表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中林さんの天球儀(旧作)  作者: すたりむ
第3章:暗殺計画編
45/124

3。フェルミのパラドックス(後)

「ソーヤ、すごいよあれ! 新鮮なお魚!」


 家に帰ると、キリィが笑顔で出迎えてくれた。


「ああ、そういや、午前は釣りしてたんだっけな……」

「どうする? 煮る? 焼く? それとも生?」

「おまえ生魚行けるクチだっけ?」

「昔ラマネイスで食べたの! とってもおいしかった」

「そっか。じゃあ刺身も悪くないなあ」


 ちなみに。最近うちには専用のコックさん、およびお手伝い達が常駐している。

 エハイトンに来たばっかりの頃には自炊を考えていたのだが、この旧市街から市場までがかなり遠くて、神殿の業務をしながら家事までやるのはほぼ無理なのだった。

 しかも俺と中林は頻繁に神殿で泊まって仕事するので、へたをするとキリィが本当にひとりぼっちになってしまう。なので、ナイエリを使用人頭として、最近の俺たちはもっぱら家事を使用人に任せきりである。

 キンバリアでは求人に誰も来なかったバルチミ家だが、エハイトンでは悪評もない上に、いま関係者が出世コース爆進中である。当然、あっという間に人手を集められて、この安定生活ができあがった。


「あたしの使用人頭就任というのも、なにげに大出世なのだがな……」


 とは、あきれ顔のナイエリの言。

 ただの地方貴族から一気に神殿長補佐になったキリィもかなり時の人のはずなのだが、いかんせん中林が目立ちすぎて、ほどほどに置いてけぼりを食らっている状態である。

 ……まあ、キリィの性格からすれば、比較的のんびり首都生活を送れるいまの状況は、そんなに悪くないと思ってそうだけど。


「じゃあ、厨房に行って指示してくるよ。キリィは待ってて」

「期待してるって言っておいてね!」


 というキリィの言葉を背に、俺は家の中へ。

 途中、思い出して厨房に行く前に俺の部屋へ立ち寄り、設置してある例の通信装置を使って、マリイに対して送信を行った。


(思いっきり爆笑しそうだな、あいつ)


 などと思いつつ厨房に行き、指示を伝えて、ロビーに戻ると、


「ソーヤ。お客さんだって」

「え? 俺にか?」

「うん。わたしじゃないみたい」


 キリィが小首をかしげながら、言った。

 ……ふうん。なるほど、ねえ。


「わかった。じゃあ、先に食べてていいぞ」

「え。でもソーヤ、長引くとお魚、傷むよ?」

「そこまで長くはかからないさ。んじゃ、な」


 言って、俺は外に出た。



--------------------



 キンバリアの屋敷と同じく、この屋敷でも、国から貸し出された衛兵が正門を守っている。

 その男は、衛兵の前のところで堂々と仁王立ちして、俺を待っていた。

 黒髪黒目、俺よりちょい背が低くて、年齢はちょい上っぽい感じの男。服装はエリアムの標準的な神官衣だが、ずいぶん崩して着ているなあという印象である。


「よ」

「誰だよ」


 気楽に挨拶してくるその男に、半眼で返す。

 相手の男は肩をすくめた。


「なんだよ。ティア・マリイから俺のこと聞いてねえの?」

「聞いてねえ。誰だてめえ」

「名前は柏崎かしわざき光洋みつひろ――ティア・マリイにスカウトされて、神殿の下働きやってる身だ。名前くらいは聞いてるだろ?」

「…………」


 なるほど。こいつが例のミツヒロか……

 と、思いつつも、俺は少し違和感を覚える。


(なんでこいつ、俺に話をしようなんて思ったんだ?)


 単なる同郷のよしみ、とは考えにくい。レイノにも言ったように、中林やキリィならともかく、俺に対してなにかしら声をかけてくるのはかなり不自然だ――裏方の事情を知っている人間でないと、難しい。

 なので、当たり障りのないところから探りを入れてみる。


「マリイの言によると、おまえはおしりぺんぺんフェチの拷問係だと聞いたが」

「……。マジでそういうの言いふらしてるのかあいつ。冗談だと思ってたのに……」


 言って、ミツヒロくんはしゃがみこんだ。……おお、思った以上に精神的ダメージを与えてしまった。


「まあ気にするなよ。日本でもエリアムでも、性癖で罪になる法律はないんだから」

「いや性癖については否定させてもらうぞ! 俺はぺんぺんする方じゃねえ、される方だ!」

「変態度上がってるじゃねえか!」

「あと拷問係でもない。俺は出納係だ! 金具を使うんじゃなくて金を管理する方だ!」

「その言い方もすげえ変態っぽい! やだもうこいつ!」


 割とマジで引き気味の俺である。


「まあそんな小粋なトークはどーでもいいんだよ。……何分話せる?」

「5分がいいとこだな」

「んじゃちょっと出てこいよ。ここで話すとアレだ。衛兵さんに聞かれちまう」

「日本語で話せばいいんじゃねえの?」

「衛兵さんが日本語できないとも限らねえだろ。油断はいけねえよ」


 きしし、と笑って、ミツヒロ――柏崎は、付け加えた。


「そういうことやってると――誰かさんの暗殺計画とかが、あっさり漏れちまうんだよ」



--------------------



 というわけで、屋敷のまわりを散歩しながら話すことになった。


「んで、どこから聞いたんだよ」

「あん?」

「暗殺計画とか言ってただろ。誰のか知らんが、どこからそんな物騒な情報をさらってきた?」

「きっしし」


 俺の言葉に柏崎は、変な声で笑った。


「蛇の道は蛇さあ。いろいろ経路があるんだよ。

 でもまあ、予測はつくよな。おまえ、ティア・マリイにその件、報告しただろ? だとすればその関係の経路でなにかが起こってたってことだ。どこに耳があるかわかったもんじゃねえからな」

