58話 パニックインザリリザ Ⅳ 1
(うひゃ……!!)
どうして、アズラエルがここにいるんだろう。
なんで居場所がバレたんだろう?
置き手紙には、どこに行くとは、書かなかったはずだ。あの時点でホテルは決まっていなかったし、リリザのどこに行くか分からなかった。
ミシェルが落ち着いたら帰って、クラウドとよりをもどすにしろ、別れるにしろ、話し合う場を設けて――。
とにかく、一日留守にしたからといって、アズラエルが怒るとは、あんまり思わなかったルナだった。アズラエルがそれを聞いたら、「どこ行くかくらい書いとけ」と怒るところだったろうが。
ルナは平和も平和なL77育ちで、危機管理はゼロに等しい。一緒にいるのがミシェルだったし、ルナはひとりででかけたのではないことから、あまりに不用意すぎた。
まさか、行き先も書いていない自分の置き手紙がアズラエルを怒らせたとは知らず、さらにクラウドの追跡装置で、ルナがグレンといることがとうに発覚していたとも知らず、ルナはアズラエルが怒っている理由が、グレンといるためだと思って、軽いパニックに陥っていた。
置き手紙の件はともあれ、グレンの件はまったくの不測の事態だ。アズラエルはなにか勘違いしていそうだが、ルナは決して、グレンと会うためにリリザに来たわけではない。
グレンと待ち合わせしていたわけでもない。
だが、このシチュエーションが大いに誤解を生む光景であることは、いくら能天気なチビウサギでも分かっている。
アズラエルとは、まだつきあっていないのだけれども。
「アズだ」
「そうだな……俺が怒ってるのが分かるか?」
アズラエルは、だまって遊びに出かけて心配かけさせたことを叱ろうか、ボディガード付きの自覚はあるのか、グレンと一緒にいることを追求しようか、どっちにしろ怒りは三倍だった。
ルナにだっていつか恋人ができるかもしれないし、それはそれでいい。お似合いだったらそれでいい。
だが、この男だけは、許せない。
声は怒りを通り越して噴火し、しかもその燃え盛る強烈な眼力は、ルナにではなくグレンに注がれていた。しかし、グレンはその涼しすぎるブルーグレーで、アズラエルの視線をあっさり流した。
普段のグレンならば、受けて立っていたことだろう。
彼は、思いがけないことを言った。
「ちょうどよかった」
頭に血が上っているアズラエルは、「俺だってちょうどいい。おまえをしこたま殴れるいい機会だ」と言おうとしたが、グレンは、テンションの下がりきった声音で、アズラエルに告げた。
「ちょうどよかった。おまえに話がある。落ち着いて話がしたい。人気のないところへ行こう」
グレンは、ルナにではなくアズラエルに言った。
「バカか。てめえと話し合う理由なんざ、俺にあると思うか?」
それとも人気のないところで、殴り合いか? ここは宇宙船じゃねえからな。てめえを殴り倒して、もう二度とルナに近づくなと、しめしをつけてそれで終わりだ。
アズラエルが凄味のある声で言い放ったが、グレンはそれに冷や水をぶっかけた。
「俺も本来ならおまえをぶちのめして終わりってとこだ。……だけどおまえ、L77育ちのカワイイハニーの口から、『バブロスカ革命』なんて爆弾飛び出したら、話し合わざるを得ねえだろうが」
グレンの冷却水は、アズラエルの血が上った頭を一気に冷やすのに、十分なものだった。
アズラエルとグレンと、ルナが移動したのは、遊園地を出たところにある、広い動物公園だ。
