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キヴォトス  作者: ととこなつ
第一部 ~再会篇~
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14話 再会 Ⅱ 3


(パンダ)


 ルナの目は座っていた。

 昨夜の夢では、ルシヤに愛人になれと迫ったパンダ。

 このあいだの夢では、弟ライオンをけしかけた兄パンダ。

 あまり、いい印象はない。


 けれども、夢のパンダとさっきのセルゲイを重ね合わせるには、あまりにもセルゲイは優しそうで、ルナの好みの顔で、雰囲気で、完璧だった。

 夢の中のパンダとは、対極だ。いっしょにすることすら申し訳ない気がしてしまうくらい。


 このルナの頭の中身がアズラエルに見えていたなら、このあいだまで理性的だったウサギはどこへいったと呆れられていただろう――俺たちを疑っていたおまえはどこへ消えた?


「でもでもさ、狙撃(そげき)兵コースにいたってゆってなかった?」


 ルナは自問自答した。セルゲイは、学生時代狙撃兵コースにいたと言った。狙撃兵はスナイパーだ。


「もしかして、ピューマとか!」


 もと夫のピューマ。一瞬だけ考えて目をきらめかせたルナだったが、どちらにしろ、彼に殺されているのだ。


「モギャー!」


 髪をかきむしりながらサンダリオ図書館を飛び出たルナは、鼻息も荒く(うな)っていたが、やがてウサ耳とともに気持ちを落ち着かせて、公園のベンチに座り込んだ。

 新刊コーナーで、さっきの本を探すことはすっかり忘れて。


「サバットの教室は、ない……」


 ジニーのバッグから大判のパンフレットを出し、船内の地図を開きながら、施設を探した。おもにスポーツセンターを。


「さばっと、さばっと、さばっと……」


 ルナはパンフレットをめくり、アプリのパンフレットでも「サバット」で検索したが、サバットを教える教室はなかった。キックボクシングはあった。

 いざ探してみると、けっこう格闘技の教室は点在する。空手に柔道、ボクシングジムに、中国拳法、マーシャルアーツ――ルナが聞いたこともない格闘技もたくさんあった――だいたいが、K07区の端にあるスポーツセンターに集中している。


「遠いなあ……」

 K07区は、宇宙船の東の端だ。ここからは遠い。

「あれ?」

 中央区にも、K07区ほどの規模ではないがスポーツセンターがあって、そこでも護身術の教室がある。初心者でもオーケーと書かれているので、ルナのウサ耳が、ピーン! と立った。


 サンダリオ図書館はK14区でも中央区寄りだし、三十分も経たずに、バスは目的地のバス停に止まった。ルナは威勢よく降り、大きなビルのまえに立った。


「ライファント・スポーツクラブ」の看板がかかげられている。


 回転扉を抜けて入るとロビーがあり、フロント横の掲示板には、このビルにあるスポーツジムの名称がずらりと並んでいた。

 護身術の教室は三階だ。

 ルナはフロントで聞いてみたが、申し込みはそれぞれの教室やジムでするらしく、フロントで行う手続きはない。ルナは迷うことなく、エレベーターで三階に上がった。


 だが、三階に来て、さっそく足がすくんだ。皆、トレーニングウェアを着ているか、Tシャツにハーフパンツなどの格好で、女も男もスタイルがよかった。ルナは自分のずん胴体形と、ワンピース姿を見直した。


「見学だけです」


 自分にそう言い聞かせ、ぺとぺと、リノリウムの廊下を歩いた。

 休憩所を中心に、左手には自動販売機などがあるコーナーがあり、右手側にはガラスの壁で区切られたジムの全容が見える。

 護身術の教室は、一番奥だった。ルナがチラリと見たかぎりでも、ずいぶん広い。ランニングマシンやベンチプレスなど、ジムには必ずある器具のほか、奥には練習場として取られたスペースがあった。


(ほんかくてきなやつだ!!)