「そういうもんかねえ」

「で。誰が持ちかけたか知らんが、なにを持ちかけられたか正確に教えてくれないか?」

「マリイに聞けばいいだろ、そんなん。なんで俺に聞くんだ?」

「……おまえ命知らずだな。ティア・マリイに聞くのはおろか、呼び捨てすら俺には怖くてできねえよ。殺されるとか思ったこと、ないのか?」

「しょっちゅう殺そうとするだろあいつ。だから慣れた」

「いや、それは慣れちゃいけない奴じゃねえの?」


 ジト目で言う柏崎に対して、俺はため息をついた。


「たいしたことじゃねえよ。聞かれたのはマリイの殺し方だ」

「で、しゃべったのか?」

「まだしゃべってないな。値段を釣り上げようと思って」

「……しゃべる気は満々なわけだ。しかも偽情報だろ、それ? ひでえ奴だな、おまえ」


 けけけと笑う柏崎に俺は首を振って、


「いや。本物情報を渡そうと思ってるぜ?」

「……マジかよ」

「ああ。だってその情報、あっても意味ないから」


 と。

 俺は――意図的に、嘘をついた。


「あっても意味ない? どういうことだ?」

「いや、簡単な話さ。マリイの殺し方だろ? そんなのは簡単だ。『マリイには、マリイの攻撃なら通じる』――俺が知ってるのはそれだけなんだよ」

「……はあ?」


 相手は虚をつかれたような顔をした。


「意外だろう? 中林はもっと詳しい話を知ってるみたいだが……俺が知ってるマリイの殺し方は単純だ。マリイは、マリイになら殺せる。これを教えたところで、特に誰にとっても害にならないだろ?」

「……いや、ひっでえ話だな。詐欺じゃねえか」

「そういうお前は、マリイが殺されればよかったとでも言いたげだな」

「まさか」


 相手は鼻で笑った。


「怖いこと言うなよ。自分のボスが弱点持ってるなんて冗談じゃねえぜ。盤石であってくれないと、それこそ俺の立場に関わる」

「まあ、そうかもしれないな」

「お前はどうなの? ほとんど意味ないとはいえ、ティア・マリイの弱点につながりかねない情報流して、怖くないのか?」

「べつに」


 俺はシンプルに答えた。


「まあ、とはいえ、マリイがどうしても嫌がったら、この情報も流さねえよ。その程度の義理は果たすさ」

「ふうん……そんなもんか」

「ところで、柏崎」


 俺はふと、気になって聞いてみた。


「なんだよ、ソーヤ」

「おまえ、日本に帰りたいって、思う?」

「ああ。そりゃそうだよ」


 柏崎は即答した。


「誰だってそうだろ。故郷に帰りたくない奴なんているもんかよ。

 おまえはどうなんだ?」

「俺か? 俺自身はどっちでもって感じだな」


 俺は言って、


「ただし、中林の奴は帰りたいみたいだ。そいつを手伝うのが、俺の仕事だよ」

「ふうん。そんなもんか」

「そろそろ帰るぞ。うちのお姫さんが待ちぼうけてるとよくない」

「へいへい。おまえも大変だねえ。女の尻にばっか敷かれて」

「マリイごときに恐れおののいてるお前ほどじゃねえよ」


 さらっと言って、俺は柏崎と別れた。

 ……さて。

 どうしたもんかねえ。



--------------------



 帰ってきたら、キリィがロビーで出迎えてくれた。


「ソーヤ。誰だったの?」

「いや、たいした奴じゃなかったよ。

 それより先に食べててよかったんだぞ。俺、ちょっとまた自室に用事あるから」

「……早く食べようよぅ」

「わかったわかった。すぐ行く」


 言って俺は、自室に向かう階段を上がった。



 ――さあて。

 きなくさくなって参りました。

【フェルミのパラドックス】

「普通に計算すると宇宙人は地球に通信してきているはずなのに、なぜかそんな通信が観測できない」というパラドックス。

詳しくは、wikipediaの「ドレイクの方程式」の項目を見るとわかりやすいですが、現状このパラドックスの解決案として最も有力なのは「電波通信ができる文明は長続きしない」という悲観的なものらしく、つまりだいたいそういう文明は核戦争で全滅してると推測されるそうです。

中林の話と照らし合わせると、わりと怖い話になりますね。


ゴジラについては、子供の頃に初代を見たとき、どうしても納得いかなかったのが「なんで博士死ななきゃダメなの?」というのでした。

いろいろ考えたのですが、未だにこの問題については整理ができていません。博士は物理法則の中でできることを発見しただけで、いわば物理法則の責任を取らされた形になっているのですが、なんで人間がそんな責任取らなきゃいけないのか、首をひねります。

ただ、まあ、思うところがないわけでもなくて……最近のファンタジーで、異世界の知識とかを簡単に普及させちゃうの、あれヤバいと思うんですけどね。ノーフォーク式農法の時点でかなりきわどいんじゃないかなあ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