そう――先日、イハナ親子がイマリたちにカツアゲされた草原である。
ウサギが小さい庭の中に放し飼いにされている。親子連れで動物を見に来たのか、ウサギに草をあげたりしているのどかな親子がいた。
広い牧草地で、あまりひと気はなかった。動物特有のにおいと、土の青臭さが鼻を打つ。
遠くの丘で、ポニーに乗っている子どもが見える。ここは乗馬ができるのか。
ルナはキョロキョロしていたが、男ふたりはそれどころではなかった。
だだっ広い牧草地のド真ん中に、三人は腰を下ろした。切り株に塗料を塗っただけの、椅子がわりのそれにグレンは座り、バブロスカと聞いたとたんに沈黙し、素直についてきたアズラエルを見下ろした。
「おまえらがこのあいだ電話してたのは、バブロスカ革命のことだったのか?」
アズラエルが口を開く。ルナは大慌てで首を振った。グレンも否定した。
「違う。俺は、ルナから電話を寄越されただけだ。俺がルシアンでバイトしてるかどうかってことをだな」
「そうだった……。そうだったな。なんでまた、そんなことを」
アズラエルが額を押さえる。意味が分からん、と彼は言った。
「俺だって訳がわからなかった。さっきまではな。……そうだ、さっき言いそびれたがルナ。俺はたしかにルシアンでバイトをしていて、このあいだ二人組の女の子を助けた。助けたっていうか、仕事だからな、保護しただけだ」
ルナは思わず叫んだ。
「え!? そ、そのこって、女の子二人組で、変な前衛的な髪形の男三人にナンパされて、それで、グレン殴った!? あっ、六人に増えたんだよね!? やくをやってるひとがいて、青少年大会優勝のボクサーのたまご!!」
グレンは切れ長の目を丸くし――それは、ほぼ百パーセント、そのキーワードが、事実と当てはまったせいか――。
「おまえ、それも夢で見たのか?」
「ゆめ?」
アズラエルの不審な声も、グレンの声もまるで聞こえず、ルナは考え込んだ。
(――あの夢は、あたしとミシェルのことじゃなくても、現実になることはあるんだ)
「青少年大会優勝のボクサーのたまご、な。たまごなんつう可愛らしい顔じゃなかったが、その卵を俺は割っちまったよ。右こぶしでな」
「だっておかしいよね!? ボクサーなのに、ナイフなんだよ!?」
グレンは言い難いためいきを吐いて、うなずく。
「おまえのツッコミどころはそこか。俺は、もうおまえにどうツッコんでいいかわからねえよ」
グレンは言った。
「俺はこのあいだ、おまえみたいな年かさの女二人をルシアンで助けた。おまえが言う、前衛的な六人組に無理やり誘われてたからな。だから、離せと俺は言って、その女二人を保護した。俺はいわゆる私服警備員だから、ヤツらは俺が警備員だと知らずに、外へ呼び出した。女を取られたってんで、完全な逆恨みだ。しかも暴力沙汰を起こせば、宇宙船を降ろされることも知らねえバカの集まりだった。俺は、その六人の中で一番でかいヤツ、そうだ、L6系だかどっかの、青少年大会優勝のボクサーとかいうやつが、ナイフでかかってきたから、俺は殴り倒した。それだけだ。あとは通報されて、ヤツらはしょっ引かれた。ボクサーもそうだが、ヤク中もいたよ。たしかにな。――ほんとに、まるで見てたみたいな言い方だ」
「……」
根気強く聞いていたアズラエルが、やっと口を出した。
「いったいなんの話だ。ルゥ。夢ってなんだ」
「ルナに説明させると、訳が分からなくなる。俺が説明するから、ルナは補足してくれ」
さっきの説明、訳が分からなかったんだろうか?