 練習場と思しき場所では、あきらかに取っ組み合いをしているふたりがいた。それも小柄な女性が、自分の二倍も体格がありそうな男性を、ひょいひょい転がしている――それを見たとたん、ルナは帰ろうと思った。


「見学の方?」


 金髪を頭の頂点でまとめた、腹筋がみごと六分割しているスタイルのいい女性が、ルナを見つけて、声をかけてきた。


「あわわ……」


 ルナは「ちがいます」と言ったつもりだったが、彼女には「はい」と聞こえたようだ。


「よかったら入って」

「え、いいええ、あの、あたしは、」

 彼女は、不機嫌な顔で腕を組んだ。

「もしかして、あなたもグレンのファン?」

「へ?」


 ルナがあまりに間抜けな顔をしたからだろう。一瞬だけ苦くなった彼女の顔は、すぐ客商売の笑顔にもどった。


「ちがう? ごめんなさい。最近、多いのよ。うちのイケメン講師が目当てで入ってくる人」


 彼女は肩をすくめた。ルナは奥の練習場のほうしか見ていなかったので気づかなかったが、ランニングマシンのそばに、女性たちに囲まれている、まわりより頭ひとつ背の高い男の姿が見えた。


「あれ、あいつ、グレンって言うんだけどね」

 彼女が不機嫌なのは、暗に、嫉妬(しっと)も含まれているような気もした。

「船客さんなんだけど、特殊な格闘術を身に着けているんで、特別講師をしてもらっているの――彼が来る日は、あのとおり」


 ルナは口を開けて見た。

 遠目からでも見える銀髪と、たくましい肩。一見しただけでも、彼がずいぶん女にモテそうな容姿を持っているのはルナにもわかった。彼本人は、クールな双眸(そうぼう)で闘技場を見ている。 

 まわりの人間生垣にはいっさい興味を示していない。

 どこかで見たような気が……。


「あいつが教える格闘技はどっちかというと玄人(くろうと)向けなの。なのにあのとおり」


 彼が教える時間帯はもう終了したのだろう。どこまでも退かない生垣に、辟易(へきえき)しているようにも見受けられた。


(パンクバンドのボーカルさんみたいです)

 ルナから見たグレンの第一印象は、そんな感じだった。


「いいのよ。初心者の方大歓迎なの! 見ていくだけでもいいから入って!」

 女性講師に、なかば強引に引っ張られ、ルナはガラスの向こうに入ってしまった。

「お、また女のお客さんか」

「この子はグレン目当てじゃなさそうだから」

 男性講師が、タオルで汗をぬぐいつつ、そう言った。入り口近くにいた講師数人も、「こんにちは」「いらっしゃい」とルナに会釈した。


「ど、どうも……」

 ルナも会釈し返した。


「指導してもらいたい講師はいる? どこでこの教室のことを? どうして護衛術を習いたいのかしら――やっぱり痴漢対策?」


 さっそく入会申込書の電子画面を端末から浮き上がらせ、質問攻めにしてきた女性に、ルナはふたたび「あわわ」と焦った。


「彼女ももと警察官。痴漢対策ならじゅうぶんだよ」

「講師を指名するなら、指名料として、ちょっと余分にいただくけど、一ヶ月三千デルそこそこよ」

「やっぱり男性より、女性がいいわよね」


 客の取り合いなのだろうか。ルナを連れてきた女性は、ショートヘアの、べつの女性講師が口をはさんできたので、ふたたびしかめっ面になった。

 ますます、帰りづらくなっていく。


「あ、あの、あの、あたしは――」


「ルナ?」


 渋い声が、ルナを呼んでいた。頭の上から聞こえたそれは、いつしか至近距離に変わっていた。


「ルナ? ルナだろ」


 驚異のイケメン面が――驚くほど整った精悍(せいかん)な顔が――ブルーグレーの鋭い目が、ルナを見つめていた。

 グレンと呼ばれた男が、いつのまにか生垣をすり抜けてルナの目前にいた。膝に手をついて、ルナをのぞき込んでいた。


(トラさん)

 ルナは一瞬、なぜかそう思った。


「どうして、ここに」

 銀色頭は、うれしそうに言った。


「なによ、知り合いなの」という女性講師の声が遠くに聞こえたあと、ルナは思い出した。

 白髪ではない、銀色の輝きを持つ不思議な髪質、両耳の派手なたくさんのピアス、この香水の匂い、イケメンだけど、アズラエルに匹敵(ひってき)する怖い雰囲気――。


「ルナ?」

「プギャー!!」


 このひと、マタドール・カフェでチンピラを倒したおっかないひとだ!


