164話 導きの子ウサギ Ⅰ 1
ルナは、キョウカイのまえに立っていた。
快晴の、雲ひとつない青空に、背後には見晴らしのいい海。ウミツバメの鳴く声がする。水平線からあがったばかりの柔らかな日差しは、健やかな朝だということをルナに知らせた。
ふと気づくと、キョウカイの扉はすっかり開け放たれていたのであった。
開け放たれた観音開きの扉は、涼しい海風に揺られて、時折キイと鳴いた。
ルナは、誘われるように中に入った。中にはだれもいない。
キョウカイというから、教会のような内装を想像していたルナは、いい意味で裏切られた。
中はたしかに教会のように、長いベンチが規則正しく並んでいたが、周囲を囲む、そびえたつ本棚が、文字通り“教会”ではないことを示していた。ふつう、教会にあるはずの、正面に掲げられる神なるものの存在はなかったし、ただ、てっぺんが見えないくらい高くそびえる、螺旋状の本棚があっただけだ。
本棚のてっぺんは、あまりに遠すぎて見えない。空まで突き抜けているのではないかと思わせるほどの、高さだった。
「やあ」
だれもいないと思っていたのに。
ルナは声をかけられて、驚いて前方を見た。そこには、チョコレート色のウサギが本を開いて立っていた。
「僕を覚えている?」
ルナは尋ねられて少し首を傾げた。――ウサギ・コンペのときに、いただろうか。すぐには答えられなかったが、チョコレート色のウサギは微笑んだ。
「覚えていてくれて嬉しいよ」
チョコレート色のウサギは、本を畳んでベンチに置き、ルナのほうへやってきて、もっふりとした両手でルナの手を握った。
「僕は、“導きの子ウサギ”」
「え、えっと、あたしは……」
「うん。“月を眺める子ウサギ”さん」
ウサギは、微笑んで言った。
「僕は、君に気付きを与えるために出会うんだ」
「え?」
「残念ながら、“真っ赤な子ウサギ”は、君に気付きを与える役目を放棄してしまった」
導きの子ウサギは、少し怒ったように言った。
「本来なら、君に“気づき”を与え、天命を悟らせるのは真っ赤な子ウサギの役目だった。けれど彼女は、自分も情熱的な恋をしたいばっかりに、役目を放棄してしまったんだよ」
「……」
「ほんとうに残念だ。真っ赤な子ウサギは、君をライバル視している。――それでも、役割をまっとうできれば、彼女も幸せな恋ができたはずなのに。彼女が意地になって、君より素敵な恋をすると意気込んでしまったために、彼女の運命の歯車は狂いだした。ほんとうなら、“遠い記憶の宴”で、彼女と君は、友人になるはずだったのに」
そういって、チョコレート色のウサギは、どこか遠い目をした。
「それでも彼女は、“あんな結末”になっても、恋ができたから幸せなんだろうか……」
ルナは、黙って聞いていたが、
「僕には、分からない」
そういって、導きの子ウサギは黙り込んでしまった。それがとても悲しそうに見えたので、ルナは励まそうと思ったのだが、やがて導きの子ウサギは顔を上げた。
「僕は、幸せだ」
なにがあろうとも、と彼は付け加えた。
「別れは別れじゃない。君なら分かるはずだ。僕らは別れることになっても、きっとまた出会える」
ウサギの黒いつぶらな目は、潤んでいた。
「さあ、ルナ。出発の時間だよ」
導きの子ウサギに手を引かれ、ルナはキョウカイを出た。導きの子ウサギについて港をてくてく歩いていくと、遊園地が見えてきた。そして――その隣の広い道路が――彼方まで見渡せる。霧は晴れ、どこまでも一本道が続いているのが見えた。
「アズは?」
ルナは、思わず聞いた。
「セルゲイは? ――グレンは?」
「もう、とっくにあっちで、君を待っている」
「あっち」とは?
