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キヴォトス  作者: ととこなつ
第七部 ~白ネズミの女王篇~
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297話 いざ、女王の城へ 2


「ルナとピエトは、まだ見つからんかね?」

『ううん……どこにもいないな』


 エーリヒと黒いタカは、第七層(シエラ)遊園地を、隅から隅まで探し回った。上空から。


 本当に隅から隅まで行って、たまに列車と並行しながら中ものぞいたけれど、ルナたちは見つからない。目的地までの通路である夜のメルカドも、何度も上空から見て回った。これで三度目だ。


「もう、第三層(トレス)まで行ってしまったかね」

『――気配は、まだ、ここにあるんだが』


 一度ペリドットたちのところに戻って、捜す方法を聞こうかと思ったときだった。夜のメルカドに向かって走ってくる、ひとりと一頭を見つけた。


「クラウド!」


 黒いタカに乗ったエーリヒが、空から降りてきて、クラウドと相方は驚いた。


「君たちだけ!? ルナちゃんとピエトは?」

「それが、見つからんのだよ」


 エーリヒは、相変わらずの無表情で言った。黒いタカも無表情なので、まるで焦っていないように見受けられるが、相当の時間が経っているのだった。もう六時間が経過している。


「夜のメルカドの中には? 上から探しただけ?」

「うん、そうだね」


 上空から探しただけだと、店の中にいれば見つからない場合もある。


「じゃあ、俺たちが中に入って探す。君たちは、もう一度上空から」


 クラウドが言いかけたときだった。相方の、真実をもたらすライオンが、一オクターブ高い声を上げた。


『今日は、年に一度の祝祭の日じゃないか!』

『なんだと!?』


 黒いタカも思わずメルカドのほうを見た。ライオンが、眼鏡を上げ下げして、目を凝らしている。


『よく見なよ。ドリーム・ラムプを配ってる――君、鳥目で見えなかったのかい? うわあ、よりにもよって、今日か――』


 クラウドが説明を求める前に、相方が口早に言った。


『今日は、どうやら夜のメルカドの、年に一回の祝祭のようだ――ドリーム・ラムプが配られてる。あれは魅惑のドリンクと言われていてね。――ギリシャ神話の“ロータス”を?』


 クラウドは、「あっ」という顔をした。歓迎する顔ではない。最悪の事態を思い浮かべた顔だった。エーリヒも、それらしい顔をしたはずなのだが、表情自体はまったく変化なしだ。


『あのドリンクを飲んでしまうと、まずあそこから出る気がなくなる。夜のメルカドは大儲けさ。みんなが遊んで買って、ビジェーテを落としていくんだから――これは大変だぞ。ふたりはきっと、あれを飲んだな』

「むしろ、飲まない可能性のほうが少ないね」


『急がなければ』

 クラウドと真実をもたらすライオンは、足早にメルカドに向かった。

「君たちは空から捜索を頼む!」

「分かった!!」


 ZOOカードが使えるようになったアンジェリカは、すぐさま行動を開始した。

 彼女は、世界(ムンド)にあらためて目をやった。そして、遊園地の中のどこにだれがいるか――何をしているかを、一瞬で把握した。


「ルナ!? 何してんの!?」


 ZOOカードの制作者であり、一番のベテランであるアンジェリカさえも見たことのない光景がそこにあった。なにせ、動物ばかりの世界の中に、ルナとピエト――「人間」が、いるのだ。魂の世界に、「人間」の姿のままで。

 しかも、夜のメルカドで、散財しまくっている。


『これは、年に一度の祝祭の日に、運悪くぶち当たってしまったのね……』

「祝祭?」


 これは、アンジェリカも知らないことだった。白ネズミの女王が、困った顔で覗き見る。


『まだ危険な目には遭っていないようだからいいけれど。アンジェ、相棒を呼んであげたらどう?』

「そ、そうだね」


 ルナは、召喚(しょうかん)呪文を知らなかったのだろうか。

 そういえば、ルナはZOOカードを預けられたとはいっても、自分の好きなようには使えないといっていたし、呪文もほとんど知らないのかもしれない。

 ルナはピエトと一緒に、両手にいっぱい食べ物を持って、あちらこちらとうろついている。


『ドリーム・ラムプを飲んだのね。あれは、“ロータス”みたいな働きがあるのよ』

「まじ!?」

『あれほど物騒なものではないけれど。でもね、いい気分でビジェーテを散財しちゃって、祝祭が終わるまで、メルカドから出られなくなっちゃう厄介さはあるわ』

「それ初耳」


 何をやっているのだ。夜の神は商才をもたらす神でもあるが、それにしたって。

 自分の妹が、自分のメルカドで散財してるんですけど。


「インボカシオン!」


 アンジェリカが唱えると、夜のメルカドの入り口付近に、キラキラと、銀色の光が瞬いた――。


『どいてどいてーっ!!』


 夜のメルカドの動物たちが、ドリーム・ラムプを飲んで上機嫌の動物たちが、びっくりして振り返って、それから慌てて道を開けた。

 大きなバケツを掲げたウサギ二羽が、猛然と走ってくるではないか。

 俊足(しゅんそく)のウサギ二羽は、ルナとピエトという目的にたどり着くなり、バケツをぶちまけた。


「きゃあ!」

「わあ!!」


 もちろんルナとピエトは悲鳴を上げた――手に持ったお好み焼きみたいな食べ物が、びしょびしょだ。なにが起こったかと思ったら、水をぶっかけられたのだった。


「なにごと!?」


 ルナはぷるぷる頭を振って、それから周囲を見回した。


『目が覚めた?』


 腰に手を当てて呆れ声でこちらを見ているのは、ピンクのウサギだった。それから、焦げ茶色のウサギ。


「月を眺める子ウサギだ!!」

『そうよ。おばかさんたち。いったい何をしていたか分かっているの?』


 すっかり正気に戻ったルナとピエトは顔を見合わせ――それから、うさ耳をビコビコーン! と立たせた。


「いけない!!」

「たいへんだ!!」

 それから、やっと慌てだした。

「えっ? 俺たち、いったい、なにしてた?」

「ものすごくおなかがいっぱいなんですけども!」


『買ったのは食べものばっかりね。よかったわ。たいして使ってない』


 月を眺める子ウサギが、ルナのバッグを漁って深々とため息を漏らした。


『エーリヒとクラウドが捜しているわ。早くシャトランジ! に向かいましょう』



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