 ルナは絶叫した。絶叫して、猛然と走り出した。

 グレンの声か、女性講師の声か、呼び止められたような気がしたが、声の正体すら分からないまま、ルナは走った。

 廊下を駆け抜け、エレベーターに飛び込み、一階まで降り、ドアが開いたとたんに一気にロビーを走った。


「ぴぎー!」

 エントランスを抜けたところで、ルナはだれかにぶつかった。

「すみません!」

 ルナは尻もちをつき、あわてて謝ったのだが、ちがった。


「コイツじゃね?」


 ぶつかったのは、ルナではなかったのだ。相手のほうが、ルナにぶつかってきたのだ。

 ルナを見つけて――故意(こい)に? 

 男は三人いた。三人ともキャップを目深(まぶか)にかぶり、ふたりはサングラスをしていた。ルナは首をすくめて、もう一度謝った。


「すみません」


 返答はなかった。唇にピアスを三つくっつけている男が、ガムをリズミカルに噛みながら、指輪だらけの手をルナに伸ばす。


「ひぎっ」


 ルナのワンピースの胸ぐらをつかもうとした男の手は、ルナの横から出てきた筋肉質な腕に、払われた。


「なんだおまえ」


 唇ピアスの男は言った。

 男の手を払った、傷だらけの筋肉質な腕の持ち主は、さっきの銀髪男――グレンだ。

 ルナは飛び上がりそうになったが、三人の見知らぬチンピラより、グレンのほうがましだった。

 もしかして、かばってくれているのか。

 ルナは呆然とグレンを見上げた。

 そういえば――もしかしたら? 

 マタドール・カフェでも、彼はルナを助けてくれたのか?


「おまえこそ、なんだよ」


 グレンは肩をすくめるだけだ。すでにビルの外――ここは中央区。人通りは多い。


「まさかナンパってわけじゃねえだろ」


 グレンの台詞(せりふ)に、男たちは互いの顔を見やって、ニヤリと笑った。


「ナンパじゃ悪いのか」

「ここはK34区じゃねえ。ナンパならそっちへ行きな」


 グレンが追い払うようなしぐさをすると、男たちは目配(めくば)せしあった。

 唇ピアスの後ろにいた、一番体格の大きい男が――グレンと背丈も身幅も大差ない男が、今度はグレンの胸ぐらをつかんだ。


「おい――」


 男が「おい」の次を言うまえに、グレンの拳が、軽く男の胸板に押し付けられた。グレンの動きはゆったりだった。軽く押し付けられたようにしか、ルナには見えなかった。

 しかし、ゴッと骨同士がぶつかるような鈍い音が聞こえた。一拍置いて、巨漢は「ごふっ」とむせかえって、がくりと膝を折った。


「!?」


 ルナは両手で口を覆ったが、もっと驚いたのは、彼を含む三人の男たちだ。


「なんだこいつ」


 得体のしれない者を見るような目でグレンを見上げ、泡を吹き、半分気絶した巨漢を無理やり立たせて、彼らは足早に去った。

 五分と経たない――一瞬のことだった。


「あいつら、何者だ」


 グレンはルナに聞いたのだが、それはルナの台詞だった。

 いったい、なんなのだ。

 ガムを噛んでいた男は、ルナを見てはっきり、「コイツじゃね?」と言った。

 つまり、ルナを探していたのだ。


「ありゃ、ナンパじゃねえな」

「え?」

「おまえを連れていくつもりだったぞ」


 ルナの想像は、想像ではなかったようだ。たしかに彼らは、ルナを探していたのだ。

 どこから――図書館から? ルナがこのスポーツセンターに入ったのを見て、追いかけて来たのか?