ルナはちょっと落ち込んだが、グレンに説明させて正解だった。グレンはとにかく結論から簡潔にまとめた。
「ルナは、椿の宿というところで夢を見た。それも、過去の夢だ。俺たちの」
K05区――あの辺りは神官が多く居住している土地だ。摩訶不思議は日常茶飯事らしいが、ルナが宿泊した椿の宿というのは、泊まった人間が不思議な夢を見る旅館らしい。
ルナはそこで不思議な夢を見た。
グレンの幼いころから、二十五歳くらいまでの人生を、夢で追った。
グレンの過去だけではない。アズラエルと、セルゲイの過去も見たと。
グレンの説明は簡潔明瞭で、アズラエルの思考回路を混乱には陥らせなかった。彼が混乱に陥るとすれば、その事実のあり得なさだろう。いきなり、夢で自分の過去を見た、といわれても、たいていは言った相手の正気を疑う。
彼は質問もせず黙って聞いていて、グレンの短い説明が終わると、ルナに向かって言った。
「俺の過去って、どんな夢を見た?」
ついでにグレンをちらりと見たが、グレンは肩をすくめ、俺は聞いてない、というジェスチャーをした。
アズラエルの目は、ルナを責めてもいず、気味悪がってもいなかった。ただ、純粋な興味の目だった。
ルナはもにょもにょと説明した。
「えっとね、アズは」
「……」
「――うん。アズの住んでたアパート。えっと、すごく治安の悪いところで。でも、けっこうオシャレなアパートだったよ? ワインレッドの絨毯とかで、アンティークっぽい窓とか可愛かった」
アズラエルが目を見開き、グレンに振り返る。グレンが、な? 驚くだろ? という目で返した。
「アズのお父さんは――アダムさん。すんごくおっきくてクマさんみたいなひと。お母さんはエマルさん。すごく筋肉モリモリで、髪が長くて、アズみたいに褐色の肌できれいな人。アズより強そうだった! それに、アズくらいおっきかった。あと、妹さんがふたり。スタークさんとオリーヴさん。スタークさんは――えと。おとこのひとになっちゃって、アズに似てた。オリーヴさんは、」
「ちょっと待てルゥ」
さすがにアズラエルがストップをかけた。かけたくもなる。
「おまえ、家族のことは、まだ話していないのか?」
グレンが口を挟み、アズラエルがうなずいた。
「家族全員、傭兵だってことは話したけどな。写真も見せてねえ。それに、」
アズラエルは、空を仰いだ。
「スタークを妹だって言った時点で、……クソ、なんだかな」
スタークは今ではもう、アズラエルの弟として定着している。スタークが女だったことを知っているのは、家族と、小さいスタークを知っている者くらいだ。写真や顔姿を見たぐらいでは、判別できない。
「クラウドあたりから、俺の家族のこと聞いたんだろ? そうなんだろ?」
「……」
ウサギが下を向いて沈黙したので、アズラエルも言葉を詰まらせた。
「いいから、最後まで聞け」
黙したアズラエルを見てグレンが続きを促し、ルナは「しゃべってもいいの?」とおそるおそるアズラエルを見た。だれも「言うな」とは言わなかった。
「ええとね――。グレンのときと一緒で、最初は、アズの三歳? 五歳ころ? そう、オリーヴさんが生まれて、アダムさんが廊下を走ってった。ちっちゃいアズってすごくキレーなの。お母さん似なのね。で、次は、アズの十二歳の誕生日。クラウドと、それから――えーっと……。ミランダさんと、オトゥール、さん?」
「「ミランダとオトゥールまで知ってんのか!?」」
「ピギャー!!」
コワモテふたりにでかい声を出され、ウサギはすくみあがった。猛獣二頭は、興奮したことを反省し、深呼吸をして座り直した。
ルナは、プルプルしながら言った。
「もうやめようか?」
「いや、続けてくれ」
「ここまで聞いたんだ。もうなにが出てきても驚きはしねえ」
猛獣どもは、辺りを見回した。自分たちがルナといるだけで、通報される可能性があることをようやく思い出したらしい。でかい声などもってのほかだ。
ちなみに、この草原に来るまで二度ほど職務質問を受けた。
