れたバンビは、精一杯冷静を装って、話の続きに応えた。


「シャトランジってのは知らない――アヘドレースもなんのことやら。でも、“イアリアス”なら知ってるわ」

「“イアリアス”?」


 やはり、ほぼ全員が反応した。バンビは、出典の記憶があいまいな語句を、迂闊に口に出したくはなかったが、たしかに、どこかで見た気がした――。

 読み込んでいる、アストロス版のマ・アース・ジャ・ハーナの神話だろうか。

 どこで読んだのか、イマイチ思い出せないのだ。


「ごめん。話を遮るけど。あたし、ルナに相談したいことがあったの。どうも、このあいだから、“バンヴィ”の夢を見るの」

「マ・アース・ジャ・ハーナとセパイローの末子で、勝手に星をつくろうとしたバンヴィの話かい」


 ルナではなく、クラウドが興味深げに食いついてきた。


「君の偽名は、バンヴィからじゃないのか」

「違うわよ。あたしは、シカちゃんが好きなだけで――クラウドあんた、バンヴィの伝承を知ってるのね?」


 バンビが目を瞬かせた。


「ま、あれはアストロス版にしか載っていない話だからな。驚かれるのも無理はない――ルナちゃんにまつわる事件は、マ・アース・ジャ・ハーナの神話が関わることが多いし、ミシェルの前世も、神話の絵を描いているからね。役所の図書館から借りて読破済みだよ」


 バンビと同じルートで、中央役所の蔵書にたどり着いたというわけだ。


「興味深いな。“偽物”の星をつくったバンヴィが、“贋作士のオジカ”ね」

「あたし、前世とかなんとか、そういう風習や考え方があるのは分かってるし、否定はしないしあるとは思ってるけど、あまり自分に当てはめて考えたくはないのよね」


 バンビは嘆息した。クラウドが指を立てる。


「なら、もうひとつ興味深い話を――バンヴィがつくった星は、アルビレオだけじゃなくって、アストロスもだって話は?」

「なんですって?」

「なんだと?」


 こちらはバンビだけではなく、ぺリドットと、アンジェリカも反応した。ルナのウサ耳までせわしなく揺れだしたので、クラウドは見ないふりをした。


「バンヴィは、勝手に惑星“アルビレオ”をつくり、セパイローと兄弟たちに追放された。追放された先でつくったのが、自分が住む惑星“アストロス”。アストロス太陽系――太陽系と言われているが、アストロス語で、太陽はマ・アース・ジャ・ハーナ。アストロスは太陽信仰だってわけだな。それから、アストロス以外の七つの星は惑星でなく衛星扱いだ。そのうちのひとつが、バンヴィ」


 クラウドは続けた。


「アストロスから見て“月”に当たるのがバンヴィ。なんでアストロス星外に“バンヴィ”があるのかっていうと、アストロスは、セパイローがバンヴィから取り上げたから。勝手に星をつくって放り出されたのに、また性懲りもなく星をつくって、怒られた。アストロスの衛星は、すべてバンヴィの七人の兄弟の名だ。アストロス語表記になるけどね」


 クラウドは、ルナにお願いしてちこたんを呼び、デジタルボードを表示した。


「アストロスの衛星は、サ、ヴェーデ、シウォン、ニパ、ケトル、ガーナ、ニムス、そしてバンヴィ。バンヴィは、月に当たる」


 いつのまにか皆が集まってきて、デジタルボードを注視していた。


「サ、がカザカンド(天空の神)、ガーナがゲム(海の神)、ケトルがエルト(山の神)、ニパがネシウス(樹木の神)、シウォンがベルパ(火の神)、ヴェーデがパルベ(水の神)、ニムス(土の神)――のアストロス語表記だ。七人の兄弟たちに囲まれてる形だな」


 クラウドが指で書いていく名を、興味深く読んでいるのは、エーリヒとバンビくらいなものだった。ジェイクから順番に脱落していった。


「贋作士のオジカ……シカは基本的に、真昼の神の支配下にある動物だ。でも、“バンヴィ”は、アストロスでは“月”の名。すなわち、贋作士のオジカとは、“真昼の月”ともいえる」


 だれかが、息を呑む音が聞こえた。


「真昼の月が意味するものは?」


「――新月」

 バンビがつぶやく。


「のわ……?」

 ルナの小さな声が、聞こえた。




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