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キヴォトス  作者: ととこなつ
第六部 ~LUNA NOVA篇~
601/948

250話 LUNA NOVA Ⅰ 2


「ほら、ルナちゃん、それ貸しな」

「ほわ?」


 朝食後である。

 後片付けは、セルゲイとグレン、ミシェルが引き受け、ルナは洗濯をしようと、着替えを持って一階の洗面所に来た。


 洗濯機は、このひろい洗面所に、五つ備え付けてある。各自が、以前の部屋でつかっていたものをそのまま持ってきたから、五つの洗濯機は全部種類が違うが、ずらりと並んだ様は、まるでコインランドリーのようだった。だれかがつかっていても、五つもあるのだからだいじょうぶだろうと思ったルナだったが、先に来ていたレオナとセシルが、ルナの洗濯物が入った籠を奪い取った。


 ヘレンが、洗濯機を操作している。


「だいじょうぶ、タオルとパンツをいっしょに洗いやしないから」

 レオナの台詞にセシルが笑い、ルナの籠を受け取って、中身を選別して洗濯機に放り込む。

「え? あの、でも、」

「嫌じゃなかったら、まとめて洗濯したほうが水も節約になるし、いいんだよ」


「ルナちゃん」

 セシルが、洗剤を洗濯機に入れてから、言った。


「さっきミシェルちゃんにも言ったけど――みんなで共同生活をするんだから、家事は分担しよう。あたしもあまりうまくはないけど、朝メシはつくることにしたから。夜の分は、あんたやバーガスさんにお任せしちゃうかもしれないけど」

「そう。あたしもメシがつくれないから、バーガス任せだし。pi=poも四台もいるしさ」

「ホントびっくりしたよ! pi=poって便利なもんだねえ。あたしにとっちゃ、贅沢品だったから、買うことも思いつかなかったんだけど」


 セシルは肩をすくめた。


「1980デル台からあるなんて、知らなかったんだ。もっと、五万デルとか、高いと思ってた。アップデート代とかあるから、結局そういう金額になっちゃうってクラウドも言ってたけど。こんな便利な防犯機能まであるなら……ホント、買っておけばよかった」


「防犯機能は、アズがなにかたくさんよけいなものを足したんです!」

 ルナは憤慨して言ったが、この防犯機能のおかげで助かった部分もあるので、責めないではおいた。


「セシルは一台持っておいてもよかったって、ホント思ったよ! まぁ、ぜんぶの機能は使いこなせなくても、防犯くらいはさ」

「ホントだよね……」

「アパートになかったのかい?」

「あったはあったけど、セッティングのしかたがわからなくて」


 セシルの話の途中で、「行ってきまーす!!」の大声がした。ピエトとネイシャだ。


「いってらっしゃい!」


 四人そろって返事をすると、そばで寝ていたチロル――バーガスとレオナの子だ――が大声で泣き出した。


「よしよし」

 あわててレオナが抱き上げる。

「やっと起きたね――びっくりするほどおとなしい子だよ」

 セシルが目をぱちくりさせた。

「寝てばっかりさ。バーガスみたいにならなきゃいいけどね」

「赤ちゃんは、ふつう寝っぱなしだよ、レオナ」

 セシルは苦笑した。


 ルナがキッチンにもどると、片付けは終わっていた。セルゲイとグレンはもういなかった。ミシェルがカレンダーをながめていたので、ルナも並んでカレンダーを見た。


「洗濯当番ってゆうのはないね」

「うん……」


 セシルとレオナが洗濯をするついでに、ルナの分も洗ってくれたのだろう。役割分担にあったのは、食材などの買い出し当番くらいだ。


 pi=poが二台も増えたので、掃除、お風呂掃除、トイレ掃除、ゴミ出し、きっと食材の買い出しもやってくれる。


 ヘレンには子ども見守り機能もついていたし、前のひとがセッティングしてくれたおかげで、赤ちゃんに何かあったら、すぐ近所の小児科に直通だ。

 屋敷のメンテナンスは、ほぼヘレンが取り計らってくれるし。


 ただ、屋敷がとんでもなく広いので、掃除は今まで以上に時間がかかる。おそらくリュピーシアは、ほとんど掃除ばかりになってしまうだろう。


「pi=poが四台って、想像以上に便利だね……」

「ほんとだ……」


 気づけば、セシルとレオナも背後にいて、カレンダーを眺めていた。


「あたしは、これから子育てで家にいることが多くなるし――まァ、いままでもそうだったけど――家の中でできることなら、なるべくやろうと思ってさ」

「あたしも、しばらくはレオナの子育てを手伝いながら、のんびりさせてもらおうと思ってるの。ルーム・シェアのおかげで、あまりお金もかからないし、助かってる。だから、多少は家事をさせてちょうだい」


「そうそう! 家のことは、あたしらとpi=poに任せて、ルナちゃんたちは好きなことをしな! ルナちゃんなんか、まえの家じゃ、家事ばっかりで、ろくすっぽ遊びに行ってなかったってセルゲイ先生が言ってたよ! それじゃァかわいそうだ」