(もしかして、アズのゆってた、ストーカー?)


 ルナはぞっとした。

 もしかして、サイファーの仲間?


「あのひとたち、知らないんだけど。だれだろう?」

 泣きそうな顔でグレンを見上げると、彼の厳しい顔がふっとゆるんだ。

「だいじょうぶだ」

 グレンはルナを安心させるように肩を抱き、ビルの中にもどった。そして、フロントにルナを連れて行った。

「警察に連絡しろ。監視カメラでとれてるはずだ。理由は知らねえが、このお嬢さんが誘拐されるところだったぞ」

「ほんとうですか」

 あわてふためいたのは、スポーツビルの従業員だった。


「ルナ」

 役員がすぐに電話をかけはじめたのを横目に、グレンは言った。

「今日のところはアズラエルに連絡して、迎えに来てもらえ」

「へっ」

「いっしょに暮らしてるんだろ」

 なぜ、彼がそれを知っているのだろう。

「ヤツが迎えに来るまで、ここを動くな」

 そういって、グレンは背を向けた。


 彼は以前、マタドール・カフェで、ルナを連れて行こうとしたチンピラを沈めた――たぶん。

 あまりに一瞬のことで、何が起こったかルナにはわからなかったのだが、ただ、ルナの腕を引っ張っていた男が倒れた。でも、今のを見ていて分かった。あれは、グレンがやったのだ。

 そのときのグレンの目と言ったら恐ろしいことこの上なくて、ルナはめのまえでだれかが血を噴いて倒れたショックとグレンの表情の冷たさに、ほぼ恐怖体験としてしか残っていなかったのだが――。

 あのときグレンは、自分の前に立ちふさがった邪魔な男を沈めただけだったと思っていたが、もしかしたらルナを助けてくれたのだろうか。

 いまだって、もしかして。


「あっ、あの、」

「俺のことは言うな。だけど、さっきの連中のことは話しとけ。俺はヤツには会いたくない」

「あの……」


 ルナはやっと言った。エレベーターのほうへ消えようとしている背中に。


「助けてくれて、ありがとう!!」


 廊下を曲がるまえに、大きな手が振られた。





「怪しい男たち?」

 アズラエルはただちに駆けつけてくれたのだが――ルナの説明には首を傾げた。

「おまえが誘拐されそうになった? 強引なナンパだっただけじゃねえのか」


 アズラエルはなかなか信じてくれなかった。多少強引なナンパは、K34区あたりではめずらしくもない。

 結局警察は、アズラエルより早く駆けつけ、ルナに三人の人相を聞いて、「傭兵の友人」が迎えに来ることを知ると、すぐに帰った。


「でも、あたしのこと見て、『コイツじゃね?』っていったの! あたしのこと、連れて行こうとしたんだよ、きっと!!」


 アズラエルは少し考える顔をした。

「誘拐……ねえ。たしかにおまえを追ってた気配はあったが、不穏(ふおん)な空気はなかったはずなんだが……」

「役員さんが、あまりスポーツセンターには来ないタイプの人間だっていってた!!」

「中央区だ。いろんな人間がいるだろ」


 ルナはついにグレンのことを言わざるを得なくなった。


「グレンさんがね、あたしが誘拐されそうになったって、そういったの!!」


 アズラエルが急ブレーキをかけたので、ルナはシートベルトがなかったら、車の外に飛び出していただろう。


「グレン!?」

 アズラエルは怒鳴った。

「なんでヤツが!!」


「アズもグレンさんのこと、知ってるの」

「さんとかつけるな!」

「グレン?」

「呼び捨てにするな。親しげで、なんだかおもしろくない」

「どう呼んだらいいの!」

「あいつなんぞ銀色ハゲでいい」


 それはあんまりだと思った。髪は短かったが、それなりに存在していた。だがひとつだけ分かったことがある。アズラエルとグレンは知り合いで、仲が悪い。グレンもアズラエルに会いたくないと言っていた。