「えーっと、あの、……なんだっけ。そうそう、ミ、ミランダさんとかが、……で、出てきて……アズがミランダさんいじめてて、オトゥールさんが怒ってた」
プッとグレンが吹き出し、アズラエルがそれを睨みつけた。
「十五歳のアズ? はすごく荒れてて……あ、その腕のタトゥ、肘くらいまでで止まってたね。それでね、近所のサキさんっていうひとが、レ、レ、レ、――されて、アズが犯人だって、誤解されて」
アズラエルは再び空を仰いだ。
「そいで、犯人はラリパッパという地区の傭兵で、オリーヴさんとスタークさんがかたきをとったの」
「「“ラダリッパ”傭兵自治区な」」
猛獣二頭は、口をそろえて訂正した。
「ら……らりぱっぱ!」
ルナは口を真っ赤にして言い直したが、言い直せていなかった。
「俺の頭がラリパッパになりそうだぜ……」
アズラエルは特に笑ってほしいわけではなかった。グレンも笑わなかったし、事態は深刻だった。
「それで、見たのは、俺とアズラエルの夢だけ?」
「う、ううん――セルゲイも」
「セルゲイ?」
アズラエルが聞いた。
「なんでセルゲイ」
「それは俺も、分からん」
三人の間に一時の沈黙。沈黙を破ったのはグレンだ。
「……ルナ、セルゲイの過去は、言えないか?」
ルナはプルプル首を振る。
あんなたいへんな出来事は、そうそう人に話していいことではないだろう。さっきから、グレンの過去もアズラエルの過去も、ふたりが驚くほど当たっているのだ。セルゲイのあの過去も、ほぼ間違いはないのだろう。それを考えると、よけいに言えなかった。
ルナだって、本当は知りたくなかった。だからこそ、こうしてだれにも話せずにきたのだ。
「じゃあ、質問形式だ。言いづらいことは答えなくていい」
グレンは言い、ちょっと考えた後、「セルゲイの養父は――分かるか」と言った。
「エルドリウス? さん?」
即答されるとは思わなくて、二人は息を呑んで沈黙した。
グレンはセルゲイとの世間話から、彼もL19出身で、エルドリウスが養父だということは知っていた。L5系育ちのエリート医師だと思っていた男が、L19出身だとは思わず、さらにあのエルドリウスの養子だというので、グレンは二度驚いたのだった。
エルドリウスの養子は、実は十人ほどいる。
彼はL19の部隊にいたころ、たくさんの身寄りのない子どもを養子にしていた。
主に自分の部下の縁者で、戦災孤児になってしまった子どもたちを。
彼自身に妻はいないが、彼のおばや姪が面倒を見ていた。その子どもたちは軍人として活躍している者もあれば、他の惑星で科学者となったものもいた。医者もいる。セルゲイもそのひとりだった。
カレンとセルゲイが出会ったのも、エルドリウスつながりらしい。
セルゲイも、「なんだか、この宇宙船に乗ってから、L18出身者とよく会うなあ」とこぼしていたのだ。
アズラエルはそんなことは無論知らない。セルゲイの経歴など。
第一、ルナの口からエルドリウスの名が出てくること自体、十分腰を抜かしていい事実だ。だが、ここまでは、セルゲイがルナに話した、ということも考えられるが、会ってまもないうちに、身内のことまで話すだろうか。
「ルナ――セルゲイがL19出身者ってのは、俺たちしか――、」
「あ、お、思い出した!!!!」
ルナが叫んだので、今度は何ごとかと顔を強張らせるふたりだった。ルナの口から出てくる事実は、さっきから男たちの頑丈な心臓を、いちいち竦みあがらせていた。
「あ、あのねあのね、あのね、デレクがね、デレクがね、エルドリウス少佐さんの部下だったの!!」
「なんだと?」
「デレク? デレクって、あのマタドール・カフェの?」
アズラエルもグレンも、知っている「デレク」は、マタドール・カフェの彼しかいない。ルナもそうだったようで、「うん!」と勢いよくうなずいた。
「デレクが、エルドリウスさんの部下……」
デレクが軍事惑星出身だというのは、ふたりも知っている。グレンが聞いた。
「夢の中で、デレクはいくつぐらいだったんだ」