「たまには、アズラエルとデートでもしておいで」

「でもあの、干すくらいはてつだ……」

「だいじょうぶ! pi=poがいるから!」

「ほら、行った行った!」


 ミシェルもルナも、キッチンから追い出されてしまった。ふたりはすっかり閉じられてしまったドアを見つめてから顔を見合わせ、

「……じゃあ、でかけてこようか」

「……うん」

 と、ぽてぽて、空の籠を引っ提げて、自室に向かった。


「お母さんが、ふたり増えた感じかな?」

 ミシェルがぽつりと言い、ルナも、「そうかも」とアホ面で言った。

「でも、まかせきりはきっとよくないよね」

「うん。レオナさんとセシルさんも、無理のないようにしてもらわないと――あ、そうだ」


 ミシェルが思い出したように言った。


「ごめんね、ルナ。このあいだいっしょに行こうっていったけど、今日はあたしひとりで行ってくるよ」

「えっ、なんで」


 せっかくふたりとも、時間ができたのに。


「べつにルナも来ていいんだけど――あたし、工房で、グラスをつくって来ようと思って」

 ミシェルは言った。

「ララさんへのお礼に。このあいだから、いろいろもらいっぱなしだし」


 K23区にもガラス工房がいくつかあって、予約すれば、自由に使わせてもらえる工房もあるらしい。


「今日は気晴らしに、観光だけしてくるつもりでルナも誘ったんだけど、そういえばって思い出して。あたしがグラスつくってるあいだ、ルナは退屈でしょ?」

「……うん」

「まぁ、K23区は、フリーマーケットはあちこちで開かれてるし、道端のアクセサリー売りとか、絵を売ってる人もいるし。でも、グラスつくってからでないと一緒にまわれないから」


 ミシェルの言葉に、ルナはウサギ口をし、「じゃあ、あたしはK25区に行ってくる」と言った。


「“白と青の街”?」

「うん。それでね、あたしもなにか、お土産買ってくるから、ララさんのとこには一緒に行こう」

「わかった」


 ルナが部屋にもどると、アズラエルはいなかった。ベッタラたちとの訓練に行ったのだろうか。


 ジニーのバッグに、財布やらハンカチやらを入れ、出かける用意をはじめていると、クローゼットから光が零れているのが見えた。ルナはあわててクローゼットを開き、ZOOカードボックスを出した。


 ルナが箱を床に下ろすまえに箱が勝手に開き、ぴょこん! と「導きの子ウサギ」が飛び出した。


『ルナ! 久しぶり! 元気だった?』

「元気だよ!」

 ルナは叫んだ。

「いっぱい聞きたいことがあったの。どうして最近出てきてくれなかったの?」


 拗ねた口調で聞いたが、導きの子ウサギはせわしなく言った。


『ごめんね。月を眺める子ウサギも、忙しくって――僕もそう――大忙しなんだ! 今日は、月を眺める子ウサギからの、伝言を持ってきた』


「伝言?」

 いったい、なんだろう。


「ケヴィンたちの、不思議な名前のこと?」

『不思議な名前?』

 導きの子ウサギは首を傾げた。

「エポスとか、ビブリオテカってゆう名前」

『そっちは、僕知らないよ』

 ほんとうに、知らなさそうだった。


「じゃあ、月を眺める子ウサギは、“華麗なる青大将”と“真っ赤な子ウサギ”のことは、なにかゆってた?」

 導きの子ウサギは、チョコレート色の頭を、困ったようにかしげた。

『それも、聞いていないよ』

「そう……」

 ルナはがっかりした。


「うさこは、まだぜんぜん、あたしのところへ来れないの?」

『う~ん……でも、もしかしたら、ルナのところにはもうすぐ、“お知らせ”が来るかもしれないよ。“パズル”が完成したそうだから』

「パズル?」


 あたしのところに来ないと思ったら、うさこはパズルなんかしていたのか。ルナは怒ったが、導きの子ウサギは笑った。


『そういうパズルじゃないよ。でもきっと、そのうち来るよ。じゃあ、伝言を言うね』


 導きの子ウサギがもふもふの右手を挙げると、カードが飛び出してきた。


『彼は、導きのツバメ』


 ルナはメモを取りながら、カードを見つめた。地球を目指して、羽ばたいているツバメの絵だ。 


「――このひとは、だれ?」


 ルナは聞いたが、導きの子ウサギから返ってきた返事は、質問の答えではなかった。


『ルナ、彼に会いに行けって、月を眺める子ウサギは言っていた』

「え?」

『彼に会えるのはたった一度だけ。彼のメッセージを良く聞くんだ。それがきっと、“白ネズミの女王”をたすける手立てになる』


「白ネズミの女王を!?」

 ルナのウサ耳が、これでもかというほどびーん! と立った。


『僕も忙しいから、じゃあ、またね!』

「え、ちょ、ちょっと待っ……」


 導きの子ウサギは、さっさと消えてしまった。ルナは呆気にとられて、口を開けた。


(会いに行けって、どこにいるのよう!)


 居場所も教えてくれないなんて。――それに。


(――“パズル”?)


 それは、このあいだのケヴィンやアルフレッドの、謎の名前と関係があるのだろうか。

 ルナはついに、ちっちゃな頭を抱えて唸った。


「あたしはクラウドじゃないから、むずかしい謎かけは分からないよ!」


 三十分ほど日記をめくりながら考えてみたが、ちっともいい考えなど浮かばなかった。


「もういいや――あたしもでかけよう」


 ルナは、バッグの中に日記帳を入れ、さっきの「導きの子ウサギ」のように、ぴょこん! と勢いよく立った。そして、謎のウサギダンスを披露してから、一目散にシャイン・ボックスへと向かった。




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