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キヴォトス  作者: ととこなつ
第五部 ~ラグ・ヴァダの神話篇~
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187話 ラグ・ヴァダの神話 Ⅱ 4


「さて、神には神を、の話だが――ラグ・ヴァダも、アストロスと同じ神代の時代。地球の調査団はラグ・ヴァダに着いた調査団に連絡を取った。ラグ・ヴァダの調査団は、アストロスで起こっていることなど知らない。ただ、地球人がアストロスの神に何十万人も殺された。助けてほしいと頼んだ。アストロスの弟神を止めたい――ラグ・ヴァダは、その願いに応じて、ラグ・ヴァダの武神をアストロスに送った。無論、ラグ・ヴァダも太古の時代だから宇宙船なんてない。“ロナウド”の軍隊が、武神を迎えに行き、アストロスまで運んだ」


「それが、神には神を、の意味か――」

 バンビが、顎に手を当てて唸る。ベッタラが軽く調子をつけて歌った。


「そのあたりが、歌の、


“サルーディーバはむかえた ラグ・ヴァダと同じ青き星よりの使者を

 迷い人を

 彼のねがいを叶えたまえ 迷い人をすくいたまえ”

 マ・アース・ジャ・ハーナの神はかなえた

 戦士を送り出した

 ラグ・ヴァダの戦士を もっともつよき武神を“


 の部分でありますね」

 

「そうだ。そして、何も知らないラグ・ヴァダの武神は、地球の軍隊を守るために、アストロスの弟神と戦った」


「ドーソンは、アストロス側と休戦協定を結んでいたのに?」

 グレンの問い。


「休戦協定を勝手に結んだのはドーソンだ。ロナウドはそんなことは知らない。ラグ・ヴァダの武神に、兄弟神を倒して欲しいと言った。ラグ・ヴァダの武神は、ラグ・ヴァダにまがつ神を寄越さぬことを条件に、ねがいを叶えた」

 

“ラグ・ヴァダの名を持つつよき神よ

 神はアストロイの武神を 弟神を打ち破る

 つよき神よ おお! ラグ・ヴァダの武神よ“


「歌によると、弟神は、ラグ・ヴァダの武神に敗れたんだな」

 グレンの苦いため息。その次の節のせいだった。


“されどラグ・ヴァダの武神も アストロイの兄神のまえに敗れ去る

 おお! ラグ・ヴァダの武神よ つよき神よ 偉大なる神よ“


「俺が負けて、アズラエルが勝つってなんだそりゃ……ずるくねえか」


 グレンの不満はもっともだったが、アズラエルの「当然だ」といわんばかりのドヤ顔に、ますますこめかみに青筋が立った。


「弟神は、地球人の軍隊との戦いで疲弊(ひへい)していた。それだけは言える」


 ペリドットがフォローしてくれた。


「本来なら、弟神もラグ・ヴァダの武神に匹敵する力を持っていただろうよ。だが、彼はアストロスの民を兵器から守り、力が弱まっていた。それに、倒されたとはいえ弟神も善戦したから、疲弊したラグ・ヴァダの武神を、兄神が倒すことができた」


「チッ」とアズラエルの舌打ち。


 グレンはペリドットのフォローがまんざらでもなかったのか、機嫌を直して続きを聞いた。


「弟神は、死んだのか。ラグ・ヴァダの神はどうなった」

「弟神は死んだ。残念ながらな。弟を殺された兄神の悲憤は、天地を揺るがすほどだった」

「でも、歌によると、兄神はラグ・ヴァダの武神を打ち破っても、死なせはしなかったんですね」

「ラグ・ヴァダの神が死ねば、今度はラグ・ヴァダの星と戦になる。そう考えた“ドーソン”は、殺さずに捕らえるよう説得した。ドーソンが、ラグ・ヴァダの武神を、ラグ・ヴァダにもどすことを約束して」