「えーっと、今のグレンやアズたちと、あたしの中間? うんと、ジュリさんより若いと思うんだ。でもデレクってすごく若く見えたから――あ、少尉、だった。デレク少尉って呼ばれてた」
グレンがなにやら数を数えはじめた。
「貴族出身者だと――卒業後、……して、で、少尉だろ。エルドリウスさんは、……たしか五年前昇進して――だから、」
グレンは恐ろしい勢いで計算していたがやがて絶句し――「あってる」とつぶやいた。
「なにがあってンだ」
「抜かせ。ルナが軍事惑星の階級制度なんか分かるわけねえだろう。それ、だいたい二十年前の夢だな。そうすれば、デレクの年とエルドリウスさんの年と照らし合わせても、その階級があってるんだよ。デレクは、今が四十二だろ? 二十年前っていや二十二歳だ。そのころ、貴族出身者の軍人なら、少尉で妥当だろう。ルナの夢は――ウソじゃねえ」
また、沈黙が下りた。
でもルナは、その夢が正しいかどうかを気にする男たちをよそに、まだ言いたいことがあるのだった。
「聞いて、聞いて!!」
ウサギが猛獣どもの膝をぺちぺち叩く。
「あのね、だからね、キラのお母さんも、エルドリウスさんの部下だったの!! デレクの同僚だったのよ!! エ、エルウィンさんてゆうの、キラそっくりなの!」
「ハア?」
アズラエルの返答は、もっともだった。だれも、そこでキラの母親が出てくるとは思わない。
「キラってだれだ」
グレンの質問ももっともだ。
「……ルナのダチだよ。一緒に宇宙船に乗ってきた」
「さっきのね、グレンがルシアンで六人のへんなやつを倒した夢! それってね、あたしとミシェルにチケットが来て、宇宙船に乗ったらもしかしたらの夢だったの。あたしとミシェルと、キラはお母さんと宇宙船に乗ったの。リサはいなかった。あたしの居住区はK37区で、ルシアンにお酒飲みに行って、そこで、さっきグレンが助けた女の子二人組みたいに、ミシェルとあたし助けられたの。それで、マタドール・カフェに行って、デレクとキラのお母さんが出会って、」
「オイ、待て待て待て……」
アズラエルがストップをかけた。
「でも、そりゃ夢のことで、現実には、キラのおふくろさんは宇宙船に乗ってねえんだろ?」
「うん、そうだけどでも!」
ルナは一生懸命言った。
「キラが――ロイドと結婚するでしょ? 一番気にかかってるのは、お母さんのことなんだって。キラは、お母さんをL77にひとり残していかなきゃいけないの。あたしね、思ったの、ますなの神様があたしにこの夢見せたのって、もしかしたら――、」
言いかけて、ルナははっとした。
真砂名の神が、自分になにをさせようとしているのか。
「デレクと――キラのお母さんの縁を結んでほしいんじゃないかって――そう――おもったの……」
ルナは自分で言っていて、やっと気づいた。あの夢は、ルナになにを気づかせようとしていたのか。
『あなたに出会ったものは必ず、“愛”“癒し”“縁”“革命”のいずれかを授かる』
九庵が、そんなことを言っていた気がした――ルナにはまださっぱり意味が分からなかったが、もし「縁」が授かるとしたなら――。
「デレクと、キラの母親な……、」
アズラエルは、顎に手を当て、
「できるかもしれないぜ。会わせるだけならな」
「ほんとアズ!?」
ルナは歓声を上げた。
「ああ、俺に任せろ」
頼もしい恋人(未満)のひとことに、ルナは大感激してその太い首根に飛びつく。
「アズ大好き!!」
アズラエルは至極満足そうだったが、グレンは大変に顔をしかめた。
「……とりあえず、セルゲイの話だろ」
グレンはルナをアズラエルの首根から引きはがす。アズラエルは抗議したが、今度はルナが切り株にぽて、と乗せられた。「おさわり禁止」とでも立札がかけられていそうだ。
ルナへのスキンシップは、話がすんでからだ。男たちは暗黙の裡に互いを威嚇した。
グレンはアズラエルと同じく草の上に座ったが、この方が、ルナと男どもの目線の位置がちょうどいい。




