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マッド博士を愛した人工知能  作者: 戸田 佑也
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Chapter1-2 けものサムライと友人

―よう、今夜はお楽しみだったな、bigbrother.


 賭け試合を終えてから"けものサムライ"を終了して、SIKI内の読書用アプリケーションを開いたところで、チャットメッセージが飛んできた。

 開きかけたEブックのタイトル、それからチャットの差出人名を見比べ、ため息をつきながら返信をタイプする。


―観てたのかい?Naruru.


―ああ,がっぽり儲けさせてもらったぜ.これで今月は遊んで暮らせる.内容もおもしろかったしな.


―そう?観客からしたら退屈だったんじゃない?結構ブーイングもあったろ?


―ブーイングしてたのは素人連中だよ.あの最後の一撃,何だったんだ?よっほど「縛り」をかけないとあんなダメージ与えられないだろ?


―最近見つけたアビリティだよ.「Poison Needle」っていうんだけど、30発目に必ず相手を即死させるんだ.ただし1ブロックもずらさず同じ箇所に打撃を与え続ける必要があるんだけど.あと縛りとして武器は装備できなくなる.


―同じ1ブロックに30発?そんなアビリティ使う奴お前以外にいねえよ。クレイジーだ.しかも「どくばり」ってドラクエかよ.いや、ありゃランダムヒットだけど.


―そうなの?RPGはFF派だから知らないや.


 まあ、彼女が驚くのも無理もないかもしれない。

 けものサムライは、というか、SIKIは完全没入型VRシステムだ。ヘッドギアを装着し、プレイヤーとキャラクターは視覚を共有することになる。

 けものサムライは、VRプラットフォームであるSIKIをベースに開発された格闘シミュレーションゲームだ。

 だから、けものサムライで1ブロック違わずに打撃を打つ、というのは実際のボクシングの試合で相手のみぞおちだけに30発の拳を入れるということと難易度としては大差ない。しかも、相手は自分より巨大な二本足の豚で、巨大な日本刀を振るっている。


―ちっ,戦法パクろうと思ったのにお前みたいな廃人ゲーマーじゃなきゃ使えねーじゃねーか.あー使えねーわ.お前使えねーわ.


―なんでそこで僕が使えないって話になるんだ.で、用はそれだけかよ?


―いや,そう焦るなって.久しぶりの愛弟子との会話を楽しみたいんだよプティ・スール.


―次プティ・スールって言ったら殺す.


 彼女、Naruruとは2年前にけものサムライの対戦を通じて知り合った。

 その当時、けものサムライはまだリリースから3ヶ月も経っていなかった。弱小デベロッパの開発だったから(今はけものサムライのヒットで急成長しているけれど)、ろくなプロモーションもされず、ニュースになることもない、知る人ぞ知るゲームだった。

 彼女は僕がけものサムライをはじめるより1ヶ月ほど早くプレイを開始していた。格闘ゲームが大好きでその他のシミュレーションゲームはあまり興味がないらしい彼女はそれなりにやり込んでおり、プレイヤーの少なかった当時はランキング30位前後の上位ランカーだった。

 僕がまだ4回目の対人プレイで彼女に僅差で負けた試合の後「お前、おもしろいプレイするな」とチャットが飛んできた。馴れ馴れしいやつだとは感じたけれど、僕も彼女のユニークなキャラクターとプレイスタイルは嫌いではないな、と思っていたところだった。

 なんといってもモーニングスターを振り回すシスター姿のネコだった。デザインセンスが死んている。

 

 それから、彼女は先輩面してけものフレンズのあれこれを教えてくれた。ちょっとしたチートなんかも教えてくれた。

 ただ、「チートは使うために覚えるんじゃない、抗うために知るんだ」とキツく言われた。もちろん僕は素直に従った。

 その後、僕は好きな映画に登場するウサギによく似たキャラクターを見つけ、刀や槍といった武器や戦後時代の鎧や着物がメジャーなけものサムライの中で、日本の2000年代のストリートファッションに身を包み、己の拳だけを頼りに闘う、というプレイスタイルに落ち着いた。

 僕もそれなりにゲームは嗜む方だったので、プレイヤー数が30万人を越える今も常時ランキング50位以内にいる。わりと、というか結構、けものサムライ界隈では名がしれていた。

 Naruruはと言えば「ゲームに勝つ」ことよりも「ゲームを遊ぶ」ことを大事にしていて、はっきり言ってしまえば、それほど強くはない。現在のランキングは800位前後になっていた(それでも十分平均的なプレイヤーと比べれば実力者だ)。

 にも関わらず僕がNaruruと対戦するとなぜか10回に1回は負ける。100位以下のプレイヤーと対戦した時の僕の勝率は97%なんだけど。なぜだろう。

 

 Narumiとはこの2年間でだいぶ打ち解け、2ヶ月前にはじめて一緒にリアルでご飯を食べに行くことにした。

 お互いの第一声はこうだ。

 

「本当に女の子だったの!?」

「本当に高校生だったのかよ!?」


 彼女は大阪の専門学校に通う学生だった。粗野な口調やプレイスタイルから「Naruruとかいうアカウントネームだけどたぶんネカマだろうな」と僕は思っていた。

 そして向こうも僕が本当に高校生だったとは思わなかったらしい。でも本当だ。普段は京都の山の方に住んでいて電車で市内の高校に通っている。

 まあ、SIKIではどんな自分にもなれるからね。

 

 しかし、僕の身長が、平均的な高校生男子と比較して小柄なのを見て、かつどちらかと言えば女の子に間違えられることもある顔のつくりだったため、「BigBrotherじゃなくてプティ・スールだな」とか言い出したのには本当にまいった。

 気にしてないし、人を身長とか顔とかそういう外見で判断してはいけないと思う、うん。気にしてないけど。全然気にしてないけど。

 ニヤニヤしながら「その反動であんな背の高いキャラクターにしてるんだな」とか言われて「ちげーよサマーウォーズのリスペクトだよ」と返したら彼女は「サマーウォーズ」を観ていなかった。テンション下がるなあ…傑作なのに。

 

 仮にも19歳女子と17歳男子なので、多少は色っぽい雰囲気になってもよかったのではないかとも思われるかもしれないが、結局3時間以上けものサムライの話と、彼女が専門学校の卒業課題で進めているSIKIのアプリ開発の話だけして、あとは「サマーウォーズ」のDVDを貸す約束をして別れた。

 

 彼女のことを異性としてどうというのは実際あまり感じなかった。

 なんせリアル会う日まで男だと思っていたし、戦友としての付き合いが長すぎて。

 けれど、彼女のけものサムライへの愛の深さをあらためて感じて、いいゲーマーだなと好感度はさらに上がった、ような気はする。

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