ルナは聞きたかったが、導きの子ウサギは、ルナの背を押すように言った。
「僕もすぐ、君を追いかけるよ」
「あなたは――?」
「必ず、また君と出会う。――さあルナ、君の運命が、今回り出すよ」
ルナは、彼の名を知っている気がした。けれど、一度紡いだはずの彼の名を、ルナは次の瞬間には思い出せなくなっていた。道路が、まるでエスカレーターのように滑り出す。道路が勝手にルナを運んでいく。導きの子ウサギが、声を張り上げた。
「地球行き宇宙船で会おう! 僕のママ!」
いきなり滑り出した道路――そしてチョコレート色のウサギ。
そうだ。あれは。
あの子は、最初からいた。最初からいたじゃないか。
ウサギ・コンペにはいなかった。けれど、ルナは、知っていた。
時の館を案内してくれたウサギ。
ルナをずっと導いてきた――。
何度も見ていたはずなのに、何回も、何回も見ていたはずなのに、ルナははじめて彼の顔をはっきりと思い出した。
アズラエルに、似ている。
ルナは一気に霧の中に包まれ、足場をなくして浮遊し――そして急に足場を得て、かくんと尻もちをついた。
ここはどこだ。
ルナは林の中にいた。
――遠くに観覧車が見える。これはいつも見る、夜の遊園地の夢か。
周囲の風景は暗く、ざわざわと揺れる林の一本道に、ルナはウサギの姿でたたずんでいた。
ここは、ひと気もないし、風にざわめく木々が怖かった。ルナは、観覧車のほうへ行こうと、一目散に駆けだした。
「待ちな」
周りを見ずに、足元だけを見つめて走っていたルナは、急に目前を遮った巨木にぶち当たって尻もちをついた。ルナはびっくりして巨木を見上げ――絶叫、したと思う。
ルナがぶつかったのは木ではなかった。木よりも大きな、真っ黒なヘビだったのである。
「おうおう、悪ィな。怯えさせるつもりはなかったんだよ子ウサギちゃん」
真っ黒いヘビは、ちろちろと赤い舌を出して笑った。ルナのめのまえで薄ら笑う黒ヘビの頭は、軽自動車ほどもある。
その巨大なヘビの隣には、真っ白に輝く龍――おそらく龍だろう――がいた。真っ黒なヘビと同じくらいの大きさで、見かけは似ていたが、髭と、角がある。そして、白龍の隣には灰色の龍がいた。龍たちは、真っ黒なヘビよりはずいぶん、年を取っているように見えた。
「俺はただ、あんたに伝えたいことがあっただけさ」
黒ヘビは言った。
「椋鳥のボタンは、俺が取りかえして、元の場所にもどしといたよ」
「椋鳥の……ボタン?」
「ああ。あんたが俺の親友に会ったら、伝えといてくれ」
黒ヘビは、ずいぶん下にいるルナウサギのほうへ首を伸ばして会話をしていたのだが、それだけ言うと、また首は上のほうへもどった。
「へへ……親友が俺に会いに来たその時は、」
黒ヘビは奇妙な笑い声を発した。風鳴りのような笑い声だった。ざわざわと林が揺れた。
「俺が龍になるときだ。ブラック・ドラゴンだぜ、カッケーだろ」
「へび!」
ルナは飛び起きて叫んだ。
「へびだー!」
アズラエルはちらりと目をやり、それから長い腕を伸ばしてルナの頭をぺし! と叩いた。
「うるせえぞ、ルゥ」
「へびでした……」
それだけ言ってルナは真後ろに倒れ込んで寝た。アズラエルは瞬く間に寝息を立てはじめたルナのアホ面をながめ、「俺って、我慢強ェよなあ……」と自賛したのだった。
だれも誉めてくれないので。
「ねえ、あのまっくろなへびは、“華麗なる青大将”かな?」
ルナは、よほどその名前が印象深かったらしい。アンジェリカとpi=poで通信しながら、そう尋ねたが、アンジェリカはあっさり首を振った。ルナうさがっかり。
