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キヴォトス  作者: ととこなつ
第一部 ~再会篇~
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2話 地球行き宇宙船


 L歴1414年10月1日。

 旅立ちには最高の、晴れ渡った秋空。


 ルナとリサが駅に着くと、ミシェルとキラはすでに駅の待合室で待っていた。まだ朝も早いので、学生たちであふれている。

 ルナたちは、ここから電車で隣町の大きな駅まで行って乗りかえ、スペース・ステーションがある大都市まで向かう。


「ルナのパパとママ、駅まで来るかと思ったけど、来なかったね」


 キラのママはさっきまでいたそうだが、仕事があるので帰ったらしい。ミシェルとリサの両親は、ふたりを家のまえで送ったきりだ。


「うん。気を付けて行ってきなさいって、家のまえでばいばいした」


 心配していた両親の反対も、みんなの協力もあってなんとかおさまった。

 ルナも不思議だった。あれほど反対していた両親は、ツキヨおばあちゃん――ルナの勤め先の本屋のおばあちゃん――が説得してくれたことで、あとはなにも言わずに送り出してくれた。


「いよいよだね――地球行き宇宙船かあ! 緊張する!」

 キラが興奮をかくし切れないように身震いしていると。

「そんな服、どこから見つけてくるの」

「……なにか文句あるの」

 リサがキラのTシャツをつまんで言った。キラも負けじと、「アンタのは、ただのオトコ受けする服!」などと険悪になりはじめたので、ルナはハラハラした。


 キラは相変わらずのポップな――目に痛い服装だった。

 リサが言うのももっともな――どこで見つけてくるんだろうといった――紫色のラメ入りミニTシャツに、値段がおかしい穴あきジーンズ。ビビッド・ピンクのスニーカーにライダース・ジャケット。

 肩からかけるキャラクターもののハンドバッグと、雑貨店に売っていそうなカラフルなカート。

 ギザギザのショートヘアは、毛先が七色に染められている。化粧も、アイラインくっきり、口紅くっきりの濃厚型。ほっぺたには星型のタトゥシール。

 

 リサはリサで、いつでも完璧にセットされたヘアスタイル。本日は、緩やかに巻いたボブヘア。

 大きな花柄の、丈の短いワンピースに、ヒールの高いサンダル。ベージュの革コート。カラカラと引きずってきたキャリーケースは有名なブランド品。ゴールドのハンドバッグが乗せられていた。

 いつものことだが、この田舎町では目立つふたりだ。

 

 ミシェルは、紺のロングコートに重ね着のカットソー。シンプルなリュックに、ボストンバッグ。茶色のショートヘアは切りっぱなしのシンプルさだが、それがかえって似合っていた。

 ミシェルもリサとは違うタイプの美人だ。モデルなみにスタイルがいいので、やはり人目を引く。

 彼女は郊外(こうがい)のちいさなガラス工芸のアトリエに通っていたのだが、長期休暇をもらうことになった。

 

 ルナは、栗色のロングヘアを流し、大きめの薄手のセーターにスカート、ブーツ、紺色のコートという、ふだんとほとんど変わらない格好だ。

 お気に入りのサーモンピンクのバッグを肩からかけて、だいすきなキャラクター、ウサギのペーターとジニーの絵柄の、ベージュ色キャリーケース。

 そして、オプションに、見えないはずのうさ耳。

 装いがまったくちがう四人の女の子たちは、学生たちの波に紛れて、改札を通った。


「ホントいちいちうっさいわね、オトコ好き!」

「あんた、言っていいことと悪いことの区別もつかないの。だからともだち少ないのよ」

「あんたこそ、はっきり言いすぎ」

「ちょ、やめなよ、出発前にさあ」


 ミシェルがあわてて止めに入った。あれから何度か四人で会ったが、どうもリサとキラは気が合わないようだ。

 しかし、突発的なケンカもすぐ沈静した。四人の頭の中は、地球行き宇宙船のことでいっぱいだったからだ。


 ローズ・タウンから、宇宙港――スペース・ステーションのある、L77の首都エルネシアまで、五時間近く電車に揺られ、駅からバスで三十分。飛行機で飛べば一直線だが、財布の中身と相談して、電車とバスを選んだ。


 やっと着いた四人は、そびえたつドーム型の施設を地上からながめ、とりあえず深呼吸をした。ウキウキとワクワクと、いくばくかの緊張と不安がこもった深呼吸を。

 みな、ほかの星へ行ったことがあるのは一度か二度。

 それを考えると、地球に行くなどということが、途方もない話に感じられたのだった。

 