 アズラエルがこんなに感情的に怒鳴るのを、ルナは初めて聞いた。


「グレン、あたしとアズがいっしょに住んでること、知ってた」

「そりゃ知ってるだろうな」


 なんの障害もなく、後続車もない一本道でよかった。アズラエルは路肩に車を停め、窓を全開にした。


「でも、どうしておまえが、グレンと」

 アズラエルの不機嫌メーターは急上昇した。

「そもそも、どうして、おまえがあんな場所に?」


「格闘技を習おうとしたのです! でもとりあえずは見学だけ!!」


 アズラエルは奇妙な生き物を見る目でルナを見、それからすべての力が抜け落ちたように、ハンドルに突っ伏した。彼はしばらくそうしていたが、顔を上げたときには、冷静にもどっていた。


「グレンがそう言ったなら、おそらく間違いはないな」

「へけ?」

「いいか、よく聞けルゥ。ウサギ脳でも理解できるように説明してやる」


 アズラエルはセンテンスを区切って、はっきりと言った。


「俺と“少佐どの”は、天敵同士だ」

「少佐どの?」

「グレンのことだよ」


 アズラエルは言い、車を発進させた。いつもの彼にもどっていた。


「あいつはもと軍人だ。前線経験も、名家の坊ちゃんのわりにはあるほうだ。そいつらを怪しいと感じたなら、それはほんとうだろう」


「なんで?」

 ルナは首を傾げた。

「なんであたしがそんなアヤシイやつらに狙われたの?」


 さっぱり意味が分からないというルナに、アズラエルもあらためて聞いた。


「ホントに、ストーカーの心当たりはないんだよな?」

「うん」


 ルナは真剣にうなずいた。そんな心当たりはホントにない。

 最近は、サイファーの存在感はすっかりなくなっているけれど、心当たりはそこくらいしかない。

 でも、さすがに誘拐までした、という話は聞かなかった。


「サイファーか。あいつなら、もう降ろされたよ」

「えっ?」


 アズラエルの言葉で、もうサイファーは宇宙船にいないことを知った。


「誘拐? どうして。おまえが?」


 アズラエルもずいぶん困惑していた。ルナも困惑したかった。さっぱり意味が分からない。

 ルナは昨晩の夢を思い出して、目を座らせた。


「もしかして、アズがつきあってた女の人に大金持ちとかマフィアとかがいて、アズが悪い別れ方をしたから、あたしがとばっちりを食っているとか!!」

 ルナは再度怒鳴った。

「アズの趣味は女漁りだったし!」

「あれは……」


 あのときのアレはほぼ皮肉だった。自分自身に対しての。

 宇宙船に乗ってこの方、ヒマすぎて自分の趣味が女漁りくらいになってしまったという皮肉にすぎなかったのだが。

 アズラエルは全面的に否定しようとして、一瞬アンジェラのことを思い出した。彼女はそんなことはすまい。だれにも執着のなかった女である。

 しかし。


「……俺は、どうもこの船に乗ってから、女当たりが悪いからな」


 それはたしかである。思ってもみないことが起きすぎているのだ。

 アズラエルはアンジェラのしわざであるとは、どうにも考えられなかったのだが、ほかにまったく、心当たりがない。

 だが、アパートに帰ったルナとアズラエルは、待ちかまえていた思いもかけない人物たちによって、真相を知ることになる。


「おかえり、アズ」


 ルナたちが部屋に入ろうとした矢先に、部屋のドアが開いた。顔を出したのはクラウドだった。


「クラウド――セルゲイさん!?」

「やあ、こんばんは。ルナちゃん」


 クラウドの後ろには、ルナには笑顔を向けたものの、怖い顔でたたずむセルゲイの姿があった。




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