「華麗なる青大将は、青大将だよ。黒というよりは、くすんだ緑色。それに、そんなに大きくないと思う。たぶん、そのヘビはべつのヘビだね」
「そのヘビが、椋鳥のボタンを取り返したって?」
聞いたのはクラウドだ。
クラウドとミシェルは、昨日家に帰ってきた。ルナがアンジェリカに夢の報告をするというので、ひさしぶりに四人の朝食がてら――クラウドもルナとアンジェリカの報告会に参加したのだった。情報を共有したいから。
「うん。そうゆってた。元の場所にもどしといたって」
「元の場所、ねえ。――アンジェ、その黒ヘビと、二体の龍の名は分からない? ZOOカードはどうなってる?」
「……呼び出してるんだが、応答がない。たぶん、姿を隠してるな」
「そうか」
クラウドはぶつぶつとなにか言いながら部屋をうろつきだし、アズラエルが差し出したエスプレッソを無言で受け取った。
「あのねアンジェ、」
ルナは栗色の小さな頭を抱え、唸った。
「あたし、そのへびの夢を見るまえに、もういっこ夢を見てるような気がするんだけど、思い出せないの」
あれは、夢だったのだろうか。夢というか、記憶というか、ひどくおぼろげで、なにかをみたことは覚えているのだが、まったく内容が思い出せない。
そんなルナの様子を画面越しに見たアンジェリカは、苦笑して言った。
「いいんだよ、ルナ。なんでもかんでも覚えていなくて。ルナが覚えていないってことは、ただの雑夢だったのかも知れない。ほら、トイレに行きたいときに、トイレ探してアタフタする夢を見るとかさ」
「あー、あたしもそういう夢ならけっこう見るわ」
ミシェルが、旅行先でもらってきたパンフレットを見ながら、話に加わる。
「そういう夢、だったのかな……?」
なんだか、ひどく気になるのだが、思い出せないものは仕方がない。ルナはあきらめることにした。
今日の夢も、ちゃんと日記帳には書いてあることだし。
だが、ルナの夢を、微に入り細をうがち、個人的見解と称してまとめたクラウドの資料をみせてもらったときには、ルナは脱帽した。自分はもう書かなくてもいいんじゃないかとちょっと思ったくらいだ。
アンジェリカが仕事に行かなければというので、夢の報告会は終了した。
クラウドはリビングを行ったり来たりしながら、今度は皆に聞こえる声でひとりごとを始めた。
「ルナちゃんが夢で出会った、白い龍ってのは、もしかしたら白龍グループのクォンじゃないかな」
「え?」
ルナの問いかけに、クラウドは宙を見たまままともに返答しなかった。なにか考え込んでいるようだ。
「年寄りの龍二体――白い龍と灰色の龍。たぶん、クォンとメフラー親父じゃないか。組み合わせから考えてさ――その黒ヘビは、おそらくヤマトのボスだ」
アズラエルは眉を上げただけに留まった。
「そういやメフラー親父は、灰色好きだな」
「そうなの?」
「ああ。灰色のシャツばっか着てるよ。会社で着てるつなぎも、灰色だ」
「アズ、――ヤマトのボスって、見たことある?」
クラウドの質問に対する、アズラエルの答えはノーだった。
「バカ。見たことあるわけねえだろ。ヤマトのボスの正体を知ったやつは、全員消されてる」
「うわ、こっわ……」
ミシェルがわざとらしく身震いした。クラウドがうなずく。
「まあ、そうだよね。そういう噂だもんね……」
自分がかつていた心理作戦部に、そのヤマトのボスがいるなんて――あの情報分析科のアイゼンが、ヤマトのボスだなんて――さすがのクラウドも思い及ばないことだった。
「だ、だれも、ヤマトのボスのこと、知らないの?」
ルナの質問に、アズラエルとクラウドは目を合わせ、クラウドが先に口を開いた。
「傭兵グループ、ヤマトは、ニンジャの末裔なんだ」
「え!? ウソ! ニンジャ!? カッコイイ!!」