“捕らえられたラグ・ヴァダの戦士 偉大なる戦士

 アストロイの姫メルーヴァが救いたもう 青き星の民とアストロイの女王の子よ

 平和をもたらす姫よ うるわしき姫メルーヴァ“


「ここでやっと、メルーヴァが出てくるんだね」

 カレンの言葉に、ルナの喉がこくりと鳴った。


“メルーヴァはラグ・ヴァダの戦士の子を産む

 その名はイシュメル

 三つ星に平和をもたらす子ども

 ラグ・ヴァダの戦士は散った 青き星のまがつ神のために

 アストロイの兄神は散った 青き星のまがつ神のために

 メルーヴァは散った 散り散りに砕けた 

 ラグ・ヴァダの戦士とアストロイの兄神のたたかいによって“


「メルーヴァ姫は、ほんとうは、アストロスの兄神の婚約者だった」


 グレンが何か言いたげな顔をしたが、邪魔をせずに続きを待った。


「だが、メルーヴァは、平和を望む娘だった」


「アストロスの民は、敬愛する弟神を殺され、ラグ・ヴァダの武神を殺せと息巻いている。だが、ラグ・ヴァダの武神を殺せば、アストロスとラグ・ヴァダの戦争になる。互いがつぶし合い、そうなれば、喜ぶのはだれだ? 地球の首脳たちだ。ドーソンもマッケランも、その最悪の事態を避けたかった。平和の女神であるメルーヴァもだ。だからメルーヴァ姫は、ラグ・ヴァダの武神と交わって、子を産んだ――地球と、アストロスと、ラグ・ヴァダの血を引く子どもをな。それが、イシュメルだ」


「――兄神が、よく引き下がったな」


 アズラエルの素直な感想だ。ペリドットは苦笑した。


「平和のため、星のため、姫の幸せのためと説得されて最初は引き下がった。兄神は、メルーヴァ姫を愛していた。彼女が幸せになるなら――彼女が選んだことなら、とつらい思いをおさめて、そのときは引き下がった」

「……」

「ラグ・ヴァダの武神も、美しく優しい姫を心から愛した。だが、ここで終わっていればハッピーエンドだったかもしれないが、事態は急変した」

「急変?」


「ああ、そうだ、そこで、この、ロナウドの野郎が!」

 カレンがバシバシバシと膝を打ち、セルゲイも身を乗り出した。


「ドーソンもマッケランも、常に和平工作ばかり。ロナウドはさすがにおかしいことに気付いた。ドーソンもマッケランも、ロナウドの上司だったので言うことを聞いていたが、彼らのなすことはすべて地球の首脳陣の命令とは正反対だ。ロナウドは悩んだ。だが、ロナウドも、自分が命令違反で更迭されるわけにはいかなかった。このことを――地球に報告した」


「だからロナウドは信用できねえんだ!」

 カレンは膝の代わりに今度はジェイクを叩き、「い、いでで! 何すんだよ!」と悲鳴をあげさせた。


「ドーソンとマッケランに、地球にもどれという指令が下った。ドーソンもマッケランも覚悟を決めた――アストロスの味方をし、地球側と敵対することを。――ドーソンは、イシュメルとメルーヴァの安全を願い、また、できうるかぎりのアストロスの民をラグ・ヴァダに避難させようと思った。ラグ・ヴァダの武神も、ふたりをラグ・ヴァダに連れて行くと言いだした。それに怒ったのが、兄神と、アストロスの民だ」


「なぜ怒ったんです」

 セルゲイが問うた。

「安全のためだったのでしょう?」


「故郷の地を離れ、遠い惑星に向かうことなど、彼らには理解しがたい話だった。それにメルーヴァは、アストロスの平和の象徴。それがアストロスから連れ去られるということは、アストロスから平和がなくなるということだ。兄神も、一生そばに仕えて見守ることを条件に、姫がラグ・ヴァダの武神に嫁すことを許したのに、これでは話がちがう。怒った兄神と、ラグ・ヴァダの武神との間で、一騎打ちが起こった」


「そんなことしたら、アストロスが壊れちゃうじゃない!」


 ルナは、グレンとアズラエルがケンカしたときを思い出して叫んだ。武神と軍人ではレベルがちがうだろうが、周りのものも壊れるのは当たり前だ。


「そうだ。ルナの言うとおり、武神同士の対決は、天が割れ、地が跳ね上がるような天変地異だ。メルーヴァは嘆き悲しんだ。争いのために、イシュメルを産んだのではないのに。このままでは、二神の戦いで、アストロスの民まで滅びてしまう。それを憂えたメルーヴァは、ふたりの戦いをとめるために、身を投じて、こなごなに砕け散った」


「――!」

 ルナは思わず、胸元をきゅっとつかんでいた。


「平和の女神が粉々に砕け散り、兄神とラグ・ヴァダの武神は戦いをやめた。自らのもっとも愛するものを、己の手で砕いてしまったのだから。兄神とラグ・ヴァダの武神の咆哮(ほうこう)は、地を揺らし、涙は海になってアストロスの民を飲み込んだ――」