 L系列惑星群は、惑星だけで90の配列を組んでいる。

 L01からはじまって、L90まで。

 人間が居住できない星も、だいたいが人工エリア化されるか、研究目的の星として保護されていた。

 言語はL系惑星群の共通語があり、危険地帯以外はほぼ出入り自由だ。


 L系惑星群全体の中央政府はL55にあり、L系惑星群でもっとも最先端の文明が集結している。政治の中枢である中央星L55の付近、L5ナンバーの星は、富裕層が住む。

 ルナたちの住むL77をはじめ、L6系から7系の惑星は一番人口が多く、いわゆる一般居住星、とされている。


 ほかに、L01からL09は辺境の惑星群と呼ばれ、独自の文化が残っている。

 L17からは軍事惑星群と警察組織の本拠地。

 L11は流刑星として、凶悪犯罪者が収監される。

 L3ナンバーの惑星群は、L系惑星群の頭脳が集まっている星だ。

 L4系は、L系惑星群にもとから住んでいた原住民が追いやられた星であり、治安は格段に悪い。


 ルナたちのような一般庶民は、L7系列の星を出ること自体がめずらしいことだった。L5系列だって遠すぎるのだ。修学旅行だって、L74のアミューズメントパークに決まっている。

 ほかの番号の惑星のことは、授業で習って、知識として知っているくらいだった。


「集合時間は午後四時だったっけ」


 首都エルネシアにある、L77最大のローズス宇宙港は、まるでひとつの街だ。無料のバスが走っているくらいだし、バスの停車場から待ちあわせ場所には、歩いて三十分はかかりそうだった。


「どうしよ。無料のタクシーあるけどそれで行く?」

「疲れるかもだけど、せっかくだから、歩きながら見ていこうよ。スペース・ステーションも滅多に来ることないし、四年間はもどってこれないんだよ?」

 キラの言葉に、三人はうなずいた。

「そうするか」

「歩いても、時間にはまにあうね」

 リサが時間をチェックした。

「“シャイン”がないって、マジでL77って田舎なのよねえ」

 せかせかと歩きながら、リサがため息をついた。ミシェルも無言で同意する。


 シャインとは、シャイン・システムと呼ばれる、L5系の富裕層居住区にはかならずある移動装置だ。エレベーターのような箱型の装置で、扉を開け、部屋に入って向かいの扉が開けばそこはすでに目的地、という、一瞬で移動できる装置である。

 L5系やL3系、軍事惑星、居住星の一部で一般化されているシステムは、L77にはなかった。ルナとキラは、シャイン・システムを見たことがない。


「まあ、いいダイエットにはなるよね」

 ミシェルは真っ赤になった白皙(はくせき)の肌を手であおぎながら、大股(おおまた)で歩いた。


 ショッピングモールを過ぎ、高い吹き抜け天井のアーケード内に入る。待ちあわせ場所は、フロンティア商店街アーケード中央、噴水広場まえ。


 大都会で買い物をするために、わざわざ自宅まで迎えに来てくれるというツアーガイドを断って、はるばる(おもむ)いたというのに、なぜかだれも寄り道をしようとはしなかった――「歩きながら見ていこう」といったキラでさえ。

 あっさりショッピングモールを通り抜け、待ち合わせ場所についてしまった。


 ガラス張りの巨大な壁面から噴水広場が見える。スーツを着た女性がたたずんでいた。

 チケットが当たったリサとキラだけが、ツアーガイドとすでに面識がある。


「あ、たぶん、あのひとだ」


 リサとキラは駆け出した。あわててルナとミシェルはあとを追う。

 四人の姿に気づいた彼女は、一礼した。やはり彼女がそうだ。革のクラッチバッグを携えた彼女はひとり。ルナたちが一番乗りかもしれない。


「カザマさんですか? あたし、リサです!」

「こんにちは、キラです!」


 ふたりは、息を切らせながら名乗った。彼女は手元のノート型電子端末を確認しつつ、笑顔を向けた。


「はじめまして。アース・シップ・コーポレーションの派遣役員、カザマと申します。このたびはご当選、おめでとうございます。この旅行では、わたくし、カザマが担当を務めさせていただきます」


 背は高く、肌の色は褐色。ドレッドヘアに絡まったアクセサリーは宝石なのか、陽の光を受けてきらきらと光っている。足が驚くほど長く、はっとするほど綺麗な女性だった。


「こ、こんにちは。あたし、ルナといいます」

「ミシェル・B・パーカーです」


 ルナとミシェルも自己紹介をした。カザマはにっこりと微笑み、

「ルナ・D・バーントシェントさま、ミシェル・B・パーカーさまですわね。お名前は(うかが)っております」


 カザマは四人全員とあいさつをすませ、差し出されたチケットを確認し、微笑んだ。


「では、これから改札を通り、午後4時36分発の宇宙船でL88に向かいます。L88から、特別便で地球行き宇宙船に合流いたします。旅のくわしい説明は、そちらでさせていただきます」

 




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