さっきの身震いはどこへやら、ミシェルが歓声を上げた。クラウドは、そんないいものじゃないよ、と言いたいのか、首を振った。
「ヤマトは、基本的にボスを頭領、と呼ぶ。黒づくめの特殊な衣装を着た傭兵たちで、おそろしく秘密主義なんだ。本アジトも、メフラー親父と白龍グループのボスくらいしか知らないだろう。基本的にアジトと呼ばれる、外部との連絡を取る場所も、民家や飲食店に紛れていて、探すのが困難だ。ほかの傭兵グループと違って、一般人からの依頼は受けないね。たいてい軍部かマフィア――」
「受けてんだかなァ。どっから仕事請け負ってンのか、なにやって稼いでんのか、わかりゃしねえよ。不気味な奴らだ」
アズラエルもヤマトのことはよく知らないらしい。おまけに苦手意識があるようだ。彼はひどくしかめっ面をした。
ルナは、おそるおそる、と言った体でつぶやいた。
「でも、でもね、……ヤマトのボスさんは、若い人だと思う」
「若い? ――どのくらい?」
「う~ん……アズたちくらい? 分かんない。あのね、しゃべり方がチャラかったようなきがする。『俺、ドラゴンになるんだぜ~、カッケーだろ』とかゆってね」
ルナの言い方にミシェルが噴き出した。
「ぶふ! なにその言い方!」
笑ったのはミシェルだけで、アズラエルと、特にクラウドは真面目な顔で食いついてきた。
「へえ、ヤマトの頭領って若えのか」
「ルナちゃん、ほかになんて言ってた。くわしく教えて」
「くわしくってゆっても……おしゃべりはしなかったし……でも、親友に会ったら、俺がブラック・ドラゴンになるときだって」
「親友?」
アズラエルとクラウドの声がハモった。
「「親友? 親友ってだれ」だ?」
「た、たぶん、――ムクドリさんだと思う」
あの会話の流れでは。
言ったところでルナは男二人に詰め寄られ、ミシェルの隣に避難した。
「椋鳥? 椋鳥の親友なのか?」
「ちょ、ルナちゃん、たぶんそれ一番大事なトコだ……」
なんでさっき言わなかったの、とクラウドが額を押さえた。ルナのほっぺたがぷっくりするのをスルーし、アンジェリカにあとでメールを送っておこうと決意したあと、クラウドはつぶやいた。
「仮定どおり、“羽ばたきたい椋鳥”が、ロビンだとしたら――」
「ロビンの、親友?」
アズラエルは再びクラウドと顔を見合わせ、それから笑った。
「ヤツに男のダチなんているわけねえ!」
「それは俺も同感だけどさ」
ロビンに同僚や知人はいても、男の友人はいない。おそらく一番長い付き合いのバーガスやデビットさえ、ロビンは上司だとは言っても、友人とは呼ばないだろう。
「まあでも、ロビンはだれも友達とは呼ばないけど、勝手にロビンを友達だと思ってるやつがいたとしたら?」
「……なくは、ない。だとしたら」
少なくとも、今までの仮定でいけば、ロビンとヤマトのボスは面識がある――ということ。ロビンは、ヤマトのボスの顔を知っていることになる。
暗黙の裡に了解したアズラエルは、即座に携帯電話を手にして、ロビンにかけていた。長いコール音のあと、彼は寝起きの声で電話に出た。背後に、うるさいとかぼやいている、複数の女の声が聞こえる。
「おい、ロビン」
『……ンあ? ……なんだよ、アズラエルじゃねえか……』
「なぁおまえ、ヤマトのボスのツラ、知ってンのか?」
あまりに直截な物言いだった。
『はあ?』
ロビンのマヌケ声がクラウドにも聞こえた。
「ほんとにアズはさ、前置きってものを知らないよね……」
クラウドのぼやき。ルナとミシェルは同感した。
『なんで俺がヤマトのボスを? ――ン、ああ、ちょい待って』