「なんてはた迷惑なやつらだ……」

 アズラエルとの大ゲンカで店を大破させた過去があるグレンにとっては、どうも他人事には思えず、気のせいかルナの視線が痛い。


「悲しみのあまり絶望し、力をなくした二神は、ロナウドの軍の一斉射撃を浴びて死んだ。ロナウドは、二神が力をなくすそのときを狙っていた」


「くっそ! ロナウド!」

 カレンが咆哮し、

「そしてマッケランは、ドーソンの宇宙船がラグ・ヴァダに行くのを見守りながら、ロナウドの軍と戦ったんだ! ミカレンは、アストロスの民と一緒に戦って、壮絶に討ち死にした! わが一族の英雄だ!!」


 カレンは大演説し、酒を呷って、ほうとため息をついた。

 自分の代わりにカレンが説明してくれたので、ペリドットは「……続けていいか?」と聞いた。カレンは「どうぞ」と譲った。


「すでにそのとき、イシュメルはアストロスにいなかった。ドーソンが、密かにラグ・ヴァダに向かっていたんだ。イシュメルを連れて――それは、メルーヴァの願いだった」


“イシュメルは守られた 青き星の偉大なる神によって

 イシュメルは守られた われらラグ・ヴァダの王サルーディーバによって

 偉大なる王 サルーディーバよ

 戦士はアストロイに眠る“


「ラグ・ヴァダの女王サルーディーバは、三つの星の絆であるイシュメルを守ることを固く誓った。ラグ・ヴァダの女王は、いずれ地球の軍勢がラグ・ヴァダに来ることを予期していた。我々は、地球の民に支配されるだろうと――そして女王サルーディーバは、“ドーソン”にこう告げた」


 ――ラグ・ヴァダを守ることをお誓いなさい。さすればあなたの一族に、三千年の繁栄を約束しましょう。わたくしがあなたの一族に、恵みをもたらすでしょう。そしていずれわたくしが生まれ変わり、地球の大地を踏むときに、あなたの一族の繁栄は終わります――。


「ドーソン一族がL系惑星群を守る軍事惑星の要になった裏には、そういう話があったんですね……」


 ラグ・ヴァダの女王、サルーディーバの祝福があった。

 セルゲイが、納得したようにつぶやいた。


“やがてまがつ神はやってきた ラグ・ヴァダにも

 アストロイを滅ぼしたように

 まがつ神はやってきた ラグ・ヴァダを支配する

 されどイシュメルはマ・アース・ジャ・ハーナの神が守る

 マ・アース・ジャ・ハーナの神よ

 三つ星を繋ぐまことの神よ!”


「“ドーソン”は、イシュメルをラグ・ヴァダに預けた。イシュメルは、ドーソンがアストロスから連れて来たアストロスの民が代々、守り続けることになる。

 セルゲイ・B・ドーソンは、アストロスを征服したのち、ラグ・ヴァダをも征服しに来た地球の軍隊によってつかまり、すべての責を負って銃殺刑になった。だが“ロナウド”の口入れによって、ドーソンもマッケランも、一族の者はことごとく地位を守られ、年月は要したが、セルゲイとミカレンの名誉回復もなされた。“ロナウド”は、地球首脳陣の命令は果たしたが、決してドーソンとマッケランを(おとし)めたいわけではなかったんだ。むしろ彼らを畏敬(いけい)していた」


「……」

 カレンが、鼻をかんだ。


「そして、アストロスも、ラグ・ヴァダも、地球人に支配され、戦争は終わった――」


 長い長い話だった。

 だれともなく、深いため息が、終了の合図のように、口からもれた。


「サルーディーバ女王様が生まれ変わって、地球に着いたとき、ドーソン一族の繁栄は終わる……」


 ルナの言葉に、グレンたちは、はっとしたようにルナを見た。


「サルーディーバ女王様の生まれ変わりって――?」


 ペリドットは名を口に出す代わりに、ZOOカードをルナのほうへ差し出した。


 ZOOカード? いや、これはきっとZOOカードだ。トランプのように小さなカードで、宝石のついた杖を手に、L03の衣装を着た青いネコの絵が――。


「“偉大なる青いネコ”」


 ルナはカードを見つめて、つぶやいた。


「――ミシェルだ」

 




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