女の甘え声とリップ音。おはようのキスが電話向こうで交わされている。アズラエルは鬱陶しくなって急かした。
「おい、知ってんなら教えろ。どんなヤツだ? 若いのか?」
『ま、待てよ……』
電話向こうでロビンがあわてて言った。
『え? なんでそんな話になってンの? 俺が知ってる? なんで?』
「――知らねえのか」
アズラエルの声があからさまに落胆した声になった。
『いやだから! なんでそんな話になったかって聞いてンの俺は! そんなの知ってたら俺生きてねえよ。……ちょ、マジで、それどっからの話? そんな噂にでもなってんのか?』
電話口のロビンの声は異様に焦っていた。それは、そうだろう。ヤマトのボスの正体を知っている者はいない。正体を知った者はたちどころに消されるからだ。アズラエルより傭兵人生が長いロビンが、それを知らないわけがなかった。
アズラエルは、このロビンの焦りようから、ロビンは知らないと判断した。
「まあ――知らねえなら、いい」
『ちょ、てめえアズラエル! 説明しろ!』
向こうでロビンが叫んでいたが、アズラエルは無情に電話を切った。
「知らねえな、これは」
「アズ、なんで切った」
クラウドが呆れ声でアズラエルを責める。
「あのさ、ロビンがヤマトのボスだって自覚してないだけで、ロビンの周辺を探れば、近い人間が出てくるかもしれないじゃないか。特徴を言えよ特徴を! 黒ヘビっぽいイメージの男で、チャラい感じの性格で――たとえば口癖が「カッケーだろ」とか――たとえばの話だ。聞きようはいくらでもあるだろ。なんで聞かないんだよ。ヤマトのボスだ、なんてわざわざ自己紹介しなくても、正体を隠して近づく方法は、いくらでもあるだろ」
「おまえこそ、よく考えろ」
今度はアズラエルが鋭く言った。
「黒ヘビはなんて言った? 親友だって言ったんだぜ。友人、じゃなくて、親友、だ。親友っていえるほどアイツに親しい男友達なんかいねえよ! 野郎と話すくらいなら、椅子と話してるほうがマシだとか平気で言うヤツだぞ」
「それは知ってる」
クラウドも、苛立たしいのを押さえるように息を吐く。
「第一なあ、マジでアイツが椋鳥? あのデカブツが椋鳥? 椋鳥ってちいせえ鳥だぜ。クラウド、おまえがライオンでロビンが椋鳥っておかしくねえか? 聞いたか? いま女三人いたぞ! 一晩で女五、六人平気で抱きつぶすヤツが椋鳥? 肉食獣だろどう考えても!」
「……」
「羽ばたきたいとか、そんなケナゲなタマに見えんのかあの図太い野郎が!」
「……つまり、アズは、“羽ばたきたい椋鳥”はロビンじゃないって言いたいんだな?」
「絶対ちがう!」
アイツはトラとか、ライオンの類だとわめくアズラエルだったが、
「アズはまったくもって、単純だな」
「なんだと!?」
「アズにZOOカードの読み方の難しさをここで説いたって、分かりはしないだろうさ! だけど、女にしろ何にしろ健啖家だからって肉食獣カードとは限らない。カードが示すものは特徴なんだ。アイツはぜったい、“羽ばたきたい椋鳥”だ」
クラウドも譲らない。このふたりがケンカするなど、めずらしいことこの上ない。
妙に緊迫した雰囲気になった――が。
空気を換えるように玄関のチャイムが鳴った。呑気にピンポーン、と。
「あ、時間だよ」
ミシェルが時計を見てあわてて立った。
「うわ、もうこんな時間。たぶんシナモンたちじゃない? ほら、クラウドもアズラエルもケンカはあとで! でかけなきゃ!」
チャイムを押したのは、ミシェルの予想通りシナモンとジルベール、そしてエドワードだった。アズラエルとクラウドは睨みあったが、一時休戦だ。今日は彼らとでかける予定なのだから。
どこへ?
――それは。




